防人達   作:lancer008

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異変

キリトとアスナが模擬戦を行なってから一週間が経ったある日の朝、ギルドハウス内にある食堂はいつも通り賑わっていた。

そんな中、通信室にランサーとアーチャー、即応のツヴァイ、第1分隊担当通信員アインスがいた。そして通信室の中は空気が張りつめていた。

理由は護衛任務を行っていた2名からの定時報告がある時間から途絶えていたからだ。通信が途絶えたのは4時間前の午前3時。当時、担当になっていた通信員は夜中であり忘れてしまっているのだと思いランサー達幹部クラスには報告を入れなかった。事態が動いたのはその1時間後、1時間経ってもなお連絡が来ないことから何んらかの事態が発生したと考え、今に至っている。

 

状況確認の為、アサシンの隊から2名が護衛目標が滞在している地点へと向かっていた。

何故、2名だけしか動いていないかというと現在の状況が確認されない限り、変に多数の人員を割くと緊急の事態に対応出来なくなる可能性があるからだ。また少数の人数で動き《笑う棺桶》の待ち伏せや挟撃に合う可能性もあるからだ。

 

 

同時刻

 

第6隊所属、ゴーストとケイオスは護衛目標がいると思われる第1層“はじまりの街”に来ていた。

 

「現在地はここ。目標まで残り2ブロックです。」

 

ケイオスはゴーストに現在地を報告したがゴーストは何か落ち着きがなかった。

 

「静か過ぎる。」

 

「えっ⁉︎」

 

「いつもなら軍の奴らが数人単位で歩いてる筈なんだが人っ子一人いない。しかもNPCもだ。どうなってるんだ?」

 

ゴーストの言う通り、露店には必ず1人のNPCが必ずいる筈だがそのNPCすらもいなかった。

ゴーストはケイオスに向けて、

 

「現状をギルドに報告。」

 

「はい。」

 

ケイオスの報告が終わると目標地点へと移動を開始した。

 

 

 

近づくにつれゴーストとケイオスは多くの人の気配を感じ始めた。建物の影に隠れながら目標地点を覗きこもうとした時、怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「シスターさんよ!いい加減出て来てくれねえかな⁉︎」

 

怒鳴り声を上げてた男は扉を力強く蹴っていた。その周りにも多くの人がいた。

 

「何でこんなところに軍が?」

 

「ケイオス、建物に隠れながら見やすい位置に移動するぞ。」

 

「了解。」

 

移動すると破城槌を持った軍の者たちが教会の扉に体当たりをしている最中だった。見た限り軍の者たちは30人程で全員が教会の正面にいた。

ゴーストは何処からか教会に侵入出来るところがないかと探すと裏口を発見した。

ゴーストは裏口に近づき取手を掴み引いてみると扉が開いた。すぐにケイオスを呼び中に入った。

 

「ケイオス、ドアを見張れ。軍の者が近づいて来たら鍵を閉めろ。俺はもう少し奥へ行ってみる。」

 

「了解。報告は?」

 

「頼む。」

 

ゴーストは奥へと進んだ。

ゴーストは聞き耳スキルを使い耳を澄ますと多数の呻き声と子供のすすり泣く声が聞こえてきた。公会堂がある部屋の扉を少し開け中を覗くと壁際にプレイヤーが仰向けの状態で寝ていた。子供は10〜17人ほど部屋の端でかたまって座っていた。奥にある扉からは何かが、ぶつかる大きな音がなっていた。先程、軍が使っていた破城槌が扉にぶつかっている音だった。

ゴーストはケイオスの元へと戻ろうと思ったら矢先、聞いたことがある声がしてきた。

 

「もうどのくらい持ち堪えられますか?」

 

「もって4時間です。ただ今のペースならです。」

 

レオンの声だった。

ゴーストは回りに脅威がないか確認しゆっくりと扉を開けた。そして、レオンの元へ近づいていった。するともう数メートルのところでレオンが気付き装備していた刀を抜きゴーストへ向けた。

 

「レオン、俺だ。第6隊所属のゴーストだ。」

 

「お前か!なら報告が届いてたんだな。他は何処に?」

 

「来たのは俺とケイオスだけだ。すまないがレオンからの報告は届いていない。これは一体、どういう状況だ?」

 

レオンは驚いた顔をし、黙ってしまったが少しずつ話し始めた。

 

 

 

異変が起こったのは最後の通信から約30分後。アルトとともに交代で警備にあたっていたところ街の中から多数の悲鳴が聞こえだした。すぐに街の状況を確認しようと教会を出ようとした時、遠くから約10人程の軍の者たちが歩いてきた。軍の者たちは抜刀した状態で教会に近付いてきた為、レオンは警告を促した。

 

「軍の者たちに通告する。こちらはギルド《桜花》即応隊所属レオンだ。直ぐにこの場から去ってもらいたい。」

 

すると先頭に立っていた者が

 

「私はアインクラッド解放軍、ブランケ大尉だ。私たちはその協会に住んでいるプレイヤー《サーシャ》に用がある。今すぐに引き渡してもらいたい。」

 

「それは出来ない。そのプレイヤーは我々の護衛対象だ。」

 

「何故だ⁉︎その者には《笑う棺桶》との繋がりがあるとして、先日の攻略会議で拘束すると決まったばかりではないか?」

 

「攻略会議だと?会議があったとは聞いていない。」

 

「埒が開かん。そいつらともども拘束せよ!」

 

その言葉を放った瞬間、レオンとアルトは抜刀した。アルトはいつでもソードスキルを発動出来る状態で構えた。

 

「もう一度、勧告する。今すぐこの場から去れ!さもなくば斬る!」

 

ブランケはレオンの覇気に怯み後退りを始めた。レオンはこのまま退いてくれることを願ったが、それは一瞬にして崩された。

ブランケが3歩後ろに下がった時、突然、ブランケの後ろから剣が突き刺された。そして後ろにいた男が笑い声が上げ、周りにいた男達からも上がった。

レオンは突然の事に驚いていたが直ぐに正気を取り戻したがアルトは硬直したままだった。

 

「アルト、しっかりしろ!警戒を怠るな!」

 

「は、はい!」

 

笑い声が止みブランケの後ろにいた男が剣を突き刺したままブランケに向かって話し始めた。

 

「ブランケさんよ、あんた鈍いんだよ。」

 

「ケイ……ン、何の……つもりだ……?」

 

「別にただ、あんたにはここで死んでもらうだけだ。そうすればあの人のシナリオどうりだ。そうだまた質問されるの面倒くさいから見せてしまおう!」

 

ケインは腕に着けている鎧を外しブランケに見せた。その腕に描かれていたのは殺人ギルド《笑う棺桶》のエンブレムだった。このことにレオンとアルトも衝撃を受けた。

 

「何でこんなところにラフコフが⁉︎」

 

レオンが言うとケインは、

 

「答える義理なんてないぜ。どうせアンタもすぐに死ぬんだからな。」

 

レオンはケインの殺気を感じとり、すぐにアルトに退がるよう指示するがアルトは固まり恐怖に怯えていた。

 

「アルト!下がれ!」

 

レオンはもう一度促すとアルトはやっと我に返り協会の方へ走っていった。レオンも刀を構えながら少しずつ教会の方へ退き始めたがケインと周りにいた者はそれを見逃さなかった。

 

「おいおい退がるのかよ?」

 

「ああ、多勢に無勢だからな。こういう時は逃げるが勝ちだよ。」

 

レオンが答えた。

 

「まあ、アンタと殺ったらこっちもただじゃ済まなそうだからね。代わりと言っちゃあなんだけどあいつの命、貰うわ。」

 

ケインが不適な笑みを浮かべ言い放った。

レオンはすぐに振り向いたが間に合わなかった。

ケイン達の後ろから多数の矢が飛んでいきアルトに命中した。レオンはすぐにアルトの元へ駆け寄った。

 

「アルト!おい、返事しろ⁉︎」

 

「レオンさん、すみませんいつも足手纏いで。」

 

「今、解毒結晶を使う。」

 

アルトのHPゲージは矢によるダメージと矢に付加させられていた“毒”により減少し続けていた。

レオンは解毒結晶を使ったが解毒されなかった。

 

「無駄無駄。その結晶じゃ無理だよ。」

 

ケインがレオンに近づきながら話し始めた。

 

「その毒はなあ。今まで周知されている“毒”じゃないんだよ。今までのやつよりも数倍のダメージ量を与える。しかも解毒結晶の材料は俺たちのアジトでしかとれない。もうどういう意味だか分かるよな?」

 

ケインは装備していた剣を抜剣し、レオンの目の前まで来ていた。

 

「黙れ………。」

 

「えぇ?何だって?」

 

「黙れと言っている!」

 

レオンは抜刀術単発剣技《疾風》を発動しケインの首を飛ばした。

 

「アルトすまない。俺がもっと早く命令を出していればこんな事には。」

 

「今まで迷惑をかけていた付けが回ったんです。一つお願いしていいですか?」

 

「ああ。」

 

「家内にすまないと伝えて下さい。」

 

「わかった。必ず伝える。」

 

アルトのHPが0になると身体が発光し大小様々な光のエフェクトとなり消えていった。

レオンはその場に座り込んだまま目を閉じ何かを呟いた。そしてゆっくりと立ち上がり《笑う棺桶》の方に振り向いた。

 

「1人も逃がさない。」

 

レオンはそういうと抜刀術最上位単発剣技《紫電》を発動し正面にいた2人を斬り、《幻月》、《浮舟》、《絶空》の順に次々と斬り伏せていった。最後に《五月雨》を発動し残った敵を殺害した。

レオンは抜刀したまま立ち尽くした。

そしてレオンは倒れているブランケを起こし教会に連れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今に至る。

 

「そのブランケてのはどこにいる?」

 

ゴーストが聞いた。

 

「あそこに寝ているのだ。麻痺系の毒をやられたようだ。」

 

「解毒結晶は?」

 

レオンは首を横に振った。

 

「他の人達は?」

 

「はじまりの街に留まっていたプレイヤー達だ。俺が戦っている姿を見て助けを求めてきたんだがな。他にも《笑う棺桶》の奴らがいたみたいでな矢による範囲攻撃を食らってなこの様だ。」

 

「軍の幹部は?」

 

「わからない。」

 

「そうですか。」

 

「ゴーストすまないがケイオスとともに一時離脱して応援を呼んで来てくれないか?」

 

「転移結晶は使わなかったのか?あれがあればすぐに…………」

 

レオンは首を振り、

 

「転移結晶は使えなかった。一度使ったんだが現在地から半径20メートルの地点に飛ばされるだけだった。ただ、お前がここに来たってことは転移門は使えたんだろう。」

 

「ああ。だがここでこんな事が起こっているという情報は一切入ってきていない。」

 

ゴーストは少し考え、

 

「上からは来れるが下からは行けないてことか。なら残された手段は1つだけ。」

 

「そうだ。第1層ボスモンスター部屋から第2層に上がるしかない。ゴースト、お前達に頼みたい。」

 

ゴーストは驚いた顔をした。

 

「ここにはケガ人や子供もいる俺たちだけで守るのは不可能だ。応援が来るまでここはもたないだろう。それでも出来るだけ早く頼む。」

 

ゴーストはレオンからの強い意志を感じたが、

 

「それは無理な提案だな。俺とケイオスもここに来るまで3時間は掛かっている。もしここから脱出するとしたら倍の時間がかかる。」

 

「それなら、どうしろと⁉︎」

 

「レオン、貴方が行ってくれ。貴方はアサシンさんの直属の元部下で実戦経験もある。俺もケイオスも名前の通り偵察所属なんだがこの世界では前衛の方が戦いやすい。ここの情報をランサーさん達に伝えてくれ、応援が来るまで俺とケイオスでここを支える。多分、俺達からの連絡も言っていない筈だ。」

 

ゴーストはアイテムバックから外套を出しレオンに渡した。

 

「こいつは現在確認されている中で一番、隠蔽と隠密が高い。索敵スキルの熟練度が2000以上無ければ絶対に探知されない。」

 

レオンは少し沈黙し、

 

「わかった。帰ったら奢らせろ。」

 

「了解。楽しみにしてるよ。」

 

レオンは外套を羽織り裏口から外に出て第1層ボス部屋まで向かった。そしてゴーストはケイオスを呼び、

 

「ケイオス、応援が来るまでここを死守する。」

 

「了解。弓は使っても?」

 

「どんどん使え、俺の分の矢もやる。」

 

「了解。」

 

ケイオスは教会の2階に上がり窓を少し開け、弓を構え、下で破城槌を持った軍の者達に狙いを付け放った。

放った矢は鎧と鎧の隙間に命中し軍の者は悲鳴を上げた。ケイオスは続けて矢を放った。すると軍の者達が盾を構えながら後ろに下がり出した。ケイオスは少し間を置きながら矢を射続け軍を数百メートル程後退させた。

ゴーストは趣味で熟練度を上げていた大工スキルを使いテーブルなどを分解し、分解してできた材料アイテムを使い扉の修理を始めた。

 

「これで少しは稼げるか。」

 

ゴーストは小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方は、《桜花》ギルドハウスでは待機命令が出されていた。偵察として送った2名からの連絡も無く、無駄な時間だけが過ぎていった。そんな中、一部の隊が慌ただしく動き始めた。

 

「ライダー、自分の隊と即応第1隊を連れて第1層の※※※※※※※へと向かい直ぐにでも出れるよう準備しろ。情報が入り次第、我々も向かう。」

 

ランサーが言った。

 

「わかりました。一応、全員分準備しときます。」

 

「頼む。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、レオンは街の外れまで来ていた。周りを観察し周囲に人がいないことを確認し街道へと出ようとした時、街道にある壁の方から誰かが泣いている声がした。

レオンは刀に手を掛け恐る恐る覗いた。そこにいたのは子供だった。レオンはすぐに近づき何があったのか聞いた。

 

「大丈夫か、怪我は無いか?」

 

子供は泣きながら話し始めた。

 

「お兄ちゃんが……………………。」

 

子供は指をさしレオンはその方向を見た。

 

そこには1本のアニールブレードが転がっていた。

 

「僕を逃がそうとして………………。それで…………。」

 

「いいもう話さなくて。」

 

レオンは子供を抱きしめた。

子供が泣き止むのを待って、

 

「ここにいたら君も危ないから移動しなければいけない。分かるな?」

 

子供は頷いた。

 

「良し!なら背中に乗って。」

 

レオンは子供を背負いボス部屋へと向かい出した。

 

「まだ名前聞いてなかったな。俺はレオン、君は?」

 

「ツバサ。」

 

「ツバサくんか、わかった。」

 

レオンは進み続けボス部屋まであと少しの所で突然止まり、周りを観察し始めた。そして咄嗟にしゃがみ、草むらに隠れた。

 

「ねえ、どうしたの?」

 

レオンは無言のままツバサを地面に下ろし着ていた外套を脱いだ。レオンはツバサに話し掛けながら外套を着せた。

 

「この先にツバサくんを襲った人達の仲間が隠れている。俺が先に行って囮になるからその隙にボス部屋を通って第2層に行ってくれ。」

 

「えっ⁉︎一緒に行ってくれないの?」

 

「一緒に行きたいのはやまやま何だが数が多い。突破は無理だ。」

 

「1人じゃ怖いよ。それにお兄ちゃんを襲った人達がまだいたら。」

 

レオンはツバサの頭を撫で、

 

「泣くな。大丈夫だ、全て俺が遠くへ連れていく。そしたら門をくぐるといい。」

 

続けて

 

「ツバサ、頼みがあるんだ。」

 

レオンがツバサにあるアイテムを渡した。それは転移結晶だった。レオンはゴーストからケイオスを通じて第2層までは転移結晶が使えることを教えられていた。これは教会の中に潜んでいるであろう敵に知られないようにするためだった。

 

「この結晶を使って第61層セルムブルクに行ってある2人を見つけて俺の事を伝えてほしい。」

 

「どんな人?」

 

「1人は全身黒ずくめの男で、もう1人は女性で白に赤い線が入っている服を着て腰に剣を差している。」

 

「わかった。セルムブルクでいいんだよね?」

 

「ああ、そうだ。」

 

レオンが立ち上がり待ち構えているであろう《笑う棺桶》の元へ向かおうとした時、

 

「また会えるよね?」

 

「会えるさ。」

 

レオンは走った。

 

「(18人くらいか。あの時よりはいいか。)」

 

ある程度、進むと立ち止まった。

 

「出てこい《笑う棺桶》!てめえらがいる事は分かってるんだ!」

 

すると、草むらや木の陰から多くの《笑う棺桶》に所属するプレイヤーが現れた。

 

「どうも、こ。」

 

レオンは1人の《笑う棺桶》の男が名乗る前に《紫電》を使い、その男の首をはね飛ばした。

 

「すまないな。急いでるんで名前を聞いてる暇はないんだ。」

 

レオンは自分がこれから応援を呼びに行くふりをした。少しでもレオンに注意を引かせ、ツバサのことを勘付かれないようするためだ。

レオンは刀を握り直し一番遠くにいる敵から倒し、少しでも門から遠ざけるよう仕向いた。

 

「(行ったか。)」

 

ツバサがボス部屋に入って行ったことを確認するとレオンは近くにいる敵に斬りかかり休むことなくソードスキルを発動していった。

 

 

 

 

 

 

「(頼んだぞ。)」

 

 

 

 

 

 

 

 


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