PHANTASY STAR ACCELERATION 作:ポピュラー
原作:PHANTASY STAR ONLINE2
タグ:R-15 残酷な描写 PHANTASY STAR ONLINE PSO2 キリーク キリークさんマジキリークさん クハハハハ! ソウルバニッシュは絶対くれない キャラ崩壊
またVITAで新しいタイトルが出ると聞いて、いてもたってもいられなくなって書き上げちゃった。下手くそなのに。
連載はしない。でも続きは見たい。
という訳で誰かこれの続き書いて、超書いて。
書いてて思った。全然キリークさんじゃねぇ。
全国の『キリークさんに斬られ隊』の方、すみませんでした。
辺りは薄暗く、光源は僅かに光る石柱のみ。日の光は届かない地下の遺跡に男はいた。
スラリとした細身の身体に、紫色の丸いフォルム。男は、『キャスト』と呼ばれる種族であった。アンドロイド、と呼べばイメージが湧き易いと思うが、その進化型とも言うべき種族である。故に、男の身体は全て金属・機械で出来ていた。
種として認知された機械。思考能力はヒューマンのそれを遥かに超える。自意識もあり、他種族と結婚している者も少なからず存在している。
基本的にキャストの性格は穏やかで、誠実だ。自分から争い事を起こさないし、約束は守る。下手な人間よりかは信頼の置ける隣人である。
だが、ごく稀に異常な思考を持って生まれるキャストもいる。
遺跡にいるこの男もそうだ。
残忍で凶悪、戦いを楽しむ戦闘狂。あらゆる手を潰し、確実に相手を屠るその姿から付いたあだ名が“黒い猟犬”。
常に犯罪者のトップに君臨。どのような姿をしているのかすら、身内以外に知る者はほとんどいない。
その男が今、
足元には言わずもがな、二十人弱の死体。浮かべている表情は様々だが、穏やかな表情をしたものは一つもない。
全て、男が手を掛けた。その事実に、猛り狂っている“ナニか”が更に訴えてくる。戦闘狂と自覚していた男でさえ感じた事のない気分。簡単に表すなら、胸糞悪くなってくる。自分が好きな殺し合いに身を浸していながら、男の気分はすこぶる良くて、最悪だった。
相反する二つの感情。それが同時に湧き上がる。本来ならばありえない事だ。そう、本来ならば。
二つの内の一つ、負の感情。最悪な気分だった。これが男の本来の感情である。
もう一つの正の感情。すこぶる機嫌が良い。我を忘れるほどだ。しかし、その感情を僅かに残っていた理性が否定する。何だコレは? と。
思えば、この遺跡に入ってからだ。男は狂っていない機能を全力で思考に回す。身体の制御は最早効かない。遺跡の中を徘徊し、動くものを見つけては襲い掛かる。その姿に“黒い猟犬”と言われた鋭さは残っていない。狂犬病に罹った獣のように、見境なく襲い掛かっていく。
身体を制御しようとする。その都度、“ナニか”によって阻まれる。
男は自身の姿を見て、既視感を覚えた。見境なく襲い掛かるこの不可思議な現象。この惑星にいる原生生物と似通っていた。アレらも確か、男が来る前の報告では大人しい性格の筈だった。
もしや自分の身体に原生生物と同じ症状が出たのではないか。そんな突拍子もない思考に思い至る。その考えは、あながち間違っていなかった。この症状はダークファルスによる意識の浸食によって引き起こされるのだ。今の男にそれを知る由もないが、長く培ってきた直感で薄々と気付いていた。
自分の中に別の何かが入ってきている、と。
――気に入らねェ。
己の中で悪態を吐く。気に入らない。自分の中に入ってくる“ナニか”も、その“ナニか”に好き勝手にされている自分も。
なんという体たらく。長い間格下としか戦わなかった事で腕が鈍ったのだろうか。惑星コーラルに居た時には絶対にこんな醜態を許すはずがなかったと、男は断言出来る。
ならやはり、腕が落ちたのか。それとも、ここが限界だったのか。男には分からない。
思い返せばこの惑星ラグオルに来てから、何もかも失っているのではないか。ゾーク、フロウウェン、ドノフ。男と同じ時代を生き抜いた最高の獲物たちは、ここで全て散っていった。男が恋い焦がれた戦いを求めれる存在が、全て。獲物を求めて来たというのに、その獲物が目の前で勝手に死んでいく。
そして今、自身も狂った畜生の如き醜態を晒して“俺”という個が失われていく様。今の男に辛うじて出来るのは周りの風景が見える位で、その風景も見ていると気分が悪くなっていく。
いっそ自壊して果ててやろうか、という考えが頭に浮かぶ。組織として活動する際、なにがあっても情報を漏らさない様、男の様なキャストには全て“自壊システム”が組み込まれている。組み込まれた時には、使う必要な事などありはしない、と思っていたが。最後の最後で役に立つらしい。実に、下らない。
そう思いながら、男はシステムを発動させようとして――――出来なかった。
「……キリーク、さん」
呼びかけられる。目の前には少女が一人立っていた。
男はこの少女を知っている。少し前の事。共に依頼を受け、筋が良かったから獲物にしてやると言ってやった新米フォースであった。
笑みが零れる。口など無いので歪みはしないし、乗っ取られた身体で声も出せないが。
それでも。
クハハハッ!!
笑ってしまう。男は思い出した。そう、まだこいつが残っていたな、と。
何の因果か、少女の傍らには、その依頼で助け出したあの青年ハンターの姿もある。その二人は何と、この浸食を受けていなかった。
男の様に狂っていない。その目は、初めて会った時とは比べるべくもない程力強い。それだけで男は全てを悟った。
こいつらは俺を超えたのだ、と。そして、更に“ナニか”を超えようとしているのだ、と。
その二人が、今男の前に立っている。立って、男を止めようとしている。
なんと幸運な事か。なんと幸せな事か。最早有り得ないと思っていた機会を、この二人は最後に男に与えてくれようとしている!
「クハハハ歯覇ァhア葉は吐破hahahahaッ!!」
男はそれに応えた。
挑まなければならない。
身体だけでは駄目だ。自分の意思で。自分の技で。
自分の全てを使って応え、遂に男は、
「来イッ、○○ッ○ァァァァァァァァ!!」
浸食の意思を――超えた。
それからの時間は、男にとって至福の時間となった。
血も湧かず、肉も踊らない。当然だ、全て機械なのだから。
でも何故か、男の身体は熱くなっていった。
体の芯から熱くなってくる。男には初めての経験であった。排熱では取れないこの熱を、男はこの時初めて知って、感じた。
終わりは近い。
振るう鎌に力が、鋭さが増していく。それは時間と共に激しく、高くなっていく。切っ先は既に音を越えて、光の様な速さを持って少女に襲い掛かる。
しかし少女もさるもの、そんな男の鎌を僅かな動きで躱し、法撃を放つ。
端で倒れている青年ハンターは、その二人に魅せられていた。どちらも全く無駄のない動きで立ち回り、いなし、躱し、得物を振るう。極めた者の戦いは舞の様に美しいとよく言うが、この戦いはそれすら超越し、最早大自然の美しさに匹敵する。雄大でいて、穏やか。鋭さや丸さ等の全ての美しさが内包された自然だ。
しかし、それも無限には続かない。この終わりが迎えた時、立っているのは果たしてどちらか。青年にそれを知る術は無い。
鎌が振るわれる。生物としての限界を超えたソレは、人知を超えた少女の法撃によって受け止められる。
踏み越えた者同士の戦いは、ここで大きく動いた。
少女のロッドが粉々に砕かれる。この戦いで限界を迎えていたのだ。
男の鎌は、未だ顕在。そして、この戦いで武器を持ち返る時間は無いし、与えるつもりもない。
終わりだッ○○○ァァァ!!
叫び、石の地面を踏み込んで、鎌は遂に命を刈り取る為に振るわれた。
その時、男は見る。少女が新たに武器を持っているその手を。
お互いの視線が交わる刹那の瞬間。時間が止まる。男は少女を見て、少女は男を見た。その時の少女の顔を男は見て、嬉しくなった。
そして、
『――――――――――ッ!』
体が交差する。終わった、青年は辛うじてそれだけが分かった。
しかし、どちらも動かない。呼吸の音すら聞こえぬ静寂が辺りを覆う。どちらも立っている。もしや、引き分け……いや、相討ちなのか。
秒が分にも感じられる。これでは、見ている青年が疲れてくる。クソ、と悪態を吐いて無理矢理身体を動かそうとしたとき。
ドサリ。
たったそれだけの音が、響き渡って耳に入る。まさかそんな、と目の前の光景に青年は両目を見開いた。
男が少女を抱き抱えている。少女は力無く、意識が無いかの様に男にもたれ掛かっていた。
最悪の想像が青年の頭を過る。
「キリー…ク、さん……?」
しかしそれは、少女から発せられた声によって掻き消えた。ホッと安心して、キリークを見やる。
胸が、抉れていた。
えっ? と驚く暇も無く、何かが落ちた音が聞こえた。見ればそれは、セイバーの柄の部分であった。そして、少女が最後に選んだ武器でもあった。
少女も、男も、ボロボロだ。服には血が大きく滲み、パーツは剥がれかかっている。それでも、少女に大きな怪我はなく、男は胸を大きく抉っていた。
この戦いを制したのは、少女だった。
男の方も、先ほどまで放っていた殺気は鳴りを秘め、鎌も切っ先を地面に突き立たせている。戦う意思は、もう無かった。
喜ぶべきことだろう。男の暴走を止め、少女が無事だった。しかし、青年の中にはやり切れない思いがこみ上げてくる。青年は一度、男に助けられている。その時に青年に見せた男の強さは、青年を畏怖させ、目標とさせるには充分だった。結果相対してしまったが、それでもこの結末は避けられなかったのか、と思わずにはいられなかった。
「今回は、お前たちの勝ちだ」
男から、言葉が放たれた。他のキャストにはない威圧感が未だ籠っていた。普通のキャストならば、この時点で機能を停止させているはず。やはり他のキャストとは一線を画した存在である。
足元から煙の様な何かが現れる。ダークファルスが男を取り込もうとしているのだ。しかし、まだ少女が男にもたれ掛かったままだ。そのままだと巻き込まれるかもしれないと、それを見た青年は舌打ちすると身体を這って男と少女に近付こうとして、
「受け取れ」
「え? ……げふぅ!」
「きゃあ!?」
ポイっと。受け止めていた時とは打って変わって乱暴に、少女を青年に向けて放り投げた。突然の暴挙に驚く二人を一瞥して、男は最後に言い放つ。
「今回は、だ。預けといてやる。だが次遭った時は……今度こそ狩ってやる」
男のその言葉に呆然とする二人を見て、小さく笑った。
「クハハ!」
そこから、男は二人から目を離した。次は狩ってやると言った手前、強くならなければならない。男の眼には、既に次の獲物が映っていた。
男の中に入り、今も取り込もうとする“ナニか”。これが次の獲物であった。あのような醜態をさせられた怒りもあって、鎌を握る手に力が入る。
不思議と負ける気はしない。負けて、良いようにされたのは過去の自分だ。
しかし、今の自分ならば。あんな事にはならないだろう。自信がある。否、確信がある。
突如、視界が朧になる。水面の様に遺跡が揺らめいて消えていく。
その時、少女が何かを叫んでいる声が聞こえた。揺らめく風景が、それを阻むかのようにして言葉を伝える事はなかった。だが、心は伝わってきた。そんな感じが、した。
「――フン、俺が心などと……」
思い出すのは、一人の女性キャスト。マグと会話が出来、限りなく人間に近い意思を持ったアレはよく言っていたと思う。
アレに心があるのなら、俺にも心はあるのだろうと、男には理解出来ないが、そう思えた。
闇が襲い掛かって来る。再び男を染め上げようとして、飲み込もうと口を開く。
男はそれに嬉々として向かい、鎌を振り上げた。
何はともあれ、取り敢えず難しい考え事は目の前の獲物を狩り尽してからだ。
「クハハハハッ!!」
男は鎌を振り下ろして、闇を斬り捨てた。
惑星ナベリウス。元々文明が存在しなかったとされ、気候のせいか緑豊かな惑星である。原生種がいる他には殆どの脅威が無かったので、アークスの訓練や試験によく使われていた。
その惑星が今、阿鼻叫喚に包まれていた。
原因はダーカーと呼ばれる、正体不明の存在。どこから現れどうやって増えているのか等、重要となる情報は殆ど分かっていない存在であるが、このダーカーに対して分かっていることが二つだけある。
一つはアークスの、生物全ての敵であるという事。もう一つは、様々な物に浸食するという事。
つまり出現すればこれを素早く討伐する。しなければ、原生種や機械が浸食されダーカーとなって襲ってくるのだ。例外としては、フォトンに守られているアークス位だろう。だからこそアークスが存在しているといっても過言ではない。
しかし、言うほど簡単にはいかない。ダーカー一体の力はさして強くない。しかし、それが二十、三十という数になれば話は別だ。物量を持ってダーカーは襲い掛かって来る。それがアークス達の常識だった。
そして今、ナベリウスにいる殆どがアークス“見習い”。正式なアークスとなるために試験を受けていた所である新人だ。そんな実戦経験も禄に無い彼らが大量のダーカーに対応出来るはずもなく、
「うわぁぁぁっ!」
「た、助け――――ひぃぃ!?」
「いやぁ! 誰かいないの!? この人が、この人が!」
結果、ダーカーに群がられ殺されていく。新人達は半狂乱となりながら逃げまわっていくか、武器を振り回していくだけだった。
ベテランのアークス達が向かっているが、ナベリウス全体で突如起きた混乱によって対応が遅れていた。直ぐに向かったアークスもいるが、強力な個体も多数出現して中々動けないというのが現状だった。
しかし、新人の中にも“出来る”者がいた。
「あ、相棒。こっちにもいるぜ!?」
「アフィン、こっちの方に行こう。まだ数が少ないし」
「よっしゃ、やってやる!」
ダーカーの囲いを潜り抜けて走る二人がそうだった。相棒、と呼ばれた少女が大きな火球『フォイエ』を放ち、アフィンと呼ばれた少年がライフルを構えて撃つ。そうして出来た隙間から素早く潜り抜けると、二人はダーカーの姿が見られない方へと駆けていく。
二人はこれを何度も繰り返していた。正確に言えば、そうせざるを得ない、だが。
至る所でダーカーが出現し、逃げた先にダーカーの群れが溢れてくる。そこに際限など無いかのように。
逃げている途中でまだ生きている者もいたが、助けられない状況だったり、目の前で蜘蛛の様な足で貫かれる等、二人ではどうしようもない状況だった。
そして、他人の心配をしている暇も無くなっていた。二人の所に多数のダーカーが集まり始めたのである。止まっていては直ぐに襲い掛かって来る大群に、二人は知恵を絞り必死に逃げる。救援に大勢のベテランアークスが向かったと聞いた二人は、救援が来るまで何としても生き延びようと決心したのだ。
その報告から既に十分程経過している。もうそろそろ来てもおかしくないだろう。依然として気は抜けない状況だが、気の持ちようが違ってくる。
「ハァ、ハァ……。ここまで来れば、少しは休めるかな?」
「ゼェ……ゼェ……、相棒は、大丈夫、なのか?」
「少なくともアフィンよりはね」
膝を抱え肩で呼吸しているアフィンに、力瘤を作る要領で腕を曲げて伝える。少女も肩で息をしているが、確かにアフィンよりは体力が残っていそうだった。
「あー、俺も鍛えなきゃいけないな」
「アハハ、頑張ってね」
「うう、チクショー。なんか見下されてる感じがするぞ」
話している間に少しだけ気分が持ち返る。こんな状況でもこういう気分でいられるのは、偏に相棒のお蔭であると、アフィンは感謝していた。もしこの時少女以外の奴が相棒だったなら……半狂乱になった後、直ぐにダーカーに殺されていたかもしれない。生き延びていたとしても、生きた心地を感じずに震えていたはずだ。
少女と一緒だったのは幸運だった。適当な抽選だったが、今思えば一生分の幸運を使っていたのではないだろうか。それはちょっと微妙に困る。
「ん? どうしたの、アフィン」
「いや、何でもねぇよ。そろそろ行くか」
「うん。そろそろダーカーが出て来るかもしれないし、行こう」
お互い確認し合って立ち上がると、少し広い場所へと向かっていく。そろそろ救援が来るだろうという当りをつけて、見つけやすい場所が良いだろう、と判断したからだった。
「ここら辺なら見つけやすいだろ?」
「そうだね。丁度ダーカーもいないし、今は大丈夫……かな?」
比較的切り拓けた場所へと出る。丁度そこにダーカーは見られなかった。草葉の中で息を潜めながら、救援に来たアークスを待つ事になった。長く一か所に留まりたくない二人であったが、こればかりはしょうがないと割り切るしかない。森の方へ逃げれば、救援に来たアークスの目から零れてしまう可能性が有ったし、今の状況では陰からいきなり襲われることも有るだろう。隠れる所が多い森なら尚更だ。
なけなしのモノメイトを使い、何があっても直ぐ動ける様それぞれの得物を構えて潜む。先ほどまでとは打って変わった空気に張り詰められて、喉を通る唾の音が嫌に大きく聞こえた。
その時、音が遠くから聞こえた。
爆発音にも似たソレは、少し遠くからだが確かに聞こえた。ランチャーの音かもしれない。
思わず喜色を浮かべた二人だが、瞬間直ぐに疑問へと変わった。
ズドン、ズドン、ズドン、と。
明らかにランチャーではない音の間隔が連続して響き渡り、同時に木々がなぎ倒される音も聞こえてくる。アークスの巨大な兵器というのなら駆動音も聞こえて良い筈。明らかにおかしい。
移動しよう、と少女がアフィンに語り掛けようとした時、遠くから何かが二人に向かって跳躍してきた。
「回避してっ!!」
「っ、とぉ!?」
少女の裂帛の声に、硬直していたアフィンの身体がビクリと震え、すぐさま回避の行動を取った。
直後、二人が潜んでいた場所に黒い巨体が落ちてきた。地面を震わせて落ちてきたその黒い巨体は、二人も知識として知っていた。
そして、それが最悪の相手である事も。
「ダーク、ラグネ……ッ!!」
大型ダーカー。
熟練のアークスが集まってやっと倒せるという、今の状況では最高に最悪の相手。戦う事も逃げる事も危ぶまれる存在を前に、二人は恐怖で顔を引き攣らせた。
「ッ……アフィン!」
「! おう、相棒!」
それでも恐慌状態に陥らなかったのは、僅かにでもダーカーとの戦闘が生きた結果であった。
不用心に後ろ姿を晒せば、直ぐにでも襲い掛かられて殺されるだろう。倒すという考えは論外。ならば、取るべき方法は一つしかない。
「私は左に、アフィンは右に回って攻撃。相手の隙を作って、蛇行しながら森へ逃げよう!」
「了解! 気を付けろよ相棒!」
「アフィンもね! それじゃ1、2、3……今!」
タイミングを合わせて、分かれるようにしてダークラグネへと向かっていく。それは向こうも分かっていたのか、前足を鎌の様にして振り抜こうと動き、
「させないッ、『フォイエ』!」
ダークラグネの顔と思われる場所に向けて、大きく溜めたフォイエを放つ。一際大きな火球が狙い通りの場所にぶつかって爆ぜる。
『――――ッ!!』
それに驚いたダークラグネの動きが一瞬鈍る。振り抜かれた前足を何とか回避し、急いで横を駆け抜ける。
『■■■■ーーーー!』
「なっ、ガッァァ!?」
「アフィン!?」
しかし不幸にもアフィンが、ダークラグネが適当に動かした後ろ足に弾かれる。側にあった崖に叩きつけられ、力なく転がった。
出血はなさそうだが、あれ程の巨体の足に振り抜かれたのだ。ダメージは大きい筈。少女は急いでアフィンの側へ駆け寄った。
「大丈夫、アフィン? 『レスタ』!」
ロッドを高く上げて唱えると、少女を中心に緑色のフォトンが広がる。体力が回復し、傷すらその場で癒して治すテクニック『レスタ』。瀕死に近いアフィンを充分に回復させるには大きく溜めなければいけないが、少女は迷うことなくそれを実行した。
そのお蔭か、ピクリとも動かなかったアフィンの指先が微かに動き、うめき声を上げながら目を開いた。
「アフィン、大丈夫? 良かった……!」
「え……あ、相棒!? 何で逃げなかったんだ! 俺なんか放って先に――」
「アフィンを置いて逃げるなんて、出来ないよ! 約束したじゃない、一緒に助かろうって!!」
そう笑顔で言い切る少女に、アフィンは目を見開いて少女を見つめた。
そんなアフィンに少女が疑問を持った直後、大きな声が真後ろから聞こえてきた。アフィンは何を見たのか、大きく顔を恐怖で歪ませていた。
少女が振り向けば、ダークラグネが前足を振り上げていた。少女は条件反射に近い動きで、得物をロッドから銃剣であるガンスラッシュへと持ち替えた。
ロッドの長所は、テクニックを多く装着できる事にある。勿論、殴る事も出来るので接近武器としても使える。反面、防御が一切出来ない。攻撃を受けないためには回避するしか方法はない。だが、回避すれば後ろに居るアフィンに当たる。それだけは避けなければならない。
だからこそ、防御が取れる銃剣へと咄嗟に持ち替えたのだ。これで一撃は持つ筈である。だが、少女はフォースだ。防御力は全てのクラスで最低。大怪我は免れないだろう。
「あ、相棒ーーーー!!」
叫び声と同時に、振り下ろされる。
ぐおん、という音が、まるで死神が振り下ろした鎌の様に感じられ、少女は来る攻撃にぐっと目を瞑って迎えようと構えた。
そして、鎌が振り抜かれて、
「――――え?」
ダークラグネの前足が斬り下ろされた。
少女に向かって振り下ろされた筈の前足が、どういう訳か途中から無くなっていたのだ。
少し遅れてドサリ、という音。落ちてきたのは目の前のダークラグネの前足であった。
「――――■■■■■■■■!!」
少し遅れて、ダークラグネが咆哮する。向こうも何が起きたのか分かっていなかった様だ。それは少女達も同じ事だが。
しかし、一体何が起きたんだと、場が混乱したその時。
「うるせぇなァ……」
ビクリ、と。その場にいた全てが震えた。銃剣を握る手に力が抜けていく。まるで先ほどの一言で、体中の精気が切り落とされたかの様に。
少女はへたりと座り込むと、声がした方向へと顔を向けた。
そこに居たのは、紫色で統一されたフォルムに、柄の長い鎌を持っている男が一人。
男性型のキャストだ。救援が来た事に喜ぶべき状況なのだろうが、男から発せられる雰囲気がどうしても喜びの感情を湧き上がらせなかった。
目線は、ダークラグネに向けられている。なのにどういう事だろう。男がこちらにも目を向けているのではないのかと思うほど、視線を感じる。殺気の様なものすら漂わせて、男は向き合って立っていた。
少女が感じていたのは、ほぼ正解である。男は基本暗殺を生業としていたのだ。依頼の中には、軍の部隊を一人残らず殺す、という事もやってのけた正真正銘の強者である。そんな男が、見知らぬ誰かと会って第一に警戒しない訳が無かった。ただし、殺気は向けていない。少なくとも、人間である二人には。
しかし、と思考を目の前の事から若干逸らす。いきなり暗闇から斬って抜け出たと思えば、辺りは見た事のない動植物ばかり。ラグオルの地表かとも思ったか、パイオニア2へと繋ぐ筈である通信機器は一切反応を示さない。現在地点すら表示されない。故障かとも思ったが、オフラインの機能は生きていた。アイテムはほぼ手持ちに無く、あるのは握った鎌……ソウルイーターだけである。これでは、ほぼ丸裸で投げ捨てられたに等しい。
だが、男はそれを危機とは思う事すらない。ソウルイーターが無ければ少しは危機感を持ったかもしれないが、逆を言えばソウルイーターさえあれば良いのだ。この男は。
まずは肩慣らしにと、襲ってくるダーカーを纏めて斬って捨てる。三十はいたダーカーは一分の内に全滅させられる。アークスの面々が見れば信じられないという顔をするだろうその光景を、男は易々と作り出して、終わらせる。感覚としては遺跡に居たエネミーに近い感じであった、と確認すると鎌を肩に担ぎながら適当に練り歩き始め、
「うるせぇなァ……」
今に至る。
振り下ろそうとしていた前足を切り落としたのは、あれが敵だと分かった為であり、さらに言えば二人から情報を聞き出す為でもある。
助けて恩でも売れば、情報は引き出しやすい。情報収集の為に磨いた知識だ。
取り敢えず、
「クハハ……!」
難しい事は、目の前の奴を狩ってからである。
男の笑い声に、ダークラグネの巨体が大きく震えた。
男が一歩を踏み出す。ダークラグネは二歩下がる。明らかに怯えている。すぐ側で座り込んでいる少女達にも分かるほど、逃げ腰だった。その光景に、少女達は驚いた。熟練のアークス達が恐れる大型ダーカーを、たった一人のキャストが怯えさせているという事実。
それだけで二人は理解した。このキャストは、ダーカーよりも危険だと。
ダークラグネが吼え、遂に男に向かって突撃した。がむしゃらながらその巨体が起こす突進は、木々をなぎ倒し、崖を削り取る。食らえば防御力が高いクラスであるハンターといえど、無事では済まない。
しかし、男はその場から動かなかった。その突進を見せつけられても低い笑い声を上げるだけで、鎌はぶらりと垂れ下がったまま。
危ない――と少女が思わず声を上げそうになった瞬間。
「クハッ!」
男が、動いた。
凄まじい速度と共に動いた男は、まず一振り。狙いはダークラグネの足だ。
それを
ものの数秒で、ダークラグネの足が無くなる。しかし男の動きは止まらない。次々と部位が斬り落とされているこの光景は、一方的な虐殺とは言えなかった。
解体作業、と言えば何故かしっくり来る。男が振り下ろす鎌が、まるで常にそうであるかの様な鋭さと正確さを持ってバラバラになっていき、断末魔の叫びをを上げる前に事切れたのだった。
「ククク、クハハハハハ!!」
勝者の雄叫びにも似た笑い声が、静かになった森に伝わる。二人はそれを呆然と見つめていた。
まさに圧倒的。なんという勝利の仕方。このような倒し方は聞いた事もない。硬いダークラグネの足をバターの様に易々と落としていく様は、見る者を震え上がらせる。
この男は、一体何者なのか。アークスであるなら、ここまで強いキャストが一切噂にならない筈がない。しかし少女やアフィンには、この鎌を持ったキャストの話題など聞いた事が無かった。
「おい」
「うおおおっ!?」
「ひゃい!?」
その謎の男から急に声を掛けられ、悪い事はしていない筈なのに身体がビクッと跳ね上がった。
「少し聞きたい事がある」
振り向かれた顔を見て、二人はまたしてもビクリと震える。目付きは他のキャストと大差ない形であるにも関わらず、目力が凄い。常に睨まれている様な迫力に少女とアフィンは終始気圧された。
「ここは、何処だ?」
物語は、ここから加速する。