めぐみ…俺がきっと…。   作:たけぎつね

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後書きのとこにちょっとおまけがあります。


きっと、誠司が笑える世界へ。

リボンが持つプリカードファイル。それがいっぱいになった時、何かの願いを叶える。

 

めぐみはそれで誠司を助けられないかと考えて提案した。みんなも同意見だったようで考えは通ったが、具体案は見つかっていない。

ぐらさんのプリカードファイルでいおながプリキュアにちゃんと変身できるようになったことを考えると、愛の結晶と反応して憎しみの結晶が浄化できないかという案を頭をフル回転させて絞り出したが、それでは駄目だということをめぐみは瞬時に悟った。

 

彼の心を突き刺す憎しみの棘は深い。憎しみの結晶のある無しに関わらず彼を蝕み続けるだろう。

 

唸るめぐみを見てゆうこが言う。

 

「多分相楽くんのことを1番知ってるのはめぐみちゃん。だから…考えがまとまったらめぐみちゃんが使って」

 

ゆうこ、めぐみ、誠司は幼なじみでずっと一緒にいたが、誠司の想いを本人の自覚よりも早いくらいの時から気づいていたゆうこはここはめぐみに任せるのがお互いにとってもプラスなのではと考えたのだった。

 

「そうね……でも辛かったり決断に迷ったなら相談して…プリキュアとして……友達として」

 

いおなも肯定し、心配そうにめぐみの顔を覗き込む。

 

「みんな……ありがとう…うん、もっと私、考えるよ!考えて考えて考えて、絶対に誠司やみんなを助ける!」

 

決意を新たにしためぐみに、あっそういえばと付け加えてひめが硝子の紹介をして、ひとまず今日は解散となった。

 

力をつけてぐんぐん巻き返しを測っている世界中のプリキュア達は、やがてすべての元凶であるイグニス殲滅に向けて動き始めていた。もちろんそれはハピネスチャージプリキュアも例外ではなく、日々の特訓は欠かさず行い備えていた。情報はブルーや妖精を通して伝わっており、チームごとに担当を割り振って計画を立てている。

幹部達の殲滅はハピネスチャージプリキュアと各国の有志者で実力者の数名。あとはそれぞれ割り振られた地域の護衛。状況を見てその他の判断は当人に委ねるという形になっている。

 

幹部の殲滅がハピネスチャージプリキュア主導となっていることに意見を申した者も少なからずいたが、アビスやブラックファングとは関係性が深いこと、ブルーのいるプリキュア本拠地であり敵の本拠地も近いプリキュアであること、そして世界で最も強いプリキュアチームであることが挙げられ、納得して退いていったのだった。

 

決行は明日──。

 

それぞれ口には出し難い想いを胸に瞳を閉じた。

 

☆☆☆

 

「では、最後に確認をするよ。これは心に深い憎しみを負ってしまった少年少女、その負の感情の塊の牙、そして僕の兄であり惑星レッドの守護者レッドの浄化作戦。いくら相手に知り合いがいようと油断は許されないよ。下手をすれば容赦なくこちらがやられる。だけどプリキュアには愛がある。その愛で、どうか彼ら彼女らを救って欲しい。世界を救って欲しい。力のない僕には戦闘が出来ないことを重ねて謝罪するけれど……幸運を願うよ。───作戦開始!」

 

クロスミラールームに映し出された戦う彼女らの勇姿を見て、度々罪悪感を覚えるが、悔しさに打ちひしがれている場合ではない。

それぞれのチームに細かく指示を出しつつ、自身も向かう準備をする。ブルーはどれだけ誰に止められようと行かねばならないと確信していた。兄と誠司、どちらも自分が原因なのではないかと考えていたのだから。

 

黒いプリキュアおよびブラックファングは世界から集まった有志の実力派プリキュアと硝子に任せてハピネスチャージプリキュアは誠司およびレッドの元へ一直線で向かう。

勿論、黒いプリキュア戦には自分達もと思っていたのだが、

 

「私たちの実力、なめないでよ!?あんた達はさっさと友達と家族を救ってきなさい!!」

 

「一瞬でも私の……仲間……だったかもしれない人達なんです!こんな時くらいカッコつけさせてくださいっ!」

 

なんて言われては反論することもできず。お礼を言ってその場は去った。黒いプリキュアの強さを知っている分振り返るのは怖かったが、心の中では彼女たちを信じて大きく地を蹴る。

 

ブルー、めぐみ、ひめ、ゆうこ、いおなはその熱い思いを瞳に宿し。

ぐらさん、リボンはそんな彼女らを見守り。

ミラージュは自分のせいだという自責の念と共に希望を内に秘め。

 

──最後の戦いが、幕を開けた。

 

 

「────めぐみ」

 

「誠司!!!」

 

「相楽くん…!」

 

大切な、幼なじみの名前を叫ぶ。

 

「誠司くん…」「誠司!」「相楽くん!」「誠司さん!」

 

それぞれも名前を呼ぶ。

 

家族を捨て、友も捨てた誠司にとって、名前なんてものはただの単語でしかなく意味をなさない。空中から見下ろす彼の目に映るのはめぐみの姿だけだった。………否、青い悪魔の姿も、だ。

 

怒りが込み上げる。激情が心を支配する。

 

「うおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

 

誠司の恨みの込められた声と共に黒い弾丸のようなものが放たれる。

それを巧みな動きでかわしながら、時々弾き飛ばして腰の羽で誠司のもとへラブリーが羽ばたき拳を振りかざす。

 

「誠司!!目を覚まして!!!ラブリー!パンチングパーンチッ!!」

 

「消えろ」

 

彼がそう呟いた瞬間、ラブプリブレスで発現した大きな拳がブラックホールに吸い込まれるかのごとく闇に消えた。

 

黒いプリキュアとは比べ物にならないくらい強く、以前の戦いよりも強く、黒く、赤く。心を囚われているのが分かる。

 

………分かる、から、諦めない。

 

激しい戦いがつづく。

フォーチュンとプリンセスの連携プレイで攻撃を与えつつ目くらまし、そののちに後方からラブリーが轟速で誠司のもとに飛び込み、ハニーは強化及び回復をしつつ後方支援。

少女達が協力して紡ぐ洗練された技の数々が、少しずつ彼にダメージを与えていく。

少しだけ希望が射し込んだその時──。

 

「────ぐ、ふ」

 

ラブリーが背後からの突然の痛みに鈍い声を発した。後ろには血を彷彿とさせる鮮紅の髪にマントを羽織った男性──レッドが立っていた。

 

「もう始まってたか……まあいい。貴様らの無駄な抵抗では希望は見いだせなかったと告げておこう」

 

「どういうこと…!?」

 

「空を見ろ。数時間後に俺の星とこの地球は正面衝突し──すべてが吹き飛ぶ」

 

そして大声で笑い、嘲笑し、地球を、希望を、笑い。笑い。笑い。見下し、絶望に、憎しみに染まった瞳で見据えたプリキュア達の希望をねじ伏せた。

希望やら夢やらという理想論では片付けられないどうしようも無い物理的かつ精神的な絶望をぶつけられ、少女達の体からだんだん力が抜けていく。逆に、イグニスのメンバーは強さを増す一方で、少女の心に追い打ちをかける。

 

「どれだけ崖っぷちに立たされても……私は諦めない…!!」

 

ラブリーが先のレッドの攻撃で受けたダメージに痛みながらよろよろと立ちあがり、誠司に攻撃を仕掛ける。

 

3人と、駆けつけたミラージュも続く。精神的な支柱のめぐみがいるおかげでいつも以上の力が出せている。確信している。なのに。

 

「無駄だ」

 

歯が、立たない。地に叩きつけられボロボロになる4人。

仮に多少ダメージを与えられたとしても彼の心は欠片も揺らいでいない。このままじゃ浄化は不可能だ。

 

ふと、めぐみは思い出した。誠司の家族から誠司の記憶が消されていたこと。壁に書かれていた血文字のこと。いままで戦闘中に叫んでいた彼の心の悲鳴。その全てが、ずっと一緒にいたはずの相楽誠司のめぐみの知らない部分で。

 

「誠司……っ」

 

もう立ちあがる力も残っていない。

 

「……あとは………お前だ!!」

 

自身の名前を呟く幼なじみなんて見向きもせず、漆黒の大鎌でブルーを薙ぐ。その斬撃は大きな傷を体に植え付け、鮮血が噴き出す。その僅か数秒の間、ブルーは一瞬バリアを展開しようとするも、それを超える勢いの誠司を止めることなど出来なかった。

 

地面は大量にできたクレーターで荒野の如く荒れ、みんなボロボロ。掴みかけた希望はどす黒い闇に塗りつぶされた。みんなで力を合わせれば乗り越えられると思ったのに。それでもラブリーの心に諦めは無かった。大切な人を助けたいと、苦しみから解放したいと、そう心から思っていたから。

 

「誠司、もうこれ以上傷つけないで!傷つかないで!」

 

血まみれになって倒れているブルーを見て。

足を引きずるミラージュを見て。

肩を抱えるプリンセスを見て。

力なく倒れたまま起き上がることもできないハニーを見て。

浅い呼吸で苦しむフォーチュンを見て。

 

「誠司がずっと一人で苦しんでたこと、気づいてあげられなかった!本当にごめん…!」

 

自分にも力はもう入らない。ならば、言葉で。

 

「私、どうすればいいのか、はっきりとは分かんない…。」

 

「でも、誠司が苦しんでるとき、私も誠司の悩みを受け止めたいって思うの!」

 

「相談してよ!抱えこまないで、言ってほしい!」

 

「だからお願い!誠司!」

 

幼なじみだから。友達だから。大切な人だから。

あなたが私に想ってくれていたように私もあなたを大切に想っているから。

巻き込みたくない、と避けて欲しくなんてなかった。言って欲しかった、と。できる限りの言葉を紡いで紡いで紡いで。

 

いままでの戦いでも何度呼びかけても駄目だったけど、それでも。少しでも光があるかもしれないから。それに縋るしかないと、やれることをやるしかないと思った。だが。

 

「例えお前がそう言っても…想いなんて届かねぇよ…!!!」

 

誠司は知っている。めぐみと過ごした日々で空回りし続けた想いの辛さを。届かない想いを。

 

「届くよ!届くって私は信じてる!」

 

何も知らなかった癖に。

 

「どれだけ離れていても、想いは届くよ!」

 

綺麗事だ。

 

「私達プリキュアは魔法が使える訳じゃない…。」

 

「助けたりできないこともあるかもしれないけど…、けどね!信じる気持ちがあれば、何だってできるって思える!」

 

「仲間といれば、何でも乗り越えられる!」

 

「想いの力って凄く強力だから!」

 

「思うように伝わらなくても、無駄だって言われても、世界中がみんな諦めちゃっても、私は信じていたい!愛の名を持つ、愛乃めぐみとしても!キュアラブリーとしても!」

 

言葉の最後にめぐみをかき消すように誠司の声が重なり、……つも、と聞こえた。

 

「いつもお前はそうやって!誰かのためにって!自分のことを考えずに人助けばっかで!誰にも助けを求めずに突っ走って、自分を大切にしないんだ!?」

 

「自分の気持ちを押さえて!だから、そんな危なっかしいお前を守りたいって思ったのに、俺はまだお前に守られてばっかだ!!」

 

氷川のとこで自分を磨いて。大切な人を守りたいって。

 

「命にかえても守りたいっていう決意も、言葉だけの戯れ言になって!」

 

「自分の無力さに絶望して!」

 

でもプリキュアになっためぐみは誠司なんかより強くて。男としてそれは、辛かった。

 

「結晶の力を借りてでも、どんな手段を使ってでもめぐみを幸せにしたいって思って!」

 

「周りの邪魔な奴は削除して!戦場になったこの街を捨てて新しい、理想の世界で暮らそうって!」

 

「他の奴なんてどうだっていい!それぞれの想いも、それぞれが存在する意味も、俺には知ったことか!」

 

「めぐみさえいれば、それでいいんだよ!」

 

「いつもお前はそうやって!誰かのためにって!自分のことを考えずに人助けばっかで!誰にも助けを求めずに突っ走って、自分を大切にしないんだ!?」

 

「自分の気持ちを押さえて!だから、そんな危なっかしいお前を守りたいって思ったのに、俺はまだお前に守られてばっかだ!!」

 

「命にかえても守りたいっていう決意も、言葉だけの戯れ言になって!」

 

「自分の無力さに絶望して!」

 

「結晶の力を借りてでも、どんな手段を使ってでもめぐみを幸せにしたいって思って!」

 

「周りの邪魔な奴は削除して!戦場になったこの街を捨てて新しい、理想の世界で暮らそうって!」

 

「他の奴なんてどうだっていい!それぞれの想いも、それぞれが存在する意味も、俺には知ったことか!」

 

「めぐみさえいれば、それでいいんだよ!」

 

「いや、これはもう…めぐみのためとか言って理由作ってるだけだ…。本当は俺は…っ」

 

「俺は…俺は…っ!お前が好きだ!お前が、愛乃めぐみが大好きだ!」

 

「お前は俺のことをそうは思ってないだろうけど!俺は、幼なじみとして、友達としてっていう以上に、お前が異性として大好きだ!ずっと前から好きだ!」

 

ずっと、言えなかったこと。

 

「ブルーなんていなければよかった!あいつがいなければプリキュアも幻影帝国もなかった!めぐみがあいつに恋することも、失恋することもなかった。プリキュアにだってなってほしくなかった!」

 

「俺はお前を守りたいって、そう思ったから空手もずっと続けてこれたのに!」

 

「でも、凡人の俺には何も出来なかった!女の子よりも弱かった!チョイアークくらいしか相手に出来ないほどに!力が欲しかった!こんなに努力したのに、なんで敵わないのか分からなかった!」

 

「悔しかった!格好よくて優しいとこもすっげー好きだけど、男の俺がめぐみに守られるのは辛かった!努力は、無駄だったんだよ!!努力なんてしたところで何も変わらない!!力も、関係も!!」

 

「結果が出ないなら努力とは言わないとか、結果が全てじゃないとか、そんな矛盾した言葉でさらに訳がわからなくなった!!」

 

悩む人に対して、無責任な大人は訳の分からない言葉をかけてきて。

 

「めぐみが幸せになるという結果を求めた!求め続けてずっと努力してきたつもりだったのに、それを否定された気がした!」

 

「結局俺はめぐみの為じゃなく自分のために努力してただけだった!」

 

「めぐみのためにと頑張ってる自分に酔ってただけだったんだよ…!」

 

「そんなの自分でも分かってる!俺はどんなに最低で最悪な人間で、自己中で、承認欲求の強いやつなんだよ!」

 

「…なぁ、言ってただろ、元の誠司に戻って、って。俺はもともとこういうやつだ!!」

 

「必死に隠して包んできた、俺の本性がこれだ!!失望しろよ!!」

 

「愛なんて微塵もないんだよ!!自分の望みの望むまま、欲望のまま動くだけだ。!!」

 

「俺は誰も他にいないこの世界で、邪魔者も誰もいない世界に作り替えて、そこでめぐみと暮らしたいんだ!!」

 

「二人でずっと暮らしたい!!ブルーとミラージュも、ひめ達も含めたプリキュアのいない新しい世界で!!」

 

「邪魔者なんて絶対こないんだ!!理想の世界なんだ!!思うがままに設定できるんだ!!欲しいものも全部手に入れられるんだ!!」

 

「俺だけが戦士そのものになって、侵略しようとする敵と戦えるんだ!!」

 

「女の子が俺より強くなる世界なんて、冗談じゃない!!」

 

「めぐみ、俺を、選んでくれ!!」

 

無茶苦茶だと、分かっていた。めぐみはこんな事しても喜ばないと分かっていた。でも。それでも。目的を達成させたい。その想いは、思いは、変わらない。最近の記憶の混濁の中でもずっとしがみついているただ一つの大きな願い。

大切な人を守りたいというものが歪んだ願い。

 

「誠司……」

 

一体どこで踏み外してしまったのか。

彼の心は戻って来ない。だが、今度はひめ達が苦しみながら振り絞って喉を鳴らす。

 

 

「誠司!私はあんたを許さないけど、信じてる!」

 

「誰よりも優しいって知ってるから!めぐみのことも!もやもやが溜まってたんだよね…。」

 

「そりゃあ誰でも嫌なことくらいあるわよ!どれだけ自分を責めても過去は変えられない!」

 

アクシアを開けてしまった自分と重ねて。

 

「だから誠司、もっと大きな後悔をする前に元に戻って!」

 

「こんなの間違ってる!理由なんてもう関係ないよ!」

 

「誰かを傷つけてまでの幸せって何!?それは本当に幸せだと思うの!?全力で止めてやるんだからああああああああっ!!」

 

勇気を出して。世界を元に戻そう?

 

「私も相楽くんを止めるわ。友達が間違ってるときはちゃんと間違ってる、って止めるのが本当の友達だと思うの。」

 

友達として。幼なじみとして。

 

「ちゃんと止めて、みんなを守って、世界を守って、想いも伝えて…、そしたらまた、みんなでご飯、食べよう…?」

 

こんなすれ違い終わらせてさ、元の生活に戻れないのかな。命を奪い合うなんて……間違ってる。

 

「相楽くん!あなたはいつも正義感に溢れていたわ!」

 

覚えてるはずでしょう?あなたが道場に来た日のこと。

 

「空手でもいいライバルだと思ってた。でも、今のあなたは間違った方向に行ってしまってるわ!」

 

「私が正しい道へ導くわ!」

 

「お願い、あの頃の…道場に来たときのことを思い出して…!」

 

「めぐみを守るんでしょ!?めぐみの幸せを!」

 

「そりゃあ人生大変なことはあるに決まってる!それを一緒に乗り越えてこそなんじゃないの!?」

 

誰よりもめぐみを理解してるはずのあなたが何故めぐみを1番悲しませているの?

 

「めぐみが悲しむって分からなかったの!?世界が平和になることがめぐみの夢なのに、何でそれを、しかも一番そばで見てきたあなたが壊そうとするのよ!?目、覚ましなさいっ!!」

 

道場の先輩として。友達として。希望を離さない。

 

 

「誠司さん…!めぐみさんのこと…そう。本当に大事に思っていたのよね…!」

 

「分かる気がするわ。自分の気持ちを押し殺し続けてきたのに、我慢してきたのに、その我慢は無駄だったのかもしれないと知ってしまって、今までこんなに我慢に我慢を重ねてきたのに、って。どうして、って。」

 

「どうして自分は大切な人の側に、一番いたいポジションで一緒にいられないのかなって。」

 

「私がブルーにふられた時も。今までずっと、身分が違いすぎる、仕事に影響が出てしまう、って我慢してて、自分の思いだけは伝えたいと思って伝えたら、案の定。」

 

「ずっと私はブルーの隣に『プリキュアの一人』という立場でしかいられない。」

 

プリキュアと力を与えた人。人間と守護者(神)。乗り越えられない隔たりがあって。

 

「実は今も少し、思うの。私がブルーの隣に恋人としていられるのは、かつて私が悪に堕ちてしまったから、二度と同じことにさせないためのある種の保護手段でしかないんじゃないか、って。」

 

「確かに私にあなたのことをどうこういう権利はないかもしれないけど、このままいくと誠司さん、あなたは絶望に支配されて破滅に向かっていってしまうわ!」

 

「この世界ごとあなた自身も巻き込んだ破壊になってしまう!私も全力で止めるわ!」

 

かつて同じ立場だった身として。苦しみを知っている身として。

 

めぐみに続けてずっと秘めてきた想いを吐露するハピネスチャージプリキュアとミラージュ。彼女たちの想いは本物だ。

自身の痛みなんてそっちのけで紡いだ言葉だった。

精一杯考えた上での言葉だった。

友達が友達を心配する言葉だった。それでも。

 

「戯れ言をごちゃごちゃと……今更何言ってる……ッ!?」

 

「今まで正しくあろうとした相楽誠司を壊したのはお前らだろ!?」

 

「傷つけて釘を打って破壊して粉々に砕いて引き裂いて破ったのはお前らだ!!」

 

「どれだけ苦しんでいても、誰一人気づこうとしなかった!気づいても何もしなかった!!」

 

「相楽誠司は正しくあろうとしたのに!俺を──負の感情の塊の憎しみよって作られてるこの俺を、アビスを、押さえて、押さえつけて、なんとかしようとしてたのに、一番の支えが崩れ去った!!絶望しかなかった!!」

 

「そりゃあそんなボロボロの心じゃ俺には抵抗出来ない訳だよ!!むしろ受け入れるほどになってたさ!!今更無くしてから気づくなんて、遅すぎるんだよ!!」

 

誠司の悲鳴が、叫びが、視線が、胸に突き刺さる。

特にプルーへの睨みつけは今にも追撃せんというほどの鋭さだった。

やがて、そのブルーが沈黙を破った。

 

「誠司くん…。やはり君はめぐみのことを…!僕は、特にめぐみだけを意識していた訳じゃない…けど、僕が彼女に思わせ振りな態度をとってしまったのが原因なんだ…」

 

「思い返してみれば、この、ハピネスチャージプリキュアはいつも気にかけていた…。かつてミラージュのいたぴかりが丘のプリキュア、とかヒメがいるとかもあったかもしれないけれど、いつの間にか特別視していたのかもしれない。」

 

「とても不安定で危なっかしかったし、慣れていない子もいたし…。でもそれは屁理屈になるのかもしれない。」

 

彼も自分で分かっていた。これはただの屁理屈に過ぎない。たとえ本当の気持ちでも、相手を傷つけてしまったという事実は消えないのだから。

 

「あの時、僕とミラージュのことを言っていたら変わっていたのだろうか。言った上で恋愛禁止を勧めていたら」

 

「しかし、誠司くんの気持ちはめぐみを大切に想い続けるのだからそんなに変わりはないのだろうか。あるいは、恋愛禁止を勧めたことよりも別に原因が…?」

 

時々ボソボソと独り言のように呟きながらさらに言葉を繋げる。ふと、何かに納得したかのように目を開いて俯き、浅い呼吸で再び上を見上げる。

 

「僕がめぐみを断ってミラージュと一緒にいることにしたからなのか…。そうか。僕がめぐみ達には恋愛禁止と言っていたのに僕自身はミラージュと…だからか。」

 

「本当に、僕は無力だよ…。昔からいつも駄目なやつだ…。何でこんなに気づくのが遅すぎたんだろうか…?」

 

頭が痛い。額や首元を伝う汗を凍える空気が容赦なく冷やす。

 

「たった一人の少女も救えず、結果堕としてしまった。兄さんの星がクレーターだらけになっていたことにも気づけなかった…」

 

出血を抑えた手で頭を抱え、1部が紅く染まっている弟の姿にレッドは多少の戸惑いを感じながら、時はそのまま流れる。

 

「気づかないうちにめぐみに気持ちを寄せていたのかもしれない。気づかないうちに少年を憎しみに染められてしまった。知らなかった、じゃあ済まされない…」

 

ブルーが自分を追い詰め、思い詰め、並べた言葉に誠司は更に怒りを露わにし、想いを吐く。

 

「お前がめぐみと互いに呼び捨てで呼び合ったり、抱き合ったり、お姫様抱っこしたり、めぐみを看病したり、ハロウィンのケーキを半分こにしてるペアを組んだりなどした時点で、恋仲と思われてもおかしくないし、俺からめぐみを奪ったとしか考えられないんだよ!!」

「どんなにお前達が否定しても、めぐみを俺から奪い、俺の人生を踏み躙った事に変わりはないんだ!!この女たらしのクソ悪魔めが!!」

 

どんどんパラメータは上昇し続ける。精神が耐えられないほどに。身体が耐えられないほどに。

 

熱く。熱く。熱く。

 

心の底から怒りが込み上げ、絶望が塗りたくられ、憎しみが全てを支配する。誠司が誠司を見失うほどに深淵へ誘われて。

 

「めぐみの笑顔が俺の心を照らしてくれる!!」

「めぐみの声が俺の心を癒してくれる!!」

「めぐみの優しさが俺に希望をくれる!!」

「めぐみの瞳が俺に輝きを見せてくれる!!」

「めぐみの仕草が。めぐみの性格が。めぐみの全てが!!」

「好きだ。大好きだ。溢れるほどに!!」

「エゴかもしれないが、俺を、俺だけを見てほしい!!」

「みんなの相楽誠司じゃなく、めぐみの相楽誠司になりたい!!」

 

「めぐみを返せ!!」

「めぐみのそばにいるな!!」

「めぐみをこれ以上悲しませるな!!」

「めぐみに触れるな!!」

「めぐみに関わるな!!」

「めぐみと話すな!!」

「めぐみと笑うな!!」

「めぐみを奪うな!!」

 

「嫌だ!!みんな嫌いだ!!」

 

「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!!」

 

「邪魔するブルーが嫌いだ!!偽善者のブルーが嫌いだ!!俺からめぐみを奪ったブルーが大嫌いだ!!」

 

「俺より強くなる女が大嫌いだ!!俺よりカッコ良い男が大嫌いだ!!」

 

「幸せになってるこの世界が大嫌いだ!!」

 

「何も知らない癖に!!何もしてないくせに!!笑ってるこの世界が大嫌いだ!!理不尽で矛盾したこの世界が大嫌いだ!!めぐみの幸せが犠牲になったこの世界が大嫌いだ!!」

 

「俺だけ不憫に扱われるこの世界と歴史が大嫌いだ!!」

 

「憎い!!笑い声を聞くだけでも吐き気がするんだ!!何で邪魔するんだよ!?何でだよ!?何でまた守れなかったんだよ!?何で分かってくれないんだ!?」

 

愛を語り愛を壊す狂人。鎌を持った世界の死神。

そんな姿になった大切な男の子1人救えずに愛のプリキュアを名乗るのが恥ずかしいほどに無力だという結果だけがのこされて。

涙がポロポロ流れるのを、拭いもせず震えた声でめぐみが口を開く。

 

「今までいつも一緒だったの。小さい時からずっと。いつの間にか、隣にいるのが当たり前みたいに思ってたんだ。まさか、突然いなくなるなんて思ってもみなかった」

 

「誠司はいつも私の相談を聞いてくれたり、励ましてくれたり、守ってくれたりしてくれたのに、私は何も出来なかった…!今はそれがすっごく悔しくて、情けないよ…。私、誠司に頼ってばっかでっ…!何か、してあげられてたら、って…」

 

「気付いてなかった…誠司の、気持ち…。私、誠司の目の前で…ブルーと一緒にいてばかりで…。相談もブルーにしちゃってたし…ごめんね、誠司…っ!辛かったよね…っ!」

 

「ブルーに失恋したとき、私、これ以上無いってくらい辛くて、苦しかった…。でも、誠司がいなくなって。部屋が凄く寒くなった気がして。誠司があんなに叫んでるのを見て、聞いて、胸がはち切れそうになった…。寂しくて、とっても寒かったんだ…。冬の寒さじゃない…芯から寒くなっていったのを感じたんだ…。もう何もかもが嫌になっちゃって。もういいや、って思うようになっちゃって。どうせ誠司がいないんだから、って全部無意味に思えてきたの。白黒の色の無い世界で、味の無い食べ物を無理やり少しずつ流し込んでいって、帰ったらベッドで横になってるだけの毎日で。」

 

「最近ずっと考えてたんだ。私はいつも誠司と何をしてたのか。相談も恋愛もプリキュアのことも誠司に頼ってた。逆に私が誠司の相談を聞いたことなんて全然なくて。誠司が弱音を吐くところも、泣くところも、あんなに叫ぶところも、見たことなんてなくって。最初は誠司が操られてるのかな、とかどうしてこんなことするの、おかしい!って思ってた。でも、あれは正真正銘本物の誠司で、今まで私が隠させてきちゃった誠司の本当の気持ちなんだよね…ねぇ誠司、私はどうすればよかった?どうすればいい……?どうすれば誠司を…」

 

助けられるのが難しくても、苦しみを分け合ったり肩代わりしてあげたいんだ、と。

アビスの肯定を、誠司の肯定をする。

今の誠司が引き起こしていることは良くないことだけど、誠司の気持ちは本物だってやっと見つめ会えためぐみが語った言葉は、誰よりも優しく、誰よりも彼を考えたものだった。

 

風が髪を仰ぎ冷ややかな肌の傷をさらに痛めつける。

 

ゆらゆらと揺れ続ける焔のように、さらに不安定に、ボロボロになる誠司に再び主導権が戻る。

 

「めぐみを抱き締めるのも、めぐみが風邪を引いた時に看病するのも、めぐみをお姫様抱っこするのも、ハロウィンのケーキを半分こにして食べるめぐみと組むペアも、相談する相手も、そして、めぐみの初恋の相手は、全てこの俺、相楽誠司でなければならない!!」

 

「だが、めぐみがブルーを初恋の相手と認識したばかりか、この俺が永久に雑魚扱いであるというその歴史が貫き通されてしまった以上、最早俺は永遠に幸せになれない!!」

 

「めぐみの体と心はブルーだらけで汚れてしまって、最早触れる事すらも出来ない!!」

 

「めぐみがプリキュアになった時点で、もうこの俺には破滅が確定していたんだよ!!」

 

「本当に罪悪感があるなら、今まで奪ってしまった人生を返しやがれ!!」

 

「出来る事なら、時間を巻き戻して、記憶も全部消去されて、過去からやり直したい!!」

「こういう風にな!!」

 

そう言って、空間にモニターのようなものを出す。2014年のロゴが刻まれ、誠司も戦士そのものになって戦っているばかりか、ブルめぐや誠ひめの部分を誠めぐに変換している映像が流されている。

 

「これが誠司の理想の世界……」

 

そう呟いてうんうんと1人で頷き、リボンに目をみやって、誠司の暗い目を見つめる。

 

「誠司、あなたを一人の異性として愛している。生まれた時からずっと」

 

「今まで誠司の気持ちに気付いてあげられなくて、きちんと向き合わなくて、あなたを傷付けまくってしまって、不幸に追いやってしまって、本当にごめんね」

 

「もう、ブルーとはお互いに名前で呼び合わないし、ブルーにも近付かない!」

 

「あたしの初恋の相手は、誠司 !」

 

「あたしを抱き締めて、お姫様抱っこして、あたしを看病してくれたのも、ハロウィンのカボチャケーキを一緒に半分こしたペアも、みんな誠司!」

 

「あたしは人助けはしないし、ずっとあなただけ見てる!」

 

「誠司に対して出来なかった事をいっぱい、何でもするわ!」

 

「そして、私はプリキュアにならない!」

「あなたよりもっと弱くなって、あたしが見ている事しか出来ない立場になる!」

 

「必要以上に誠司の傍に居るから!」

「なるべく他の人とは居ないようにするから!」

「もうゆうゆうやひめ、いおなちゃんや神様にも永久に近付かないから!」

 

「もう、誠司を離さない!」

「絶対に!!」

「お願い!目を覚まして、誠司!」

 

 

耐えきれなくなった心の最初で最後のラインを超えて、心の鏡が大きな音を立てて砕け散った。粉々に。世界だけでなく自身を崩壊させてしまい、半狂乱になりながら、暗い顔で鋭い眼で見下ろす誠司が静かに、かつ激しい感情をぶつけて告げる。

 

「もう謝って和解したら、お前達の罪がチャラになって、スッキリすると思ってるのか!?」

「お前等はそんなに偉いのか!?」

 

「どうかな?どうせ、自分のことで精一杯で、俺のことなんか微塵も思ってなかったんだろ!?」

 

「思ってなくても無自覚で心の中で思ってたんだろ!?」

 

俺を笑ってたんだろう?

 

「ブルー、お前もそうだ!」

「どうせ俺からめぐみを奪って、俺が不幸に追いやられる姿を楽しんでたんだろ!?」

「思ってなくても、めぐみと二人掛かりでこの俺をボロボロにして幸せだったんだろ!?」

 

「口ではどうとでも言えるさ!よくそんな減らず口が叩けた!!」

 

「そんなことを言えば許してもらえるとでも思ってたのか!?」

 

「───じゃあ、あの時俺はどうすればよかったんだ!?教えろよ!!」

 

嘆きと怒りがぐちゃぐちゃに混じりあって溶け合った感情をコントロール出来ずに、言葉を吐きすて、既に赤く染まりつつある白い服と青い髪を抉り赤い花弁を散らす。

 

少女は自分が力になれなかったことを思い知りズキズキと痛む胸を抑え、過呼吸になりそうになる体を必死に落ち着こうと抗う。

 

男性は深く刺さった鎌の傷跡を力の抜けた手で撫でながら歯をぎゅうと固く閉じる。

 

──めぐみは周りを見回した。

荒れた大地、傷だらけで立ち上がることも言葉を発することも出来ないほど力尽きて倒れたままのひめ、ゆうこ、いおな、ミラージュ。ただ漠然と見ることしか出来なかったぐらさんとファンファン。プリカードファイルを見つめるリボン。

そして青を染める赤。赤。赤。

ブルーから滴り続ける血潮が、空から迫る赤い星が、誠司に宿る憎しみが、空気ごと染めていて。

 

もうめぐみには贈れる言葉も戦う力も無い。皮肉にもただの少女になってしまった。それでも決意だけは一丁前で。

 

「リボン……」

 

希望を呼び。

 

「ラブリー………いや、めぐみ、もう決めましたのね……後戻りは──」

 

「うん。分かってる……ありがとう」

 

プリカードを掲げて。

 

「プリカード………!?一体今更何を願うつもりだというんだ…!?」

 

レッドが思わず驚きを口に出し、汗を伝わせる。

 

「プリカード…お願い……誠司を助けたいの……誠司の理想の世界に──!」

 

瞬間、眩い光が放たれ、めぐみの『時間』が崩壊していく。

ごめんね、みんな。

ごめんね、ひめ。いおな。ブルー。ミラージュさん。

 

光の中で誰かの優しい声が聞こえた。

 

「ごめんね、がんばって」

 

と。

 

 

──ズルしちゃってごめんね、誠司。

 

☆☆☆

 

「なんだこれ…」

 

「誠司……さん!この世界を救って!」

 

突如現れた怪物に対峙した誠司がめぐみやみんなを助けたいと願うと、目の前に謎のベルトが出てきて、空からそんな声が聞こえてきた。

 

青い髪の男の人が鏡越しで説明してきた通りにしてみると、みるみる身体がスーツに包まれていき、光とともに変身してしまった。

 

***

 

「めぐみ……」

 

林間学校で体調が悪くなった私を支え、看病してくれたのは誠司!良くなりますよーに、ってぴかりが丘神社のお守りをくれたの!

誠司の手、あったかかったな…!

 

そそそそれに私、おっおおおお姫様抱っこまでされちゃった………。

 

「そういえば、通りすがりの歌の女神様?だっけ、どうなったんだろう」

 

「上手くいってんじゃねーの?……って、それよりお前が早く体調治さねーとだろ?病人は休んだ休んだ」

 

「へーい……」

 

***

 

「ぴかりが丘のハロウィンパーティーは大切な人と半分こするんだぜ」

 

「そう、なんだね……ちょっとミラージュ探してくるよ」

 

女神様の協力もあり、かいどうと共に無事クイーンミラージュを倒し、浄化に成功してからは、ずっと自責の念を感じてきたブルーの顔色も大分良くなっていた。

 

宿敵であり兄であるレッドを倒すことが今の目的となっている。

 

「おう」

 

嬉しそうにカップケーキを持って去ったブルーを見送り、かいどうのほうをチラリと見やると氷川とあたふたしているのが見えた。

 

さて、俺は……

 

「オッス誠司ー!!今年も!!」

 

「半分こ、な!!」

 

「幸せハピネスおっすそーわけ!!」

 

守りたいこの笑顔。

 

***

 

「ねえ誠司」

 

「なんだよ改まって。その顔……何か悩み事か?」

 

「まあね……。友達の話なんだけど、男友達のことを友達として見れなくなっちゃった、異性として意識しちゃうって悩んでて」

 

友達って誰のことだろうか、なんて考えながら、あわあわとして視線を逸らすめぐみにココアを渡して、

 

「その人の気持ち次第だろ。ほんとに好きなら付き合っちゃえばいいんじゃね、意外とお互いそーかもしれないんだし」

 

「そう……かな」

 

普通の人なら気づきそうなバレバレな相談の仕方だったが鈍感な2人にはそんなこと気づくよしもなく。

 

***

 

「私……誠司の力になりたいな…」

 

か細い声で独り言をぽつりと呟く。

幼なじみは文字通りヒーローになった。

私のヒーローは、世界のヒーローになった。

 

それがちょっぴり寂しくて。

何も出来ない私が悔しくて。

大切な人のために何かしたいって、何が出来るんだろうって考えてしまって。

 

さらさらと揺れる河川敷の草を眺め、蒼穹を仰ぐ。

何気なく天に手をかざしてみると、ひょこっと誠司が顔を覗かせた。

 

「なーに思い詰めた顔してんだよ。俺は……その……めぐみが傍に居てくれるだけで……すっげー力が湧くし、めぐみのためなら頑張ろーって思えるんだぜ……っ」

 

なんて顔を赤くしながら言ってきたりして。

思わず目を逸らしてしまった。

 

心臓の鼓動が世界中に響いちゃうんじゃないかってくらいに早く、大きかった。

 

***

 

「……来たか、愛を名乗るヒーローとこざかしい小僧。それと愚かな我が弟よ」

 

「兄さん……!」

 

「──幸せは一瞬。愛は幻。お前達に見せてやる。身も心も焼き尽くすような不幸を…!」

 

『……!』

 

鏡越しに見守るミラージュが苦しそうな顔で反応する。

 

「どうしてこんなことを!!!」

 

「憎しみは誰もが持っているのに誰もが否定したがる。だから教えてやってるんだよ、全てを憎めと。お前が愛を説くように、俺は憎しみを、怒りを、嘆きを、不幸を語る。例えばそうだな…」

 

そう言って玉座から3人を見下ろしたまま、レッドは目線を上方に向けた。突如出現した大きな鏡に映し出されたのは……

 

「めぐみ!!!!」「愛乃!!」

 

黙って置いてきたのが裏目に出てしまったようだ。1人にするべきじゃなかった!!!

 

「やめろおおおおおおお!!!!」

 

ヤバい。それだけは感じ取った誠司が拳に力を込めてレッドに向ける。それを鼻で笑って跳ね返されて戸惑いながらも空中で回転して着地。すかさず次の攻撃へシフトする。海藤も続く。2人で連携し、今までの秘密の特訓の成果を実感していた。

 

………が、煙が晴れ、レッドのすまし顔が見えた。華奢な体も、纏うマントも無傷。

 

「くそっ………全然歯が立たねぇ!!」

 

すかさず轟速で飛んできた光線が2人に直撃、変身が溶けてしまった。あっという間。圧倒的なまでな力。圧巻だった。まだ奴は玉座から1歩も動いていないというのに。

 

「愛乃めぐみ……お前は…俺が憎いだろう?さあ憎め。感情を沈ませて身を任せろ。地球に星を落とそうとしている俺を、世界を不幸にさせている俺を、貴様の大切な奴を戦わせる羽目になった俺を!」

 

鏡に映る、うなされているめぐみを見つめる誠司。

 

「めぐみぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

 

『にく、、、、い、、、?』

 

駄目だ。誠司のためにも踏ん張らなければ。でも考えてしまう。声が心にしみ込んで。

 

この人が愛の神様のお兄さんで

誠司を戦いに巻き込んだ敵のボスで

世界を苦しめる原因で

誠司を苦しめる原因で

ミラージュさんとブルーさんの間に悲しみを振りまいた元凶で

みんなを不幸にする最厄なんだ。

 

誠司をあんなに苦しめるなんて

 

「ゆる、、、さない、、、!!!」

 

 

許さない。大切な人を守れない私も、大切な人を傷つける人達も、みんなみんな憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。

 

たった一つの綻びから流れ込むレッドの結晶の憎しみ。それは少女の優しい心を傷つけ、優しい故の憎しみを植え付けようと根を巡らせようとしてきて。そんな時、鈴のようなあたたかな柔らかい声が聴こえた。

 

(あなたには沢山の愛がある。今までの日々を思い出して。気づいて)

 

───オッスめぐみ!

 

───みんなで食べるご飯はいつもよりずーーーーっと美味しいのよ?

 

───愛乃さん!その、、、今度いろいろ、、お話しましょう?

 

───愛乃!誠司のこと、幸せにしてやれよ?

 

 

───俺は……その……めぐみが傍に居てくれるだけで……すっげー力が湧くし、めぐみのためなら頑張ろーって思えるんだぜ……っ

 

(──この胸に愛がある限り……)

 

『この……愛乃めぐみは──無敵なんだからあああああああああああ!!!!』

 

「………なんだと!?」

 

赤く輝く結晶が粉々に砕けた。

 

『私も、頑張るから!戦力にはなれなくても、少しでもみんなを支えたい!助けに…力になりたい!憎しみだって受け入れる!どんな辛い感情も私だから!──誠司!!!海藤くん!!ブルーさん!!お願い──!!』

 

強烈な誘いを振りほどき、力に溺れることを拒んだめぐみ。

 

「かっこ悪ぃとこみせちまった……」

 

「だな……」

 

フラフラになりながら立ちあがる2人と、生き生きとしているめぐみに驚きを隠せないレッド。

ボロボロになっても戦意を取り戻した少年らの心の底から沸きあがる希望。

 

「この力は……」

 

助けたい。どうしてここまで憎しみに囚われてしまうようになったかは分からないし、彼のことを何も知らないがそう思った。

 

「理由があるはずだ。みんなまとめて俺たちが助ける!」

 

「めぐみを洗脳しようとした時、自分を責めるみたいな、嘲笑っているような言い方をした。俺が想像するよりずっと苦しかったんだろ!!?だから、、、倒すんじゃない。暗く膿の溜まった気持ちを浄化して心を解放する。それが愛の戦士の役目だ!!辛いことがあったって諦めてやらねぇ!!」

 

海藤と目を見合わせて、深く頷き、心を込めて技をぶつける。

 

「「スーパーハピネスインパクト!!!!」」

 

直後、眩い光がレッドに直撃し、包み込んだ。

 

「なんだ、、、この光は、、、!!……あたたかい、、お前たちは………憎しみすらも不幸すらも受け入れるというのか!?」

 

「そりゃ投げ出したくなることも憎しみに身を任せちゃいそうになったり自分に負けることもあるだろうさ、でも─

仲間が、大切な人が、いるから。頑張れる。諦めたら始まらない。終わったまま、変わらない。むしろ悪くなるかもしれない。でも諦めなければきっと上手くいくことだってある。その可能性がたった1パーセントでもあるならさ、賭けてみたっていいんじゃねぇの」

 

ぽかん、と呆気に取られた顔をしてから、焼け焦げた服の1部の灰を払い、呟く。

 

「────それで、いいのか?」

 

「?なにがだ?」

 

「俺は!!地球を無に帰そうとした!お前たちを倒そうとした!利用出来るやつは利用した!何故憎まない!!?」

 

「俺がもし、めぐみやみんなを自分の力不足で助けられなかったら。今頃レッドと一緒に地球を壊してたかもしれない。自分に負けていたかもしれない。誰にだって認めたくない負の感情はあるけど、認めて前を向かなきゃいけないこともあるからさ」

 

「兄さんの根幹には愛が宿っている………自分でも分かってるはずだよ……民をあんなにも愛していたんだ、守ろうと必死だったんだ、だから──」

 

「───俺は、憎い」

 

「……」

 

「俺は!あの隕石もあいつも地球もブルーも幸せそうで憎かった!だが1番憎いのは自分に負けた奴だ。嫉妬した奴だ。全てを無くせばいいと本気で思ってた奴だ。星を隕石から守れなかった無力な奴だ。大切なやつらを目の前で失った哀れな奴だ。俺は、、、、俺が、、、憎い、、。もしも諦めなくてもいいのなら、少しでも希望があるのなら醜く縋ってみるのも………悪く、ないかもな………」

 

レッドが誠司の手を取り、惑星レッドは地球への衝突をやめ、地球の平和は取り戻された。

レッドは、元幹部やブルー、ミラージュと共に地球及び惑星レッドの復興を決意した。彼らの瞳には光ある未来が宿っていて───。

 

☆☆☆

 

あの地球は今どうなっているかな。

みんな元気だろうか

【今】っていうのがどこを表すのか、この私にはもう分かりづらいのだけれど。

青く澄んだ美しい星、地球。

あんなことあったな、懐かしいなぁ、なんて思い出を噛みしめて、広い星を一人歩く。

 

あれだけ求めた、圧倒的な力が今の私にはある。でもそれは誠司を助けるための力で、誠司を助けられない力だ。

 

時間を巻き戻して、プリキュアという存在を改変した。宇宙からの使者、女神様なんて名乗っちゃって……はは。

誰かを助けたいと強く思った人の心に反応して私が見極めて、力を授ける。そんなことを数えるのも諦めるくらい長い間続けて。歴史の強制力というか、ミラージュさんはいろんな運命が絡み合って敵対してしまったけれど…。誠司はみんなを救ってくれた。新しい世界の私も、みんなも、世界も。それだけで満足だった。だったのに。こちらへ向かう彼らの姿が見えた。それだけでもう目が潤んで、気持ちが溢れてしまった。

 

「──ずるいよ」

 

宇宙の彼方の小さな星、ラブリー。

その守護者たる存在は力を真に求める者に力を与えた。

その女神の誕生秘話は、今となっては誰も知らない。

 

世界線を越えて。それでも運命は繋がっている。

深淵を見た世界のめぐみの姿は変わっていても、彼が力を求めてここに訪れたのだと分かっていても、涙があふれて。

 

───大好きだよ、誠司。




***

惑星レッドの復活計画始動の1週間ほど経ったある日、星には2人の招かれざる客が来訪した。

その異様な気配に気づき近づくと、人影がキョロキョロと辺りを見回しながら立っていた。

「貴様ら!何者だ!」

「おっ、来ました、初めまして〜、マコト、とでも名乗っておきます…ほら、早く名乗れよ君──妹よ」

「こんちわ!!!私は……えっと!なんだっけ!そう!ちえ!!!ちえちゃん!!私ちえちゃん!!!よろすくー!!!」

「は?」

なんだか変な奴らが来た。そう思った故の「は?」ではない。いや、あながち間違ってはいないが、レッドにとって彼らはその程度の存在ではなかった。驚きが隠せずに思わず声が漏れてしまったのだ。

「冷たいですねぇ……ぐすん」

「そーだよ!!もっと!!熱くいこーよ!!炎メラメラーって感じで!!」

「何のつもりだ……ファルサとドクトゥス」

「おやや?いつからバレてたのかなぁ?せっかく?変装してもうちょい君で遊ぼうかと画策していたのになぁ?」

「お着替え楽しかったー!!!……あう」

ぼかん、と拳が少女──ドクトゥスに当たる。

「君が余計なこと言うからじゃないの?僕かなり自信あったんだよ?レッドの為にわざわざ口癖治すの練習したんだよ?そう思うとすっごい僕ってば可愛くない?」

「ふざ………けるな……ッ!!」

憎しみが広がるのが分かった。

「お前らのせいで………俺は……俺の星は………」

憎い。憎い。憎い憎い憎い憎い。暗い闇が1週間ぶりに顔を覗かせる。ドス黒いドロドロした何かが心の中で湧き上がり怒りが込み上げる。だが。

「「レッド!!」」「兄さん!」

誠司と海藤、ブルーの声がかかり、はっとする。
そうだった。今の俺には……前向き馬鹿がいっぱいついてるんだ。怒りを押さえつけ、制御する。

「ぐっ……これ、、は、、」

突如、レッドの記憶が誠司の頭に流れ込んできた。

「相楽誠司に何をした!!」

「状況わかんないのかわいそーだから!レッドの記憶!盗み見させてるんだよ!!!感謝してね!!」

頭痛。激しい頭痛と共にレッドの記憶が物凄い速度で鮮明に追体験されていく。
苦しい。辛い。憎い。裏切られた。憎い。羨ましい。憎い。憎い。……助けて。

「───ファルサ、お前はなぜこんなことをした?」

誠司が冷たい声で言う。

「え?楽しいからだよ?僕達星の守護者は生きる時間が長すぎて生きてるって感じも無いんだよ?まあ生きていると言えるか自体そもそも疑問だけどね?だからね?分かるでしょ?娯楽が欲しいじゃん?」

「そんなことで……?」

「そんなことだってー!酷いよー!!ちえちゃん達真面目に楽しんでるのにー!!知ってるよ!!人間もこーゆー事するんでしょ!!!人のことちゅーいするのに自分はいーんだ!!?ぷんぷん!!君だって──おっとこの話はこの世界じゃ駄目だったっけ、危ない危ない!!てへぺろ!」

「自分たちが楽しむためだってのか??レッドがこんなに苦しんだのも!!惑星レッドの人達が苦しんだのも!!地球が脅かされたのも!!」

「そうだよ?女王だっけかが封印されちゃってからちょっと─あぁ、400年くらい経ってたっけ─暇だったけど最近はかなり楽しかったかな?ね?」

「うんうん!!!ちょーーはっぴー!!」

「絶対に──絶対に許さねぇ!!!」

変身し、すぐさま殴りつけた。力を込めて。
話しても通じないことは分かった。ならば!倒す!!

「「うおおおおおおおおおぉ!!!」」

眩い光がファルサとドクトゥスの顔を歪めた。
だが、レッドを倒したこの力でも僅かに足らず、跳ね返されるかと思った刹那、桃色のあたたかな光が届いて──。

「くそ……なんなの?こんなの聞いてないんだけど?」

「こんなんじゃない!!こんなもんじゃない!!お前たちが傷つけた人達の苦しみは!!!」

「あっそ?君、あれ使って?僕の力はさっきのでカラカラに乾いちゃったからさぁ?」

「………むむむ!!あれやるの!!すげー!!もーー私達怒っちゃったからねー!!!」

そう言ってドクトゥスが結晶を取り出した。
その力は──

「記憶をつかさどる、だよ!!」

だがそれは通用しなかった。光を用いた記憶を操る能力ということはさっきの誠司への記憶流入で分かっていた。だから──

「鏡で、跳ね返せる!!」

ブルーとレッドが協力して大量の鏡を発生させ、どんどん反射させてさらにエネルギーを膨らませて、悪へ跳ね返す。(倍返しだ!!なーんて。)

「おいおいおいおいまてまてやめろってやめろやめろ───ッ!!!!」

ドクトゥスとファルサは己の能力により封印されてしまった。ドクトゥスの能力は記憶をつかさどるもの。先の言動からかなり相手を苦しめるものだとは予想がついてはいたものの、まさかここまでとは……。やった側とはいえ驚きを隠せなかった。

2人は結晶の記憶の濁流に飲まれ、今まで結晶にやられてきた人々の苦しみを永遠に味わうこととなってしまった。結晶内に自分自身を閉じ込められるなんて予想出来るはずなどなく、後悔してももう遅い。
今まで吸収してきた記憶が一気に流れ込む。脳はパンクし、自我を保つことすらもままならず、あがき、もがく。だんだん意識が朦朧としてきて、自分が何なのか、何だったのかも分からず、『みんな』の1部となって──。

☆☆☆

ファルサとドクトゥスに鉄槌を!と思って書きなぐりました。本文に入れるほどのものでもないので気になる人だけって感じで後書きに入れさせて頂きました。
通じるか分かりませんが、最後のイメージは蒼穹のファフナーとかエヴァとかみたいなそんな感じです()

1話からだいぶ経ってしまいましたがやっと終わることが出来ました!リクエストルート、いかがだったでしょうか?誠司が幻影帝国的なのを作ったり、ブルめぐを誠めぐに改変するっていうリクエストでした。できたかな??大丈夫かな、、?不安しかないですが、まずはここまでお付き合いしていただいた読者の皆様に感謝を。何度もDMして下さったりリクエストをしてくださったトムーさんにも感謝を述べましてこれで終わりとさせていただきます。本当にありがとうございました!!
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