ハイスクールI×B   作:兵太郎

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突然現れた龍の頭に、ライザーは思わずたじろぐ。

古来より龍族は巨大な力と恐怖の象徴。天使・悪魔・堕天使が初めて手を結んで戦い、その上で旧魔王を仕留め、全勢力に多大なダメージを及ぼした二天龍。数々の伝説を持ち未だ現役の五大龍王。凶悪な気質を持ち、肉体を滅ぼされ魂を幾重にも刻んで封じないとその存在を抹消できないという邪龍。そして、龍の神と圧倒的なまでの力を持つ存在として恐れられる。

 

その龍が、人間の肩口から飛び出した。その理由(タネ)をライザーは考える。神器、魔法、もしくは他能力で作られた偽物……

が、思考がまとまるよりも早く、淡く鋭い眼光が彼に狙いを定め、巨大な顎を極限まで大きく開き、ライザーに向かって龍が迫り来る!

 

「…っ!?舐めるなっ!俺は不死鳥、炎と風と命を操るフェニックス!

右手を切断した際に残っていた搾りかすをいくら濃縮しようと俺には効かん!くたばれ!!」

 

弩を作り、大きく開いた口の中に炎の槍を放り込むライザー。しかし炎の槍は牙に触れた瞬間に消え失せた。二の矢三の矢とライザーはひたすらに槍を放つが、龍は歯牙にもかけない。ついに龍は間近に迫り、ライザーは観念して翼を広げ、宙に逃げる。首は器用に進行方向を曲げ、ライザーを狙ってひたすらに迫る。

 

「こちらを狙うのはいいが、自分の守りがお留守だぞ!喰らえ!」

 

ライザーは龍の頭から逃げながらも再び火球や火の鳥を作り、上条に飛ばす。しかし見えないバリアが張られているかのように、火は上条にある程度近づいた途端弾けるように消えていく。

 

そして、ついに。

 

 

「ぐ、おおおおおおおおお!?」

 

ライザーに龍の頭が追いつき、その顎が閉じられる。とっさに翼を畳み重力を使って避けようとしたライザーだったが、欲を出した。

炎を噴射し攻撃しつつ勢いをつけて逃げようと考え出した左手、それを龍に噛みつかれる。

 

 

「っ!……?痛みがない?」

 

 

左腕を噛みちぎられた。ライザーは咄嗟に目を瞑る。しかし、先程幻想殺しで殴られた時のような新鮮な感覚はない。いつも通り、身体が軽くなっただけだった。

 

「ふ、ふはははははははは!なんだ驚かせやがって!やはり右腕を失ったことで、右手の威力は落ちている!俺にダメージを与えられないとはな!この立派な見てくれの龍も、追尾性能と見た目だけのお飾り……」

 

 

左腕の跡を見て、ライザーは気づく。気づいてしまう。

 

今まで再生というのは、無意識的に行なっていたことだった。腕をもがれても、顔を抉られても、心臓を穿たれても、そうなったと考えるよりも先に身体が再生していた。

 

そして現在。

 

欠けた左腕は、生えてこない。

 

いつまでも、蘇らない。

 

空を飛ぶため翼を広げるが、バランスが取れず屋上に落ちる。左右のバランスが保てない。

 

「……不死鳥の俺が……」

 

 

不死鳥の優位性、不死身の身体の性質は無効化された。炎も全て掻き消される。ライザーは自身の中で確定していた勝利の道を、根本からひっくり返された。そういったことは未だかつて、一度たりともありえないことだった。

 

ありえない可能性。それを作り上げたドラゴン。龍の頭が三度迫ってくるのを見て、ライザーは動けない。

 

「だ、誰か!助けてくれ!ユーベルーナ!!レイヴェル!!兄貴!親父!!

 

誰か!誰か」

 

 

竜王の顎が不死鳥の上半身をまるごと呑み込んだ。

 

静まる屋上。その中で固唾を呑み込む音と共に、最後のアナウンスが流れた。

 

『ライザー様の撃破(テイク)を確認。この勝負、リアス様達「グレモリー眷属」の勝利でございます』

 




上条当麻はベッドの上で、ギプスに固められた腕へと視線を落とす。完全にくっつけるために固定しているという右腕は、レーティングゲームが終了した直後にグレイフィアが所持する『フェニックスの涙』によって接合された。切り離されてからの時間がそんなに経っていないために、特段後遺症や違和感もなく腕をくっつけることができたのだ。驚異の治癒力に改めて舌を巻く上条だった。

「はい、あーん」
リンゴの皮をナイフで器用に剥き、小さく切って口に運んでくれるのは木場祐斗。男じゃなければ幸せな気分に浸れるのに、と思いながらも好意に預かり口でリンゴを受け取る上条。仄かな甘みが口の中にじわりと広がる。

「トウマ君の活躍、ここで見てたよ。あの時は置いていってしまってごめん。そして、最後の最後まで部長を守ってくれて、ありがとう」

木場の感謝に上条は慌てて答える。

「や、やめてくださいよ。もともとこの戦いは俺が引き起こしたモノだし、最後だって相手がビビってなきゃ燃やされてました」

ライザーの身体は上半身を喰われたのち、すぐに再生した。上半身も、左腕もだ。

『おそらくだけど、ライザーの腕がすぐに戻らなかったのは、ライザーが腕から出てきた龍に恐怖したからだと思うわ。
不死鳥の回復能力というのは本人の気分によってその速度が大きく異なるの。戦闘時で興奮している時なんかは、一瞬で傷が癒え身体が再生する。その逆もまた然り。ライザーの腕の回復は恐怖によって押し止められていたはずよ。ドラゴンの恐怖というのは、それだけ広まっているということね』

リアスはライザーの左腕が一瞬再生しなかった理由について、こう考察していた。
ライザーが龍にビビってさえいなければ負けていたのは自分だ、という事実を多めに巻かれた包帯を見て上条は今更ながらに実感する。

「それでも、言いたいんだ。君が最後まで戦ってくれたから、部長は婚約を破棄されて、自由になれた。僕達も大好きな部長を遠くに行かせずにすんだ。部長も他のみんなも、君に感謝してるよ」

木場の真摯な眼差しに照れくさくなり、上条は目を逸らす。

しばらく無言の時間が続いた。リンゴの皮を剥くしゃりしゃりという音が小気味よい。

再び口を開いたのも、木場だった。

「トウマ君の右腕から出てきた龍。あれは一体なんなんだろうね?」

上条はその問いに答えられない。オカルトと出会ったのもつい先日の上条当麻には、自身の身体の中から飛び出した龍について想像もつかない。それでもない知識を絞って唸る上条を見て、木場も考えを話す。

「龍の力を持つ神器は有名なものが多く存在するんだ。その所持者の力を二倍にする『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』や五大龍王の一角、ヴリトラの力を宿した『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』、それに二天龍の力を封じ込めた二つの『神滅具(ロンギヌス)』……

でも、そのどれも龍を召喚するものではない。龍……ドラゴンは人や悪魔の常識を超えた存在なんだ。それがなぜ君の体内から飛び出したのか、それとも今も中にいるのか、そして生きているのか、全て謎のままだね」

あの時右腕から飛び出した龍は、試合が終わった瞬間に消えた。まるで幻想殺しに触られたかのように、一瞬で霧散したのだ。そのあとはどこに消えたかわからない。

「でも、大丈夫ですよ。腕を切られるようなことがない限り、あの龍が生きてても出てきたりすることはないですから!だから考えるのはやめましょう!わからないもの考えても疲れるだけ!」
上条が強めに言うと、釣られて木場も笑う。
「……ふふっ、確かにその通りだね。リンゴ、もう一つ食べるかい?」
「お願いします!」
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