教務科(マスターズ)にこっぴどく怒られた翌日、私は彼女たちを駅のホームで待っていた。ついでに怒られた理由は、仙台校から来すぎとのこと。まぁ、しばらくしたら戻るつもりだし、口だけで済んだけど、あの時は死ぬかと思った。
さて、今回呼び出した二人の戦姉妹(アミカ)、鳩片 白と雀谷 黒は普通ならどちらかは私の戦姉妹にはならなかった。戦姉妹は一人に一人。そんな暗黙の了解みたいなものができてるからだ。
私も勿論、最初はそのことを話した。しかし、彼女たちは、
「私たちは二人で一人。なんせ、双子なんですから」
と、言い張ったのだ。彼女たちの苗字がお互い違うのは、昔、黒の方が養子に出されたかららしい。だが、お互いに物分りが早く、そのあとも双子同然で過ごしたそうな。
その後、彼女らはどうやってか教務科に説明したのか、戦姉妹になるための初めての依頼を淡々とこなし(私的には難しい依頼をしたつもりだったのだが……)、晴れて私の戦姉妹となった。
未だに思っていることなのだが、私に何で戦姉妹の契約を申し込んだのだろうか。確かに、戦闘指揮には自信がある。でも、それだけを求めて、私に契約を求めるだろうか。まだ聞いてないな。今度聞いてみようかな。
そんなことを考えていると、ホームにビュンと、強い風が流れ込んできた。そしてそれを感じたと同時に、プラットホームに新幹線が入ってくる。
しばらくし、乗客が降りていく。武偵校に通っているせいか、他の乗客がとても危険な気がしてきた。自分の命は自分で守る、が武偵としての心得だ。だから、武器を持っていないと、不安になっていく。武偵が普通社会を生きていけない理由だ。
まぁ、私は普通社会で生きることはないだろう。今後も、武偵という薄汚れた世界で生きていく。その覚悟はできてる。
と、私らしくないことを考えながら彼女たちを待っていたのだが、一向に現れない。それどころか、新幹線は新しい乗客を乗せて次なる駅へ行ってしまった。
これはどういうことだろうか? 時間設定などはキチンとしたのだが……。
と、そこに突然、プラットホームの下から重い銃声音が鳴り響いた。
「何?」
思考から遅れてそんな声を出してしまう。が、私の若干の戸惑いを上書きをするように、いきなりプラットホームのスピーカーから、いつもの機会音声に聴こえなくもない女性の声とは違う音が聴こえ始めた。
『あー、あー。マァイクテェーストー』
明らかに男の声だ。しかも、録音したものではない。LIVEのやつだ。証拠に、先程までの乗客員たちのざわめきが聞こえてくる。
『武偵のしょくーん。ここ、東京駅は、我々、“ワーカー”が占拠したぁー』
ワーカー。男が名乗った名前は、ここ最近、武偵を返り討ちしているメンバーの総称だったはずだ。この間、遠山と私で一人を捕まえることに成功し、尋問をかけ知り得た情報のため、信憑性も高い。尋問科恐るべし。
私は男が続いて言った、交渉条件を片耳で聞きつつ、もう片方の耳でとある人に電話をかける。
「中空知さん」
情報科で、一、二度お世話になったことがある少女を呼ぶ。
すると、即座に凛とし、ハッキリした声が返ってきた。
『はい、なんでしょうか?』
「東京駅がワーカーにより占拠。交渉条件は、約100人の一般人と金額の要求。資金調達が狙いだと思う。私は現在東京駅にいる。付近の武偵の情報お願い」
数秒後、返答が返ってきた。
『先程、遠山さんが東京駅へ向かっていることが判明しました』
「解った。解決してくる」
そう言って、すぐに新しく電話番号をかける。相手は勿論、遠山である。
「遠山」
『水戸か? 今こちらは東京駅に向かっている。お前も早く――――』
「もう来てる。遠山、ここからは私の指揮下に入って」
私がそう言うと、遠山はしばらく間を置いてから、あぁ、と返事した。
『だが、今の俺はヒステリアモードじゃない。お前が思っていることはたぶんできないぞ』
「理解してる。大丈夫。そんなあんたでもできる、簡単なお仕事だから」
と、そこにシンプルな着信音がスカートのポケットの中から鳴り響いた。これは、戦姉妹用の無線機である。
「ごめん、遠山。あとでまたかける」
と、一方的に電話を切り、無線機に切り替える。
「もしもし。白。今どこ?」
『現在、女子トイレの中です。黒も一緒に』
「そう……。現在状況は?」
『乗客が数十人ほど人質となっています。敵勢力は、肉眼で見る限り二名』
「二名……」
少ない。東京駅をハイジャックするにしても、それは少なすぎる。せめて、十人はほしいほどだ。
『あ、一人増えました。合計で三人』
「そう……。二人は人質救出を第一目標にして、三人の戦力を削いで。黒は吹き矢でアキレス腱を狙って、白は隙を狙って一人を巴投げ。できれば、それでもう一人を戦闘不能にして。そして、ラストは黒お得意の、アンカーショットでも使って、戦闘不能にして」
頭の中でイメージした、勝利状況に繋がるように戦略を組み立て、それを彼女たちに全て伝える。
彼女らは、単体でも強力なのが特徴なのだが、やはり連携プレーにも目が惹かれる。それを活かすために、作戦指揮をするのが私。これが、私たちの戦姉妹コンビネーションである。
「あと、私の刀、ある?」
『あります』
「それ、あとでやって来る、遠山という武偵に渡しておいて」
『え、あ、はい』
そう言って、一方的に切る。
というのも……
「そりゃ、来るよねー……」
いきなり、武装している男どもが改札口に繋がる階段から現れたのだ。目で見るに、七人。こりゃ、少しヤバいかも。
私はさっきの電話中に足音が聞こえたのに何とか気づいたから、プラットホームの下……線路の横にある溝というべき場所に隠れることができた。が、ここもいずれ見つかる。
「絶体絶命ね」
そう、自嘲しつつ私は携帯電話を開く。相手は遠山。メールで作戦内容を短く綴る。
『HSSなら、五人。でないなら、二人任せる』
HSSではないときのあいつの力は詳しくは知らないが、二人ぐらいなら何とかなるだろう。腐っても武偵だ。やってもらわないと困る。
男たちの足音が近づいてくる。こちらの武装は、愛機であるデザートイーグル一丁、投擲用の針六本、スペツナズ・ナイフ二振り。そして、恐らく彼女らが持ってきている私の刀だ。
この武装で五人は少し厳しいが、これで攻めるしかない。
ガサッと、足音がついに私の上に来た。さっきの一瞬で、やつらの装甲は何もなかった。防弾ジャケットを着けるわけでもなく、普通のファンキーな格好だったのだ。
(正直、今の状態で一人をやり過ごすのも厳しいかな……)
あぁいう、防弾使用でないと殺人を犯してしまう可能性がある。ある程度の防御力があるからこそ、手加減せずにやれるというのに、今回は手加減の中の手加減でやらないといけない。
ただし、未だにMCになってないのが、ネックになっていた。
(命中率は確実に下がってるし、正直、どうするか……)
と、考えてる時間もない。足音が上から離れて行こうとしている。この機会は逃す訳にはいかない。
そう思うか否か、自分でも解らないうちに脚が動き始めていた。ホームの下からホームへ、近くにあったはしごを利用し、一気に上がる。そして、それと同時に銃弾を発砲する。狙いは……脚だ。
人には簡単に死ぬこともできる箇所がある。頭や、心臓などが例に上げられるだろう。だが、勿論、簡単に死ねない箇所がある。それが、脚なのだ。まぁ、後遺症は残ってしまうのだが……。MC状態なら、後遺症を残さないように狙うことができるのだが、今は単純に脚へ狙うことしかできない。
「なっ……!?」
発砲した音に気づいてか、正面に見えた男はすぐさまこちらを振り向いたが、それは想定済みだ。それどころか、後ろへ振り向く際に、右足を軸にしたので、狙い所は変わらない。おかげで、右足の甲を撃ち抜いた。
「がっ!?」
あまり、脚を撃ち抜く行為はしたくないのだが、これさえすれば敵は動くことが出来なくなる。
私は再び線路の溝に隠れようかと思ったが、瞬間、発砲音と共に銃弾が頭を掠って通って行った。残念ながら、完璧にバレてしまったようだ。私は諦めて、すぐさまプラットホームの上にのり、銃を構える。
前方に二、右方は二、左方に一。少しヤバい状況だ。
「いたぞっ! 武偵だ」
「くっ……」
前方の一人がそうやって、仲間を呼ぶように声を上げる。危険が危険で重なる。
私は咄嗟に、投合用の針を投げ、前方の一人の右脚を使用不能にする。これで、移動不能が二人になった。しかも、運がいいのか悪いのか、二人ほどは下の階に行ったようだ。戦姉妹なら、なんとか対処できるだろう。
しかし、戦況に変化はなし。せめて、もう一人いれば……。
「ちっ」
しかし、そうも言ってられない。先程の声で反応した残りの敵が、一斉にこちらに銃を構えながら近づいてきた。
私は銃を右手で持ちつつ、左手にスペツナズ・ナイフを持つ。ただし、この状態にあまり意味はない。まともに敵を撃つ事はできないし、スペツナズ・ナイフが使える間合いに入るほど簡単な状況ではない。ただし……
「くっ!?」
「うおーっ!!」
銃の射程範囲まで来たのか、敵の一人は私に対し発砲しながら走って来た。その光景は、命知らずの哀れな鉄砲隊の先陣を切った若者のようである。果敢ではなく、哀れと言うには、その男の表情が、あまりにも怯えていた。戦う者の顔ではない。そのためか、銃撃もまとまらず、あらぬ方向へ銃弾が飛んで行った。
私は、その当たりもしない銃撃を避け、プラットホームの端まで逃げながら敵の状態について考えていた。
(初心者? これでは、無理矢理戦わされているような……)
とある本で見た、戦術の一つを私は思い出していた。具体的に言えば、それは戦術とは言えないものである。なぜなら、それはただの一般人に武器を持たせ、真っ直ぐ敵に向かって攻撃しろという内容だったからだ。ようは、物量攻撃。質より量の、命を吐き捨てるかのような戦術だ。
日本が戦争をしていた頃の戦法でもある。当時は、命を投げ捨てる事が当然のようになっていたこともあって、この戦法が使われて来たが、この戦法の利点は限りなく少なく、強力とは言えない。
もし、今目の前にいる相手がそのような戦術に混ざっているとなれば、ワーカーの背景も何と無くだが見えてくる。
(非戦闘員を使ってまでしても、何かをしている。異常だ。狂っている)
そう思うにも、肝心のMCは発動されない。この能力は、正義心によるものとされているが、医学的にはよく解っていない。発動条件がイマイチ特定されていないのだ。
「使えない、か」
そう呟く頃には、私はプラットホームの端までたどり着いていた。逃げるまで逃げたが、これ以上は少し厳しいか。あとは、線路に逃げるだけだ。
だが、逃げると駅に敵を残すことになる。
「万事休す、ね」
当初は、スペツナズ・ナイフの刃身を発射し、敵を一人、二人減らそうと思っていたが、敵の銃撃がまとまらないため、上手く狙いが定まらなかったため、放つにも放てなかったのだ。
「やるしかないか」
残る手段は特攻。プラットホームを抜け、駅の内部まで、行くしかない。
ただし、成功確立は極端に低い。
敵が近づいて来る。
怖い。死ぬのが怖い。どんなに死が近い世界にいたとしても、怖いものは怖い。意識が、変になって来る。目の前の光景が、赤く染まるような錯覚を覚える。
でも、私は――――
――――その時、青い閃光が見えた気がした。
「水戸ぉぉぉーーーーーっ!!」
そんな大声と共に、あいつの声が、そして、蒼い、鞘が。
「遅いっ!」
私はそう言って、投げられた刀の柄を何とか取って、そして鞘を抜く。敵が一斉に遠山の方を向いたおかげで、タイムラグが発生し、抜刀に成功する。
現れたのは、蒼く染まった、刃。名は、『蒼炎』。
「でも、ナイスタイミングだよ、遠山」
そう言った私に気づいて、敵がこちらを向いた。だが、もう遅い。
私は素早く近くにいた敵の持つ、マシンガンを切り、そして峰で腹を突く。鈍い音が聞こえ、敵の全体重が地面に向かう。私は素早く刀を構え、次の標的へ向かう。
蒼い刃。蒼炎。その挙動は、第三者から見ると、蒼い閃光が人を一人一人薙ぎ払っていくように見えるらしい。今は使用できないが、MC発動時では火花が散るとか。
それ故に蒼炎。蒼き炎。赤い炎よりも熱く、赤い炎よりも強力。
「終いだよ」
夢中で敵を倒していったら、いつの間にか周りの敵が口から泡を吹いて倒れていた。その光景を見て、私に刀を投げた後、必死になって柱に隠れていた遠山が苦笑いを浮かべながら、
「やりすぎだ」
と、短くそう言った。
事件が何とか集結した。今回の事件の負傷者、犠牲者はゼロ。犯行グループの動機などは不明で、ワーカーなのですら不明。とりあえず、尋問待ちである。
あの後、急いで下の階へ行ったのだが、戦姉妹の二人は何事もなかったように、被害者たちを上手く誘導し、纏めていてくれた。実に優秀な子たちだよ、まったく。いい子を戦姉妹に持ったものだ。
とりあえず、今回の事件も何とかいってよかったよか……
「よくありませんよー」「よくないですよ」
と、現在、戦姉妹二人組と遠山兄妹(かなめちゃんと言うそうだ)、アリアという謎の組み合わせでお食事中である。場所は近くの回転寿司。
どうしてこうなったのだろうか。いや、まぁ、主催したのは私なんだけどね。
経緯を説明すると、戦姉妹シスターズのお祝いをする、と遠山に概ねを話すと、あとで合流したアリアが参加したいとのこと。珍しいこともあるんだな、と思いつつその旨を聞くと、自分の戦姉妹がお世話になるかもしれないからだそうだ。なるほど。
そして、遠山はどうするか聞いたところ、アリアが強制的に連れてきた。理由はよく解らないが、なんか強制的に。
そして、いつの間にか現れた遠山妹こと、かなめちゃんも成り行きで参加することになり、現在に至る。
「卵、美味しい」
「…………」
アリアとかなめちゃんがせっせと卵やイクラを頬張る。その光景を見て、私と遠山は苦笑いを浮かべる。恐らく、今の私と遠山の思考は一致しているだろう。
子供だなー、っと。
「しかし、水戸。お前、何でそんな重要な武器を仙校に置いてきていたんだ?」
唐突に、遠山がそう聞いてきた。イクラを頬張っていた私はそれを聞き、危うく吹き出しそうになったが、何とかごまかした。
いや、その。理由がどうしても言いたくないんだよね。その、口が裂けても言えない的な。
だが、その事情を知っている戦姉妹シスターズは、口ごもっている私を横目でジト見してくる。ぐっ、視線が痛い……。
「……はぁ」
とりあえず、コップに入れていたお茶を飲んで息を整える。はぁ、言いたくないなー。
でも、言わないといけないのよね。はぁ……。
「忘れてたの。持ってくるの」
「はぁ?」
私が意を決してそう言うと、聞いた遠山が呆気にとられたような声を出した。悔しい。
そんなこんなで、時が過ぎていく。
私は後悔しつつも、目の前に見える幸せな光景をしっかりと目に焼き付けておくのだった。
そう。まだ事件は終わっていない。まだ、拠点と呼ばれる、場所が残っているから……。
前回から更新が遅れてすみませんでした。
リアルでの多忙が多かったのですが、やっと更新です
さて、今後ですが、色々あったりするので、また更新のスピードは遅くなりますが、この作品をやめる予定はないので、できればじっと我慢して待ってくださると幸いです
それでは、次回の更新で会いましょう! byもみもみじ