[ぴかりが丘某所]
放置され続けている小さな廃家屋。
壁には一面ツタがはっており、ガムテープで乱暴に補強されたひび入りの窓、酸化して変色した書類の数々と、その上に厚くかぶっている埃が、最近この建物が使われていないことを物語っている。
誠司、レッド、めぐみは鏡を通ってこの建物へやって来た。
「何だここ?」
「さぁな。長い間使われていない建物を探してたら見つけたところだ。ここならあまり人目にもつかないし立地の都合が良かっただけで選んだが…埃が…」
誠司はリボンを抜き取り変身を解除しながら、レッドは軽く埃を払ったソファにめぐみを寝かせる。
「まぁ別に長期間滞在するつもりもないからいいけどな……てかお前、めぐみに変な真似は─」
「するかよ。俺はこんな娘に興味などない」
「そうかよ…」
そして誠司はプリキュアのアイテムを回収し、めぐみの変身を解く。まだすやすやと寝息をたてている。そこに自分の着ていた上着を被せる。
レッドは小さな椅子に腰をかけ、大きく穴があいてしまっている壁から外の景色を伺い、
「……まったく、地球は綺麗なもんだな…」
と憂鬱げにため息をつく。
「……。なぁ、お前」
「何だ?」
「お前は何で地球や愛を憎んでるんだ?」
「そんなことお前には関係……まぁいい、話してやるよ。ちょつとした息抜きというか暇潰しだ」
☆☆☆
───幸せは一瞬。愛は幻。
あの頃は幸せだった。
まだ星には生物があふれ、生活があった。
みなの笑顔を見ているだけで幸せだったのだ。
すべてのものに愛を注いだ。
だが、もうそれも終わりのようだ。
「小惑星が接近しています!軌道は……!このままだと衝突して……この星はもう…」
「なんだと!?」
あまりにも突然だった。だが事実。本当に小惑星は接近し、もう惑星レッドの未来は閉ざされるかに見えた。
だが、レッドは諦めずに、立ち向かった。
あるだけの力を使い、星の使者として戦士を誕生させ、共に惑星を守ろうとした。
毎日毎日考えた。より確実に小惑星を消す方法を。
どうすれば惑星の環境を保ったまま被害を最小限にできるのかを。
民の不安もつのるばかりだった。
衝突まで一週間。
運命のカウントダウン。衝突の発表がされたのはつい数日前で、混乱が渦巻いていた。
レッドは近隣の星々にそれを知らせ、小惑星を壊すのを手伝ってくれないかとたのみに行った。
だが、小惑星等がどうなろうと無視できるほど、その星々は結構離れていたため、どの国もわざわざ危険をおかす気などさらさらないようで、どこも断られた。それに留まるどころか、惑星レッド周辺は危険だということで、貿易中止等といった、この星の孤立を招く事態になってしまったのだった。
しかし、最後の願いを込め出向いた惑星ファルサだけは、兵士は出してはくれないものの、物資を協力してくれるとのことなので、感謝して協定を結ばせていただいた。普段はファルサとの仲はあまりよろしくないのだが、緊急事態は別だ!と笑顔でファルサの王が言ってくれた。助け合おうとする気持ちや思いはなんて素晴らしいのだろう、と本当にこのときは思った。
このときは本当に思ってしまっていたたのだ。
───「きっとレッド様が助けてくれるわ」
星に帰ると、そう皆は言い、またそれを疑う者など誰もいなかった。危機が刻々と迫ってくるなかでただレッドを信じ、応援してくれている姿を見、危機が迫っているのは分かっているが、それを幸せな時間だ、と感じた。と同時に、無力な自分がより惨めに思えた。
こんなにも応援してくれている人々がいる。それだけで最近の疲れが吹き飛んだ。それからはずっと自分の部屋にこもり、特訓をして、力不足だったなんて後悔の無いように対策を練った。
衝突まであと3日。
惑星レッドからはまだ小惑星は見えない。
だが、最近は細々とした隕石が落ちたくるのが増えてきており、民の恐怖も伝わってきた。
また、予想以上に大きめの惑星の可能性が出て来ており、またそれに伴う隕石もかなりの数とのこと。
命懸けの戦闘も高確率で避けられないだろう。
どうするか…。大きな鏡を召喚し、吸収しようにも、鏡で空間を移動したりする際は必ず出口用の鏡がいるため、文字通りの吸収は出来ず、小惑星たちが何処かでまた鏡から出てくる可能性がある…。
なかなか良い策は出ず、今のところはひたすら小惑星を粉々に破壊する、という無茶苦茶な案のみだった。
お茶を飲んで少し休憩。宮殿の中は緊急事態とあってざわざわとしている。ん、それにしても騒がし過ぎないか、と様子を伺い窓から僅かにカーテンを開けて中庭を覗く。
そして、聞こえてきた。
「レッド様は我々を見捨てるのではないか?だって、最近姿をお見えにならないし…」
「あなた、何を言ってるの!?レッド様はきっと今もこの星を守るために作戦を練ってくださってるんだわ!」
「もう手に負えないのかもしれないね……大き過ぎるらひいし…」
「この星に嫌気がさして隕石や小惑星をぶつけて壊すつもりに違いないわ!」
不安はつもりにつもり、やがてガスに火をつけるように広まっていく。疑念を抱き、争いが始まる。
ちょっとした暴動のようなものが始まっており、レッドは部屋を飛び出し、言う。
「何を言っているんだ…?俺はこの星を守る!そのまめにここ最近は鍛えていたのだ。この星を作ったこの俺が見捨てる訳がないだろう!」
レッドがそう言っても、耳を傾けた者はすでに少なくなっていた。変なニュースも流れていた。
一度強く刻まれたものはなかなか変えられないものだ。
人々は疑念を起こし続け、レッドの話を聞こうとしない。無実なのに罪を着せられた者が検事を恨む、という気持ちが理解できた。
検事側のように、ありもしない罪をひたすら問われ、罵声を浴びせられ、してもない罪を検事の言われるがまま言うかのような。
「何故だ!」
なんともいえない辛さ。
「何で…!」
誰にも相談できない辛さ。
レッドは頭を抱え、ぐちゃぐちゃになった部屋で、綿が飛び出したボロボロの枕で寝た。
衝突まであと一日。
今日が最初で最後のチャンスだ。
もう小惑星とそのまわりの大きな岩が近くまで接近しているのが確認できる。
小惑星衝突対策チームの者も、分裂した。
レッドを疑う者と疑わない者。
どうせ小惑星の衝突は避けられない、と諦める者。
「どうせレッド様の仕掛けたものなのよ!?それをなんで私達が命懸けでやらなきゃいけないのよ!」
「もしそうだとしても私達がやらなきゃこの星は滅びるの!たとえ命懸けでも!皆を助けるんでしょ!?」
「それはそうだけど…」
気持ちはまとまらぬまま、決戦のときを迎えた。
惑星レッドから移動できる一番遠い所で、周りに星もない、被害がもっとも少ないところへ鏡で移動。
これまでやったことのないかなりの距離の移動。鏡を使ってもそれはかなりの労力を要する。それを何人分も繋いだのだ。着いた時点でレッドは疲れはてていた。
強行突破しかない…。
「ひたすら壊して細かくする!頼む!惑星レッドを守ってくれ!」
声を振り絞って叫ぶ。チームの者は(一部頷き、)小惑星の方へ向かって行く。それに続いてレッドも後を追う。
「くっそ……力が足りん…!」
民をまとめる力が。
民に安心した生活を送らせられるだけの力が。
小惑星を一人で破壊するほどの力が。
精神に打ち勝つ力が。
罵声に耐える力が。
作戦を立て、指導する力が。
力が。
力が足りない。能力が足りない。
何故だ?俺には何も守れないのか?
自分のチームも、星も、民も、生活も命も何もかも?
「レッド様!?顔色が悪いですよ!?どうなさったのですか!?」
チームの副リーダー、サマンサが声をかけてくる。
「何でも…ない…いいからお前達は先に行ってくれ」
「そんな!何でもありますよね!?私、3日くらい前も見たんです!お部屋の家具がなぎ倒されて、机の上のものも全て下に落ちてて、枕の綿も舞ってて…そしてレッド様はベッドの上で膝立ちで立ち尽くしていて…」
「……見られていたのか」
「……外が騒がしくなっていましたし、その、チームもバラバラになってしまったので…これは相当疲れが来ているだろうと紅茶を淹れたので」
「そうか…それは申し訳ないことしたな…じゃあ帰ったらもう一度淹れてくれないか…?」
レッドの疲れは未だ身体を蝕んでいるが、サマンサのおかげか、少しは力が回復してきた。
レッドがゆっくりと立ち上がるところを、サマンサは嬉しそうに見つめる。
そして、笑顔で
「はいっ!喜んで!」
と答えたのだった。