「第2と第3は今すぐ出ろ!」
「他の分隊は即応待機!」
遡ること4時間前
ランサーは第1分隊を連れ血盟騎士団《Kinghts of blood》略してKoBの本部がある第55層グランザムに来ていた。
KoBは、《桜花》と同じく中規模ギルドでありながら攻略組の中ではトップクラスの実力を持つ。その中でもユニークスキル《神聖剣》を持つ団長ヒースクリフ、《閃光》の異名を持つ副団長のアスナである。ランサー自身も何度か副団長のアスナと手合わせをしたが勝てたのは一度だけだった。
ランサーは歩いていると黒のレザーコートを着ている少年がいた。
「久しぶりだな《黒の剣士》。」
少年はランサーの方に振り向いた。
「ランサー、久しぶり56層の会議以来だな。出頭要請でも来たのか?」
「当たりだ。今回ばかりは俺からも報告する事があるからな。」
《黒の剣士》の異名を持つプレイヤー、キリト。名前の通り全身黒ずくめで、最前線で戦うソロプレイヤーである。ランサーが初めて出会ったのは第1層ボス攻略時で、それからは何度か迷宮区で出会うことがあった。
ランサーはキリトとともにKoBに向かった。
KoBギルドハウスに入ろうとした時、ランサーは第1分隊のメンバーに指示を出した。
「イェーガーは俺とともに中へ、他は2人1組となって街を散策、何でもいいから情報を仕入れろ。もしつけられていると分かった時は気付いていない振りをして俺か幹部に報告しろ。」
「「「了解。」」」
「あと喧嘩だけは起こすなよ。また聖竜連合とやったなんてなったら最悪だからな。」
「「「了解。」」」
第1分隊はその場で一時解散し、ランサーはキリトとイェーガーを連れギルドハウスに入った。KoB団員に案内され室内に入ると多くの攻略組ギルド、プレイヤーが集まっていた。
その中に見知った、いや《桜花》が監視対象にしているギルドがいた。多くのプレイヤーから軍と呼ばれ第1層はじまりの街に拠点を置くギルド、その名はアインクラッド解放軍《Aincrad Liberation Force》。
第25層まで攻略組として最前線で戦って来たが第25層ボス攻略で偽情報を流され壊滅した。また主力を失ったことにより攻略組から離脱、現在はゲームクリアよりも組織強化を重視している。
イェーガーがランサーに話しかけた。
「何故、“軍”がここに。」
「一応、呼ばれたんだろう。あれでも1番でかいギルドだからな。ちょっと待て…………。アサシンから連絡が入った。」
ランサーはアサシンから送られたメッセージを読み出した。すると、
「イェーガー、今すぐ第1分隊を召集しろ。」
「どうしました?」
「KoBの中に《笑う棺桶》の内通者がいる。」
※《笑う棺桶》=ラフコフ
「どいつですか?」
「まだこの中にはいない。プレイヤー名は———だ。」
「了解です。第1隊はギルド前にて即応待機、こちらが動くのと合わせます。」
「わかった。相手には気付かれるな。」
話をしていると扉が開きKoBの幹部が入ってきた。先頭をで入って来たのは団長のヒースクリフではなく、副長のアスナだった。ランサーはアスナの顔を見た瞬間、顔を歪ませた。
理由は第56層フィールドボス討伐会議にあった。当時、攻略会議を仕切っていたのはアスナの立案は、圏外にあるNPCの村までフィールドボスを誘い出し、ボスがNPCに攻撃している間にこちらが攻撃をするといったものだった。これに意を唱えたのがランサーとキリトである。
キリトは、
「NPCは単なる石や木のオブジェクトとは違う。」
ランサーはキリトと同意見だった。それに付け加えてランサーは、
「毎日、俺たちと会話してるんだ。それがクエストだろうがなかろうとそいつらを餌にして俺たちは楽してボスを倒すか。攻略組で最初の汚点だな。」
続けて、
「フィールドボスがいる地形は全て把握している。布陣しようにも場所は狭く戦いづらい。たが、今後この地形よりも酷い場所で戦闘をしなければいけない時、どうやって戦うきだ。」
ランサーは強い口調で聞いた。
「それは、………………。」
アスナは少し考え黙り込んでしまった。
「本当はお前たちの団長がやるべきことなんだがな。今、出ている以外で作戦がないなら、今回は《桜花》だけでやらせてもらう。全員の考えが一致しないなか戦闘を行うのは自殺行為に等しい。いいか、副団長殿?」
「いいわ。」
「イェーガー、全隊に非常呼集。今から3時間後に攻撃開始。」
「了解。」
この会議から3時間後、予告通りに《桜花》は攻撃を開始、無事討伐した。フィールドボスがいた地形は狭く、いったいどのように討伐されたかは当事者以外分かっていない。
アスナは今回、召集をかけた理由を話し始めた。だが、理由はその場にいた全員が分かっていた。先日、同時多発的に起こった攻略組に対しての攻撃である。被害は合わせて10名にのぼり、1番被害が大きかったのは《桜花》だった。
ここでアスナはランサーに対して報告を求めた。
「《桜花》は先日、第55層にて殺人ギルド《笑う棺桶》による攻撃を受けた。当時、採取活動を行なっていた1パーティー6名の内、4名が死亡。」
「ラフコフの人数は?」
「約50名程だ。」
「「「50名⁉︎」」」
その場にいた全員から驚きの声が上がった。騒つき始めた。
「その50名はどうしたんですか?」
アスナは恐る恐る聞いた。
「11名は拘束し黒鉄宮へ、29名を殺害、他は逃亡中。現在、捜索中。」
場が静まりかえった。
「殺したのか⁉︎」
ランサーは声が聞こえた方を見ると声を発していたのは軍の者だった。
「そうだ。だったら何だ?」
「だったらて……………。人の命を何だと思ってるんだ!相手だって人だ、モンスターじゃないんだぞ!」
「なら、あいつらが俺の仲間を殺したのはどうなんだ?」
「…………………。」
「どうなんだ!」
ランサーは声を荒げた。ランサーは軍の者に近付こうとしたがイェーガーに止められた。
場が静まり返っている中、扉が勢いよく開いた。入って来たのはKoB団員だった。この時、ランサーとイェーガーは大きく目を見開いた。
「大変です!迷宮区に入っていたパーティーから救援要請です。多数のレッドプレイヤーの襲撃を受けたそうです。」
「ストラーフ、それは本当なの⁉︎」
アスナが聞き返した。
「本当です!」
「今すぐ助けに行きます!この中で一緒に来れる方は…………。」
アスナが場にいる攻略組に対し応援を求めている時、別の扉から2名のプレイヤーが飛び込んで来て、左手で鞘を持ち、右手で刀の柄を握りいつでも抜刀できる状態でランサーとイェーガーの後ろについた。《桜花》以外の者たちは何が起こっているのか分からず疑問の声を上げていた。その疑問に答える為、ランサーがその団員に向け数歩歩き出し話しかけた。
「まさか自分から現れてくれるとはな。」
ストラーフは何を言っているのか分からない顔をした。
「あの時いた全員の顔は覚えている。逃げた者の内、9名の名前は判明したが残りの1名は分からずじまいだった。そんな時、出頭要請でここに向かっている最中ある情報が入った。血盟騎士団の中にラフコフと通じている者がいると、そこで部下を連れ張らせてみれば思わぬ者が釣れたものだな。」
ストラーフは突然、その場で狂った様に笑い出した。全員が有り得ないという顔をした。アスナは信じられないという顔をしストラーフを見た。
「あ〜〜あ、どじったな。あの人、こいつらが来ること分かってて退団したんだな。酷い上司だね〜〜。そう思わない皆さん。」
ストラーフは顔を歪ませ笑いながら話した。イェーガーはランサーの後ろからストラーフに話しかけた。
「今すぐ情報を渡せば黒鉄宮送りで許してやる。もし抜剣などの抵抗を見せた場合、斬る。」
「僕が簡単に情報を渡すとても?」
ストラーフは装備していた剣を抜いた。
「黒鉄宮で暮らすよりだったら殺し合いをした方がマシだね。でも攻略組、相手だと数分もてばいい方かな?まあ、死ぬ前に何人かは道連れ決定だね!」
ストラーフは突然、持っていた剣を近くにいたKoB団員に斬り下ろした。ここにいた全員が思ったここは圏内、HPが削れることはないと。だが、《桜花》だけは違っていた。
ランサーは直ぐに抜刀しストラーフの腕を切り落とした。
全員が驚愕の表情を浮かべた。
圏内で絶対に減る筈のないHPが半分まで落ちていた。ストラーフは絶叫した。自分の腕が切り落とされ、それに伴う痛みが発生していたからだ。
ペインアブソーバ(痛覚吸収システム)はデスゲームが始まる前までは1番安全で痛くないmaxのレベル10になっていたがゲームが始まった瞬間、確定的な数字は分かっていないものの予想ではレベル5からレベル3まで落ちている。これほどまでにレベルが下がっていると現実世界にある自分の身体には影響がないもののゲーム世界での痛みは本物と近くなる。
イェーガーの後ろにいたグレンとカムイは直ぐにストラーフの元へ行き拘束した。
「ストラーフ、どうする?今すぐ回復結晶を使えば命は助かるが。」
ランサーが問いかけた。そこにKoBの団員が割って入った。
「これは拷問行為だぞ!非人道的だ!」
その声と同時に周りからも多数の非難の声がランサーに向けられたがランサーは無視し続けた。
「現在の構成人数、アジトの場所、今計画されている襲撃の日時、これを話してくれればヒールを使ってやる。どうする?」
「……………現在は………500人。アジト…は日によって違うからわからない……。襲撃は今日…………。」
「どこを襲撃する?」
「……《桜花》…のアサシンと………その部下です。」
「分かった情報提供ありがとう。」
その瞬間、ランサーはストラーフの顔を殴り気絶させた後、ヒールを使った。
「イェーガー、今すぐ第2と第3をアサシンと第6隊員の元へと向かわせろ。敵は例のスキルを既に入手していると全てのメンバーに通達を。第4を今すぐKoB前に向かわせろ。」
「既に到着しています。」
「なら受け渡しをするぞ。カムイ、グレンそいつを運び出せ。」
「「了解。」」
運びだそうとした時、アスナが叫んだ。
「待ちなさい!ストラーフをどうするき⁉︎」
「黒鉄宮に入れるだけだ。」
「そんな権限、貴方には無いわ。その権限を持つのはこのギルドの団長のみ!今すぐストラーフを降ろしなさい!」
「ランサー、アスナの言う通りだ。降ろすんだ。」
後ろにいたキリトがいつの間にかアスナの右側に来ていた。キリトは自身の右手を柄にかけていた。アスナは装備していたレイピアを抜きランサーに向けていた。
ランサーは周りを見た。怒りや微かな殺気を感じた。
「これではどっちが悪者か分からないな。グレン、カムイそいつを降ろしてやれ。イェーガー、悪いが第1を引き連れ、第4と合流しすぐにアサシンと第6がいる方へ向かえ。すぐに追いつく。」
「了解です。カムイ、グレン行くぞ!」
「「了解。」」
イェーガーは部屋の中にいたグレンとカムイを連れ退室した。ランサーは部屋に残った。
「血盟騎士団副団長《閃光》のアスナ、迷いがあるなら剣を抜くな。そうじゃないと死ぬぞ。」
続けて、
「キリト、お前もだ。ストラーフを降ろした瞬間、気を緩め過ぎだ。」
アスナは我に返り団員に声をかけストラーフを別室へと連れて行かせた。ランサーは、
「お前達に言っとく。人を斬る覚悟が無ければ対人戦闘を行うな。戦場での迷いは自分の死に直結する。」
そう言うとランサーは部屋を出てアサシンがいる所へと向かった。アサシンは第40層にてラフコフの調査を行なっている。ランサーは転移門を使い第40層に着くとラフコフが待ち構えていた。イェーガー達は既に迷宮区へと入っていた為、ランサーはラフコフの狙いに気付いた。
「俺も舐められたもんだな。たった数十人で俺を殺そうなどと。」
ランサーは右手で柄を握った瞬間、1番遠くにいたラフコフメンバーに向かって《紫電》を発動し首から上を切り落とした。続けて近くにいた者を《絶空》にて斬り伏せ、近づいてきた敵の剣をはらい上げ胸に突き刺し、敵を盾がわりにし今度は3人に向かって投げナイフを投げた。ここまでの時間はたった1分だった。
それでもラフコフはランサーに向かって攻撃を仕掛けた。
この戦闘の後、ランサーはアサシンと第1分隊とも合流しギルドハウスに戻った。
この戦闘での被害はゼロ。対してラフコフ側は37名が死亡した。