(…神様…あんたは一体、オレにどういう恨みがある!? 教えてもらおうか、1~10まで全部!?)
転校早々…別人の人生を生き始めて最初にあんな戦いに巻き込まれてはそう思わずにはいられないだろう、それを受け入れるか夢や幻として否定するかは別にして…
(左腕を動かす際に感じる感覚、痛みは無いが僅かに動きを疎外されるな、その感覚の原因も調べる必要があるな。)
「一体どうなっているんだ。」
腕輪の少女の名前を聞いた後、木に背中を預けて座っている輝は思わず、空を見上げながらそう呟く、意識していた訳ではなく、無意識下で色々な意味でのその一言が出てしまった
ここまで走っても息切れ一つしていない事から考えて、感覚だけでなく、身体能力も左腕を除けば以前の自分と変わりないだろう、もっとも、それを限界まで確認した訳ではないが
1.『死んだはずの自分が別人として別の世界でいる』
2.『自分では無いはずなのにカードデッキも所持している』
3.『左腕の感覚を除いて以前の自分と大差ない身体能力』
4.『彼女達の使っていた力』
と大きく分ければその四つになるだろう
三つ目の疑問はこの体の元々の持ち主の身体能力と考えれば問題ないだろうが、それでも、強化されたとは言え、一年近く殺し合いや怪物との戦いの中や、それ以前からの武術や剣道で鍛えられた自分の身体能力と比較するのは、『楯 祐一』が何らかのスポーツをやっていたとしても多少無理があるだろう
「はァ、はァ。あっ。血が出てる!」
隣に座っていた少女―『鴇羽 舞衣』―は輝の左腕の傷に気がつき、気遣うように彼に近づく
「ん? そう言えば…いつの間に。まあ、かすり傷だろうから、その内に治るだろう。」
「ダメだよ、ちゃんと手当てしないと…。!?」
舞衣が何かに気がついたような表情に気がつき、輝も彼女の視線を追い、自分の左腕に視線を落とす
「あっ…その傷…。」
(この傷か…。)
「何時出来たんだ、この傷…。まあ、忘れるくらいだから、たいした理由でも無いんだろう。」
左腕に一本の線のような古い傷があった、左腕から感じていた違和感の原因はおそらく、この傷だろう、それは輝が『楯祐一』になる以前に『楯祐一』が受けた傷であり、理由は追究されても答えられないので、その前に忘れたと言っておく
彼の『たいした理由でも無い』の一言が後々、輝に不幸を招く事になるのだが―実際、あの傷には大きな意味があるし―…現時点では、問題では無いので、ここでは多くを語らない事としよう
「まあ、この程度ならすぐ止まるから…心配しなくても、大丈夫だ。」
「でも。」
「大丈夫だ!」
思わず強く叫んでしまった事に気がつくと、彼女に視線を向ける、心配してくれているのは嬉しいが、その優しさが輝には苦痛でしかない、多くの命を奪った上で生きている、自分にはその温もりがどんな炎よりも、心を焼かれる、それに…
「オレの事より、自分の心配をしろよ。」
「ごめん。」
「そんなに傷だらけで。」
そういいながら、輝は真っ赤に染めて、舞衣から視線をそらす
「うん…。」
輝の言葉にそう答えて、顔を紅くして、拳銃の少女―なつき―との戦いで服が破れてあらわになった胸元を隠す
「…………。一つ聞いていいか? さっきのはなんだ? あの変わった形の銃や君の炎の出る腕輪とか。」
暫く考え込んだ後、自分の持つ四つ目の疑問に答えを出すべく、輝はそう問いかける
あのまま平和的に解決できていればすぐに質問していた所だったのだが…
「そっか……。今日転校してきたって、言ってたもんね…。」
舞衣はあの戦いで使っていた腕輪を出現させる、先ほどは炎を纏っていたために確認できなかった全体像が、今は確認する事ができる、勾玉を繋いだような形の腕輪だった
(…しかし…。)
ドラグレッダーに一瞬だけ腕時計に視線を向けてみるとミラーワールドに存在している火龍は己の主人の安全を確認したのか、安心したように待機していた
それでも、敵の襲撃に備えて、油断無く周囲に注意を向けている分、まだ完全に安心した訳では無いのだろう
輝は意識をドラグレッダーから、彼女の説明に意識を向ける
(なに!?)
彼女からその力について説明を受けた時、思わず驚愕が浮ぶ…それと同時に納得が行った部分も存在していた…
(…まさか、あれは先天的な能力だったのか…オレ達、『ライダー』とは違って…。)
『Highly-advanced Materialised Equipment』、『高次物質化能力』と言う物の事で略称が『HiME』となるらしい、彼女達の力は神崎の手により、後天的に与えられた輝達の持つ『ライダー』の力とは対照的に先天的に持つ物であるらしい
初めは彼女たちのその力が、自分達と同じ後天的な物と考えていた輝にとって、それは衝撃的な物であった
(…流石は異世界と言った所か…始めて知る事が多い…。)
そう、考えにある種の結論を向かえた後、次の疑問をぶつけてみる事にする…なつきと言う少女が自分に言った言葉
「それで、『鍵』と言うのは…。」
「え…と…つまり、『HiME』の力を増幅させることができる相手。」
「…つまり、『増幅器』…ブースターと言った所か。」
彼女の説明に納得した様に答える、実際、自分がその『鍵』なのかどうかは分からないが、拳銃の少女の質問の意味は理解できた
(…はあ、迷惑な話だ…。オレは彼女たちにとってのアドベントカードか…。)
思わずそう考えてしまうのも無理も無いだろう
(…オレは神様という奴には、とことん嫌われてるらしいな。)
「そ、そうなるけど…。外から来た人に理解できるなんて…。」
「似たような事は体験済みだ…嫌と言うほどな。」
険しい表情を浮べ、言い捨てる…そう、輝は似たような状況はすでに一年近くの間、経験してきたのだ、そして、同時に浮ぶのは、それを始めた者と自分自身への怒り、意識はしていなかったが、声にもその感情は出ていたのだろう
怒りを浮かべた、その表情を舞衣に見せない様に正反対の方向に顔を向ける、その戦いの記憶や今の自分の感情を忘れる気は無いが、それは関係の無い者に向けていい感情などではではない
数分…数秒だろうか…どちらからも話しかけない気まずい空気が流れる…
「…ごめん…今のは別に怒っている訳じゃないからさ…その…ちょっと、嫌な事を思い出しただけだから。」
「うん。」
自分が怒っているとしたら、他でもない戦いの原因となり、カードデッキを手にした時の最初の願いさえも忘れた自分自身に対してだ…そんな考えが輝の頭の中に過ぎる
(あれ?)
頭痛と共に今日初めて出会ったはずの彼女の姿が一瞬だけ脳裏に浮かぶ…彼自身、始めてみるはずの景色の中で《彼女》は…《鴇羽舞衣》は………………泣いていた
(…今のは…オレの記憶じゃない…。祐一の記憶か? それも…昨日の…?)
知らないはずの《彼》、《楯 祐一》の記憶、それが何故、彼の頭の中に現れたのかは分からない…だが、一つだけ、恐ろしい仮説を作り上げてしまう
(ッ!? …オレと祐一の意識が一つになろうとしているのか…?)
忘れてはいけない『ライダーバトル』の…13人の仮面ライダー達の戦いで散っていった者達の記憶、それを忘れてしまうかもしれない、その可能性に一瞬だけ恐怖し、すぐに頭の中からその可能性を打ち消した
そして、視線を舞衣の方に向ける、『楯祐一』の記憶が正しければ、昨日、彼女は泣いていたはず…それを知っていて無視できるほど、輝は冷たくは無い…背伸びしつつ前を歩く彼女の背中に声をかけた
「なあ鴇羽、何で君は昨日泣いてたんだ?」
心から彼女を気遣っての言葉、それ以外の感情の無い輝のその言葉に彼女の肩が震える
「見間違いよ、私が泣くわけないじゃない。」
そう言った舞衣の声の響きは硬く、振り向きざまに見せられた笑顔の中には明確な拒絶があった、その笑顔を見て、輝は自分の迂闊さを呪いたくなる
その言葉をきっかけに、二人の間には耳が痛くなるほどの沈黙が下りる
その沈黙を破る様に言葉を掛ける
「そうか、君がそういうなら、そうなんだろうな…。でも…ッ!? 離れろ、鴇羽!!!」
近づいてくる者の気配、そして、鏡の中の戦友、警告を呼びかけるドラグレッダーの声無き咆哮に気がつき、表情を変えそう叫ぶ
ガガガガガガガガガッ!!!
「チッ!」
「キャ…ッ!?」
輝の言葉を遮る様に、轟音を立てて二人の間に銃弾が雨のように降り注ぐ
「話は終わったようだな。」
変わった形の銃を片手に、なつきが輝の傍らに舞い降りる
「イヤ、まだ話の途中だったんだけどな…。」(…ドラグレッダー…頼むから落ち着け。)
呆れた様にため息をつき、輝はそう呟いた、心の中でミラーワールド内でなつきに対して、敵意を剥き出しの咆哮を上げている、ドラグレッダーを落ち着かせながら
なつきの持つ銃-リボルバー-、その球形の弾倉-マガジン-から薬莢-カートリッジ-が排出され、地面に乾いた音を立てて転がった
なつきは輝の言葉を無視して、そのまま再び銃口を輝に突きつける
「また、このパターンか…。」
呆れながら呟き、『降伏』の意思を示すように両腕を上に上げ、どうやって、この状況を切り抜けるかと言う方向に思考が向かっていく…もっとも、大半が危険な物だが…
「なつき! その人は関係ないでしょ、離しなさい!」
舞衣は叫びながらエレメントを具現化させ戦闘体勢に入る、そんな彼女の姿を一瞥しながら、なつきはその美貌に冷笑を刻んだ
「関係ない? それはどうだろうな。自分の体で試すがいい!」
そう叫び、なつきは輝に自身のエレメントを押し付ける、その瞬間、地面から巨大な氷の柱が幾本も現れ一斉に砕け散る
「これが私の《チャイルド》……、デュラン!」
砕け散った氷の欠片がダイヤモンドダストのように輝き
「ウオォォ―――ン!」
その中心で、白銀の狗狼が気高き産吠えを上げた
「…狼型の…モンスター?」
表情一つ変えずに突然現れた白銀の狼の姿に輝はそんな感想を洩らす、それでも驚いていないのは、やはり、ライダーバトルの経験と舞衣の説明である程度予想していた事態の一つだったからだろう
「モンスターとは失敬だな。私とお前の子だぞ?」
顔色一つ変えない対照的に、なつきは艶のある笑みを浮かべる
『チャイルド』それは、HiMEが鍵と呼ばれる存在を触媒に異世界より呼び出す異形の怪物。その証拠に、デュランと呼ばれたその獣は姿形こそ狼だったが、全身は白銀の光沢を持つ金属で形作られ、体の両側に巨大な銃のような武装が存在している。
(…ゾルダのマグナギガと同じタイプの遠距離攻撃型だな。もっとも、あっちと違って、動きはこっちの方が速そうだな。)
輝は頭の中の冷静な部分で冷静に《デュラン》と呼ばれたモンスター…イヤ、チャイルドの能力を外見から分析する
「鍵にはその力の及ぶ範囲、領域(テリトリー)がある。喜べ、貴様は今日から私の奴隷君だ。」
なつきが嬉しそうに、それでいてとんでもないことを言い放った
「はい? …ちょっと待て、何勝手な事を言ってんだ!?」
「黙れ! デュラン! ロード・クローム・カートリッジ!」
母の命令に合わせてデュランの後ろ足の付け根が開き、鈍色の巨大な弾丸が装填される
「待て、止めろ!!!」
「てぇーーー!!!」
輝の静止の叫び声を無視し、その号令と共にデュランの撃鉄(ハンマー)が落ち、銃口が火を噴いた
「くっ。」
ポケットの中に収めてあるカードデッキを手に取り、それを使いライダーに変身しようとした輝だったが…そこで彼の動きは止まった
(…あれを呼び出したのが、オレだったら…変身してでも、倒してでも止めないと…でも、何で体が動かない!!!)
軽い…物理的な重量ではそれほどの重さではないはずのカードデッキが酷く重く感じる、腕が凍り付いた様に動かない…腕が上がらない、ドラグレッダーに対する攻撃指示も出せない
体が…精神が…本能が拒絶しているのだ…変身する事を…ライダーとなり、戦う事を
自身の姿を異形の戦士、騎士へと変え、人を守るために戦う事を輝は決めたはず、それなのに…何故、腕が動かないのか…今はもう乾いているはずの手に友を殺した時の生暖かい血の感触が蘇るのか
(オレは…恐れている…拒絶しているのか…ライダーに《戻る》事を…。)