めぐみ…俺がきっと…。   作:たけぎつね

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テストが近いので今回で二週間分とさせてください。長めにしたつもりなので…。


俺が望んでしまった。

「僕とめぐみは先に失礼するけど、三人はどうするんだい?」

 

ブルーが三人に答えを促す。

 

「少年たちを送ってから大使館に行くよ。それに、大分混乱してるだろうし…」

 

「そうね。──あ、めぐみがいたってことは、相楽くん達もここにいたのかしら…?そしたら今はどこにいるのか分からないわよね…」

 

「確かにそれもとっても気になるけど、日も大分暮れてきたし、めぐみちゃんも助けられたし、とりあえず切り上げましょう?えっと──」

 

「緑山まことです」

 

「印知恵(しるしちえ)だよぉっ!」

 

「緑山くんに印ちゃん、もう少しここ見てく?」

 

「あっ、はい。あと少しだけ」

 

「じゃあ、私たちももう少しここにいるので、また後で」

 

「わかった。くれぐれも気をつけてね」

 

「──俺にか?」

 

「「「「!?」」」」

 

ブルーがめぐみと共に大使館へ転移しようと鏡を召喚したまさにそのとき、聞き覚えのある声が聞こえ、目を見開いた。

今までとは違う、冷たく、低い声色、鋭く憎しみの籠った眼差しででブルーをみつめる誠司を見て、

 

「誠司っ!!」

 

「危ないっ。落ち着いて…今はまだ動かない方がいい」

 

めぐみが思わず叫ぶ。相変わらずブルーにお姫様抱っこされたまま、今すぐ誠司のもとに駆け寄りたいと言わんばかりに動くが、まだ不安定なのでブルーが必死に抱き抱える。

 

「めぐみを…返せ!」

 

☆☆☆

 

俺は買い忘れたアルコールシートを買いに百円ショップを訪れていた。安いので、あれよという間に籠がいっぱいになりそうになるが、お金もあまりないので我慢。

目的はそれだけだったのですぐに買い物を終えた。

 

帰り道、アンティーク調のおしゃれな店を発見。マゼンダ色のネックレスを買ったところだ。

 

めぐみが、ブルーに失恋したあの日、めぐみにプレゼントしたネックレス。めぐみの髪と瞳と同じ色をしていて、澄んだ輝きを放っていた。学生に買えるほどの値段で良かったと、今まで貯金してて良かった、と心の底から思ったものだ。

 

今朝の戦いで気絶した時からめぐみはまだ目を覚まさない。よほど疲れているのだろう。

 

またあの笑顔が見たい。何だかんだ、俺はハピネスチャージプリキュアのことは好きなのだ。人助けをするめぐみも、敵をも仲間にしてしまうほどのめぐみの強さも、友達と協力しているときのめぐみの顔も、全て。憧れであり、かけがえのないものだ。確かにプリキュアにならなければなかったことだってあるだろうけれど、ハピネスチャージプリキュアのメンバーといるときのめぐみも、ひめ、ゆうこ、いおなのことも知っているからやっぱり出会えて良かったなーと思ったりもする。

 

けど、ブルー達との話とは勿論別だ。あいつはめぐみを悲しませた。ひめが『アクシアの封印を開けた張本人』というレッテルを貼られるようになる原因、幻影帝国をつくってしまった。ゆうこはブルーに選ばれたせいでプリキュアとして世界を飛び回らなければならなくなった。いおなは幻影帝国のファントムによって姉を封印され時間を奪われた挙げ句に姉と戦う羽目になってしまった。幻影帝国に原因がある、といわれればそうなのだが、俺が一番気に入らないのはそこではない。

 

今朝も本人に言ったが、奴は何も答えずにはぐらかした。何故、奴本人は戦わないのか。地球の精霊というくらいならば力はあるはずだろうに。レッドと兄弟なら尚更。固有能力の関係だというのだろうか?あいつは防御シールド(しかも結構弱い…)しか使ってこなかった気がするけれど。

 

俺も早くこの力を使いこなして…この世界を壊さなきゃ。めぐみのために。あいつらのために。

──無慈悲に傷つけられた彼らのためにも、な。

 

廃屋が見えてきた。やっぱりボロいなぁ。

最初来たときは三階に直接移動してきたため分からなかったが、一階と二階のボロさもかなりひどい。三階が一番ましだった。階段を昇るときはいちいち木の軋む音がするし。とはいえ別に長期滞在する気はないのだけれど。さて今日二回目のあの今にも取れそうになっているドアノブを回さなければ、と思ってレジ袋を持ち直してドアを開けようと腕を伸ばす───が、既にドアが若干開いていた。

 

「どういうことだ…?まさかバレてないよな…!?」

 

レッドは基本的に鏡でで移動するため、ドアが開いている原因とは考えにくいし、バレているとしてもあまりにも早い。ここは人通りも少なく、部屋の奥からは川こそ見えたりするものの、玄関側の見晴らしは最悪で、人が三人並ぶのがやっとというくらいだ。一体誰が見つけられるというのか。俺は警戒心から、レジ袋をドアの横に置いてから足音を忍ばせて三階へ。

二階の階段あたりから声が聞こえてきた。

 

「!ブルー!みんな!…でも私、プリチェンミラーとられちゃったみたいなの…」

 

「めぐみ!良かった…無事で!…あと、それなら大丈夫よ。君」

 

「え?あ、これですか?」

 

あいつらが、来てる!?

何でバレてる!?それになんか知らない声が聞こえてきたぞ!?誰だ…?

 

三階まで昇り、バレないよう壁に身を寄せて部屋の様子を伺う。

訳が分からない。どうなってる?何故あんな知らない奴がプリチェンミラーを持っている!?

 

以前壊そうとしたら何故か壊れなかったので、確か俺はポケットに常に入れていたはずだが…。上着のポケットを探る、が…何も入っていなかった。落ちたとは考えにくいが…。てかレッドは何処だ!?疑問が次々と浮かび、プチパニックに陥りそうになるが、慌てておさめる。

 

そして、この部屋で誠司にとって一番の衝撃だったのは───鏡の前でめぐみがブルーにお姫様抱っこされていること。またブルーが。めぐみを奪おうとしている。平然と、当たり前のようにめぐみを抱えていて。いつもの、何も知らないような顔で。ほんのり笑顔のあの大嫌いな顔で。

 

「分かったくれぐれも気をつけてね」

 

「──俺にか?」

 

「「「「!?」」」」

 

その場にいた全員がこちらを向いた。

 

「誠司っ!!」

 

めぐみが俺の名前を呼んだ。

 

「危ないっ。落ち着いて…今はまだ動かない方がいい」

 

ブルーがそれを止めた。

 

「めぐみを……………返せ…っ…」

 

俺はブルーを見て、そう声を漏らした。

 

もう何も考えたくない。

 

頭の中が真っ白に───否、真っ暗になった。

苦しい。助けて。あいつがいる世界なんて。あいつとめぐみが結ばれる世界なんて。報われない世界なんて。幸せになれない世界なんて。

 

 

──嫌だ。

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

取らないで。俺からめぐみを奪わないで。確かにブルーといる方が幸せならそれでもいいと思ってたけど、やっぱり本当はめぐみといたかった。何も知らないくせに。めぐみのこと、全然知らないくせに。元カノが戻ってきたらすぐそっちに切り替えやがったんだ。

 

「めぐみの気持ちも知らないで。知ろうともしないで。考えようともせずに。ただ使うだけ使って、それでもう終わりかよ。めぐみは何だったっていうんだよ。プリキュアは何だったっていうんだよ…!」

 

気がついたら声に出していた。

今朝よりもより強く、濃く、深い闇が、怒りと憎しみが、誠司を侵食し、支配していく。

 

みんな嫌い。

大嫌い。

 

「めぐみを返せめぐみのそばにいるなめぐみをこれ以上悲しませるなめぐみに触れるなめぐみに関わるなめぐみと話すなめぐみと笑うなミラージュと笑うなミラージュと一緒に行動してるところをめぐみに見せるなめぐみを奪うな…っ」

 

苦くて苦しい。助けて。この心を軽くして。

 

《壊せ》

 

声が、響いて。これが、レッドに見せられたときの鏡の俺だということはすぐに直感した。

 

「壊れろ…!」

 

《邪魔な存在はめちゃくちゃにして消せ。ずっとお前がみんなを支えて、めぐみを支えてきたんだ。みんな幸せに、世界は幸せになったのに、お前だけはどれだけ想っても報われない。ならば今度はお前が幸せになればいい。幸せになるためには手段を選ぶな目の前のすべてを、邪魔するやつを消して苦しめられないようにしろ》

 

「消えろ…」

 

「嫌だ。みんな嫌いだ。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。邪魔するブルーが嫌いだ。偽善者のブルーが嫌いだ。幸せになってるこの世界が嫌いだ。何も知らない癖に。何もしてないくせに。笑ってるこの世界が嫌いだ。理不尽で矛盾したこの世界が嫌いだ。めぐみの幸せが犠牲になったこの世界が嫌いだ。憎い。笑い声を聞くだけでも吐き気がするんだ。何で邪魔するんだよ。何でだよ?何でまた守れなかったんだよ?何で知らない奴等がいる?何で見つかった?何で分かってくれないんだ」

 

「誠司っ!ねぇ、お願いっ!私達と一緒に大使館に帰ろう?」

 

めぐみが叫ぶ。

 

《いまだにみんながお前を大切だと思ってると信じてるのか?まだ信じてるのか?》

 

《俺を、解放しろ。みんなぶち壊してお前の望む世界を作ろう。…めぐみもこいつらもお前が嫌いなんだ。お前が、お前だけが躊躇する必要はない。めぐみを奪ったブルーも、決してお前の想いに気づかないめぐみも、誰かに壊される前に壊さなきゃ》

 

「…もう俺は……躊躇わない…」

 

「──死ね」

 

誠司の回りを黒く赤いオーラが包み込み、黒いコートに変身。瞳から輝きは消え、結晶がおぞましく怪しげな輝きを放つ。

 

「さぁて、楽しく世界をぶち壊そうか。何よりまずは─ブルー、お前を壊す」

 

「誠司くん!やめるんだ!これが本当に君がやりたかったことなのかい!?」

 

「……そうさ」

 

鎌を生成し、ブルーに振り上げる。

 

「待ちなさい!相楽くん!」

 

いつの間にか変身したキュアフォーチュンがブルーを押し、すかさずラブリーがシールドで鎌を弾く。

誠司は、弾かれた鎌をその反動で回転させて再び振る。

 

「……くっ…。誠司!もうこれ以上傷つけないで!───傷つかないで!誠司がずっと一人で苦しんでたこと、気づいてあげられなかった!本当にごめん…!私、どうすればいいのか、はっきりとは分かんない…。でも、誠司が苦しんでるとき、私も誠司の悩みを受け止めたいって思うの!相談してよ!抱えこまないで、言ってほしい!だからお願い!誠司!本当はこんなこと…!」

 

キュアラブリーがシールドを張りながら誠司に叫ぶが、そんな声はもう、届きはしない。

 

「…相談なんてできるわけなかった」

 

「え?」

 

誠司はそう小声で呟くも、キュアラブリーは気づかないまま、聞き返してくる。その隙に少し力を込めてシールドを破ってめぐみを吹き飛ばし、めぐみの近くまで歩み寄って、倒れているめぐみを見下ろす。

 

「目障りだ。どーするかな…こいつ、いっそのこと殺すか。みーんなまとめて仲良くさよならだ。あいつを苦しめる奴なんて望む世界には必要ないからな…。……あ?はぁ、…五月蝿いなぁ」

 

「!?本当に、誠司…なの…?」

 

「まー、誰かと言われれば一応相楽誠司だが…ほらほら!あんまぼーっとしてっとまじで死ぬぞ?」

 

誠司は鎌を軽々と回転させながらプリキュアとの戦闘を続ける。鎌は自身の闇のエネルギー、赤い力を感覚的に制御することで生成できるので、わざと鎌を離して視線をそらせた隙に拳をふるったり、と鎌に頼りきらない戦闘スタイルでプリキュア達を圧倒していく。

容赦なくプリキュアに攻撃をし続けている間も、彼女達はひたすら叫び続ける。届かないのに。

 

「無駄だぜ?どんなに叫んでも想いは届かない!もとより、この世界は誰の想いも届かないようにつくられてるんだよ!」

 

「届くよ!届くって私は信じてる!どれだけ離れていても、想いは届くよ!私達プリキュアは魔法が使える訳じゃない…助けたりできないこともあるかもしれないけど…けどね!信じる気持ちがあれば、何だってできるって思える!仲間といれば何でも乗り越えられる!想いの力って凄く強力だから!思うように伝わらなくても、無駄だって言われても、世界中がみんな諦めちゃっても、私は信じていたい!愛の名を持つ、愛乃めぐみとしても!キュアラブリーとしても!」

 

「誠司!私はあんたを許さないけど…信じてる!誰よりも優しいって知ってるから!めぐみのことも!もやもやが溜まってたんだよね…。そりゃあ誰でも嫌なことくらいあるわよ!どれだけ自分を責めても過去は変えられない!だから誠司、もっと大きな後悔をする前に元に戻って!こんなの間違ってる。理由なんてもう関係ないよ…っ。誰かを傷つけてまでの幸せって何?それは本当に幸せだと思うの!?全力で止めてやるんだからああああああああっ!!」

 

「私も相楽くんを止めるわ。友達が間違ってるときはちゃんと間違ってる、って止めるのが本当の友達だと思うの。ちゃんと止めて、みんなを守って、世界を守って、想いも伝えて…そしたらまた、みんなでご飯、食べよう…?」

 

「相楽くん!あなたはいつも正義感に溢れていたわ。空手でもいいライバルだと思ってた。でも、今のあなたは…!私が正しい道へ導くわ!お願い、あの頃の…道場に来たときのことを思い出して…!めぐみを守るんでしょ!?めぐみの幸せを!そりゃあ人生大変なことはあるに決まってる!それを一緒に乗り越えてこそなんじゃないの!?めぐみが悲しむって分からなかったの!?世界が平和になることがめぐみの夢なのに!何でそれを、しかも一番そばで見てきたあなたが壊そうとするのよ!目、覚ましなさいっ!!」

 

「戯れ言をごちゃごちゃと…五月蝿いなぁ!あーもーぅ!今更何言ってる?今まであいつを…正しくあろうとした相楽誠司を壊したのはお前らだろ!?傷つけて釘を打って破壊して粉々に砕いて引き裂いて破ったのはお前らだ!どれだけ苦しんでいても、誰一人気づこうとしなかった!気づいても何もしなかった!相楽誠司は正しくあろうとしたのに!俺を──負の感情の塊の憎しみよって作られてるこの俺を、押さえて、押さえつけて、なんとかしようとしてたのに、一番の支えが崩れ去った!絶望しかなかった!そりゃあそんなボロボロの心じゃ俺には抵抗出来ない訳だよ。むしろ受け入れるほどになってたさ。今更──無くしてから気づくなんて…遅すぎるんだよ…」

 

鎌を振り。

 

ラブリプレスやバトンやタンバリンを輝かせ。

 

言い合いながら尚も戦闘は続く。誰がみてもどちらが劣勢かは明らかだったが、まだ…!

拳を交え、互いを激しく消耗させながら、今にも動かなくなりそうな身体を、憎しみで・希望で奮い立たせた。

 

 

 

プリキュア達のすぐ横で、ブルー、知恵とまこと、妖精達が、戦う様子を目の当たりにして立ちすくんでいた。

今までとは違いすぎる、想いを激しくぶつけ合う戦い。

見ているこっちまで張り裂けそうな想いが込み上げてくるほどの緊張感。

そんな中でまことがほんの微かな小声で、「あれが相楽誠司か?凄いねぇ?あ、レッドはどこかな…?はやく君の楽しい顔がみたいよ?」と言ったのを、ファンファンは聞き逃さなかった。

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