教会での闘いから一夜明けた月曜日、時計は一二時を少し回ったところ。時間を確認して焦った上条だったが、カレンダーを見て安堵した。今日は祝日、海の日である。そして幸いにも本日は、補習のお誘いは来ていなかった。三連休を全て潰しては可哀想と言う小萌先生の配慮か、と上条は担任に感謝した。
そのままぼうっ…とカレンダーを見るうちに、上条はふと思う。
「そういえば、アーシアはいつ帰るんだ?」
質問にアーシアは首を傾げる。その仕草を更に疑問に思い、上条は質問を重ねた。
「アーシアの仕事は堕天使……レイナーレ達をどうにかすることだろ?土御門もそう言ってたし。で、それは何とか解決したわけだから、またイギリスに戻るんじゃないのか?」
「それは違います。私の目的はこの町の教会、そして教会勢力の監視です。この町は私達十字教にとっても重要な場所ですから、滞在して監視・報告を続ける必要があるんですよ」
なるほど、と上条は納得した。
「じゃあ今日からは、土御門の家に行くのか?」
「……本来はそのつもりだったんです。ですが」
アーシアは上目遣いで上条を見る。上条はその視線にたじろいだ。
「な、何でせうか?」
「私をここに住まわせていただけませんか?
もちろんただでとは言いません。月々お金は払いますし、食事や掃除等の家事も致します。ですから……」
「待て待て!土御門の家じゃなくてなんでうちなんだ!?うちは貧乏だし、家もそんなに広くないぞ?土御門の家のマンションよりは広いけど……」
聞かれて、アーシアは言い淀む。手を絡めて遊ばせながら、小さく呟いた。
「とーまさんなら、守ってくれそうな気がするから……です」
上条は、それを聞いた。
「……俺は、土御門みたいに強くない。守るなんて、そんな器用な真似はできない……けど。
アーシアがどんな危機に襲われても、絶対に助けてみせる。どれだけボロボロになっても、幻想殺しがなくなっても、俺がこの手で守ってやる」
我ながらキザな台詞だ、と上条は心の中で自虐する。アーシアは後ろを向いて小さく震えている。優しいアーシアさんは笑いを堪えてくれているのだと思うと、それはそれで悲しい上条なのであった。
「うちは家賃なんてのは別に必要ないぞ……あ、でもこの家に住むには父さんの許可が必要だから、ちょっと待っててくれよ」
上条は家の電話を使い、連絡を取る。十コールほど待ったところで、電話が繋がった。
『はいはい、こちら証券取引対策室、上条刀夜です……この電話番号は当麻で間違いないよな、ふつーに口走っちゃったけど他の人にもし違ったら割と一大事なんだなこれが!!』
「安心してくれ、父さん。今日は確実に俺だから」
父、上条刀夜の声を聞き、一先ず安堵する。しかし、あっち側はそれどころではなかったようだ。
『そうか、それなら良かった。とりあえず一安心だ。この電話が終わったらこの電話機はスクラップにしてくれると嬉しい』
言い終わらないうちに、刀夜の声が電話機から離れた。神経を耳に集中させて音を聞き取ると、どうやら父親はお小言を言われているらしかった。
しばらくして再び電話に出てきたのは母、
『当麻さん、お久しぶりね。刀夜さんから電話を受け取りました。その電話機は今後とも末永く暮らしますから、壊さないように』
「わかっております、お母様」
いつもより少し低いトーンの声を恐れ、上条当麻は早々に本題に入る。
「今、学校に留学しに来てる女の子がいるんだけどさ。その子の家にするはずだったマンションが潰れちゃって、代わりの家が見つかるまでうちで泊めてあげたいと思うんだけど」
『あらあら。それならクラスの他の女の子が泊めてあげるのが筋ではなくて?男の子の当麻さんが、なにより外国語が全くもって不出来な当麻さんが宿舎として我が家を提供するのはおかしいわ。
あら、刀夜さん。何か言いたいことでも?自分も昔同じような状況になったことがある?あらあら、これ以上私を怒らせてどうするつもりなのかしら?それともどうされたいのかしら?』
バシバシと破裂音が連続して聞こえてくるので、上条は「とにかくそういうことだからーっ!」と早口で言って受話器を優しく置く。折り返しの電話がかかってくるが上条はスルーした。急に切られた事や電話を取らなかった事への怒りは、父親がうまく抑えてくれるだろう。
「……どうでしたか?」
訊いてくるアーシアにオーケーサインを出しながら、上条は
頭を捻らせた挙句考え続けても仕方がないという結論に達した上条は、切り替えてアーシアに上条家を案内する。一階のキッチンや風呂を見せたあと、二階へと移動した。自分の部屋をチラッと見せ、客が来た時に泊まれる用の部屋に案内する。父の刀夜は外国から帰ってくる時に部下や現地で知り合った者を一緒に連れて来ることがあるため、客用の部屋は用意されていた。
「あとは俺の向かいの部屋が父さんの部屋で、奥にあるのが母さんの部屋だ。俺の部屋とその部屋以外は出来るだけ入らないようにしてほしいな」
上条のお願いにアーシアは頷いた。
「あれ?ではここはどなたのお部屋なんですか?」
アーシアはふともう一つの扉を見つけた。客用寝室の向かい、上条の部屋の隣にもう一つ、扉があったのだ。
「そこは物置だ。結構中が散らかってるから近づかないように」
「私が掃除しておきましょうか?」
「あー……違うんだよ。別に汚いわけじゃないんだ」
言って上条はその部屋を開ける。
部屋の中には像や人形、ぬいぐるみや旗、生き物の標本など様々なものが置いてあった。
「どれもお守りだよ。父さんが外国に仕事に出る度、買ってくるんだ。
そっちの像が家内安全、そこの旗は開運祈願、隅の方にある虫の死骸は幸運のお守りなんだってさ。毎回土産として沢山買ってくるから、置き場に困ってとうとうお守り用の部屋を作ったってわけだ」
そして最後に庭を見せようと外に出る上条。ドアを開けると目の前に大きな段ボールが落ちていた。
「風で飛ばされて来たのか?それとも宅配便?まぁいいや、潰して捨てなきゃ……」
段ボールを開くとその中には、太り気味の三毛猫が。
後ろの聖女サマがこの小さな命を放っておくとは思えない。さらに増えるだろう生活費と、さらに困難になった母親への弁明に、上条は頭を悩ませた。
次回、○○さんのお宅訪問。
今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!