ハイスクールI×B   作:兵太郎

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原作のアーシアは日本語が全然わからない&社会常識ゼロなのにわざわざ日本に来させるレイナーレ様は本当に鬼畜だと思います。

あのエロい衣装大好きです。


恵み

涙目になりながらも潰れたパンを食べようとする少女を上条は慌てて止める。彼は少女を家の中に入れてやることにした。不審者等の危険はなさそうだと踏んでの行動だ。こんな斬新な方法を使う美人局がいるとは考えたくもなかった。

 

「なんかあったかなー」

上条は冷蔵庫の下の野菜室を開く。上条家の冷蔵庫の冷蔵室は基本的に調味料と飲み物の居場所である冷蔵庫なのだが、その下の野菜室の中身はパンパンである。もやしやニンジンなど、安い野菜がところ狭しと入っている。これは思春期男子高校生上条当麻がベジタリアンというわけではなく、肉を買うお金があるなら少しでも緊急用に取っておきたいという貧乏性のせいだ。

また、不幸体質への対策の一種でもある。家のローンもなく電気代や水道代、ガス代などは両親がATMで直接払っているものの、いつ仕送りできなくなったメールが来るかわからないため、また昨日のように財布をなくしたり、銀行のカードを粉砕してしまうこともよくあるので、できる限り金は取っておきたいのだ。生活代金とは別に頂いている仕送りを切り詰めている上条にとって、肉というのはなかなか手に取れないものだった。

 

「余り物で悪いけど、食べてくれ。あ、日本食は大丈夫か?」

少女の前に置いたのは、もやし炒めと白米、インスタントの味噌汁。上条の朝食だ。朝は大体これかスクランブルエッグが並ぶ。

「大丈夫、です。とても美味しいそうです」

少女はそう言うと両手の指を交互に握るようにして手を重ね、外国語を発する。何と言っているかは到底理解できないが、食前のお祈りをしているのかな、と言うことだけは馬鹿な上条にもわかった。

食事のお祈りが済むと、少女はスプーンとフォークを握る。フォークで器用にもやしを掬うと、パクッと一口。

「!……美味しい、です!」

そう言って微笑んでくれる少女に、上条も破顔してしまう。

少女はフォークとスプーンを品良く動かし、その手は食事が終わるまで止まらなかった。食後のお祈りをし、その間に上条が入れたお茶を飲んでほっと一息ついた少女は口を開く。

 

「ご好意ありがとうございます。私は、イギリス清教のアーシア・アルジェントです。今回、教会の手助けと布教のため、日本に来ました。日本語も勉強しました。伝わってますか?」

「ちゃんとわかってるよ。ていうか俺、日本語しかわからないし」

「母国語を大切にされているのですね!」

「あー……そうとも言えるかもな」

少女…アーシアのポジティブな解釈を上条は受け取っておく。何も自分から評価を落とすことはあるまい。

 

それにしても、と上条は考える。

(彼女はシスターさんか……なるほど、そう言われれば確かに服もそれっぽいし、胸には小さな十字架ぶら下げてるな)

アーシアのたわわな胸の上にちょこんと置かれるような形で、銀の十字架が淡く光っている。十字架と言えば世界で最も多く信仰されている、十字教のシンボルだ。

「で、そんなシスターさんが何故私の家のベランダに引っかかってらっしゃったのでせうか?」

「はうぁっ!?」

ビックゥゥゥウウ!!とアーシアが過敏に反応する。聞かれたくない話題なのかもしれないが、上条としては聞かねばならない。

彼女は目を逸らし、人差し指を突き合わせて口を紡ぐが、上条がじっと見つめ続けると段々と冷や汗をかき出した。そして一分ほど経っただろうか、ついにアーシアは観念して口を開いた。

「あまり一般の方々には言うなといわれているので、この事は内緒にしてくださいね。

 

私は今、堕天使に追われているのです」

「だてんし?」

「堕天使というのは、聖書などで出てくる天使の中で、何らかの罪を犯して追放された方々の事を言います。有名どころで言えばアザゼル総督などですね」

 

上条はさらに喋ろうとするアーシアを制止し、尋ねる。

「天使?堕天使?はぁ、なんじゃそりゃあ!ありえねえっ!ここは創作の世界じゃない!そんな奴らがいるわけない!」

「いるんです」

アーシアはまっすぐ、上条の目を見て言った。断言した。

 

「天使も堕天使も、悪魔も魔法使いも、吸血鬼も妖怪も、そして主もこの世には存在します」

唖然とする。言葉が出ない。何を言っているか言葉では理解できた。それでも理解したくなかった。

「な、何か証拠とかないのか?何もないんじゃ信じられないぜ、そんな非科学的なもの……」

「今挙げたような大勢の種族、その中でも人間は最も弱い生き物だと言われています。我らが崇める主はそれを憐れみ、人間にある力をくださいました。私もそれを持っています」

 

アーシアの両手が、緑色に淡く光る。

 

神器(セイクリッド・ギア)。神が伝えた異能の力です。人によってその力も異なるのですが……私の神器は聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)と言って、他者を回復させることができます。先程私を庇っていただいた時の怪我も、この神器で治させていただきました」

先程の落下を思い出す。猛烈な痛みがスッと引いていったのは、身体が痩せ我慢しているのかと思ったが、そうではなかったらしい。

「……動物も植物もいろんな種類がある世界だし、天使や堕天使がいる事は信じるよ。そのなんとかギアも見せてもらったし。それで、なんでそんなアンタが堕天使に追われるハメになったんだ?しかもこんな街で」

アーシアは目線を下にやると、自分の胸元にある十字架を小指で撫でた。

 

「彼女達は、私の神器を狙っているのです。この神器があれば、更なる高みにたどり着ける、と……」

高み……上条がそれについて考える前に、家の固定電話から無機質な音が流れる。それは上条が受話器を取る数秒前に鳴り止み、代わりに電話機から担任教師のあどけない声が聞こえてきた。

『上条ちゃ〜ん?またお昼寝中ですか?それとも厄介ごとですか?上条ちゃんには絶対に来てほしかったのですけど、来れないなら来れないで連絡を入れてくれないと、先生困ります!これを聞いたら、返信をくださいねー!』

 

「……」

やっベー忘れてたー!!と上条は頭を抱える。そういえば今日は担任直々に補習授業をしていただけるありがたい日だった、と上条は思い出す。

 

しかし、このままアーシアを置いていくわけにもいかない。彼女を放り出してまた堕天使に襲われたりしたら、それこそ後悔しかねない。

では学校を休む?それはダメだ。上条当麻は馬鹿である。このままでは留年、下手したら退学の危機である。担任の好意を踏みにじるような真似は、自殺行為そのものである。

となると……仕方がない。折衷案である。

上条は今日使うであろう教材を素早く学生鞄に入れると、アーシアの前に右手を差し出す。

「……?」

アーシアはその手を見て、自分の手を重ねた。

 

その手を上条は引っ張って立たせると、玄関に向かって走り出す!

「え、えぇ!?なんですかツンツンさん!?私はなぜ引っ張られてるんですか!?」

「ツンツンさんじゃありません上条当麻と申します!ちょっと用事があったけどこのまま放置もできないから、シスターさんにはこのままついてきてもらいますのことよー!!」

 

うわははははー!と笑う上条とあーれーと連行されるアーシア。これが時代劇なら颯爽とお偉いさんが現れバッサバッサと敵をなぎ倒す展開なのだが、ここは江戸時代ではない。周囲の者達も二人の笑顔を見て、ふざけているだけだと結論付けたのだ。

 

 

 

 

 





次回はお馴染み三馬鹿の残り二人が登場します。

今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします!

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