戦う決意を胸に抱き、再びもう一人の自分を受け入れ、少年は騎士へと変わる…
砕け散る鏡の破片の中、姿を現した一人の龍騎士は、騎士の兜を思わせる仮面の奥からスライムオーファンを睨みつけながら、ゆっくりと歩を進める
それに反応したオーファンから触手の槍が向うが彼はそれを簡単に受け止め、力任せに引きちぎる
(現実世界で戦うのはこれが初めてだけど…古傷が原因の左腕の違和感と左右逆な事…それ以外はなにも問題ないな…。)
調子を確かめるように右手を何度も開き、閉じる…今まで一度でも現実世界で戦った記憶があれば気がついただろう…『力が減少するはずの現実世界で問題なく動けることへの疑問点』 に…だが、幸か不幸か彼は今まで現実世界で戦った記憶はなく、それに気付くこともない…
まあ、左右が逆になっているのは予想済みの様だったが…
仮面の奥に輝く赤く輝く眼…仮面の一部であるはずの真紅の輝きは…まるで彼の《怒り》を表現している様にも感じる
龍騎が一歩進むごとにオーファンの巨体が一歩後退する…スライムオーファンのそれと同時に全身から無数の触手の槍が龍騎へと向う
龍騎はベルト…Vバックルに納められたカードデッキから、一枚のカードを抜き出し、上部を開いた龍を象ったガントレット―ドラグバイザー―の上部をスライドさせそこにカードを差し込む
『SWORD VENT』
無機質な声と共に龍騎の手にどこからか出現した刀―ドラグセイバー―が握られる
「行くぞ!」
そう叫びドラグセイバーを構え自身へと襲い掛かる触手の槍の群の中へと向かい、走り出す…襲い掛かるそれは全て、龍騎の振るうドラグセイバーにより、切り裂かれ、元の液体へと戻り大地に染み込む…
「しゃっ!!!」
ドラグセイバーを振るい、触手をなぎ払いながら、巨大スライムオーファンとの距離を詰め、懐に飛び込んだ龍騎は気合を込めた叫び声と共に正眼の構えから、ドラグセイバーを振り下ろす
(剣道か何かをやってたのか…? 前よりドラグセイバーが扱いやすい。)
以前に比べてドラグセイバーが扱いやすい事から、そんな感想を洩らす…
だが、スライムオーファンの体を途中まで切り裂いたドラグセイバーは相手の体に刀身全体が突き刺さり、切り裂く途中で止まっていた…相手に押さえつけられているのか、抜く事もできない…
「やっぱりな。」
それを好機と思ったのか、動きを止めた龍騎へと向かい、彼を囲むようにスライムオーファンから触手が伸びる
だが、それはまだ予想の範囲内であるのか、驚きを見せず素早くドラグセイバーを手放し、その柄を足場に真上へと向かい跳躍する
上へと跳んだ瞬間、龍騎はドラグバイザーの上部をスライドし、カードデッキから抜いたカードを差し込む
真上へと跳んだ事で空中で自由に身動きが取れない龍騎へと向かい、スライムオーファンの触手が向う
「かかった。」
それに四肢を拘束されるが輝は仮面の中で笑みを浮かべる…右腕にあるドラグバイザーに龍騎を拘束するための触手が触れた瞬間、上部がスライドする
『ADVENT』
機械音が響くと同時に何処からか何発もの火炎弾が撃ち込まれ、オーファンの巨体が弾き飛ばされ、それと同時に龍騎の体を拘束し様としていた触手も炎により焼き尽くされる
いつの間にかその姿を現し、炎を打ち出したのは、《真紅の火龍》…大きさは舞衣が呼び出したチャイルド、カグツチよりも小さく、全身が真紅に染まり、機械的な印象を持った体…だが、それの持つ存在感は決して劣る物ではなく、むしろ勝っていると言えるだろう
『ガァァァァァァァァァアア!!!』
そのまま、地面へと降りた龍騎の背後にオーファンの体を焼いた火球を放った真紅の火龍…龍騎の契約モンスター《無双龍ドラグレッダー》 が舞い、敵を威嚇するように咆哮を上げる
痛覚を持っているのか、ドラグレッダーの炎に燃やされた触手を戻しながら、スライムオーファンは悶える
「サンキュ、相棒♪」
姿を現した契約モンスター…《無双龍ドラグレッダー》へとそんな言葉を洩らし、素早く、ドラグバイザーに次のカードを装填する
「さて…。」
最初の龍騎の狙いは注意を自分に向けさせ他の攻撃から気をそらす事…そして、それにより、内臓の様に脈打つ箇所…それから伸びる無数の血管の様な物により水を体として形成していると推測し、『体を再生させる水の多く存在するプールから引き離す事』…それに成功する
その証拠に今のドラグレッダーの炎により焼かれた部分は再生が遅れている箇所が幾つか見える…傷が浅い部分や重要でない箇所の再生はされておらず、破損箇所から体を構成している水が零れている、敵が龍騎を侮っているのでなければ、その事から考え、今の状態では再生が追いつかないのだろう
そして、最後はその変身前に見つけた一点-内臓の様に脈打つ箇所が予想ではあるが、それが弱点、本体-そこに必殺の一撃を叩き込む、それを成すために…次に行うべき行動は一つ…防御力の低下と動きを止める事
その為に必要なカードは『切り札』を除いて、もっても高い破壊力を持つ一撃を打ち出す事の出来るカード
『STRIKE VENT』
「ハァァァァァァァァァァァァァア!!! タァ!!!」
龍騎の右腕にドラグレッダーの頭部を模した手甲―ドラグクロー―が装着され、パンチアクションと共にドラグレッダーの炎が撃ちだされる…『昇竜突破(ドラグクローファイヤー)』と呼ばれる並のモンスターならば一撃で葬り去る事の可能な、彼の持つ技の一つを放つ
ドラグレッダーの火炎弾を撃ち込まれた直後に直撃したそれは倒せないまでも、スライムオーファンの体の大半を焼き尽くし…それにより発生した爆煙が周囲を包む
「な、何なんだ…あいつは……?」
「楯…先輩……。」
一方、事態に付いて行けずに呆けている対オーファン部隊の面々…まあ、それも無理もない、ただの一般人が突如姿を異形の騎士へと変え、そして異常な身体能力を発揮し、さらにはチャイルドに似た龍を従えて、自分達ですら苦労したオーファンを圧倒しているのだ
異能を持つHiMEである自分たちにすら受け入れがたいこの事実、呆気に取られながらも面前で繰り広げられる戦いからは目を離せなかった
「凄いなアイツは! とても強いぞ!!」
舞衣の隣に居る大剣を持った少女が龍騎の鮮やかな動きを賞賛する、元は(まったくと言う訳ではないが)素人でありながらライダーバトルの中で磨かれ、卓越した戦闘技術…契約モンスターとの連携、そして、手甲を取り出した後の一撃…そのどれもが目を奪われずには居られないほどにハイレベルな物なのだ
そして…それにより、敵が動きを止めた瞬間、戦いは決着へと向う
ドラグクローファイヤーが発生させた爆煙…それが晴れた後には、質量を集中させ、昇竜突破-ドラグクローファイヤー-の炎から守った結果なのか、全身を焦がしながらコアは無傷、だが再生のために動きを止めているスライムオーファンの姿があった
「これで終わりだ。」
そんな隙を見逃すほど、彼は優しくはない、甘くは無い…それを確認すると龍騎はトドメとなる一枚…『最強の切り札』をカードデッキより抜き出し…ドラグバイザーへと装填する
『FINAL VENT』
機械音が響くと同時に後方に跳び、後ろに待機していたドラグレッダー頭の上に立ち、ドラグレッダーが頭を振り上げると同時に再び大空へと向い跳躍、それを追いドラグレッダーも咆哮と共に空中へと向い舞う
「なにをする気だ?」
龍騎の行動を疑問に思ったそんな、なつきの呟きがもれる…だが、そんな疑問もすぐに晴れる事となる
空中に舞い上がった龍騎は空中で一回転の動作、そして、ドラグレッダーが龍騎の周囲を廻る
「ハァァァァァァァァ!!!」
そして、ドラグレッダーが炎を放つと同時に龍騎は飛び蹴りを放つ、炎を纏った龍騎が一直線に飛び蹴りの体制でスライムオーファンへと向う…それが龍騎の持つ必殺技
「『ドラゴンライダーキック』!!!」
ドラグレッダーの炎を纏った龍騎の必殺の飛び蹴りが直撃し、スライムオーファンは爆発、四散する
オーファンの体を構成していた水がドラゴンライダーキックの炎により一気に蒸発したためか、水蒸気が周囲を包む
その中からゆっくりと歩いてくる者、現れる者は…火龍を従えた紅き騎士
咆哮を上げて、ドラグレッダーは鏡の中へとその姿を消していく、自身の相棒に感謝の意を込めそれを見送り、龍騎がベルトからカードデッキを外した瞬間、鏡の割れる様な音と共に龍騎の姿は砕け散り、元の…祐一―輝―の姿を現した
「ふぅ…。」
軽く息を吐く…決意していたとは言え、受け入れていたとは言え、どこか嫌な気持ちがある…やはり、思い出してしまうのだろう…自分の背負う罪を…
(しかし…。)
そして、今の彼が真っ先に考えるべきことは唯一つ…
(問題は理事長だよな…龍騎とドラグレッダーの事、なんて説明しよう…。)
思わずそう考えてしまう…が、周囲を見回してみて、再び彼は災難に巻き込まれる事となる…
「ん? ……えーと……。」
そして、自分を見ている視線を感じ後ろを振り向くとそこには…………呆然とした表情でこちらを見ている4人―1人は呆然とはしていないが―の少女の姿があった
(…それもそうだよな…自分達が苦戦した奴を簡単に倒したんだから…当然といえば当然か…。)
『強敵』…確かに彼女達にとってはそう言える相手だろう…だが、今まで輝が戦った敵の中ではそれほど強い方には分類できない…騎士、王蛇、オーディン、ゾルダと…過去に一度でも戦闘した経験のあるライダー達…彼らに比べれば苦戦するレベルの敵ではない
「はぁ…。」
まずは自分が《霧島輝》である事を隠しつつ、《楯祐一》としてライダーバトルに巻き込まれた事をどうやって話そう…そう考えてしまう、そもそも、『別の人間になっちゃいました♪』等という事を信じるバカはいないだろう…そうなってしまった経験でもない限りは…
思わず前途多難な現実を考えため息をついてしまう輝であった…
「うわ~…すごいね、楯クン。」
「…当然だ、あの程度の事はやって貰わないとな…。」
それを眺めていた二人の少年はそう話していた
「…まあ、お前には感謝するぞ…奴が再び、仮面を付けるきっかけを与えてくれたんだからな。」
「うん。でも、この借しはちゃんと返してもらうよ。」
「分かってる。まあ、当分、オレはオレで動くが…。」
「君の邪魔はしないよ…でもね。」
「ああ、オレもお前の邪魔はしない。もっとも、ある程度の遣り過ぎは…フォローしてくれる奴が現れたけどな…。」
「それもそうだね。」
「クックッ…。ああ、あいつは『せいぎのみかた』だからな。」
《輝》はそう呟きポケットの中から一つの輝の持っている物とは色も刻まれている紋章も違うカードデッキを取り出し、周囲を見回す…
(まずはこの『神崎の遺産』の実験だな。)
輝達を見下ろしながら、《輝》はその顔の持ち主ならば決して浮べないであろう邪悪な笑みを浮かべた
つづく…