「・・・・・はあ」
ホテルのベッドで横になる俺は、思わずため息を吐いてしまっていた。いつもなら小猫を呼んで色々と話をするところなのだが・・・・・今日はそれができない。
それは、前回小猫を呼んだ時のことだった。
「すみません命さん。これからしばらくはここに来ることができません」
申し訳なさそうに表情を暗くして、小猫は言ってきた。
これはまさか・・・・・とうとう愛想をつかされたか?
「その・・・・ごめんな小猫」
「は?」
「やっぱりコミュ障を治すなんてわけわからない依頼嫌だよな・・・・・愛想つかされたって仕方がない」
「・・・・・・何を言っているんですか?」
なぜか小猫は呆れたような表情をして俺を見てくる。もしかして・・・・・違うのか?
「また変な勘違いをしているんですね・・・・・命さん、卑屈な上に思い込みが激し過ぎます」
「うぐっ・・・・・」
心当たりがいくつかあるので、まともに反論することができなかった。我ながら情けない・・・・・
「はあ・・・・とりあえず、私が命さんに愛想が尽きたというわけではありませんし、そんなことありえないのでそんな心配はしないでください」
「そうか・・・・・そうなのか?」
「なんでそこで疑うんですか?」
「いや、やけに断言するから・・・・・根拠でもあるのか?」
「そ、それは・・・・・」
なぜか口ごもって俺から目を逸らす小猫。頬も赤いし・・・・どうしたんだ?
「そ、それよりもしばらくここに来られない理由ですが・・・・」
あ、誤魔化したな。まあいいか・・・・いい加減話が進まないし。
「実は私の主の悪魔の事情で・・・・・修行しなければならないんです」
「修行?それは戦いに備えるってことか?」
「はい。詳しいことは言えませんが・・・・・私達は強くならないといけないんです。そのためには修行しないと・・・・」
強くならないと、か。随分と気負っているな・・・・それだけ主の悪魔のことを大切に思っているということなのかもしれないな。
「そういう事情なら仕方がないな・・・・・わかったよ。存分に修行して強くなるといい」
「はい。命さんの方こそ寂しさで泣いたりしないでくださいね」
「いや、さすがに泣くわけないだろ・・・・・」
小猫は一体俺のことなんだと思ってるんだよ・・・・・まあいい。それよりも、強くなるために修行するって言うなら・・・・・
「小猫、ちょっとこっち来てくれ」
俺は小猫を手招きした。
「なんでですか?」
「いいからいいから。来な」
「・・・・・わかりました」
意味がわからないといった様子で近づいてくる小猫。俺はそんな小猫の額に、右手の人差し指と中指で軽く触れた。
「・・・・命さん?なにを?」
「おまじないだよ。小猫が強くなれますようにってな」
「・・・・命さん、そういうの信じているんですね」
またもや呆れたような目で俺を見てくる小猫。まあいい年しておまじないだなんて呆れられても仕方がないかもしれないが・・・・・
「そう言うなよ。劇的とはいかないが、そこそこ効果はあるんだぞこれ?」
「そうなんですか?」
「ああ。まあ初めてやったんだけどな」
「だったらどうして効果があるって言えるんですか・・・・・」
完全に呆れ切ったのか、大きなため息を吐く小猫。
だがまあ・・・・実際に効果はある。今俺は仙術を介して小猫に自身の生命力を分け与えた。多少とは言え、小猫の身体能力の向上に繋がるだろうから、修行次第では十分強くなることは出来ると思う。
ただ、気になるのは・・・・・どうにも分け与えた生命力が馴染みすぎている点だ。普通は別のイノチなんだからここまで馴染むことはない・・・・・同じ仙術使いだって言うなら話は別だが。まあ、馴染むに越したことはないからいいんだけどさ。
「まあ、ともかく・・・・・頑張れよ小猫。応援してるからさ・・・・・って、俺なんかに応援されても仕方ないかもしれないが」
「そんなことないです。命さんからの応援・・・・・すごく嬉しいです」
ニコリと微笑みを浮かべながら言ってくる小猫。俺なんかの応援で嬉しく感じてくれるとは・・・・・こっちのほうがより嬉しく感じてしまう。
どういう経緯でどんな戦いになるのかはわからないが・・・・小猫と、小猫の仲間の悪魔達が勝てることを祈る限りだ。
ただまあ・・・・
「はあ・・・・小猫と会えないのがここまできついとはなぁ」
何度目かわからないため息を吐く俺。別に小猫とは毎日会っていたわけではない。せいぜい週3ぐらいだ。
だが・・・・それでも、少し会えなかっただけで寂しさを感じてしまう。小猫の言うとおり、寂しさで思わず泣いてしまいそうだ・・・・・いや、さすがに本当に泣いたりはしないけども。
「集落出た後だってこんなに寂しいって思ったりなんてしなかったのになんでまた・・・・・」
この寂しさは集落にいた一族の皆よりも、俺にとっては小猫の方が身近で・・・・・大切だっていうことなのだろうか?けど、だとしたらどうして俺は小猫に対してここまで・・・・・確かに俺にとって今一番身近な存在ではあるけど・・・・・こんなに寂しいって感じるほどなのか?
「・・・・・わけがわからないな」
どれだけ考えても答えは出てこない。仕方なしに、今日はこのまま眠ることにした。
「・・・・・はあ」
今日、何度目かわからないため息を私は吐いた。
修行を開始して三日・・・・・修行の成果自体は上々。なぜだか自分が思っていた以上に体が動き、自分でもわかるぐらいに強くなっていることを実感できた。
だけど・・・・それでも私の気分は曇っていた。原因はわかっている・・・・・命さんに会えていないからだ。寂しくて泣かないようにと言ったのは私なのに、私の方が泣きたくなるほど落ち込んでいるだなんて情けない。
「小猫、最近ため息が多いけれど大丈夫かしら?」
部長が私を気遣って声をかけてくる。主である部長に心配をかけさせてしまうなんて・・・・・
「大丈夫です。ごめんなさい」
「大丈夫ならいいのだけれど・・・・・なにかあるならちゃんと言いなさい」
「それは・・・・・」
さすがに、命さんに会えなくて寂しいだなんて言えるはずがない・・・・・今は部長のために修行して強くならなければならないのだから。
「ふふっ、小猫ちゃんは最近贔屓にしてくれている依頼者に会えなくて寂しいのよね?」
「あ、朱乃先輩!?」
私の思いを知ってか知らずか、朱乃先輩が微笑みを浮かべながら言ってしまった。
「小猫ちゃんがここまで動揺するなんて珍しいね。図星っていうことかな?」
「あう・・・・・・・」
祐斗先輩まで乗ってきてしまった・・・・悪いと思いつつ、普段、安心させるような穏やかな微笑みが、少々憎たらしく感じてしまう。
「へえ、あの小猫が寂しがるほどだなんてよっぽど入れ込んでいるようね・・・・・確かアーシアは小猫と一緒に一度会ったことがあるんだったかしら?」
「はい。命さんはとても優しくて綺麗な方でした」
部長に屈託のない笑顔で命さんのことを軽く説明するアーシア先輩。その笑顔があまりにも純真過ぎて、責める気を起こさせない。
「綺麗な方・・・・・小猫ちゃん、その人って美人・・・・」
「ふっ」
「うごっ!?」
鼻の下を伸ばしながらよからぬことを考えてそうなイッセー先輩の鳩尾に一撃叩き込んだ。修行で鍛えた成果なのか、イッセー先輩は鳩尾を抑えながらピクピクと痙攣して倒れている。
「イッセー先輩、残念ですけど命さんは男です。だから紹介なんてしませんから」
「べ、別に紹介して欲しかったわけじゃ・・・・・というか、だからってなんで殴るの?」
「・・・・・なんとなくです」
本当は命さんは女性に間違えられるのを嫌がるから、命さんの代わりに殴ったのだけれど・・・・さすがにそれは言えなかった。
「それにしても、少し会えないだけで寂しいだなんて・・・・よほどその人のことが大切なのかしら?」
「うっ・・・・」
部長がクスリと笑みを浮かべながら尋ねてくる。さすがに主に尋ねられたからには答えるべきなのかもしれないけれど、思わず言葉を詰まらせてしまった。
「その反応は肯定と取るわよ小猫?」
「す、すみません。命さんはただの契約者なのにこんな・・・・・」
「まあ確かに一人の契約者に必要以上に気を回すのは良くないことかもしれないわね」
部長の言うとおりだった。契約者は命さんだけではないのに、私は最近命さんのことばかり考えてしまう・・・・・怒られても仕方がない。
「けれど・・・・小猫。私はあなたの主として、あなたがそこまで大切に思う者ができたことを嬉しく思うわ。それこそ羨ましくなるほどに」
「え?」
「その気持ち、大事にしなさい小猫。もちろんその人間のこともね」
「部長・・・・・ありがとうございます」
私の気持ちを、想いを部長は肯定してくれた。主である部長が認めてくれたのは私にとってとても嬉しいことだった。
いつか、私の気持ちを・・・・・命さんに伝えられたら・・・・・
「あ、そういえばイッセー先輩。命さん、もしも会うことがあったらイッセー先輩をシバくと言っていました」
「なんで!?」
お互いに会えなくて寂しい思いをしている命さんと小猫ちゃん
もう完全に想いあってる・・・・・・命さんは気づいてないけど
それでは次回もまたお楽しみに!