デュランの砲口より撃ち出された弾丸が大気を引き裂きながら、標的に向かい飛翔する
推測の域を出ていないが、輝はその弾丸の破壊力はゾルダのギガランチャーに匹敵するだろうと推測した、ライダー共通の切り札である『ファイナルベント』その破壊力に匹敵するであろう一撃をまともに受けて無事ですむ訳がない
迫るそれを舞衣は自ら作り出した炎の障壁で防ぐが
「あぅ…ッ!」
デュランより撃ち出された弾丸の勢いは衰える事無く炎の障壁諸共、舞衣を吹き飛ばし、草木を薙ぎ払い大地に爪痕を穿った
(クッ、予想どおりかよ!?)
「これがチャイルドの力か…恐ろしいな。これに比べればエレメントなど児戯に等しい。」
興奮を声に滲ませながら、止めを刺すつもりなのか、なつきは蹲る舞衣に銃口を向ける
「止めろ、もう勝負はついたはずだろう、これ以上何する気だ!? 鴇羽も逃げろ!」
それに気づいた輝が叫び声を上げ、彼女の腕を掴んで止めに入る
「離せっ! 戦う覚悟の無い奴が口を挟むな!」
しかし、なつきはそう叫び、その腕を振り払った
凍てついた蒼氷(アイスブルー)の瞳で輝を射殺す様に睨み付けるが輝もそれを返すように彼女を睨み付ける
「…『戦う覚悟の無い奴』か…。ふざけるな! それの本当の重さも知らない奴が吼えるな。『戦う覚悟』は『誰かを殺す覚悟』でも有る、命を奪う事がどういう事か…お前は分かって言っているのか!? 相手がどんな悪人でも…背負い切れる物じゃないんだぞ…。」
彼の言葉に何も言い返せない、彼の言葉に、瞳に込められた意思には重みがあった…自分たち以上の戦う覚悟とその結果生み出した、命を奪う事の重さを知る、輝の瞳に睨み付けられなつきは何も言い返す事が出来ない、睨み返す事だけが唯一の抵抗でしかなかった
自分もその一人だったから輝は知っている…ライダーバトル、その最後に残ったライダー達の『戦う覚悟』を『命を落とす覚悟』『誰かを殺す覚悟』を…
そんな二人の耳に…
「逃げないよ…。」
抉り削られた大地に倒れ伏している少女の囁きが風に乗って響く、その響きを聞いた、二つの視線が一つの存在に注がれる、あれほどの力を見せ付けられても、その瞳には闘志の炎が宿っていた、震える四肢に勇気を、暴れる心臓に覚悟を叩き込み、祈るように詠うように、ただ静かに言葉を紡ぐ
「私は…今まで降りかかる火の粉とか困難とか、全部真正面からぶつかってきた…。だから…。」
舞衣は立ち上がる、その顔に紅蓮に燃え盛る炎のような壮絶な笑みを浮かべて
「絶対に逃げたりしない…!」
決して汚すことの出来ない己への誓いと共に
「いい覚悟だ! デュラン! ロード・シルバー・カートリッジ!」
舞衣のその姿に輝から意識を離した、なつきも壮絶な笑みを刻む
(いい覚悟だ…でもな…こう言わせてもらう…『ふざけるな』『何をやっている!?』…。)
その二人を前に、その微笑を見て、その誓いを聞き、血が滲むほど強く、自身の罪の証を握り締め、前者の言葉を彼女に…後者の言葉を己自身に叩き付ける
脳裏に浮かび上がるのは自身の知らなかったはずの光景、鮮やか過ぎる《楯祐一》の記憶
(あの涙が…無理してないわけ無いだろう…。でもな…オレなんかよりも立派だ…結局、オレは自分の罪から逃げているだけだ!)
彼女の言葉に己の間違いに気付く…ライダーバトルを始めて、怒りに任せたとはいえ、初めて殺したライダー…最初の脱落者を作り出したのは…何よりも戦いを止め様と、一つでも多くの命を救おうとしていた自分…他のライダーを殺した事、友を殺した事、ライダーバトルの原因を作り出してしまった事…かつての自分ではなくなっていた事をいい事に自分はそれから逃げていた、変身する事によって、《龍騎》へと戻る事によって、罪と向き合う事を恐れていた
記憶の中にある、己の間違いに気付かせてくれた彼女の涙…それは十分すぎるほどの理由、ミラーワールドの中では真紅の火龍、無双の龍が彼の意思に、決意に歓喜の咆哮を上げる…彼の戦友も彼の行動に異論を向ける事は無い、覚悟さえも飲み込む『恐怖』を消し去り、再びその力を手にする切欠を作った相手に対する礼としては不足なくらいだ
『戦う覚悟の無い奴が口を挟むな!』
止め様と掴みかかった輝になつきはそう言った、戦う覚悟など既に持っている…忘れていただけ、見えなかっただけ…間違っていただけだ
(見せてやろう…オレの覚悟を…『決意』を。)
そして、《楯祐一》の仮面を付けた《霧島輝》は走り出す、目的は一つ泣き方を忘れた一人の少女を引っ叩く為、そして…それが適わないのなら、少しでもその悲しみを軽くするため、覚悟と思いは恐怖を砕きその奥に飲み込まれた《仮面》を引き上げる…そう、《仮面ライダー龍騎》という名の仮面とそれに守られた《霧島 輝》と言う素顔を…
「鴇羽!!!」
恐怖の淵より引き上げた仮面を再び身に着ける決意を決め、自身の成すべき事をするために彼は走り出す
(嘘っ!? ……なんで!!!)
自分の名前を呼ぶ叫び声に舞衣は目を見張る、彼女の瞳に映ったのは自分を助けようと走る輝の姿、理解できない…彼の力を知らぬ彼女には理解できない…彼女は知らない、彼には彼女を助けるだけの《力》が有る…そして、その力を手にした時の願いこそ『誰かを守る事』、彼の忘れていた…見失っていた願いを彼女は知らない
彼はなぜこんな危険な事をするのか、自分の命を掛けてまで、さっき会ったばかりの自分の為に、こんな事に巻き込んでしまった自分なんかの為に…彼女もまた願った、そんな彼を助けたいと思った
(ドラグレッダー、頼む。)
ミラーワールドのドラグレッダーへと指示を出し、変身するためにカードデッキを取り出そうとし、空いた片手を伸ばす
「く…っ!」
彼女もまた願った、だからこそ舞衣も手を伸ばす、その優しすぎる決意を持った彼を助けるために…
「てぇーーー!!!」
再びなつきの叫び声が響き、デュランに装填された弾丸が砲口より撃ち出される、それまでは輝の考えのうち、そのための指示はすでに彼の相棒たる、ドラグレッダーへと出してある
だが、輝と舞衣、二人の手が…願いが交差した瞬間、現実は輝の予想を大きく超える、周囲を白い炎が包み、デュランより撃ち出された氷の弾丸を蒸発させる
それはその日出現した、もう一体のチャイルドの産声である
その姿は輝の戦友たるドラグレッダーと同じく、数多の幻想中で最強の名を冠する獣の王、白亜の巨躯と紅蓮に燃え盛る炎の翼を持つ竜…ドラゴン…ドラグレッダーが東洋の龍とたとえるならば、翼を持ったその姿は西洋の物語で謳われる龍の姿に近いだろう…
それは再生と破壊を司る炎の化身にして母殺しの大罪を背負う存在-モノ-その真の名を…
「カグツチ…。」
自分の母たる少女と自分の父たる少年の姿を見て、優しき龍は…カグツチは嬉しそうに啼き声を上げる、自分の名を呼んでくれたことに、この世界に喚んでくれた事に、そして、彼らを守ろうと姿を現した真紅の龍への感謝を込めて
同じく炎を纏った真紅の火龍ドラグレッダーはカグツチの姿を見て、炎の中で自らの住処であるミラーワールドへと姿を消した、自分の主の事をカグツチへと託す様に咆哮を上げて
(ドラグレッダー…お前は…。まあいいか…。)
伊達に一年もの間、ドラグレッダーの戦友はやっていない、ドラグレッダーが何をカグツチにへと託したのかはよく分かる、それがどういう結果を引き起こすのかはよく分かるが…そこで思考を止めた…デュランもいるし死にはしないだろう…
(嫌われたな…玖珂だったっけ?)
次に敵対したら冗談抜きでドラグレッダーが敵意をむき出しにして暴走してしまう未来を予想する…
そして、輝の考えを余所にカグツチはその視線をもう一人の少女の方に向け、バクンッと音を立ててその顎が開かれた…成すべき事、ドラグレッダーから託された願いは分かっている
背中のタービンが音を立てて回り、周囲の酸素を集め、膨らむカグツチの胸が煌々と紅い輝きが増す、その暴虐な力を戒めるために顎を貫く剣はその要を成すことなく、灼熱の息吹が放たれる
「チィッ! デュラン!」
解き放たれた獄熱の奔流は、立ち塞がる全てを灰へと帰しながら突き進み、遠くに見える山の一角を消し飛ばした
「アイツ、舞衣の鍵でもあったのか…。」
輝の予想通りなつきはデュランに飛び乗り先の一撃から辛くも逃れ、校舎の屋上からその惨状を見下ろしながら、怒りと困惑を混ぜ合わせた声音で呟く
当の二人と一匹…イヤ、正確には一人と一匹は、眼前に広がる白い灰の海にただただ呆然と立ち尽くしていた、輝は今の一撃にはそれだけの力は込められていると、ある程度の予想はしていたので、それほど驚いていない…
「…完璧にやりすぎだな…。」
その惨状を呆れた様子で眺めながら、誰にともなく輝は呟いた
幸いにも、その惨状を作り出した一撃に狙われた対象達はうまく避けて無傷でいる事には気が付いていた、心の中でデュランと言う名のチャイルドと言う存在の運動能力に対して賞賛の言葉を送る
そんな二人に、
「どうやら決着がついたようですね。」
「ええ、かなりやり過ぎたようですけど…。ッ!?」
背後から鈴の音のような可憐な響きの声がかけられ、輝は近づかれた事に気が付かなかった事に対する驚きを浮かべながら、声の聞こえた方向―後ろ―を振り向く
(…今まで気が付かなかったのか!?)
殺気以外の気配に対しては必要以上に敏感にはなっていなかったが、それでも、以前よりは敏感になっていた、それなのに、こんな近くに近づかれるまで気が付かなかった事に対する驚きの叫びを心の中で上げる
二人の背後には、車椅子に乗った銀色の髪の少女と朱色のメイド服を着た若い女性の姿があった
「楯祐一さん、ようこそ風華学園へ…。」
そう言って、少女は輝に向けて柔らかな微笑みを浮かべた
紅き龍の騎士と二人の姫は出会う…それは紅き龍の騎士に再び仮面を付けさせる切欠となった…鍵たる騎士の新たなる物語と二人の姫の物語…それは今この時を持って、ここに開幕する
別名『輝の色んな意味での苦労がここから始まる』と言い換える事も出来るのだが…まあ、それはそれ…
「…どういう意味だ…?」
つづく…?
「クックックッ…そうでないとな…なあ、楯祐一…イヤ、輝…。」
漆黒の髪、黒い瞳、整った顔立ちは人を引寄せるほどではあるが、浮かべている表情、雰囲気が他者を寄せ付けない雰囲気を作り出している風華学園の制服を着た少年が輝達を見下ろしていた…輝がそれを見ていれば気が付いただろう…彼の顔に…
そう、彼は輝が楯祐一になる以前の顔《霧島 輝》であったのだ…
憎悪をこめて、《輝》は輝を睨み付ける…その憎悪の言葉に答える様に《輝》に付き従う漆黒の龍が咆哮を上げた
「…ああ、ドラグブラッカー…この幸運…神に感謝しよう…輝がこの世界に存在していることに、この俺がここに再び生を受けたことにな。」