ハイスクールI×B   作:兵太郎

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道程

接近戦は不味い、と上条は床を転がり距離を取る。儀式のために置いていたらしい鉄製のランプスタンドを手に取った。

 

「そんな物で私の刀に対抗できると思って?」

言うが早いか、レイナーレは上条に向かって真っ直ぐに飛んで行く。黒刀とスタンドがぶつかり、火花が散った。

レイナーレの剣を上条はスタンドでどうにか捌く。レイナーレは振りの間に突きも混ぜて上条を翻弄していき、上条はその度に身体に傷を付けていく。

十数合打ち合って、スタンドがついに折り曲がった。上条はもう一つあったランプスタンドを手に取ろうとするが、それは先にレイナーレによって入り口あたりにまで蹴飛ばされた。

 

「さぁ、これでおしまいね。無駄に疲れさせてくれちゃって!その報酬は貰うわよ!!」

黒刀が右手に振り下ろされる!!刀が上条の肉に食い込んだ!!

 

そのまま右手首を切断すると思われていた刀は、しかし腕を半分ほど進んだところで動きを止める。ガチン!という鈍い音が、上条の右手で聞こえた。

「な、動かない!まさか、神器を内側に内包していたのか!?」

驚くレイナーレの顔面に、上条の左拳が炸裂する!レイナーレはその衝撃に刀から手を離し、ノーバウンドで二メートル吹っ飛んだ。床に叩きつけられそうになったところで翼を広げ、なんとかダウンせずに地面に着地したレイナーレ。衝撃と痛みに歪んだ顔から、鼻血が一筋、つうっと流れて地面に落ちた。

「神器を内包?そんなの知らねぇよ。ただな、刀ってのは物を切ってく時に切った物が付着して、どんどん切れにくくなるんだ。それに、ライトスタンドとの衝突で刀にも多少のダメージは行ってるはずだぜ……っつ!」

上条は腕から刀を力づくで抜き取る。その傷から血が勢いよく溢れ出た。しかしレイナーレはそちらではなく、刀を注視する。血で赤黒く染まった刃の先が、汚い波状になっているのに気がついた。

上条が刀を床に叩きつけると、刀は音を上げて砕ける。それを見ながら上条はシャツの下部分を破り、二の腕あたりをキツく縛った。

 

「次は何だよ。今度は銃でも持ってくるか?」

「……いいえ、もう私は武器は持ってないわ。

 

だけど、私が人間如きに負けるわけ無いじゃない!」

目を見開くレイナーレ。翼を広げた彼女は、今度は上条の周りを回る。そのスピードが目で追えなくなってきた時に、上条の背に衝撃が走る!レイナーレの蹴りに、上条は吹き飛ばされて倒れた。

慌てて起き上がろうとする上条、その顔面にレイナーレの膝が飛ぶ!勢いで上条の身体が後転する。何回か回った上条は、回転の力を借りて再び立ち上がる。

 

「……強いな、アンタ」

「?……当たり前でしょう?あなた達みたいな悪魔や人間には、到底負けないわ」

レイナーレは血を拭いながら嗤う。その姿に上条は、言った。

「じゃあなんでアーシアを狙う……いや、神器を狙うんだ?」

「それは……私達のトップ、アザゼル様やシェムハザ様、彼らの力となる為よ!アーシア・アルジェントの治癒の力、それと同等以上の神器、魔力を封じる力。私はその力を持ってして、彼らの傷を癒す役目、あるいは肉壁として彼らを守るの。そう、私がお二方の力となれるの!こんな素敵な事はないわ!」

彼女は両手で自身の身体を抱き、悶える。

 

「ふざけるな!!」

叫びにレイナーレはハッ、と正気に戻る。目の前に、上条当麻が映った。

「テメーの勝手な都合に、アーシアを巻き込むんじゃねえ!アーシアはこっちの調査に来ていきなりお前達に襲われた。それでもお前達に会うために、再び教会を訪れた!土御門から今回のアーシアの目的を聞いて、俺はやっとこの前アーシアが俺を連れて教会に行った意味がわかったんだ。

アーシアはお前達堕天使を、早いうちに逃がそうとしてたんだ!教会としてはこの駒王町から堕天使を退けなければいけない。土御門も危なければ清掃……始末しろと言っていた。でもアーシアは優しいから、俺を連れてお前達の拠点を訪れた。俺を連れていったは普通の人間が一緒なら堕天使も襲って気はしないだろうから。それなら、ちゃんと話し合いができると思ったからだ。土御門達教会の戦士の襲撃計画はすでに決まってた。それより前にアーシアはお前達を逃がそうとしてたんだ!!」

 

レイナーレはその言葉に目を見開く。平和ボケした十字教のシスター。レイナーレはアーシアの事をそう伝え聞いていた。教会を訪れたのも、そこにいる自分達が十字教の戦士であると信じていたと、そう考えていた。

上条は矢継ぎ早に続ける。

 

「そんなアーシアをお前達はまた襲った。俺を殺して、アーシアから強引に神器を奪おうとした!その理由が強くなるため?お偉いさんの力になるため?何が二人の力になるだ!他人から奪った力で強くなって、偉い奴らを守るなんて、そんなもんで守られたって、アザゼルだかシェムハザだかいう奴らは喜ばない!!」

「うるさい!!」

 

今まで話を聞いていたレイナーレが、突如激昂した!彼女の蹴りがまたも顔面に飛び、上条は仰向けに倒れる。前歯が一本、欠けて落ちた。

 

「お前がアザゼル様やシェムハザ様の名前を軽々しく口にするな!お前にあの方々の……私の何がわかる!

天から堕ちたあの日、穢れた私をアザゼル様は拾ってくれた!シェムハザ様は堕天使の私を認めてくれた!それが天から堕ち、絶望に染まっていた私にとってどんなに嬉しかったか!私は彼らになら、命さえ捧げられると思った!

そこから200年間、死に物狂いで努力した。少しは地位も上がり、部下もできた。

 

でもそれだけ!私の手にはあの方々の背中は程遠い!数百年では追いつけない!私は、少しでも早くあの方々の力になりたかったの!!

神器があれば、私はさらに上に昇れる。遠かった山の頂が、一気にあと一歩のところまで見えてくる!!その可能性を私は知ってしまった!!知ってしまったら、そうするしかないじゃない!!」

「そのために、他の奴を犠牲にして良いと思ってるのかよ!?」

 

上条は地面を押して立ち上がり、その勢いでレイナーレを殴る!レイナーレは少しよろけたが、それでも上条に殴り返す!

 

「自分が正しくない事をしているのはわかってる!!それでも、私はもう耐えられない!200年、その長さがあなたにわかる!?私はその間を全て、堕天使達の為に費やした!でも、神器があれば200年の努力なんてなくても、すぐに彼らの力になれると知ったの!

 

あなたにわかる!?200年の努力よりも、もっともっと長きに渡る努力よりも、たった一つの神器を手に入れる方がずっと効果的だと知った私の気持ちが!200年を全て無駄にした、私の気持ちが!!」

 

レイナーレの拳が上条の腹に入った!上条は膝をつくが、それでも立ち上がりレイナーレに反撃する!

 

「わかんねぇよ!でも、ひとつだけ言える!お前の200年は無駄になんてならねぇ!

頑張ってここまで来たんだろ!部下だってちゃんとお前に従ってた!堕天使達だって皆、お前の為に動いてた!だってそうだろ!お前が力を持ったら、あいつらは捨てられるかもしれない!それでも二人を足止めしてる!神父達だってそうだ!俺の腹の傷は、神父の一人が気絶しそうになった時でも、俺をお前のところに行かせない為にと撃ったものだ!お前を守る為にやったことだぞ!

そんな部下達が何よりもお前の努力の証だろ!それを無駄だって言うなら、お前は一生上になんて昇れねぇ!追いつくことなんてできねぇ!だってお前が話すアザゼルやシェムハザってのは、部下に対して優しくできる奴らだからだ!部下を無駄だと言える奴がそいつらに追いつけるはずがねえ!!」

 

ぶれる視界の中にレイナーレをなんとか入れ、そこに向かって拳を振るう上条。固めた左の拳がレイナーレの頰に当たる。もはや威力はほとんどなく、ペチャッ、と血がくっつく音が妙に大きく聞こえた。

 

それでも、レイナーレは脚の力がなくなったかのように地面に両膝をつく。

 

「まだお前の人生は終わっちゃいねーんだ。200年で進んだ距離は、201年目を諦める理由にはならねえ。

それでもその道を全否定して、他人に迷惑かけてでも楽がしたいってんなら、そんな幻想はぶち壊す……」

 

右手が、レイナーレの頭に触れた。

 

視界が暗闇に染まる--

 




上条は目を覚ますと同時に、上半身が裸である事に気がついた。肌寒さとともに、誰かに触られているようなゾワゾワとした感覚も触覚に与えられていた。
目を開けて首を起こし、身体の方を見る。

アーシア・アルジェントが上条当麻の身体の上に、馬乗りになっていた。
「あ、アーシアさん!?なんでワタクシの身体にマウントを取っていらっしゃるのでしょう!?」
腹を触っていたアーシアはその声で上条が意識を戻したのに気がついた。
「とーまさん!意識が戻ったんですね!良かったです!しばらく意識を戻さなかったので心配したんですよ!教会からこの家まで連れてくるのは、大変だったんですから!」

言われて上条は、自分が教会の地下にいたのを思い出した。その時に付いた傷は、ほとんど残っていなかった。どうやらアーシアが治してくれたようだ。

「ありがとう、アーシア」
上条がお礼を言うと、アーシアは満面の笑みを浮かべ、上条に抱きつく。そんな事をされたことのない上条はドギマギした。少しして離れたアーシアは、上条に話す。

「土御門さんに呼ばれて、私も教会に行ったんです。そして、レイナーレさん達堕天使に会いました。
私、彼女達に謝罪されたんです。ごめんなさいって、レイナーレさんは言ってくれたんです。
それだけで、私は彼女達を許せるって、思っちゃったんです。とーまさんも、彼女達を許してくれますか?傷は全部、私が治しますから」
上条はその言葉に、首を振った。

「許すなんて。俺はアイツらには何もされてないし、アーシアが許すなら俺もそれに従うよ」
「あ、ありがとうございます!」
アーシアは笑った。釣られて上条も笑顔になる。




「アッツアツだにゃー、お二人とも」
上条家の会話を家の前で聴きながら、土御門は電話をかける。数回コールがあった後、相手と連絡が繋がった。
『よう、土御門。なんかあったか?』
「駒王町にいた堕天使が問題を起こしてたから、少しお灸を据えたぜぃ」
『おいおい、事後報告は辞めてくれよな。対処が面倒なんだよ……駒王町って言ったら……レイナーレ達か?』
「そうだにゃー。レイナーレとその部下三人組。良く覚えてるもんだぜぃ」
『いや何、アイツはいいおっぱいしてたからよ』
「さすがは女の胸を揉んで堕天した男だにゃー」
『うるせー。
駒王町のやつらは、そのままそこにいさせてやってくれ。他にそこに行かせる奴らもいない』
「魔王サーゼクス・ルシファーの妹、リアス・グレモリーの領土なんて超重要地点を若手に任せるなんて、なかなか博打に出るもんだぜぃ」
『最悪の場合は、お前が助けてやればいいさ。今回そいつらとはコンタクトを取ったんだろ?多重スパイの土御門元春クンよ』
「部下三人とは少し話した。レイナーレには話していないが、きっとなんとかなるぜよ」
『ウハハ、ならオッケーだ。お前ならなんとかしてくれると信じてるぜ。じゃあな』
「ああ、またな。堕天使総督さんよ」
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