戦闘後、輝と舞衣の二人が案内されたのは風華学園の理事長室だった
豪華でいて品のある調度品に囲まれた部屋の中央、輝達と少女の間にあるテーブルの上には人数分の紅茶とお茶請けのクッキーが乗っている
「改めまして、私は風花真白。若輩の身ですがこの風華学園の理事を勤めさせてもらってます。後ろの方は秘書の姫野二三さん。」
彼女の紹介で後ろに控えていた二三と呼ばれたメイド服の女性はスカートの端をつまんで会釈する
「き、君が理事長!? こ、この風華学園の…?」
自分の目の前に座っている真白の背格好は、どこから如何見ても小学校生にしか見えない
(ホントよ。海外の大学を飛び級で卒業してるんだって…。ちなみにここの小等部六年生。)
「……………。」
彼の傍らで、舞衣がこっそり耳打ちする、それを聞いて輝は引きつった笑顔で凍り付いていた…ある意味、本日二度目の驚きだった…それも自分が異世界(らしき場所)にいて別の人間になっていた事に続いての…(三番目?)
「信じられないのでしたら、卒業証明書でもお見せしましょうか?」
困った様に微苦笑を浮かべる真白、そんな彼女を落ち着かせようと見て軽く深呼吸すると紅茶に口をつける
(美味い。)
一口紅茶を啜って、輝は思わずその美味しさに眼を見張る、茶葉が良いのか淹れ方が良いのか…おそらくはその両方だろう、そんな輝の反応を見て、後ろの二三が笑顔を浮かべる
「HiMEとは…。」
そんな輝達の様子を見て、真白がゆっくりと口を開く
「高次物質化能力を持ち、学園に仇なす怪物《オーファン》と戦う女性の総称です。オーファンが何の目的で学園を狙っているかは不明ですが…、こちらとしても手をこまねいているわけにはいきません」
「オーファン…英語で『孤児』ですか。」
「はい、この世界に存在してはいけない『放浪の存在』、オーファン。彼らから学園を守るためこの学園にHiME能力者たちを集め、対オーファン部隊を結成しました。……あまり…と言うよりも全然驚かれてないようですね?」
「まぁ、HiMEなんて超能力者がいるくらいだから、怪物がいても別に不思議じゃないかなーとは思ってましたから。…それに似た様な状況は一度体験済みなので…。」
輝の返答に最後の小声で言った一言を疑問に思いながらも、その返答に真白は満足そうに頷く
「そうですか? もちろん鴇羽さんも対オーファン部隊の一員です。」
真白の言葉に輝は隣にいる舞衣に目を向ける、向けられた輝の視線に、舞衣が照れくさそうな表情を浮かべる
「エレメントの力だけでオーファンに対抗するのは大変でしたから、鴇羽さんも久我さんもチャイルドを呼び出せるようになって何よりです。これからは力を合わせて学園平和を守って…。」
「ええ、分かり……………って、なに!?」
思わずそう答えてしまった後、輝は慌てて口を開く…戦う覚悟はしていたが、ここで少しは驚いて見せないと、怪しまれるだろうと考えた結果…
「戦うって…オレが?」
そう反応して見せた…一応、何も知らない一般人である『楯祐一』の反応としては妥当な所だろう…もっとも、輝も『仮面ライダーの力を持っただけ』の一般人だが…
(…そう言われるって、予想はしていたけどな…。)
表では『楯祐一』 として驚いて見せて、意識の中の『仮面ライダー龍騎』、『霧島輝』の冷静な部分でそんな事を考えていた
「覚悟はしているものと思いましたが?」
不意に聞こえた真白の言葉に輝は思わず『楯祐一』 として浮かべていた物から『霧島輝』の物へと、表情を変える…
(…既にオレに覚悟があると…見破られて…いた…? 驚いて見せて失敗したか?)
輝がどう言葉を返すものかと迷っていると…
「私、チャイルドなんていりません!」
舞衣の強い言葉が続きを遮った、舞衣は立ち上がり、毅然とした瞳で続ける
「関係ない人を巻き込むつもりありませんから、エレメントだけで充分です!」
(…助かった…。)
思わず『ライダー』の事まで話す最悪の事態まで考えていた輝としては舞衣がそう宣言してくれた事には正直なところ、助かっていた…だが
(…でも…あの時、チャイルド…カグツチと言ったか? あいつが出てこなかったら、ドラグレッダーを出す以外に助かる方法は無かったぞ…。)
「…別にオレは断ると言ったつもりはないんだけどな…。それに…もうこの学園に転校した時点でオレは『関係者』になっていると思いますけど…理事長。戦いましょう…オレも…。」
前半を舞衣に後半の言葉を真白へと向けて言い放つ
そして、一呼吸置くと
「覚悟はできている…戦う覚悟はな…。」
そう簡潔に言い切った…一切の感情の篭っていない声で…
その表情からは一切の感情が消えている…舞衣は輝が遊び半分や恐れ知らずの肝試しでこんなことをするような人物ではないと短い時間の中で理解していると自負していた
凍えるほどに無感情な表情…それが彼女には自分の親切を無碍にしている様に感じ取ってしまう
「なんで……なんでそんなこと言えるんですか…平然と!」
搾り出すような、うなるような低い掠れた声を舞衣は上げる
「なんで! そんな平然と戦うだなんて言うんですか?! 負けたら死んじゃうかもしれないんですよ?! 遊びじゃないんですよこれは!」
畳み掛けるように輝に詰め寄り、至近距離から舞衣は叫ぶ、荒い息を吐き、思考回路が落ち着いてきたところで舞衣の心に浮かんだのは後悔と自己嫌悪だった
《何故あんなことを叫んでいたのか? あの時、デュランの放った弾丸の前に身をさらし、自分を守ってくれたのは他ならぬ輝ではないか! そんなことをする人が、覚悟もなく戦うと言うだろうか? 浅はかだった。自分の親切が否定されて逆上するのでは子供以下だ!》
そんな考えが浮ぶ、俯き…とても輝の顔は見られない
怒っているだろうか? 呆れているだろうか? もしこれで輝の機嫌をそこね、彼が戦う事を拒否でもしたらそれこそ自分の所為だ
スッと、輝の動く気配を感じた
「っ!」
ぶたれるかもしれない、眼をぎゅっっと瞑り、頭を下げて衝撃に備えるが…いっこうに逸れはやってこない、舞衣がおそるおそる顔を上げると、至近距離にあったのは輝の笑顔だった
「怖がらせたみたいだね…ごめん。」
頭の上に掌が乗せられ、ゆっくりと撫でられる
「あ…。」
「オレには。心に決めた願いがあったんだ。」
「願い……ですか?」
「ああ。理不尽な理由で誰からも何も奪わせない…悲しませない。一つでも多くの命を守りたい…そのために戦うと…。」
「そのために…戦う?」
「そうだよ。…最後の最後で見失ってしまったけどね…。」
泣いた子供をあやすように、輝はゆっくりと優しく語り掛ける
「…正義とかそんな事は言わない…オレが戦う理由は…『守ること』、それがオレの願いだから…ただそれだけだ。」
舞衣は知る…彼の願い…ただ純粋な願いとして輝は戦う事を決意している…そして、決して曲げられる事の無い無いであろう意思の中に見え隠れする…『もう、失うモノは何も無い、オレが死んでも泣く人もいない』という悲しい…悲しすぎる思い
舞衣は思った…だからこそ、祐一-輝-ならば、その願いを叶える事ができるだろう、己自身を犠牲として…守るべきモノの中に自身が入っていない…その思いは悲しすぎる
「だから…。」
舞衣は感じ取っていた…『今の輝を戦わせてはいけない』と…
彼女の考えは正しいかった…今の輝は簡単に自分を犠牲にしてしまうだろう…特に龍騎へと変身し…自分の体が本来の物ではなく、他人の物だと言う事を忘れてしまった瞬間は…
どこか悲しく、それでいて優しいその笑顔…それから目が離せない
輝が次の言葉を話そうとした瞬間、それ以上の言葉をかき消すように舞衣は真っ赤な顔で慌てて次の言葉を叫ぶ
「失礼します…!!!」
力一杯扉を閉め、慌てた様子で輝が止める間もなく、部屋を出て行ってしまった
「…嫌われたかな…。」
俯いていた舞衣には気付かれなかったが、無意識下の内に彼女を睨みつけてしまっていた…ふと、気になった事を呟く
「女性の扱いがお上手ですね、楯さん。」
「お・・お上手って…何がですか?」
鈍感と言った方が良いのかもしれないが…呆れたような真白の呟くが輝は何も気付いていない様にそんな言葉を彼女に返す
「ところで…。」
その言葉と同時に真白の顔が今まで浮かべていた柔らかな表情が全て抜け落ち、硬く冷たい人形のような顔へと変わる
「楯さん、鴇羽さんのチャイルドが呼び出された時、紅い龍が見えませんでしたか?」
「!? さ・・さあ…彼女のチャイルド…カグツチでしたっけ? あれは白かったですよ。」
一瞬だけ同様を浮かべるとすぐにそんな言葉を返す
「そうですか。」
(気付かれたか?)
その声の響きから、そんな考えが輝の頭の中に浮ぶ
「あの…オレもそろそろ行きます。お茶、ごちそうさまでした。」
そんな真白の様子に最悪の場合の嘘を考えておく事も考え、立ち上がり部屋の入口へと向かう
「変な事を聞いてしまって申し訳ありません。それと…、お二人の事よろしくお願いしますね。」
背中に声をかけられる、振り返れば、真白が常の淡い微笑みを浮かべていた
「分かりました。…命に変えても…。」
それに対して輝は微笑を浮かべて、前半の言葉を告げ、ドアを閉じる寸前に後半の言葉を返した
輝と舞衣、二人が部屋を出てしばらくして
「真白さま…。」
今まで彼女の後ろに黙して控えていたメイド、二三が静かに口を開く、その声に含まれるのは微かな困惑と、己の主人の身を案じる確かな不安
「大丈夫ですよ、二三さん。私はあの方を信じます。きっと彼がこの戦いを終わらせる《鍵》になってくれる事を…。」
心配そうな顔で自分を見下ろす二三に、真白は微笑んだ、その顔に儚くも美しい淡雪のような微笑を刻んで
「ただ、彼は悲しいほど優しい人ですね…。」
姿が見えなくなった彼に対する真白からの輝に対する言葉が部屋の中に響いた
さて、理事長室を後にした輝は、案内書を片手に校内を彷徨っていた
「ここどこだ?」
完全に…一部の隙も無く迷子だった…まあ、この風華学園が広すぎるのが問題なのだが…まあ、目的地が分からないなら他の生徒に聞けばいい、そう思えるかもしれない、いや、そうすればいいのだが…今の輝にはそれが出来ない理由がある
「ホラあの人よ。鴇羽さんと久我さんの鍵だって言う…。」「いきなり二股かぁ~。一人の人間が二人のHiMEの鍵になるなんて聞いたことね~ぞ!!」「きっと絶倫なんだぜ」「肉欲獣だわ!!」
学生達の間でヒソヒソと交わされる噂話、今朝の一件が既に全校生徒に知れ渡っているらしい…………………それもかなり歪んだ形で
(ドラグレッダー…オレはあの時、変身して止めた方が良かったか?)
(………………。)
たとえ真実でなくても、多くの者がそうだと認識してしまえばそれが真実となる…理不尽な噂に対する怒りに震えながら、ドラグレッダーに向って心の中で呟く…ドラグレッダーも返答に困っている
輝が歩けば、モーゼの十戒の如く人垣が一気に割れる、はっきり言って、道を聞くどころの問題ではない…
(そりゃ、あの二人が可愛いのはオレも認めるけどさ、だからってこの仕打ちはあんまりじゃないか!?)
心の中で涙しつつ、正しき怒りを胸に…独り輝は案内書と格闘している…内心、『この怒りを誰かにぶつける事は出来ない物か?』と考えながら…
「こォンのォ!!!」
そこに不幸な犠牲者が一人、地を砕かんばかりの足音をBGMに、地獄の亡者の怨嗟の如き声を従えて
「肉欲獣がァーーーー!!!」
天を貫く怒号と共に殺気混じりの渾身の竹刀が振り下ろされた
が
「ライダー…キック。」
丁度いい時に現れた暴漢、『謎の竹刀男(仮名)』にその怒りをぶつける為に某『天の道を往き、総てを司る男』の如き必殺の右上段回し蹴りを叩き込み、吹き飛ばし地に沈めた
「グォォォォォォォ…。」
呻き声を上げて倒れている謎の竹刀男(仮名)、その様子を見ながら輝が天に指差すポーズを取っていた
そして、止めとばかりに立ち上がろうとする謎の竹刀男(仮名)の背中を思いっきり踏みつける
「グハ!!! い・・いきなり何をする。」
「それはこっちのセリフだ、竹刀男。初対面の相手にそんな物を振り下ろす奴の対処法は、どこぞの快楽殺人者と同レベルで扱うと昔から決めているんでな。」
「しょ……初対面って昨日会って、隣同士仲良くしようって言ったばかりだろう…。それにオレは…剣道…グハ!!!」
「チッ!」(不味いな…こいつは祐一の知り合いだったか…。)
そんな事を考えながら、舌打ちして後頭部に蹴りを叩き込み意識を刈り取る
「…ともかく、人にケンカ売るなら、これくらいの覚悟はしておくことだな。」
聞こえていないであろう、謎の竹刀男(仮名)に誤魔化す為に冷たくそう言い切り…周囲を見てみると…
「え・・えーと…?」
いつの間にか、輝を囲むように様々な服装の男女で作られた人垣ができていた…その誰もが思い思いの凶器を手に持ち、殺気を込めて睨んできているが…襲い掛かってきたりはしない
おそらく、床に叩きつけられた謎の竹刀男(仮名)の二の舞は誰もがイヤなのだろう…
服装性別年齢と共通項の無い彼らに共通しているのは抑えきれない程の嫉妬と溢れんばかりの殺意、爛々と赤く輝く瞳…そして、その額に巻かれた『なつき親衛隊v』の鉢巻
(ど・・ドラグレッダー…。)
自分が置かれている状況を推測し、自身の相棒に意識を向けてみるが…逆に『助けていいのか?』と問うような視線で見つめられ、『絶対にダメ』や『襲うなよ。』と念を押しておく
「あー言っておくけど…誤解だぞ。オレは彼女、久我なつき嬢にやましい事は何一つしていないし、逆に『奴隷になれ』とか言われたし…。」
輝の言葉に周囲の人垣からの殺気が薄れていくのを感じ取り、誤解という事を理解してくれたと思い、安堵の息を吐く
「そ…。」
「はい?」
足元から地獄の底から響く様な声が聞こえた…
「奴隷…? なつきさんの奴隷…!? そんな破廉恥…もとい羨ましいの認められっかーーーーーァ!!!」
声の聞こえた方向に視線を向けると、足元にいる謎の竹刀男(仮名)が復活し、竹刀を振り上げ襲い掛かってくる
「復活早!? 意識を完全に刈り取ったはずなのに!?」
「とゥうェン誅ーーーッ!!!」
『キエェェェェ!』っと、叫び声を上げて、大上段の構えで復活した謎の竹刀男(仮名)が飛び掛る
「…だったら、お前が変われ!!!」
右上段回し蹴りで竹刀を蹴り飛ばし、正拳を鳩尾に叩き込み、後頭部を止めとばかりに踏み砕く、落ちて来る寸前にキャッチした竹刀で同時に襲い掛かってきた数人の男子生徒の意識を一撃の下に刈り取り、女子からは武器だけを弾く
そして、最後はライダーバトルで磨かれた殺気の篭った視線で睨みつけ、これ以上の襲撃を阻止しつつ、人垣に穴が開くのを確認し進路を確保して、ゆっくりとそこから囲みを抜ける
「………………。」
十分に距離を取った後、脇目も振らずに輝は全力疾走を持って逃げ出した
「「「「「「「「「待てー!!!」」」」」」」」」
「待てるかぁー!!!」
『グギャ! グエ!! メギョ!!!』
数人の悲鳴が聞こえるが誰も気にした者は居ない…
その後…男子生徒は全滅させる事に成功した物の女生徒相手には武器を弾き、一時的に足止めするという対処法しか取れず、一回りして戻ってきた際、何故か地の池に沈んでいた謎の竹刀男(仮名)を身代わりに脱出する事に成功したのだった…
「…神様…いつか、ドラゴンファイヤーストーム叩き込んでやる…。」
そんな輝の呟きが漏れる事となるのだが…幸か不幸か、聞いた者は一人も居なかった
さて、女生徒一同が、輝の身代わりとなった謎の竹刀男(仮名)を袋叩きにしている間に輝はと言うと…保健室に逃げ込んでいた
「随分と派手にやったようねェ~。」
「いえ、勝手に階段から落下して怪我しただけですよ。オレは一撃で意識を刈り取りましたから。」
輝を追いかける際、輝の反撃で怪我をした男子生徒が大量に運び込まれた保健室で輝はそんな会話をしていた
「まあ、流石に女の子には万が一にも、怪我させる訳には行かず…苦労しましたけど…。痛ッ!?」
そう呟きながら、頬を押さえる…女子を無力化する事に気を取られていた事が災いして、隠れていた男子に不幸にも不意打ちを受けた痕を…
まあ、誰が不幸なのかは…多くは語らない事としよう…そもそも、身体能力の強化が無いとはいえ、一般人相手に負ける程、ライダーバトルの勝者は弱くは無い
「待ってて、今治してあげるから…。」
そう言うと、彼女の掌に淡く赤い光に包まれた聴診器が現れる
「エレメント…ですか?」
そう呟く輝の頬に彼女はそのエレメントを当てる、すると一瞬の内に晴れが引き、痛みが嘘のように消え去った
「すごい…あっという間に。」
「これは治療専門のエレメントだからね。私は保険医の『鷺沢陽子』、困った事があったら何でも言ってね。」
一瞬で治療がなされた事に対して感心している輝に彼女はそう言って
「むぐっ!? な、何をなさるんでございますでしょうか!?」
抱きついた…輝は顔を真っ赤に…そう、ドラグレッダーよりも紅くして日本語になっていない言葉でそう言う
「ほら、鴇羽さんと久我さんのチャイルドを呼び出したって言うから、ひょっとしたら私のも…って思ってね♪」
いたずらっぽくウィンクする彼女の言葉に、輝は真っ赤な顔のまま憮然と応える
「何時の時代のラブコメですか? …恋愛小説やゲームでもいいですけど…。それ以前に鍵なんてもう御免ですよ。こうなったのも、それが原因ですし、なんと言うか…片方は女王様風味だし、鴇羽は………。」
一瞬だけ口籠もり、天井に視線を向ける
「あら、二人とも可愛いいから人気あるのよ?」
「身を持って知りました。」
明後日の方向に視線を向けながら、輝は陽子の言葉に簡潔にそう返す
「鴇羽さんね、早くにご両親を亡くして姉弟二人っきりなの。」
「!? 姉弟二人っきり…。」
彼女の言葉に輝は同様を浮かべる…その言葉に輝はライダーバトルを始めた『神崎』の兄妹の事を思い出してしまっていた
「弟さん、《巧海》君って言うんだけどね、生まれつき体が弱くって海外での移植手術が受けられれば良くなるって聞いたわ…。彼女、その費用を稼ぐために幾つもバイト掛け持ちして、HiMEとして戦うことで奨学金も得られるようになって、そして長年待ち焦がれていたドナーがついに見つかったって聞いた時には、すごく喜んでたわ。」
「そう…だったんですか。」
そして、彼女は悲しげに呟いた
「でも結局、そのドナーとは適合しなかった…。」
「それは、いつの話なんですか?」
「昨日よ…。」
それを聞いて、輝の表情が凍りつく
(ああ…そうだったのか…。)
そこまで聞いて輝は《祐一》の記憶の中の彼女の涙の訳をやっと理解できた…だが…
「すごく残念だったでしょうに…あんなそんな素振り全然見せないで…。」
「…まったく…余計にほおって置けなくなったな。」
彼女の涙の訳は理解した…分かったからこそほおっては置けない…納得していない…一人で背負って何になる…泣きたい時に泣かなくて…何時泣くというのだ
保健室から出ようとして、彼の頭の中に疑問が浮かび上がる
「…ところで…なんでオレにそんな話を…?」
心底分からないと言う意思を浮かべた表情で輝は陽子に問う…そんな彼に彼女は自信に満ちた微笑を浮べ
「私…人を見る眼には自信あるんだ!」
「……買い被り過ぎですよ……オレは、そんな大した人間じゃない…。」
そういい残して、輝は保健室を出て行った…
紅き龍の騎士は姫の一人の悲しみの訳を知り、己の傷を隠し決意を深める…
つづく?
「アレが彼女達の鍵かァ…。」
歩く輝の姿を見下ろしながら彼はそう呟き、笑う、愉しくて仕方ないという風に…狂しくて仕方ないという風に…
「じゃあ新しい演目を用意しないとね…。」
無邪気に邪悪に、子供のように老人のように、天使のように悪魔のよう、その少年は微笑を刻む
「ねえ、君もそう思わない?」
少年は自分の後ろに存在していた《彼》へと向かい問う
「…さあな…。だが、奴の出演料は高くつくぞ…。」
少年の問いに《彼》…《輝》はそう言葉を返す
「うわ、それはちょっと、ひどいなぁー。」
「それに…オレの方でも、ゲームを始めさせてもらうが…奴はオレの獲物だ…。奴を殺すのは…オレだ。…それは覚えて置け…凪…。」
そういい残し、《輝》はいつの間にか姿を消す
遠くから教会の鐘が鳴る…これから始まる物語、紅き龍騎士と姫達の悲劇に彩られた舞物語の開幕を祝福するように…