相楽誠司《アビス》
水原きなこ《ミエル》
鐘嶋りんな《カプリス》大園硝子《アルバ》
藤代ひつじー《エステラ》
ブラックファング 《クロガ》
***
地球は今どうなっているかな。
みんな元気だろうか
【今】っていうのがどこを表すのか、この私にはもう分かりづらいのだけれど。
青く澄んだ美しい星、地球。
あんなことあったな、懐かしいなぁ、なんて思い出を噛みしめて、広い星を一人歩く。
この私にもいつか会いにきてほしいな、なんて叶わない願いを胸にいだいて。
***
☆☆☆
「よし、っと」
自分の部屋になる場所をあらかた片付け終え、掃除を済ませ清潔感のやっとでてきて安堵の息をこぼす。
前記憶を消しに行ったときに家から拝借した毛布やらを使って(イグニスの他の奴らにも勿論配った)、簡易的な布団をつくる。ただでさえ寒いのにこの廃墟はそこらじゅうに小さな隙間が空いていて風が入ってきてしまう。あぁさむっ。応急措置程度に段ボールとか新聞とかプチプチとかはやったが…。夜の冷え込みはなかなか厳しそうだ。
そんないい感じに仕上がった部屋にめぐみを抱えて布団に寝かせる。
壁も少し汚れているが、切りがないのでやめておこう。
☆☆☆
『今入ってきた最新のニュースをお知らせします。新しい勢力、《イグニス》なるグループが、世界の破壊を繰り返しているとのことです。サイアークと呼ばれる化物も多く現れています。また、幹部らしき人物のほとんどが日本で確認されていますので皆様、なるべく外出は控えるようにしてください。メンバーは四から六 七人程度で幻影帝国の残党と思われ、少女四名が幹部とみられており──』
淡々と流れてくる情報に耳を傾ける。誰も予想しなかった不穏なクリスマスイブだ。まだ何故かぴかりが丘にはサイアークはでていないが、中継から世界中のプリキュアが戦っているのは分かった。そして、新しい幹部が増えているということも。誠司らしき姿は未だに見当たらないが。
「イグニス…?なにそれ…でも多分これって──」
その時、明るいベル音が鳴り電話がかかってきた。どうやら、安全のため学校は休みになったのだそうだ。それはつまり、幻影帝国よりも脅威であり、生徒の安全性が保証できないこと、他の地域で酷い惨事になっていることを表していた。
「世界のプリキュアたち、大丈夫かな…?」
「でもひめ…残念だけど私達にそんな余裕はないわ…」
「学校が休みになるくらいだから、世界中大変なことになってるのは分かるけど…」
「僕が動ければ…ッ…いいんだけ…ど…ッ…」
「ブルー!安静にしてて!また傷が開くわよ!?」
「……絶対助ける!…とは言ったものの、どうすればいいのかな…場所も分かんないよぉ…」
「今の私達じゃまだ刃が立たないわ。敵の陣地に行けたとしても、最悪、生きて帰ってこられるかすら危ういわ…」
「何か作戦か新しい必殺技でも考えないとね…」
うーん、と俯いて考えていると、ミラージュが三人のもとに駆け寄り、学校は休みになったことを告げた。恐らく誠司とめぐみの行方不明が原因だろう。また被害者を増やす訳にはいかないし、謎が多いことから教師も流石に折れたというわけだ。
「学校も休みになったことだしじっくり考えましょう。まずは、めぐみを救出する方法だけど、少なくとも場所を絞りこまないと無理ね。多分向こうはこっちが救出しようとすることは分かっているはずだから慎重にいかないとね…。相楽くんを助けるにしても、めぐみを助けるにしても、強くなる必要があるわ。三人のラブプリブレス、ハニーバトン、スタータンバリンの技を組み合わせてみるのはどうかしら」
「えっ、ドレッサーは使わないの?」
「ドレッサーは私達四人の力に反応したから三人でまた新たな力をくれるかどうか…。それに状況にあわせて技を変えてみるのもいいかもしれないわ。確かにドレッサーの方が力では強いけど…」
糖分補給に、とテーブルにおかれているハニーキャンディーを口に含みながらゆうこがひめの疑問にこたえる。
その日は一日中提案を出し合って話し合った。午後はその案を試し練習したがなかなか身体が思うように動かず、まだまだ作戦、特訓ともども必要であるという結論に落ち着いた。まぁ、実戦で試していないので何とも言えないことに変わりはないのだが。
「すーすー」
「あらあら、三人とも寝ちゃったのね。そうよね、あんなにショックなことがあったんだし…少し寝かせておきましょう」
ふわりと毛布をかけてからブルーの元へ戻る。
先程淹れたばかりの紅茶のティーカップを並べて静かに置く。
熱い身体を拭いてから包帯を巻き直す。白い肌とは対照的に包帯に血液が滲み広がる。かなり汗をかいている彼の手をそっと握り、額を撫でる。深く眠っているだけなのに、そのまま瞳を再度見ることなく自分の前から消えてしまうのではないかと焦る。そんな考えを首を振って否定する。
「やっとあなたの側にいられるようになったのに、ね…ごめんなさい…私のせいで…」
誰にも聞こえないように微かな声で絞りだす。悔やんでも、懺悔しても時すでに遅しだ。どれだけ謝っても、謝っただけでは許されない、いや、何をしたって許されないことをしてきてしまったのだ。
「………っ」
力が抜けてすとんと腕がおりる。全身が震え、膝が笑う。
右手を左手で抑えながら紅茶を飲む。温もりが喉を通り、やがて震えがおさまる。
何を今頃怖がっているのか。
自分と似た立場にいる誠司?
自分の隙をついたレッド?
いつまた自分が戻ってしまってもおかしくないのかもと恐れを抱く。
分かってはいるつもりだが、ブルーはもしかしたら、私のことが好きということではなく、私がブルーの影響を受けて堕ちてしまったことへの罪滅ぼしで一緒にいるのかもしれないと思ってしまうことがある。
不安定な精神にまた囁き声が聞こえてきそうで恐ろしい。
誠司は自分よりも深く闇に堕ちてしまった。自ら自分を消し、自ら自分を出した。隠していた自分でも逃避したくなるような自身の黒い部分を肯定し、前向きになろうとした自分を消した。優しさ故に、というべきか。想いが純粋であるあまり、溢れて、脆くも崩れてしまった。
そして赤い強い決意をもって全てを憎む死神と化した。
迷って、声に甘えただけの私なんかとは比べ物にならない憎悪。嫉妬。彼を助けられるのはめぐみだけだ。あるいはハピネスチャージプリキュア達四人か。
───ドゴォーン!!
なんて答えなど出ない考え事をしていたら突如大きな爆発音が響いた。プリキュアの三人も共鳴したのか、はっと目を覚ます。
「河川敷にサイアークの気配ですわ!」
「──ゆうこ!いおな!行くよ!」
いつものめぐみに代わってひめが叫ぶ。
「「ええ!」」
変身を済ませ、普通のサイアークでも赤いサイアークでもない、青いサイアークと対峙する。新しい幹部らしき少女と、絶句するほど大量のサイアーク。自分たちと同じくらいの少女で、似たような服装、極めつけは、腰にさがっている黒いプリチェンミラー。
────プリキュア……!?なんで…!
相手が堕ちた原因も気になるが、サイアークを取り敢えず何とかしなければならない。動きがなかなか豪快だ。
昨日はみんなショックすぎたし、学校も休みだったしで、それぞれ家に帰っていたので分からないが、昨日の内にニュースであんなふうに世界中で暴れまわれたのだから、あっという間にぴかりが丘も甚大な被害になってしまうことも容易に予想できたからだ。
最初からとばして必殺技を放ちまくっていくも、なかなか減っていかない
「くっ…!じゃあこれで!」
三人はそれぞれイノセントフォームに変身し、再び格闘する。だが、最強の必殺技ではあるイノセントプリティケーションが使えないとなると、決定的な攻撃を与えることができず、状況はあまり変わらなかった。
イノセントフォームが解けて元の通常フォームに戻る。
「どうすればいいのかしら…めぐみちゃんもいないし…」
「イノセントフォームでもここまでだなんて…!」
全身の傷に悶えながら短草を握りしめ、弱々しくなった体を懸命に立たせようとするも、なかなか力が入らない。それを嘲笑うかのように頭上から声が聞こえてきた。
「あはっ!おやや、あなたたちは確かアビスの元お仲間さんの方々です?すでにボロボロですかねぇ?心とか。ふふ、楽しいね!安心して下さいね!私達イグニスが、他人のことなんて考えれないほどに滅茶苦茶にぶっ壊してあげますよぅ!!」
「……そんなこと絶対させないんだから!プリンセス!弾丸マグナム!おりゃゃやぁあああ!」
弾丸マシンガンの強化版の強化版である弾丸マグナムを力を振り絞って発動する。
威力が増しており地面には無数の大きな穴があき、煙がたちこめる。
「土煙のあるうちに!ハニー!リボンスパイラル!」
ハニーが闇キュアに向かってリボンを放ちぐるぐる巻きにする。その隙にすかさずフォーチュンが反応しフォーチュン・スターバーストで爆裂させる。煙が濃くなり、やがて晴れてくると、普通に立っている敵の姿を睨み付けた。かなりの至近距離で与えたはずの衝撃波が全然効いていないようだ。
「むぅ……ちょっとぉ!痛かったですよぅ!?ま、その驚いた面白い顔が見られて割と満足ですけどぉ…っ!」
闇キュアは嬉しそうな笑みを浮かべてから、ころっと意味深な笑顔に変えて、フォーチュンに拳をぶつける。その手には黒地に赤ラインのはいった手甲が装備されており、より強化されていた。
その衝撃は地面にいたハニーの元にも届き、思わず頭を押さえる。
フォーチュンは物凄い勢いで地面へと落下、弾丸マグナムのとき以上に大きなクレーターを作って倒れる。
プリキュアで身体能力の向上があるからかは定かではないが、生身の人間よりも勿論出血は少ない。はず。なのに──かなりの出血だ。
いつもならそこまでではないはずなのに。
昨日のブルーの血液がフラッシュバックしてハニーの鼓動を急かす。
プリンセスが…あ……あ………っと震える声を漏らしながらもハニーにフォーチュンの回復を頼む。
はっとして急いでハニー・ヒーリングリズムで回復するが、血が止まっても既に出ていた血液が多く、顔は青ざめたままだ。
硬直しているところに再び明るい声が耳に届く。
「選んでくださいよぉ。私と遊ぶのか、サイアークを倒して町の被害を抑えるか、その子を助けて町を捨てるか」
「……ないじゃない」
「あー、えー?」
「選べる訳!ないじゃないっ!!私はプリキュアだからっ!ハニー、フォーチュン連れて一回病院か大使館連れてって!私はこいつを足止めする!」
「プリンセス……っ。………………うん。任せたまたあとで」
「ええ!あとで!」
暗い赤にに染まったドレスを身にまとってしまったフォーチュンをお姫様抱っこしてハニーは地を蹴り、大きく跳んでぴかりが丘の中でも大きめの病院へ向かう。止血してあっても時間はかけないほうがいい。プリキュアでジャンプして移動した方が、速度的にも信号的にも救急車よりはるかに速い。
道中、大使館へ寄り、運良く外に出ていたミラージュをも担いで、事情を説明しておいた。
ミラージュにフォーチュンを任せ、ハニーは再び来た道を辿る。
プリンセス……!どうか…!
河川敷に到着したとき、目の前に広がっていたのは、変身がとけて水色に光り倒れているひめと、つまらなそうにサイアークの上から見下ろす少女。
しかしよく見てみると、まだましな状況のように思えた。
変身こそ解けているが先程のフォーチュンのように流血はしていない。
ひめの周辺が不自然な形で地面がえぐられていることと彼女の得意とする技を考えた推測だが、恐らく地面に落ちる直前に風を発生させてクッションにし、衝撃を緩和させたのだろう。
闇キュアも少しボロボロになってる気がする。
少し。ほんの少しだけだけど。
どうする。一人では流石に無理だ。だがこのまま被害を拡大させるわけにもいかないし…。
────試しにやってみよう。
とっさに思い付いた策だが他には思い付かないし。頭に、まりのようなものをイメージする。
「ハニー・リボンプロテクト!」
「!?」
ハニーがリボンで作った球の中に闇キュア(プラス付近のサイアークもなるべく)を閉じこめた。どうやら成功したようだ。念のために何重にもかけておこう。
「今のうちに…!」
羽を使い上空から、マイクモードを応用して付近の住人に避難を呼びかける。
幻影帝国の際、緊急時ぴかりが丘が指定した避難所に避難することになっていたはずだ。もう私だけじゃ戦いきれないし、二人もボロボロだ。今までのサイアークと違い範囲も広い。
お年寄りや子供はまとめて自ら飛んでいき運んだ。
最後にプリンセスを肩にのせて大使館へ。
遠くの方からバン!と破裂音が聞こえたが、今は…と自制。
「……このままじゃ……っ」
言葉にすることも辛かった。
☆☆☆
「………んっ……ん?どこ、ここ…?見知らぬ天井だ……なーんて…あはは…」
めぐみが目をゆっくりと開けると、そこは見知らぬ部屋のベッドの上だった。
なんか、なんというか、ボロい。
壁も変な模様だし。
一体どういう状況なんだろ…。
………誠司!
『ガチャガチャ』
ドアを開けようとしたが鍵が閉まっていて開かない。
ドアは諦めて、他に手がかりはないか、と部屋を見渡す。
「やっぱりこの壁、変な感じする…」
模様が不規則にならんでいるし濃淡もバラバラ。
いたんでいるのだろうか?
近づいて見てみる。
「………っ!?」
あまりの恐怖に強烈な寒気を感じてめぐみは絶句した。
何で
うるさい
嫌だ
俺は何だ
どうでもいい
辛い
助けて
痛い
苦しい
全部滅茶苦茶にしてやる
壊す
壊す
壊す
守る
誰を?
めぐみ
壁の模様だと思っていたものは、こんな言葉の羅列だった。誠司が書いたのであろう言葉。
悲痛の叫びは赤く、鉄のような匂いがした。
文章じゃないのに、ただの簡単な単語なのに、一つ一つが重くて。
それは強く、濃く、深く、めぐみの心に刻みこまれた。
お久しぶりでーす!
無事第一志望に合格できたので明日から高校デビューですっ!!
時間あるときにぼちぼち更新してくのでよろしくです!