めぐみ…俺がきっと…。   作:たけぎつね

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見え始めた、希望。

───時は無慈悲にも規則的に紡がれ続ける。ブルーのいる大使館だって勿論例外ではなく。希望があろうと無かろうとお構い無しに進み、刻まれていく。

ボロボロになったプリンセス。

顔色は良くなったもののまだ不安定なフォーチュン。

連携技もまだうまく使えない。イノセントフォームを一人で使うしかないのだろうか。

ハニーだけで、幹部五・六人と戦わなければならないのだろうか。

 

技は想像力次第でどうにかできる。もしかしたら……とフォーチュンとプリンセスに回復技をかける。

 

「具体的に元気になる姿を想像して……。ハニー・ヒーリングリズムモア!」

 

体力の回復だけなら………とヒーリングリズムのバージョンアップをイメージしてかけてみる。どうやら上手くいったようだ。

 

二人のまぶたが動く。

 

「………あれ?痛くないっ!」

 

「…………。私…あの黒いプリキュアにやられて…って、あら?傷がもう癒えてる…」

 

「「ありがとう、ハニー!」」

 

「……良かった…!良かった!私、もう、駄目かもって、このまま消えてしまいそうで…」

 

変身を解除したゆうこが崩れ落ちて涙をこぼし声を絞り出す。

 

今までの敵、幻影帝国とは違う。明らかに。

 

「ゆうこ、ごめんなさい。ありがとう、助かったわ」

 

「ありがと、ゆーこ!!」

 

「いいのよ、2人が生きてたんだから…でも…」

 

「次負けたらもう、その次は無いかもしれないわね…」

 

「「……」」

 

いおなの口からこぼれた現実に沈黙が走る。特訓するしか道は無いのだろうが、それでも不安は拭えなかった。

 

────と。

 

「みんな…っ、話が……ある、、んだ…」

 

ブルーがよろめく体をミラージュに支えてもらいながら言った。

 

「もう大丈夫なの!?無理しちゃダメだよ!」

 

「いや、これは僕の責任なんだ…全部僕のせいで…」

 

「そんなこと……っ!」

 

「あるんだ…。僕は役に立たない…。自分でも責めきれないが力が、無いんだ…。どれだけ鍛えても防御力ばかりが増していくんだ。戦闘に関してはレッドの比にもならない…。君たちに頼ることしか出来なくて本当に申し訳ない…」

 

「私達だって感謝してるの!いっぱいサポートしてもらったし!」

 

ひめが明るい口調で話すと、笑みを浮かべてブルーが話し始めた。

 

「お世辞でも嬉しいよ。──それで、本題なんだけど、一つ、あるんだ」

 

「何がですか?」

 

「《イグニス》に勝つ方法、だよ」

 

「えっ!!!あるならもっと早く言ってくれれば良かったじゃん!!!」

 

「この方法は、すごく危険なんだ。失敗すれば君たちは……二度とプリキュアに変身出来なくなるしもしかしたら眠ったまま目を覚まさないかもしれない。みんなもそれぞれ戦いで実感していると思うけど、戦いには力と強いメンタルとチームワークが重要だ。力はイノセントフォームが今のところ最強、となれば今はメンタル、つまり精神の強化が最も適切なんだ」

 

「精神強化って……」

 

「鏡に映る、自分を受け入れるんだ。否定したいところも自分の一部として認めなければならない。できなければ自身の心に閉じ込められて──変身はもうできなくなる…だけど、これを僕が話すのはこれが最後の手段だから、というだけじゃない。1年間プリキュアとして、1人の中学生として、数々の苦難を乗り越えた君たちだから──信じているんだ」

 

「……大丈夫だよ!!だって私達今まですごごごーくいっぱい乗り越えてきたもん!」

 

一定時間の静寂の後、ひめから明るい声が飛び出した。

 

「ひめちゃんに同じく。それに、不謹慎かもしれないけどみんなのこともっと知れるチャンスかもしれないわ」

 

「そうね、ただ、二度と変身出来なくなるっていうことは少し引っかかるけれど、そもそもここで戦わなきゃ世界が滅ぼされてしまいそうだし…」

 

前向きな言葉を掛け合う三人を見つめながらブルーは目を細めた。

折れそうな心を懸命に奮い立たせるために無理して笑顔を作っているのが分かっているからだ。

だからといってこれ以外の方法が見つかる訳でもなく、ただ一つの細い糸にすがるしかないのだ。

 

「それでそれで!!!そのせいしんきょーか?をするには何をすればいいの!?」

 

「三人とも、ついてきて」

 

ブルーに促され、その目線の先──クロスミラールームへと足を踏み入れる。

中央には見覚えのない大きな鏡が万華鏡のように設置してあって、すぐ下の床にも鏡が三つ置いてあった。

 

「この鏡に横たわって、目を閉じて。深く息を吸って、耳をすまして感覚を研ぎ澄ませるんだ。夢に入ったら、『鍵』を探して。すまないが、これ以上ヒントはない…」

 

言われた通りに横たわり、目を閉じる。肌に当たる鏡の冷たい感触がだんだん薄くなっていく。意識がぼんやりとして胸のあたりから何かが溢れてきそうな、そんな感覚に襲われた。

 

●●●

 

「………ねぇ。…………ねぇひめってば」

 

「……?………あれ……?」

 

「んもう、どうしたの、ぼうっとしちゃって~!学校で寝ちゃうなんて珍しいなぁ」

 

窓から差し込む夕日が瞼を刺激する。数人しか残っていない活気の失われた放課後の教室。ヒメルダとめぐみ以外の人物の顔はぼやけて見えず、名前すら思い出すこともできない。そんな奇妙なことに違和感も感じないままめぐみと会話を交わす。……あれ?

 

「……めぐみ…!?めぐみぃぃぃ!!!!」

 

遅れてやってきた感動に思わず声を漏らす。

 

「あわわわわわ、ほんとにどうしちゃったのひめ」

 

困ったように笑いながら頭をポンポンしてくるめぐみに、姫は涙ぐみながら口を開く。

 

「あのね……悪い夢を…見てたの…めぐみも誠司もいなくなっちゃって、街もゆうこもいおなもたくさんの人達がボロボロになっちゃって…」

 

「酷い夢だね……それで、ひめは何をしてくれたの?」

 

「え?」

 

「私が連れ去られて、助けてくれたの?誠司を助けてくれたの?努力してくれたの?何も出来ないひめは、何かしてくれたの?……ねぇ私知ってるよ!友達は都合のいい道具なんだよね!わたしとひめは友達?ってことは私の事は便利な道具としか思ってなかったんだね!!」

 

「めぐ……み……?……ちがう…ちがうよめぐみ…」

 

光の無い目で笑みを浮かべて話すめぐみに、慌てて否定をするも、混乱でうまく言葉が紡げない。

 

「いつでもめぐみちゃんに頼ってばっかり。逃げてばっかりだったわよね。自分からも他人からも運命からも罪からも全部から逃げて。そのくせ自分の欲望ばかり人におしつけるんだもんね」

 

ゆうこの声が胸に刺さる。

 

「あなたさえいなければ幻影帝国は復活しなかった。私のお姉ちゃんが捕らわれることもなかった…世界が侵略されてたくさんの人々が傷ついたのはあなたのせい!」

 

ぐにゃぐにゃと視界が歪む。

ああ、悪い夢は夢じゃなかったんだ、と。そしてこっちが夢だったんだ、と確信する。手に少し力が入り、緊張で首筋に汗がつたう。そして目の前に突如現れた自分自身──ひめがゆっくりと口を開く。

 

「ひめ…ひめ…ヒメルダ……私はあなた。あなたは私。鏡で反転したあなたの隠したい負の部分のあなた。でも、何も怖がることはないの。だってこのままいれば満たされる。この辛い言葉からにげればいい。この教室の扉を開けて出ればいい。それだけでこの世界は生まれ変わる。裏側の力が隠れてないこの状態は完璧なの。完全なの。この夢の世界にいれば何も嫌なことは起こらない。あなたが望めばあなたの想い描いた通りになるの」

 

「そんな……いらない!!めぐみを助けにいかなくちゃ!だから、鍵を渡して!」

 

「幸せなのよ?拒むの?ここは感覚も現実と同じ。めぐみも誠司もいる。大変なことは全部リボンがやってくれる。これでいいじゃん」

 

うっすら笑みを浮かべた鏡のひめが耳元で囁く。

 

「それは幻だよ……めぐみはめぐみだもん誠司も誠司だもん!みんなに助けられてばっかの私は卒業したの!!!辛いことも、苦しいこともみんなで乗り越えて!今まで知らなかったこと、めんどくさがってやってなかったこと、楽しいこともいっぱい知れた!!友達が困ってる!だから助けにいきたい!!自分の思い通りの世界なんていらない!!」

 

「あなたのせいでたくさんの人が不幸になった!傷ついた!だからこの箱庭で暮らせばもう誰も傷つけることはない──そうは思わない?」

 

「思わないよ……この世界じゃ誠司もめぐみも助けられない。ホンモノのみんな、ホンモノの友達を助けられない。また笑いあわなきゃなんだ!!」

 

「逃げてばっかのあなたに、家事もリボンに任せっきりのあなたに、幻影帝国を復活させたあなたに、何ができるっていうの?」

 

張り詰めた空気。切迫した、叫びともとれるその鏡のひめの声に対し、ひめは答える。

大きな呼吸をして。自信満々で。笑顔で。真剣に、告げる。自分に言い聞かすように。自分を塗り替える。

 

「私は昔の私じゃない!!アクシアの箱を開けたことも、知らないことだらけで怖くて人見知りして逃げてたことも、家事もダメダメだってことも全部わかってる!!自分のダメなとこから逃げるのをやめたの!!向き合って受け入れるの!ううん、とっくに気づいて受け入れてた。それができたのはめぐみやゆうこ、いおなや誠司、リボン…他にもたっくさんの人達のおかげなんだ。みんなが私を信じてくれた。みんなが私を助けてくれた。だから今度は私が助ける!」

 

「…………あなたには試練なんて必要無かったって訳か。答えなんてとっくに出てた」

 

鏡のひめは瞳を閉じて少しため息をついてから、すっと手をさしだした。手のひらの上に光が集まり、鍵を形成する。

 

「これが鍵。あなたの心の強さを思う存分発揮するための、鍵」

 

ひめは小さなそれを受け取り、教室の扉に手をかける。

 

「……覚えてて。私は──心の影はいつでも共にいる。消えないトラウマも、いっそ消えちゃいたいって思うほど辛いことも、きっともっと経験するし、重なっていく。トラウマはなかなか消えない。けど、あなたがここで宣言した希望も消えない」

 

「うん……ありがとう、わたし!」

 

瞬間、光に包まれた。

 

●●●

 

「………おかえり、ひめちゃん」

 

大きな瞳で覗いてくるゆうこの顔が近すぎて一瞬驚いたけれど、慌てて状況を理解して微笑む。

 

「ただいまっ!……ゆうこ、大丈夫だった??どんなんだった??」

 

「ふふ、何があったかは、秘密。ひめちゃんも無事そうで良かった!あとは──」

 

すぐ近くで眉間にシワを寄せて拳を握りしめているいおなに目を見やる。

 

ひめは少し俯いてから自身の両頬をバシッと叩き、いおなの近くに駆け寄って声をかけ始めた。

 

「いおな!!!いおないおないおな!!!負けちゃだめだよ!!!ううん、いおなはすっっごごごーーーーーーい強いもん!!自分にだって負けないよ!!!だから!!!私たちを信じて!!!自分を、信じて!!!」

 

力強いその声は1年前の泣き虫で逃げてばかりだったひめとは全然違っていて。自分と向き合った時の影響か、今までの思い出がフラッシュバックする。こんなにも強くなって……とゆうこは親のような感想を抱くも、自分も、と同じように隣で声をかけ始めた。

 

☆☆☆

 

めぐみは冷たく圧迫されたような重い空気のただよう密室で、1人、壁にもたれてうずくまっていた。

壁に刻まれた叫びを見る度、心臓に闇が染み込んで広がっていくような感覚に襲われた。本当に誠司は自分たちの手で救えるのだろうか。救う、とは何なのか、ぐるぐると回って訳が分からなくなってくる。戦わなきゃいけない。止めなきゃ行けない。分かっているのに。ここじゃ動けない。………脱走……できるかな…。カギないし、、うう、どうすればいいのー!!?

 

小さなテーブルの上に置いてあった水を思い切り飲み干し、深呼吸する。

────ほこりっぽい…。

 

「………………誠司」

 

めぐみはなんとなく口にしたその名前を部屋に響かせて、突然襲ってきた猛烈な眠気に意識を奪われた。

 

☆☆☆

 

「私は……いいえ、私たちはもう逃げないって決めたの。過去は受け入れるしかない。でも、未来はまだ変えられるかもしれない。だから……力を貸して」

 

そう穏やかな口調で自分の片割れに告げると、彼女もまた満足そうに微笑み返して、カーテンがぱっと開いたかのように辺り一面が真っ白になり暖かい風が心のモヤモヤと共に疑念を吹き飛ばした。

 

〇〇〇

「……おな…いおな!!!」「いおなちゃん!!」

 

「…ひ……め…ゆう…こ…?」

 

「いおなあああああああああああ!!!!よかったあああああ!!!」

 

思わずいおなに抱き着くひめに、ちょっと照れながら笑顔向ける。

 

「なんか不思議な感覚だったけど、自分の中のもやもやみたいなのを言い切ったおかげでちょっとすっきりしたような気がするわ」

 

「今までの嫌なことから逃げないって決めた。今の辛いことに向き合うって決めた。世界を守る。相楽くんとめぐみを救う」

 

「とっくに覚悟してたはずだと思ってたのにまだ足りなかった」

 

「んじゃあ早速!!」

 

「「「特訓だね!!!」」」

 

信じていた、と言っては失敗したときの代償を思えば安直だろうか。でも他に言葉は見つからなかった。今までの彼女たちの成長を見てきた身として、というのもプリキュアも幻影帝国も生み出し、新たな憎しみを作ってしまった自分にはそれを語る権利もないだろうが。見送るのも毎度辛いが、彼女たちにすがることしかできず、引き留めてあげられない自分の無力さにもまた落胆し絶望するのだった。

溜息。

鏡の部屋から出ていく彼女たちの力強い声を聴き、その背中を見送りながら、目の前の鏡に目を向ける。世界中で戦うプリキュア達のサポート。それが自分にできる唯一の道だと信じて。

 

〇〇〇

 

「こちょこちょしてくださいな」

 

「こちょこちょ」

 

「はーーーっぴしょん!!!」

 

ひめたちは精神強化による全体のパワーアップと、日々重ね続けている特訓の成果もあり、だんだん勝率を上げ、連勝し始めていた。そしてそれは世界中の人々に希望と明日を生きる活力を与え、よどみきっていた世界の空気を換えていった。

新しい発見もあった。赤いサイアークと違って青いサイアークならプリカードを生み出せること、青いサイアークが強い原因は召喚者の体力を削るため一定を超えると同時にうみだせなくなること、素体となる人が一体につき複数人いるため幸せを感じたらプリカードが手に入る確率が格段にあがったこと。

 

黒いプリキュアを倒すことはまだ叶ってはいないが、いづれはきっと――。

 

 

☆☆☆

 

憎悪。絶望。虚無。

心臓にもやがかかったような、感情がなにかでかき混ぜられているような、そんな感覚がずっと続いている。町を見ても、逃げ惑う人々を見ても、何も感じない。昼間の空を見上げた時の憎悪のための手段に過ぎないのだから。その目には青髪の男と桃髪の少女しか映さない。頬を撫でる風すらも鬱陶しい。鈍くも鋭くなった、狂った自分の感情に目もくれず、『戦地』へ赴く。叫び、嘆き、もがき苦しむ人々を見て乾いた笑い声をあげ、ただ一言残して去る。

 

「消えろ」

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