防人達   作:lancer008

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分岐点

第48層 リンダース

 

ランサーは注文していた品を受け取りにある武具店に来ていた。

表札には《リズベット武具店》と書かれていた。ここの店主は女性で明るい方であり、そして腕が立つ。一部の攻略組の行きつけともなっている。

ランサー自身も攻略組にいる知り合いから紹介され通っている。

 

「注文していた品を取り来たんだが?」

 

「出来てますよ。全部で53本ですね。」

 

「すまないな。これだけの量、3日で作れだなんて。」

 

「いえいえ、このぐらい新しく剣を打つよりは楽なもんですよ。」

 

「そうか。なら、これ今回の代金な。」

 

「毎度あり。」

 

ランサーはアイテムストレージに受け取った品を入れ店を出た。

 

 

 

 

 

第50層 アルゲート

 

ランサーはここで情報屋から情報を買っていた。相手は情報屋の中で最も信頼できるプレイヤー、アルゴだった。

 

「これといった新しい情報は無えゼ。」

 

「“ラフコフ”の拠点は?」

 

「そんな危ない情報は取り扱ってないヨ。大体、わざわざPK集団に近づくプレイヤーはいないゼ。アンタラ以外にはネ。」

 

「また情報が入ったら頼む。」

 

ランサーはその場を去り、ギルドへと戻った。

 

 

 

 

 

ギルドでは全員が着席してランサーの帰りを待っていた。

ランサーがギルドに着くと

 

「遅いぞ、ランサー。全員集まってるぞ。」

 

「すまない。遅れた。では、ギルドの引越し祝いをする前に全員に頼みかある。」

 

ランサーはアイテムストレージを開きテーブルの上に先程の武具店で作ってもらったアイテムを出した。それは何の変哲も無い普通の洋風の長剣だった。

 

「この剣の名前は、《剣士の墓標》これに名前を登録しとけば、もし死んだ時にこれがお前らの墓となり、そしてお前達がこの城で生きた証ともなる。この先、戦いは熾烈を極めるが、こいつを使わない事を願う!」

 

ギルド《桜花》は、マッピングを主な任務とし他にボス攻略、対人戦闘、中層プレイヤーの指導・護衛などをしている。マッピングについては階層によって4日から6日ほどで全て終わらせボス攻略に関しては他ギルドとの合同になる為、どうしても時間がかかってしまう。

 

「ランサー、俺たち全員、武者装備ですけど何で刀ではないんですか?」

 

アサシンが聞いた。

 

「これしか作れなかったんだ。我慢してくれ。」

 

「まあ良いですけど。」

 

ここでアーチャーが、

 

「話も終わりましたね。では、これより引っ越し祝いと新メンバーの交流会を始めます。いつもだったらここでギルド長から話があるのですが既に長々と話したので乾杯したいと思います。」

 

「乾杯!」

 

「「「乾杯!」」」

 

飲み会が始まった。周りでは飲み比べが始まったりし、ギルドハウス内はドンチャン騒ぎになっていた。そんな中、ランサーは1人外に出ていた。

 

「アルゴ、どうしたこんな時間に?」

 

現在の時刻は午後11時になろうとしていた。

 

「この情報は1時間後に全プレイヤーに知れ渡る情報だゼ。ラフコフの首領“PoH”が大々的に殺人ギルドを作ったてことが報じられるヨ。」

 

「そうか。」

 

「あまり驚いてないようダナ。」

 

「当たり前だろ。この情報は3ヶ月前から知ってるんだ。攻略組や関連ギルドに警告はしてきたが無視されたよ。」

 

「なら他にいい情報あるんだロウ、売ってくれヨ。」

 

「構成人数は3ヶ月前で100人以上、現在は未確認だが300人を超えている。ここから先は機密事項だ。それに優秀な情報屋は失いたくないからな。」

 

「勿体ぶらずに言ってくれヨ。」

 

「はぁ〜〜〜〜。知りすぎは危険だ。それにお前のように1人でいるやつは特にな。」

 

「わかったヨ。じゃあ失礼するヨ。」

 

アルゴはその場を去っていった。ランサーはギルドハウスの中に戻りアサシンに声を掛けた。

 

「アサシン、一個分隊を率いてラフコフの情報収集にあたってくれ。人選は任せる。緊急の場合、全メンバーに向けてメッセージを。」

 

「了解。今から1時間後に出ます。軍への偵察はどうしますか?」

 

「シンカーから今のところ急な連絡はない。当分は大丈夫だろう。もしもの時は俺とライダーで動く。」

 

「ライダーということは例のスキルを?」

 

「そうだ。外部には絶対に漏らすな。」

 

「了解です。それでは失礼します。」

 

 

 

 

 

 

 

それから約4ヶ月が過ぎた。

 

攻略は進み、現在は73層まで到達したが、中層ではラフコフによるプレイヤーの殺害が、日が経つにつれて増えていった。そのためギルド《桜花》は中層プレイヤー、一部の攻略組の要請でラフコフの討伐を行っていた。

 

 

 

そんな中、ある事件が起こった。

 

 

 

「オペレーター、キャスターの帰投時刻が過ぎているぞ!どうなっている⁉︎」

 

ランサーが叫んだ。キャスターの隊が帰投時刻になっても帰って来てなかった。ギルド《桜花》では1つの隊に1人のオペレーターが付きリアルタイムで情報のやり取りをしている。現在、6つの隊が在籍し、各自の任務にあたっている。

 

「オペレーター、何か連絡は来ているか?」

 

返答がなかった。

アーチャーが近づいていき顔を見ると放心状態になっていた。直ぐさま身体を揺さぶり気付かせた。

 

「レン、答えろ!キャスターたちは、どこにいる!」

 

「言えません。」

 

「答えろ!」

 

アーチャーは、レンの胸ぐらを掴み上げた。

 

「言えません!言ったらあいつが。」

 

ランサーがレンの近くに行き

 

「何があった?」

 

何も話そうとはしなかった。ランサーは剣を抜き、レンに向けた。

 

「答えろ。何があった?」

 

レンはランサーの殺気に怯んだのか、少しずつ話し始めた。

 

「こことは別のギルドに入っている親友がラフコフに捕まったんです。」

 

詳しく話を聞くと回りにいた殆どの者が耳を疑った。

 

この事件は2週間前まで遡る。

その日、レンは親友と他3名のプレイヤーとともに30層の迷宮区にいた。モンスターの狩りも終わり、ホームに戻ろうと思っている矢先、約30人のラフコフに襲われた。反撃はしたものの数の暴力で直ぐに制圧されてしまった。その際、親友と3名のプレイヤーがラフコフに人質にされ、解放条件に《桜花》の幹部を指定した場所に連れて来いというものだった。

レンは事前の任務内容を変更し指定されていた場所に行くようキャスターたちに通達した。

 

 

 

ランサーは剣を鞘に戻し、もう一度レンに問いた。

 

「キャスターたちは今どこだ?」

 

「55層の迷宮区、中央部です。」

 

ランサーは全員に指示を飛ばした。

 

「今出ている中で一番近い隊は⁉︎」

 

「バーサーカーです。」

 

「直ぐに向かわせろ!アーチャー、俺とともに55層に向かうぞ。各隊準備!ライダー、ここの防衛を頼む。ラフコフの姿を見たら直ぐにに拘束しろ!」

 

 

「「「了解!」」」

 

全員が動き出そうとした時、オペレーターの1人が声を上げた。

 

「聖龍連合から緊急要請!」

 

別のオペレーターからも

 

「KoBからもです!」

 

ギルドメンバーの1人が呟いた。

 

「テロかよ…………。」

 

 

 

 

 

 

ランサーとアーチャーは自分が受け持つ隊を連れてキャスターの元へと向かった。他ギルドからの応援要請が入っていたもののキャスター達の救出が最優先任務とし急ぎ現場へと向かっていた。道中のモンスターは全て無視した。

 

構っている余裕など無かった。オペレーターからの報告では既に3名が戦死、残りの3名は現在も戦闘中、敵の数は不明。他の攻略組からの応援も期待出来ない状態だった。

迷宮区中央部に近くとレッドプレイヤーに遭遇した。数は5。ランサー達を見つけると不気味な笑みを浮かべ持っていた剣を向けてきた。

 

「警告しま……………。」

 

アーチャーが話し終わる前に隣に居たランサーが刀を抜きスキルを発動し、目にも留まらぬ速さでレッドプレイヤー達の後ろに立っていた。ランサーが刀を鞘に戻した瞬間、レッドプレイヤー達の首が地面に落ちHPが全損し光のエフェクトになり消えていった。

 

「行くぞ。」

 

「了解!お前らいつまで惚けてる!続け!」

 

「「「了解!」」」

 

「アーチャー、あれが例のスキルか?」

 

アーチャーの補佐を担当しているアレウスが聞いた。

 

「そうだ。エクストラスキル《抜刀術》。刀スキル熟練度を2000以上にすると解放されるスキルだ。しかも今放ったスキルは抜刀術最上位単発剣技《紫電》、視界に収める全ての対象を攻撃することが出来る。」

 

「あの速さはシステムアシストによるものですか?」

 

「それもあるが自身のステータスも加えられている。」

 

しばらくしてレッドプレイヤーの集団と出くわした。全員が一斉に抜刀した。レッドプレイヤーの集団の中からリーダーらしき人物が出てきた。

 

「これはこれは、《桜花》の皆さん。もう少しで終わる所なので待って頂けませんかね?」

 

“PoH”では無かった。

 

「何がだ?」

 

ランサーが聞き返した。

 

「あちらの決着がつくまでですかね。」

 

僅かな隙間から今もなお、必死に戦っているキャスターの姿が見えた。

 

「そうか。アーチャー、行くぞ。」

 

「了解。」

 

ランサーとアーチャーは刀を両手で持ち切先を相手に向け刃先を上に向け頭部右側に構え、“霞の構え”をした。

 

「全員続け。」

 

言葉と同時に霞の構えから剣道の突きを思わせるように刀を動かすと刀身が光りソードスキルのエフェクトが発生した。

単発重突撃《迅雷》、片手剣ソードスキルにある単発重攻撃《ヴォーパルストライク》の刀バージョン。

 

ランサーとアーチャーは2人同時に飛び出し道を塞いでいたレッドプレイヤーを次々と吹き飛ばした。その後ろから部下が続き一気になだれ込んだ。

 

「キャスター、大丈夫か⁉︎」

 

「すいません。部下を失いました。」

 

「謝るのは後だ。ここから脱出するぞ!」

 

「おいおい、この人数からどうやって逃げるんだよ。」

 

1人のレッドプレイヤーが笑いながら話した。

 

「既に退路を経ったんだ。てめらは袋の鼠だよ。」

 

周りのレッドプレイヤーも不気味な笑みを浮かべ武器を取り出し少しずつ近づいてきた。そんな時、通ってきた道から歓声が上がった。すると大剣を手にした大男が左右に剣を振りながらこちらに向かってきていた。

 

「バーサーカー、只今到着しました。」

 

「遅いんだよ。」

 

アーチャーが答えた。

 

「アーチャー、キャスター達を連れて撤退しろ。殿は俺の隊がする。」

 

「絶対に帰ってきて下さいね。“あの時”みたいな事はごめんですよ。」

 

「わかってる。行け!」

 

「第2隊、ここから撤退する行くぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

アーチャー達はキャスターとともにバーサーカーの元へ向かった。ランサーはアーチャーを見送ると、

 

「アンタレス、グレン右翼、カムイ、クロー左翼、イェーガー、俺と中央。逃げる者は追うな、向かってくる者は容赦するな。」

 

「「「了解!」」」

 

双方、抜剣し向かっていった。

 

戦いは数時間続いた。後半になるとレッドプレイヤー達のほとんどが逃げていった。ランサー達、第1隊はオレンジプレイヤーになっていた。

 

「ランサーさん、いつかはレッドプレイヤーになりますね。俺ら。」

 

「その時は圏外にでもギルドを移転するさ。」

 

戦闘が終了しギルドへと戻っていった。

ただ、このままだと圏内には入れないのでカーソルを緑に戻すクエストを行なってからギルドへと向かった。

 

ギルドへ戻ると全員が待機していた。戦死は4名、事実上、第4隊は壊滅した。

 

ランサーは見える位置に立った。

 

「(まさかこんなに早くこの剣を使うことになるとはな。)仲間が死んだ。《ラフコフ》は俺たちそして、攻略組を狙って攻撃を仕掛けてきた。敵は強大だ。だが、俺たちは負けない。何があってもだ!ギルド《桜花》はこれより殺人ギルド《ラフィン・コフィン》との全面戦争に入る。この戦争はこのゲームクリアにも影響するだろう。だがそれよりも俺たちはあのテロリストどもから国民を守る義務がある。全員、覚悟を決めろ!もし、戦いたくない者はこのギルドを出ていってもらっていい。強制はしない、俺からは以上だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日 第22層北東エリア

 

大きな湖の前に《桜花》に所属している者達が整列していた。

 

「全員、敬礼!」

 

敬礼をしている者達の前には4本の《剣士の墓標》が建てられていた。それには昨日の戦闘で戦死した者達の名前が刻まれていた。

 

 

 

「現実世界に戻ったらちゃんと墓参りに行くから今はこれで我慢してくれ。」

 

「隊長、KoBから出頭要請が来ていますが?」

 

「わかった。第1隊を連れていく。今日は全員に休暇を与えろ、絶対に迷宮へは行かせるな。」

 

「了解です。」

 

 

 

 


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