「はい。二人だけで話したいんですけど…」
誠司は笑みを堪えるついにこのときがきた。
首筋に汗が滴る。
出来れば外に連れ出してやりたいが、怪しまれるくらいならば避けた方が良いだろう。
ミラージュが起きてこなければいいが…早めに済ませるか。
「で、相談というのは?」
ブルーが促す。水色の澄んだ瞳だ。壊してやりたくなるほどに。早く、早く、と結晶もせかしているような気がする。
「あぁ─────何であいつらなんだ」
せっかくだから何の変哲もない世間話などではなく、ちゃんとした質問をする。これはずっと思ってきたことだし、丁度良い機会だろう。ま、結末に変わりはないが。
「何で…めぐみやゆうこやいおなが…ひめも…戦わなくちゃいけないんだ」
「確かに、ひめはアクシアを開けた張本人だし、いおながお姉さんの敵をとろうとしたのも分かる。けど、いおなは復讐を終わらせた。もう戦う必要なんてないはずだ。めぐみもゆうこも。誰かがやらなきゃいけないってわかってるけど…やっぱりあいつらに危険な目にあってほしくない」
「まだ中学生なんだよ…なんでみんなのためにあんなにぼろぼろにならなきゃいけないんだよ」
「───」
「それに、なんでお前は戦わないんだ?女の子に戦うように指示するだけで動こうとしない!禁止事項をつくったりするだけだ!恋愛禁止?何だよそれ!なんで全部背負わなきゃいけないんだよ!?元はと言えばお前がミラージュをディープミラーから守れなかったからなんだ!俺達を……巻き込まないでくれ」
叫ぶように、思っていたことを吐いた。
言えなかったこと。言いたかったこと。
気づくと温かい何かが目に溢れていた。
「……誠司くん」
立ち上がり、ブルーを見つめる。
「何だ…?」
「君は…憎しみに捕らわれているのか…?」
「…は?もしそうだとしてどうする?お前のやってきたことに変わりはない!」
もう我慢できない。お話は終わりだ。こいつは質問にも答えようとしない。もう正体もバレているだろう。
「憎しみに捕らわれている…?はっ。そうだよ。お前のせいでな!」
すぐさま結晶を取り出し変身する。
ブルーは少し驚くような表情をしたあと、悲しげな顔をしやがった。
「お前を…消す」
手に力を込め、赤い球を出現させ、ブルーに向けて放とうとしたとき─動きが止まった。声が聞こえたからだ。
「ブルー!誠司がいなくなった…って……?」
「……っ!?」
めぐみか。後ろにミラージュもいる。母さんかミラージュが知らせたのか。まあいい。どうせ避けられない戦いだしな。
「めぐみ!ミラージュ!」
「これは…!?え、どういうこと…?誠司…?」
「これが誠司さん!?もしかして…ディープミラーが?」
「恐らくそうだろう…。もう誠司くんは憎しみに捕らわれてしまっている…。めぐみ…戦えるか…?」
「…嘘だよね?…誠司は私達のヒーローだもん。なんで…誠司と戦うの…?」
「お話はもういいか?」
会話を断ち切り、赤い球のエネルギーを纏わせて強化した拳を振り下ろす。
ブルーは半円のバリアのようなもので防ぐ、が、俺はそのまま力を込め、バリアを破壊していく。
ヒビが入り、もう力は限界のようだった。だがまだあいつは何か力を隠しているような目つきでこちらを見ている。少しバリアが動く。─そういうことか。俺は少し後方に下がる。
そのすぐ直後、バリアが一気に大きくなり弾け、家の壁ごと吹き飛ばした。
「避けられたか…めぐみ!もう僕の力は残っていない!早く!」
「……くっ。そんな力があったとは。だがもう今ので使いきったのか。お前は弱い。何でだ?何故弱い?プリキュアよりも弱い?プリキュアにさせた張本人が?」
「……っ」
ブルーに問うてみるも、返事はない。
左手で右肘を抑え、へなへなと座り込むブルーをミラージュが支える。
ちっ。
見ているだけでイライラしてくる。こんなやつがずっと指令を出していたなんて。禁止とか言ってた張本人が一番幸せそうに恋をしているなんて。
「……返すことばもないのか」
そのとき。
「ラブリー・ハートリストラクション!」
桃色の無数の光弾が飛んできた。
俺は避けたり、腕で弾いたりして回避する。
「めぐみ……忠告だ…。俺はブルーを消す。そしてこんな腐った世界もぶち壊す。プリキュアの苦しみを終わらせるんだ。それを邪魔するならお前とも…戦わなきゃいけないんだ…だから…邪魔しないでくれよ」
「誠司…それはこっちも同じだよ。私はみんなを助けるの!誰も傷つけさせない!誠司もうやめて!それと、ごめんね…?私、全然誠司の気持ちに気づいてあげられなくって…憎しみとか、悲しみとかも全部…」
またお前は他人のことを思うのか…。
いつもそうやって自分のことなんて考えないで突っ込んでいく。たとえアンラブリーの言うような、誰かに誉めて貰うための正義感だとしても、誰かのため、みんなのため、どれだけ傷つけられようと立ち上がる。守りたいという心は本物。それがめぐみだ。昔から変わらない。それをあいつは…利用したんだ…!
「めぐみのせいじゃない!全部こいつのせいなんだよ!あいつに聞いた。こいつらが兄弟喧嘩をして、ミラージュはたぶらかされて、帝国ができて、プリキュアに戦わせてる…こんなやつらのために傷ついてるんだ。ひめがいおなに恨まれていたのだって、元はと言えばこいつが帝国を誕生させてしまったからだ。ミラージュを止められなかった。それを自分では戦わずに少女に命懸けで戦わせてるんだ!お前らはただの中学生だろ?助ける義理なんてないんだ!最後のチャンスだ。俺と一緒に来てくれ。今度は俺が守る。こいつから守ってやる!もう辛い思いなんてしなくていいんだ!」
誠司は夢中になって話す。今までのことを思いだしながら。プリキュアが何度も傷つけられたこと。
しつこい記者がいたこと。プリキュアを優先したせいで学校生活を削らざるを得なかったこと。
めぐみがアンラブリーに傷つけられたこと。
そして──、ミラージュとブルーの仲が復縁し、めぐみが失恋したこと。
「誠司…本当にどうしちゃったの…?正義感が強くて、どんな人にも優しくて、いつも周りを見てくれててくれて…そんな、他人を傷つけるなんてことしたこと無いじゃない!」
めぐみは少し瞳を潤わせて叫ぶ。
だが、決心は揺らがない。
「……俺はヒーローじゃない。ヒーローにはなれない。俺は昔から偽善者だ。結局自分のもの以外なんて考えていない。今もそうだ。お前が思っているほど俺は優しくない。だから、俺はおまえらしか助けられないし助けたくないんだ。『みんな』なんてものは助けたくない。お前らをこんな風に戦わせて、無償で助けてもらってるだけの『みんな』なんてやつらを消す」
「わかんないよ…どうすればいいの…?戦わなきゃだめなの?誠司は洗脳されてるの?倒せば元に戻ってくれるの…?」
「俺は、洗脳なんてされてない。力をもらっただけだ。だがら倒しても元に戻るなんてことはない」
「洗脳されていないだって…!?どういうことなんだ…?ではなぜ、誠司くんは…」
「本人の意思だ」
頭上から声が響く。ブルーははっとした顔で見上げ、呟く。
「やはり貴方が絡んでいたのか…レッド!」
対してレッドはふん、と澄ました顔でブルーを見下ろし、告げる。
「ブルーか。──俺は力は与えた、が、洗脳なんてしていない。奴は自分の意思で自ら来た。お前や、世界を壊すために」
「どうして誠司くんが…」
「お前も鈍いやつだな…。全く、だから愛というものは滅ぶべきなのだ。説明など必要ない!相楽誠司が自分の意思でこの道を選んだのは事実。それだけだ」
「……くっ」
レッドを見上げているだけのブルーに向かう。
「よそ見なんかしてたら殺られるぞ?」
そう言って、思い切り蹴りあげる。──が。
「………めぐみ」
めぐみは──いや、キュアラブリーは誠司の蹴りを受け止め、ブルーを守った。またブルーを守った。
奴を守った。誠司の闘志はまだ高まるばかり。ブルーを消す。愛を消す。世界を壊す。その一心で闘志をたぎらせる。
「……どけ」
「いや!誠司!目を覚まして!これ以上まだ戦う気なら…わたしも…容赦はしない!」
「……仕方ない」
誠司はラブリーごとブルーに拳をぶつけた。
そのままくはっ、と声を漏らし、破壊音と共に建物の壁へ飛び込む二人。
その光景を眺め、誠司はすこし、少しだけ胸が締め付けられた気分になった。