ふと目が覚めた時、私は荒野で倒れていた。
状況を確認しようと記憶を振り返ろうとしたが、何も覚えていないことに呆然とした。
しかし、呆然としていながらも頭のどこかでこれは記憶喪失なのだと確信していた。記憶が無いながらも知識は失われていなかったが故に、そう判断できていた。
状況がわかっても今いる場所も、何をすればいいのかもわからなかった。この時になってようやく自分の服装が、騎士の鎧を着ているようだと気がついた。
何故かを考えたが記憶が無いこともあって答えは出なかった。
すると、いつの間にか目の前に白い騎士の格好をした少女が居た。
「貴方、どうしてこんなところにいるのですか?」
そう聞かれた時、何故かはわからないがこの少女について行き、守らなければならないと心の底から思ったのだ。
「私が何故、ここに居るのか私にもわからないのです。しかし私は、貴女についていきたいと今思っています。」
少女はとても困惑した様子でしたがそれでも私のことを受け入れてくれました。
ーーーーーーーそれから数年後ーーーーーーーー
私は、彼女の名がアルトリア・ペンドラゴン、つまりはアーサー王であるのだとあの後少ししてから知った。
その後に私は王に、最も忠義の厚いものとゆう意味で『アーク・ロイヤルティ』と言う名をいただいた。
私が彼女の騎士になってから様々なことがありました。
円卓を作って騎士を集めたり、カリバーンが折れて湖の乙女《ヴィヴィアン》に聖剣と鞘を貰いに行ったり、同姓と結婚したり(これは性別を偽っていたから仕方が無いと思ってはいた)、さらには竜となったサクソンの王であるウォーティガーンと戦ったり、モードレッドが王のホムンクルスだったと告白してそんなことは知らんと言われたりと色々なことがあった。
私は殆どのことに関わってはいたかが、あまり戦うことが得意ではなく、王を守ることと民を助ける事を基本的に行ってきた。
私は王が心を殺して最小限の犠牲で被害を食い止めようとしているのがわかっていた。
しかし、そのことを知っている騎士はほとんどいなかった。
そのことに憤りながらも自分に出来るのは王と民を守り支えることだけだった。
しかも、王を支えると言っても自分は政治は出来ず、相談に乗ったとしても解決策を提示できないから王の心労は減らなかった。
それでも、少しは相談できる相手がいるというだけで心が救われていると、無理をしている顔で王は相談終わりに私へ言うのだ。その度に私は無力さを痛感するのだ。
何故自分に政治をする知識がないのか。
何故自分に戦う才がないのか。
勿論本を読み知識を得て政治を支えようともした。戦う才が無いのならばそれだけ努力すればいいと、剣をふり走り体力をつけたりもした。
しかし、それでも自分の頭では王の政治の役には立てず、自分の剣の腕はそこらの騎士より少し上までしか上がらなかった。
そんな自分だが、守ることだけには自信を持っていた。
それこそ円卓の騎士であるギャラハッド卿にも負けないほどであると自負しているし、王にもそう言っていただいた。
しかし私の体は一つでしかなく、王を守っている間は他身を守ることが出来ず、他身を守っている間は王を守ることが出来ない。
魔術に手を出そうにも国一番の魔術師であるマーリンは、胡散臭く信用ならないので他を当たろうにも、他に知っている魔術師は王の敵であるモルガンしかおらず、諦めざるを得なかった。
そうやって悩みを抱えながら日々を過ごしているうちに、ある時ランスロット卿と王妃であるギネヴィア様の逢引の現場を目撃してしまった。
そのことを王に伝えると、
「そのことは私も知っていました。私は彼女の女としての責務を果たさせてあげることも出来ないのですから、せめて彼らの関係ぐらいはと黙認しているのです。」
と、王は苦虫を潰したような顔で教えてくださった。
王が彼らを見逃しているのならば私もそれに従うことにした。
もしもこの時に戻ることが出来るならば、私は強く断罪を進言しただろうと確信できる。
ーーーーーーーそれから数ヶ月後ーーーーーーー
ランスロット卿、いやランスロットの糞野郎がギネヴィアと夜逃げしやがった。王は正直に浮気の事を言えば許し、さらには国から追放する形で幸せに暮らせるように準備すらしていたというのに。
確かにその事を言わなかった王にも非はあるだろう。 しかし浮気する度胸があるなら報告に来ると思っていても良いではないか。しかもあの糞野郎は糞野郎を止めようとした仲間を切り殺していきやがったのだ!その中には円卓の騎士も含まれていた。
さらに言えばその混乱の隙にモードレッドが反逆したのだ。
確かに親だと思っていた王にお前のことなど知らんと言われて怒るのもわかるが、限度というものがあるだろう。モードレッドは王になりたがっていた。ならばこのタイミングで王に反逆したこともきちんと考えてのことだろう。
もちろん許せるはずがない。
許してなるものか!
私は王と民の盾だ。しかし体は一つ。優先するものは既に決めている。
私は王の盾だ。
だが、それは民を見捨てるという意味ではない。ランスロットの糞野郎が仲間を切ったと報告が来た時には民をあらかじめ安全なところに避難させてあるのだ。故にこそ、私は王の盾として全力を尽くすのだ。
我らの城であるキャメロットの前には何千という騎士たちが押し寄せてきている。しかしそこに我らはいない。既に我らはカムランの丘へ移動していたのだ。それに気づいたモードレッド達は一斉にこちらに向かって進軍してきた。
「ここから先は維持でも通さん。私は盾。王の盾だ。」
私はそこで死力を尽くした。
何人もの騎士が切りかかってこようとも剣で、盾で受け流し、斬り伏せ、打ち倒し、押し返した。
それでも私は多くの傷を受けていた。腹を槍で突かれ、肩口を剣で斬られ、弓で背を射られた。
「この程度の傷で私は倒れん。私は死なん。ここを通すわけには行かんのだ!」
そう言いながらも私の体はもはや死に体、気合いだけで動いているようなものだ。
目はかすみ、腕は上がらず、脚は動かない。息をすれば血を吐き、傷から流れる血や汗で無理やり動かす脚も手も滑る。
それでも、それでもと、気合いだけで敵を倒していく。
「私は盾だ。グフッ、王に傷をつけるものを血がずかせるわけには、ハァハァ、いがんのだ!」
しかし、どれだけ気合を込めようとも体の限界がきた。もう立ち上がることも、ましてや膝をつくことすらできない。
しかも、私が倒した敵の中にモードレッドの姿はなかったと言うことは王の元に行かせてしまったのだ。
ならばどれだけ体が動かなこうが、這ってでも王の元へ行かなければと、カムランの丘の頂上へ這い進み始めた。
なんとかたどり着いた先では、王とモードレッドが相討ちになっていた。モードレッドはもう既に死んでいたが王はまだ生きていた。ならば謝罪をせねばと、私は王の元へ這い進んだ。
「ゴフッ、お、王よ」
「アーク!なんという傷ッ」
「私のことは、グフッ、良いのです。申し訳ありませんでした、王よ」
「なっ、何がですか?」
「私は、グッ、王の盾である筈なのに、貴女を御守り、することが、出来なかった。」
すると王はとても驚いたように
「貴方は十分に役目を果たしてくれました!貴方は剣がそれほど得意ではないというのに、何百という敵を倒してくれたではありませんか!」
それに対して私は
「そう言っていただければ冥土の土産にもなりましょう」
そろそろ流れ出る血も尽きてきたようだ。言葉がつまらなくなった。ふと、これまで心に秘めていたことを最後に行っておこうと思った。
「王よ」
「何ですか!」
「私は貴女の事を娘のように思っていました。」
「えっ」
王はとても混乱した様子でしたが私はそのまま言い続けました。
「初めてお会いした時に貴女の事を守らねばならないと感じていました。」
「何故かなのかをその時はわかっていませんでしたが、
あなたに仕えているうちに、これは自らの子供に向ける心配に近いのだと、街や村を見ていて確信しました。」
「勿論これは私の身勝手な思いですから何もお返しなど求めてはいないのです。」
「ただ、そうゆう様に思っていたのだと知っていて欲しかったのです。」
もう私はほとんど体の感覚がなくなっていた。それでも言いたいことを言えた達成感を覚えていた。それが身勝手な思いだろわかっていても。
「王よ、もう私は限界の様です。どうか、どうかアヴァロンで安らかにお眠りください。」
そう言い切って意識が消え去る間際、王の泣き声を聞いたような気がした。