「クッ…オレは…ここは…? ハッ! オーディン、神崎ぃ!!! …って、あれ? ここは…?」
意識が覚醒し、今まで戦っていた相手の名を叫びながら立ち上がり、周囲を見回すと同時に、彼、『霧島 輝(アキラ)』は周囲の異常に気が付いた…
自分とナイトとの戦いの余波で吹き飛んだはずの周囲には何事も無かったかのように建物が存在していて、ライダー以外の人間がいる事から、ここはミラーワールドでは無いし、言葉では表しにくいが、自分のいた現実世界と比べても、いくつか違和感がある
「え・・えーと…。」
周囲の目が自分に集中しているのは、理解したくないが、イヤでも理解できる…そして、それは俗に言う、『可哀相な人を見る目』と言う奴だ…
まあ、倒れていた人間が突然、起き上がり、あんな事を絶叫すればそんな反応をされたとしても、無理は無いだろう…周囲からの精神異常者と間違われている視線を全身に受けながら、誰かに話しかけられる前に急いでその場から立ち去ろうとした瞬間、信じられない物が彼の視界の中に飛び込んだ
「どういう事だよ…これ?」
ショーウィンドのガラスに映し出されているのが、現実に存在しないはずの怪物や人間ならば、驚く事は無かっただろう…その程度の事にはライダーバトルで慣れているので…だが、それには驚愕するしかないだろう…
「オ・・オレじゃなぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
なぜなら、そこに映し出されていたのは、自分ではない別の人間だったのだから…
「あ…。」
それは仕方がない事だが、ついうっかり、本日二度目の大絶叫、周囲の視線が痛いので、輝は不審人物として、警察を呼ばれる前に慌てて逃げ出した
「し、失礼しました!!!」
そういい残す事を忘れずに…
The Knight Of DRAGON
『第一話』
路地裏に逃げ込んだ輝は周囲の様子を観察する…幸いにも警察官の姿も無ければ、パトカーのサイレンの音も聞えない事に安堵して、溜め息をつくと、一度、深呼吸をして、呼吸を整え、精神を落ち着かせて、ゆっくりと直前の記憶を思い出す
「さて、何でこうなったか…。」
思い出されるのは、ミラーワールドで行なわれたライダーバトルの記憶、ミラーワールドの中でのモンスターや同じライダーとの戦い、時には協力し、時には敵対しながら、毎日を生きた、戦わなければ生き残れない日々
そして、現実世界での友達やモンスターの攻撃から、自分を庇って死んだ恋人『水月 ミク』との日々、友人達の中には仮面ライダーとして戦い、ミラーワールドで死んだ者もいた
「…確か、オレは…ナイト、オーディン…ライダーバトルの勝者を決める最後の戦いに挑んで…。」
最後に思い出されるのは自分を庇った彼女の死と親友だった男、ライダーとしても背中を預けて戦った相棒『北川 カズヤ』との最後の殺し合い、そして…オーディンとの最終決戦、三体のモンスターの力を使った物と最強の物、二つのファイナルベント同士のぶつかり合い…そこで彼の記憶は途切れている
「…ミク…。」
『アキラ…お願い…これからも…みんなの為に戦っ…て。』
最後に聞いた死の直前の彼女の言葉が彼の頭の中に浮かんでくる…彼女の死を受け入れられなかった事から、今この時まで忘れていた、その一言が…
「…ごめん…お前の最後の願い事…オレ、忘れてたよ…。」
気を取り直して、服装に視線を向けてみるが明らかに自分が着ていた服ではない、見た事の無い制服を着ていた
「…どう考えても、これはオレじゃないか…。」
逃げ込む前に見た自分の姿と今の服装…それから考えて、そう言う結論を出した、ありえない事では有るが、ここ一年の間、普段から非常識の中で生きていた彼にしてみれば、目の前に存在している以上、現実を否定する事はできない
「考えられる理由はオレとオーディンの『ファイナルベント』同士のぶつかり合いか…。直前の記憶がそこで途切れている事を考えると…それしかないか…。」
こうなってしまった原因に一応の結論を出すと、次にこの体…と言うよりも、今の自分が何者なのか、考えてみる
その手段として、何かこの体が誰なのか、身元を確認する物が無いかと思って、ポケットの中を漁ってみると…左のポケットの中に財布と学生証の二つを見つけると学生証の方に視線を向ける
「私立『風華学園』二年『楯 祐一』、高校生…それも、向こうでのオレと同年代か…。」
身元と年齢が明らかとなり、ホッと安堵の溜め息をつく、以前の自分と同年代である事は幸いであった、それが年下ならともかく、年上で、しかも学生だった場合、その人物として生きる以上、自分の知識しかない状況では学力の差を埋めるために苦労する事になるからである
同年代か年下なら、その点は苦労しないだろう
学生証の写真と先ほど見た今の自分の顔を比べてみても、当然ながら、同じ顔である事が確認できて、その学生証が自分と言うか、この人間の物である事は間違いない
「この際、偽造とか言う可能性は全部否定して、全面的に信用するとするか…。他に何かないか?」
現状で分かる事を確認すると次に他に何かないか確認するとポケットの中を再び漁ると手に馴染む重さと大きさ、形をした物が見つかった
「クッ…まだ、これとの縁は切れてない…そう言う事か?」
忌々しさを込めながら、輝はそう呟く、ポケットの中にあったのは、忌み嫌っていた力の象徴であった 『カードデッキ』 …しかも、彼の物である龍の紋章が刻まれた『龍騎』のデッキだけではなく、カズヤの持っていた蝙蝠の紋章が刻まれた『ナイト』のデッキまで存在していたのだ
もっとも、オーディンとの決戦前に残されたそれを回収したのだから、『ナイト』のデッキを持っていたとしても不思議は無いが…
「自分じゃなくなったから…もしかしたら、捨てられたと…縁が切れたと思ったのにな…。」
自虐気味な笑みを浮かべて、そう言い捨てる…確かに『仮面ライダー龍騎』を、もう一人の自分として受け入れたと言っても、それは今となっては、忌まわしい力だけでは無く、友を殺した罪の象徴でもあるのだ
「まあいい…これで一応の状況の確認は出来た…。」
カードデッキを持っている事のメリットは全て、ミラーワールドに限定される、現実の世界でカードデッキを持っていた所で戦闘力の増加には何のメリットも無い、使う状況の方が少ない事は彼自身が一番よく分かっている、そう言う状況で使った所で逆に化け物として扱われるだけだ、持っていた所でいい事は何一つない
状況確認の後、するべき事は今後の行動を考える事だった、この世界では『霧島 輝』として頼れる相手はいないし、居たとしても『ミラーワールドで殺し合いしてて、気が付いたら、ミラーワールドと現実世界とも違う、別の世界らしい場所で別の人間になっちゃってました♪』等という話を相談できるような相手はいる訳がないし、信じるような者もいない、逆に精神異常者として疑われるだけだ
このまま別の場所に行って、元に戻る方法を探すという考えも浮んだが、それはすぐに却下する、戻れたとしても、それはこの体の人物『楯 祐一』と言う青年の人生に取り返しの付かない影響を与えてしまう、それにどうしても戻りたい物ではない
恋人の死…向こうの世界で『霧島 輝』に戻ったとしたら、イヤでも、それを思い出す事となる
次に浮ぶのは自殺だが…それは考えるまでもなく、却下である、他人を自分の自殺に巻き込むのは、彼としても望む所ではない
次に浮んだのは 『ライダーバトルは夢だった』 …今はポケットの中にあるカードデッキの重さとショーウィンドに映る彼の契約モンスター『ドラグレッダー』の姿がそれを否定し、ライダーバトルは現実だと言う事を突きつける
そして、最後に浮んだのはただ一つだけ…
「今、行くべき所はこの『風華学園』か…。」
考えた結果、結論はそれだった…学生証が有る以上、彼はここの学生となる訳で有り、そこにいく必要が有る
オーディンとの最終決戦で一度は死を覚悟した以上、『霧島 輝』としての人生は捨てて『楯 祐一』として人生を生きる事はすぐに受け入れる事が出来た、自分が消えた時、『楯 祐一』が困る事がない様に彼として生きる決意をする
自分が消えるか、確認できないが彼の意識が表に出る事でしか、『楯 祐一』は自分として生きる事が出来ない…そんな彼の不幸に同情しつつ、自分はいつでも、彼に人生を引き継げる様にその準備をする決意をした
もっとも、自分と入れ替わっているという可能性は全面的に考えない事にしているが…それでは、あまりにも不幸すぎるので…
(すまない、祐一…。オレはお前がお前として生きられる時まで、お前として生きよう…お前にいつでも、引き継げる様に…。すぐに状況確認が出来る様に日記帳でも買っておくか…オレ、苦手なんだけどな…日記付けるのとかって。)
そこまで考えた後、一つの事に気が付いた
「…この財布って、オレのじゃないよな…人の財布を勝手に使うのはまずいよな…。まあいいか…日記を書いた時、最後に『勝手に金を使ってしまって、ごめんなさい』とでも、書いておけば…。」
自身の中でほぼ無理矢理に結論を下すと彼は歩き出す
「オレはこれから、『風華学園』の学生『楯 祐一』として生き、元の世界に戻る方法を探す。よし、行くか。」
自身の中の考えに決着を着け、目的を定め輝は向かう、新しい人生、その第一歩として彼の向かうべき場所である『風華学園』へと…
だが、彼は大事な事を一つ忘れていた…
「…地図とかないかな…オレ、この辺の地理とかって、全然知らないし…どうしよう…。」
探してみるが財布に学生証、カードデッキ二つは有っても、地図は無し…
「…『風華学園』って、どこだ…?」
異世界のライダーバトルの勝者(多分)『仮面ライダー龍騎』こと、『霧島 輝(アキラ)』の『楯 祐一』としての人生のスタートはそれから始まった…彼、輝君の第二の人生…その前途は多難だった…合掌
おまけ
さて、輝と精神が入れ替わった楯 祐一氏だが…
「くっ、また消えるんだからさ!」
重装甲な緑色のスーツを着て銃を構えた男、『仮面ライダーゾルダ』
「どうする?」
ダークブルースーツを着てレイピアを持つ男、『仮面ライダーナイト』が問う
「波状攻撃、かな…?」
ナイトの問いにゾルダが答え、
「面白そうだな…! 俺が一番だ…! 俺に続け。 いいな…?」
牙の様な剣を持つ毒々しいメタリックパープルの男、『仮面ライダー王蛇』がナイトの変わりに応じる
「浅倉…どうして、お前が?」
不審そうに聞く、ナイトに対して
「気に入らないだけだ…。」
王蛇がそう答える
「ま、俺はなんでもかまわないけど?」
ゾルダが了解の意を示し、金色のスーツの男に視線と銃を向け、残りの二人も睨みつける
「なんだと……!? バカな、何故お前たちが結束する? ライダー達がこれほど強く結束するなど、ましてや、目的を忘れて結束するなどと……あってはならんことだ……これより……修正を行う。」
金色のスーツを着た男、『仮面ライダーオーディン』が一枚のカード『タイムベント』を取り出し、どこからかゴルドバイザーが出現する
「って、ここはどこだぁー!!!」
突然、意味不明な言葉を絶叫する、仮面ライダー龍騎には流石のオーディンも驚いて、思わず、カードと杖を落としてしまう
最高のチャンスなのだが、他のライダー達も…
「「「き、城戸?」」」
突然の龍騎の奇行に思わず彼等も武器を落として、呆然としている…
「ちょっと、待て! オレはいつの間にこんな所に!? って、何だ、この格好は!?」
頭を抱えて錯乱しながら走り廻る、龍騎に
「「「「…………。」」」」
時が止まった…
「…可哀相に、頭が逝っちゃったか。」
「…ヤル気が失せた。」
そう言って、立ち去っていく、ゾルダと王蛇、いつの間にか、オーディンの姿までない
「って、お前等、城戸の事を全部、オレに全部押し付けていく気か!? 浅倉、北岡、神崎!!!」
取り残されたナイトはまだ錯乱している、龍騎を見る…ミラーワールドに居られるタイムリミットが近いのか、体が消滅している
「さあ、よく分からんが、帰るぞ、城戸。」
「ちょ、ちょっと、待て! 放せ!!!」
「あー、分かった、分かった。とにかく、帰ろうな。」
「だから待てー!!!」
龍騎の絶叫がミラーワールド中に響いた…こうして、気付かぬ内にライダーの運命を変えちゃった男『楯 祐一』の『城戸 真司』としての人生が始まる
「オレはただの男子高校生だ!!!」
「可哀相に…そこまでバカになったか…。