あの日夢見た青春を今   作:日向野Bell

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お気に入り有難うございます!!!嬉しみで2話目です!!


第2話

 ずず…………と地面を擦る音。慌てて振り向くと、最初に伸された男━━━━ハナと言ったか。そいつが残った力を振り絞りこの場から去ろうとしていた。

 

「あいつ、まだ意識があんのか…」

「やべっ!仲間呼ばれる」

 

 少女は俺に差し出した手で俺の手を素早く取り、握り締める。

 

「ええと、君は?」

 

 俺の名前。過ごした時間こそ僅かであったが、それでも俺を愛してくれた。大切にしてくれた両親から貰った形見とも言うべき俺の…。

 

「…俺は」

 

 

「………バクラだ!盗賊バクラ!」

 

 この少女の笑顔に負けないくらい、精一杯シニカルに笑ってやった。

 

「盗賊!そりゃカッコイイな!宜しくバクラくん!」

「テメェは?」

「サラ!このエジプトで一番イケてるヒーローになる女だ!」

 

 俺達は走り出した。暗闇が心を蝕むような路地裏から、限りない太陽をその身に受ける為に。

 

 

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 先程の路地裏からほんの少し行った所━━商店街を挟んだ通りにある廃屋に俺達は腰を落ち着けた。

 

「ほらよ」

 

 ぽむ…、と俺を助けた少女━━━サラは俺の掌にパンを置いた。そのパンはよくよく見ると汚れが付いており、作られてから何日か経った物であることが伺えた。

 

「テメェこれ…」

「さっきも言ったろ?パン有り過ぎてぼくじゃあ食べ切れんから食え」

「……そうかよ。有難く頂戴するぜ」

 

 ここ数日、食う物にさえ困っていたのでこの申し出は天恵とも言えた。

 がつがつとパンに勢い良く齧り付く俺をニヤつきながら眺めるサラの視線がどうにもむず痒くてそっぽを向く。

 

「……で。バクラくん。君…此処の人間じゃあねえだろ」

「…だったらなんだ?」

 

 ぴり………と空気が張り詰める。

 

「あっ、ご、こめん。そういうつもりじゃあなかったんだ。悪い。………ぼくが言いたかったのは、此処ヒスナル村は治安の悪さで有名だって事」

「…?」

 

 そしてサラは俺を見分するように見遣った。

 

「この村はエジプトの隅に位置してる。だから王宮の連中の目が届き難いんだ。よって、人攫い・麻薬中毒者・人殺し……勿論盗賊もうじゃうじゃ居座ってる。そんな魔境に村の実情を知らない余所者かつ珍しい容姿のガキがやってきたら……。解るだろ?格好の獲物だぜ。

 ぼくとしちゃあ、君は今すぐ此処から立ち去るべきだと思うがな」

 

 予想すらしていなかった答えだった。サラは、俺を純粋に心配していただけ。心が、少し軽くなるのを俺はまるで他人事のように享受した。

 サラの言い分は理解した。だが、俺にはこの村に用がある。

 

「………心配してくれて有難うよ。だが、俺は此処でまだやり残した事がある」

「やり残した事?」

「……さっきの連中に奪われた俺の財宝を取り戻す。そして…この俺との契約を破った事、ただじゃあ置かねえ。完膚なきまでに叩き潰してやんだよ」

 

 ぎゅ…と血が滲むまで拳を握り溢れ出る怒りを抑えつける。体は緩く震えていた。サラは面食らったのか、瞳をぱちくりと動かした。

 

「………は!???……まじ?」

 

 俺は服の中に隠し持っていた金の首飾りを掴み取り、サラに投げつける。

 

「はあ!? お、 おお??」

「……今回の礼だ。売るなり身に付けるなりしな」

「ちょ…君……」

 

 適当に身なりを整え席を立つ。仕込みは既に終わっている。こういう時の為に取引先の下調べをしてから盗みを行う事が俺の習慣であったからだ。

ガコン!

 

 扉を蹴り飛ばして開け放つ。 もうここには用は無いと言わんばかりに足を早める。━━今日のような事はもう、これきりだ。誰かの手を借りるなんて二度と━━

 

「おい、バクラくん!!」

 

 首根っこを思い切り引っ張られる。

 

「ぐっ………!??」

 

 突然の事に頭が回らず、衝撃から足を捻り、すっ転ぶ。

 

ズダン!!

 

「て、テメェ………っ」

「ぼくも連れてけ!一人じゃ行かせらんねえよっ」

「は…?」

「だから、ぼくも行く!」

「なんで…」

 

 そしてこの女は、俺が今一番言われたく無い核心を突いた。

 

「そりゃあ…君、色々無理してるだろ」

 

 

 

 

 

 

 

「………だ、黙れ!!!!!」

 

 俺は逃げるようにこの場を去った。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 数多の星座に見初められると思う程に、いつもよりも空が煌めく夜だった。連中の根城は村の中心部にあった。俺は少し離れた建物の上からそこを見下ろしていた。

 星々の光を頼りに自らが書き上げた地図を確認する。

 

「……此処から侵入して………そして……」

 

 

「よっ!」

 

ビクッ!!!

 

 思わず地図を取り落とす。慌てて体制を立て直し、懐に忍ばせたナイフを後ろの声に向かって振り被り━━━━━

 

 星明かりが照らした声の顔は、昼に見たどうにも忘れられない顔だった。すんでの所でナイフを止める。

 

「テメェ……なんで此処に居やがる」

「尾けてきた」

 

 サラはへへ、と悪戯が成功した子供のように笑った。

 なんでここまで俺に付き纏うのかとか言いたい事が沢山あったのだが、故郷が滅んでから久しく見ていなかった、微塵も悪意を孕まぬその笑顔が━━━━俺には酷く眩しく思えて、文句の悉くを忘れてしまったのだった。

 

 


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