至高の42人目は無貌の神   作:giruta

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ネタバレ:腐女子誕生


プロローグ

静謐な玉座の間にコツリと響く足音。

侍る王がいない玉座の脇に待機するアルベドは、今日も微笑を浮かべている。

その前にやってきた一人の男。

 

「やぁ、アルベド。今日も美人だね」

 

反応を返すはずもないNPCに声をかける異形の男が一人。

長身瘦躯で漆黒の肌をした男は、ニコリと優美な白い女悪魔(サキュバス)のNPCに笑いかけ、髪を撫でるような仕草をすると、立ち去った。

出くわす全てのNPCに声をかけ、下から上へと全階層を練り歩く。

これは、ギルドメンバーが少なくなってから始めた彼の日課だ。

シャルティアに話しかけていると、メッセージが入る。

 

【こんばんは!まだナザリックにおられるなら、一緒にダンジョンへ行きませんか?】

 

それは、ギルド長の誘いであった。是と返事をし、シャルティアに別れを告げ円卓の間へ飛んだ。

このギルドにはもう二人しかいない。

かつて悪名をユグドラシルで轟かせていたDQNギルド、アインズ・ウール・ゴウン。

その栄光を知る者は、二人しか残らなかった。

 

 

 

side:モモンガ

 

 

ユグドラシル最終日。

ついに訪れたサービス終了の知らせ。

それでも、クリソベリル・キャッツアイさんは最後まで一緒にいてくれた。

次々とメンバーが去っていく中、彼は俺を励まし支え、ギルドを維持する資金を得る為の冒険にもいつも付いてきてくれた。

それがどれほど嬉しかったか、まだ彼に伝えきれていない。でもそれでいいのかもしれない。この気持ちは次に彼と出会うゲームで返していこう。

 

「終わっちゃいますね」

「ですね~。はぁ、残念ですよ。もうナザリック地下大墳墓に来れず、アルベドを始めとしたNPC達に会えなくなるかと思うと」

「クリソベリルさん本当にナザリックが好きですよね」

「当然じゃないですか、ここに惚れ込んで仲間に入れてもらったんですから!」

「あはは、そうでしたね」

「遅参も遅参。一番最後になったのが残念でしかたないです。私も関わりたかったなぁ、拠点づくり」

「出会いが遅かったので、仕方ないとはいえ、クリソベリルさんが手掛けた領域を見たかったですね」

「出来るなら、おぞましくも妬ましい冒涜的な領域を作りましたよ。人間種が混沌に落ち発狂するようなのを、この種族名にかけてね!」

「あ、やっぱり無くてよかったかも」

「なんでや、工藤!」

「それ、随分と昔の探偵漫画のでしたっけ?」

「ですです」

 

タールのような粘液のヘロヘロがログアウトした円卓で、和やかな会話が明るく響く。

 

最後まで残ってくれたギルドメンバー、クリソベリル・キャッツアイ。

長身瘦躯で塗りつぶしたような黒い肌に光を受けて輝く淡い黄金の瞳のアバターは彼の種族の化身の一つだ。

種族名ナイラートホテプ、彼は響きが可愛いからとのことでニャルラトホテプを推している。

ドッペルゲンガーの上位種グレートドッペルゲンガーを習得し、クトゥルフ神話イベントを攻略すると得られるアイテム【クトゥルフ神話の系譜に連なる者】を使用しないとなれないレア種族である。一応。

このナイラートホテプはクトゥルフ神話のトリックスターと言えるキャラで、TRPGではよく黒幕に使われていたりする便利がっての良いキャラだ。困ったときのニャルえもんとは誰の弁だったか。

そして、クソ運営がそれを活かさないはずがなかった。その結果、ナイラートホテプは器用貧乏な種族になってしまった。これと言った欠点はないが、強みになる長所もなく。平均より少し上程度の能力値は使い勝手が良さそうに思えるが、極めたガチビルドに比べると足元にも及ばず、上手い活用法を見いだせずといったなんともプレイヤー泣かせな種族だ。

 

しかも、その種族を会得するのも面倒で、クトゥルフ神話イベント攻略で入手できるアイテムは幾つかあるものの、その中で【クトゥルフ神話の系譜に連なる者】は外れアイテムに分類されている。

基本的に異業種しか使えない事と、どの上位種も割とピーキーで、とくにインスマスの阿鼻叫喚は凄かった。

マーメイド・マーマンは人間の上半身に魚の下半身で、ユグドラシルの中でも結構美麗なグラフィックだったのが拍車をかけた。

【クトゥルフ神話の系譜に連なる者】をその種族が使用するとインスマスという上位種になるのだが、どう見ても半魚人ですありがとうございました。

あの美しい顔が一気に魚顔になり全身鱗まみれでと、ビフォーアフターが酷過ぎるあまり垢消しが続出したほどだ。

 

俺が彼に出会った時はすでにナイラートホテプになっていたが、初めて見た種族に最初はそれがナイラートホテプだと気づかなかった。つまりそれだけ不人気種ということだ。

 

「もうそろそろ時間が迫ってきましたね。最後は玉座の間で迎えようと思うんですが、クリソベリルさんはどうします?」

「もちろん、ご一緒させていただきますよ。ギルド長殿」

 

恭しくも綺麗な礼に、宝物殿にいる黒歴史がダブる。

 

「止めてください!それは俺に効く!」

「あはは、フレンドリーファイア無効なんですけどね。彼も折角だから出してあげればいいのに」

「せめて最後くらい心穏やかに終わらせてください」

「格好いいと私は思いますけどね。軍服強いし」

 

そんなたわいない事を話ながら部屋を出ようとして、黄金色に輝くスタッフが目に入った。

 

「ん?どうしました?」

「ああ、いえ。どうせなら持っていこうかなと」

「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンですか。いいんじゃないですか、有終の美を飾るのに相応しい」

「なら、装備も変えましょうか」

「お、モモンガさんの最強装備ですか!久しぶりですね」

 

待たせるのもなんだし、パパっと変えてしまおう。コンソールを出し、スイスイと指を動かす。

 

「お待たせしました」

「よっ、泣く子も黙る悪の大魔王!かっくいー!」

「褒め過ぎですよ」

「いや、ホント私モモンガさんの魔王ロールの大ファンですからね!またその姿が見られるなんて嬉しいなぁ」

「あ、ありがとうございます」

 

クリソベリルさんの掛け値なしの言葉に照れながらもスタッフを取ると、ゆらりと立ち上るオーラ。それが人の苦悶の表情を形どり崩れ消えていく。

 

「作りこみこだわりすぎ」

「だからいいんじゃないですかー。こういうところにも妥協しないってところが」

 

目を輝かせるクリソベリルさん。ホントにこういう造形物が好きなんだなと感心する。

 

「じゃあ行きましょうか」

「ええ。我らが魔王に追従する喜びをいただけるとは光栄の至りです」

 

お互い笑顔アイコンをピコンと出し合ってから、円卓の間を後にした。

 

 

玉座へ向かう途中でメイドとすれ違う。

 

「シクスス、今日も愛らしいね。お仕事ご苦労様」

 

クリソベリルさんがメイドに声をかけて、このメイドがシクススという名前だと知った。

 

「もしかして、全てのNPCの名前覚えてます?」

「さすがに全てではないですけど、大体は」

「そこまで好きになってもらえたら製作者冥利に尽きるでしょうね、ホワイトブリムさんもヘロヘロさんも喜んでましたし」

「パンドラズ・アクターも好きですよ」

「うぐっ、あ、ありがとうございます」

 

地味に精神ダメージを受けながら、途中でセバスとプレアデスを引き連れ、玉座の間にたどり着く。

 

「扉もめちゃくちゃ精巧ですよね」

「これ触ったら動き出したりしませんよね?いや、るし☆ふぁーさんなら有り得る」

「大丈夫ですよ、毎日来てましたけど動きませんでしたから」

「玉座の間に来てたんですか?」

「ええ、アルベドに会いに」

「ああ、なるほど」

 

おっかなびっくり開けた扉はクリソベリルさんが保証してくれた通り何も起こらず開いた。

時間も差し迫っているし、さっさと玉座に座ろうとして思う。クリソベリルさんはどこに座るんだ?

 

「あのークリソベリルさん」

「アルベド、今日も麗しいね」

「口説いてないで、こっちきて下さい」

「はーい、なんですかモモンガさん」

「いや、俺が玉座に座ったらクリソベリルさんは何処に座るのかと」

「ああ、それなら前から考えてた事を実行していいですか」

「何かは分かりませんが、もう最後ですしいいですよ」

「ありがとうございまーす。じゃー、モモンガさんは玉座に座って下さい」

 

促されるまま玉座に座ると、「いっきまーす」と軽い掛け声とともにクリソベリルさんは猫になった。

え、猫?黒い毛は艶やかで、丸い瞳は優しい黄色で、でも後ろ足で立ち上がると俺と同じぐらいの身長になるだろう大きさの猫がいる。

 

「どうしたんですか、それ」

「ふふん、今日に備えた課金と努力の結果ですよ」

「今日に備えて?」

「最後はモモンガさんに玉座で迎えてもらいたいと思ってたんですけど、何か足りないなって思ってて」

「はぁ」

「やっぱりラスボスは高貴な動物を従えてる方が格好いいじゃないですか」

「だからってクリソベリルさんがならなくても」

「猫可愛いじゃないですか、まぁこれ猫じゃなくてブラックパンサーなんですけども」

 

まぁ、クリソベリルさんがいいなら、いいか。玉座に座ると、俺の足元に寝そべるブラックパンサーことクリソベリルさん。

長い尻尾がゆるりと俺の足に触れる。こうして見ると確かに可愛いかもしれないか?いや、どちらかというと格好よいほうか。

手持無沙汰に近くにいたNPCアルベドのコンソールを開く。

 

「うわ、長っ」

「どうしたんです?」

「今アルベドのコンソール見てるんですけど設定が」

「あー、だって製作者は設定魔のタブラさんですよ?むしろ短いくらいなんじゃないですか」

「えー、気合入りすぎですよ。って、え!?」

「変な事でも書かれてました?モモンガ大好きとか」

「いやいやいや、ないですから。じゃなくて、あータブラさんギャップ萌えでしたね」

「でしたねー、もしかして清楚ビッチとか書かれてたり」

「当たりです、にしてもビッチって」

「うーん、なら変えちゃいます?」

「でも、それは」

「もう終わっちゃいますし、最後にギルド長権限使ってみてもいいんじゃないですか」

「そうですね、最後ですもんね。なら、ビッチを消して、代わりに何か入れましょうか」

「モモンガの嫁であるとか」

「いやいやいやいや、それはちょっと」

「でも、モモンガさんの好みでしょ?」

「それは認めますけど、さすがに最後といってもタブラさんに悪いですよ」

「んー、じゃーこんなのはどうですか」

「いいですけど、これどういう意味ですか?」

「まぁまぁ、あとで教えますから、ほら時間も差し迫ってますよー」

「はいはい」

 

えーっと、【ちなみに腐女子である】っと。

でもこれ婦女子の間違いじゃないのか?いやでも、クリソベリルさんは合ってるっていうし。

うーん、まぁいいか。あとで意味を教えてもらおう。メアドは交換してあるし、別のゲームでもするときに誘ってもらえたら嬉しいなぁ。

 

「そろそろですね」

「あー、本当に名残惜しいなぁ」

「楽しかったですね」

「楽しかったです!アインズ・ウール・ゴウンに入れて心から良かったって思ってます!」

「あはは、俺もですよ」

「最後までお疲れ様でしたモモンガさん。貴方がいたからこそのギルドでしたよ」

「そんな……いえ、ありがとうございます」

「良かったら、メールしてもいいですか?次にゲーム始める時誘いたいんで。モモンガさんも何かゲーム始めたら誘ってくださいね」

「勿論ですよ」

「約束ですからね」

「はい、約束です」

 

5……4……3……2……1……0……

 

「あれ?」

 

そして世界は移り変わった。

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