機動戦士ガンダム 無血のオルフェンズ 転生者の誓い   作:江波界司

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思いつきです。暖かい目で見てもらえればと思います。


シナリオへの挑戦者

「いやいや、そのエンドはないわ」

 テレビの前で呟く青年は、もうすぐ高校を卒業する年である。

 18歳にもなって未だガンダムが好きな彼は思う。

 なぜ戦争するのか、と。

 もとを辿ればこそ独立や至上主義など見えてくるものがあるが、こうして死んでゆく者達を見ては虚しさしか残らない。

「俺だったら、こんな馬鹿なことしねぇな」

 ガンダムの世界全否定なセリフで締めくくった彼は、ベッドに横なり目を閉じる。

 だが、彼は知らない。

 何の脈絡もなく起こるからこそ、超常現象とは恐ろしいものなのだと。

 

 

 ✕✕✕

 

 

「おい、早く起きろよ」

 誰の声だろうか。

 聞き覚えのない声に呼ばれ、彼は重い瞼を開ける。

「なんだよ。そのやる気の感じない目は。今日も訓練行くんだろ?早く行こーぜ、リヒト」

「あ、ああ」

 と、おざなりに返事をしたが、未だ彼は状況を掴めずにいた。

 どうにか体を起こし、いつも通りの服装に着替える。

 いや、待て。

(今俺は何を着て、誰に呼ばれて、どこに行くんだよ!?)

 そこで彼はようやく自分の異常性に気が付いた。

「な、なぁ。今、何時だ?」

「は?さっき午前の業務終わったばっかだろ。なんで仮眠とってた同期を起こしに来て、んなこと聞かれなきゃならないんだよ」

 午前の業務。彼は頭の中にある記憶を模索し始め数秒、確信に近い答えを得る。

 新兵が任されるという初歩的な指導と作業。道をすれ違う上官と思われる者達の服装。そして、今まさに自分が着ている上着。

 間違いない。

(俺は、ギャラルホルンだ)

「えっと、先に行っててくれ」

「ん?おお、分かった。さっさと来いよ?」

 言い残して去ってゆく同期を見送り、自分だけがいる広めの部屋で彼は頭を抱えた。

「マジか……これ」

 少しずつ状況を確認していく。

 まず、今の自分。

 名前。リヒト・ストラトス。

 特徴。黒髪、緑眼。やや長身。筋肉はそれなり(昭弘と比べてだが)。

 歳。20歳。

 職業。ギャラルホルン。新兵。詳しい所属は、今は抜かそう。

 両親は既に他界。兄弟もなく、完全に独り身。

 そして日付、というか時期。

 記憶が正しければ鉄華団が火星で出来たのとほぼ同じ。

 ここまで考えて、ある仮定が成り立つ。

「どうやら俺は、このリヒトとかいう奴の知識は持ってるらしいな」

 ただし、知識だけである。

 言うなれば人間が生きていく上で必要だと脳が決定したものだけ。会うことが極端に少ない人物の顔、名前や、印象の薄い思い出までは分からない。

 彼はリヒトという人物のことを自分の脳でさらに調べる。

 成績は中の上。悪くはないが、そこまで良くもない。

 希望する役職は作戦指揮。

 これからすること。MS(モビルスーツ)の操縦訓練。

「いや、なんでだよ」

 閉じていた目を開け一人呟く。

 そもそも一兵卒が参謀になれるわけもない。故にこうして戦術と戦闘を学べるMS操縦をしている。らしい。

 彼の中、記憶だけの男、リヒト・ストラトスという者の言い分はこうだった。

 まぁ、しかし、仕方ない。と彼は自虐的に零す。

 理由は分からないが、とにかく彼は異世界に、それも自分の知る世界に異世界転生(?)を果たした。

「なら、俺無双じゃねぇかよ」

 なにせ彼には鉄血のオルフェンズという世界観の記憶がある。

 どうすればどうなり、どうしなければどうなる。

 想像も想定も容易=最強。

 そう、これは1人の青年がリヒト・ストラトスとして生きる物語。

「やるからには、ハッピーエンドにしてやる」

 そして、真の世界平和を願う物語である。

 

 

 

「いや、けどさ……」

 訓練場へと向かう道で一人、リヒトは無意識に口を開く。

「普通、鉄華団だろ……こういうの……」

 理不尽は、許せない。けれど、どうしようもなかった。

 

 

 ✕✕✕

 

 

『機体、大破』

 無機質な声がMSの破壊を通知する。

 訓練とはいえ流石に実物を使うことは出来ず、高性能シミュレーターによって新兵はその腕を鍛え上げる。

 さて、この物語の主人公。現リヒト・ストラトスはコクピットだけの機械から姿を表す。

「俺、弱過ぎる」

 大破したのは彼の期待だった。

 理想と現実は違う。リアルの厳しさを体感し、リヒトは肩を落とす。

 実際、彼の腕は悪くない。前記の通り、成績は中の上なのだから。

 しかし鉄華団を知っている彼からすれば、それは悲しい情報でしかない。

 まず基本操縦。使用している機体の所為でもあるが、やはり阿頼耶識を使った操縦のようには行かない。

 戦闘技術はといえば。こちらも同様、阿頼耶識には遠く及ばず。射撃の成績だけが無駄に良いことを除けば、やはり普通。さっきも同期に近接戦闘で負けたばかりだ。

「ストラトスって名前が皮肉すぎる」

 ガンダムファンがストラトスと聞けば、やはり思い出すだろう。ガンダムOOのパイロット、ロックオン・ストラトスである。

 当然自らを重ねた彼、リヒトは鉄の天井を仰ぎながら思う。

 MSって、難しい。

「よっ!今期最強スナイパー」

「うるせ」

「なんだよ、リヒト。折角、お前今日調子良すぎだろって言いに来てやったのに」

「わざわざ皮肉言いに来たってか」

 先程自分を起こしてくれた同期にリヒトは雑に返す。

 この世界に置いて、スナイパーとはかなり必要性のないポジションだ。

 どう考えても三日月・オーガスやその他の機体を狙撃するなど出来る気がしない。仮に出来てもあの装甲を割る攻撃力となれば、候補はダインスレイブか、フラウロスのレールガンくらいだろう。

 つまり実質用無し。

 リヒトは元の彼の希望通り、参謀を目指すことを心に誓った。

「俺、今日調子悪いからあと寝るわ」

「おー。っては?どこが調子悪いんだっての」

 同期の言葉で今日の成績を思い出す。

(確か歴代最高点だったか)

 元の体の持ち主、リヒトという男は元から狙撃がうまかった。幼少の頃から兵士である父親に銃を習っていたから、らしい。

 そして今日。現代世界でゲームをしまくっても、アニメを見まくっても下がらない視力だけが長所の彼が憑依した。

 つまり、目だけはいい中級兵士の誕生である。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 それから暫くの時が過ぎ、事件(超個人的)は起きる。

 元々、新兵としては経験をそれなりに積んでいたリヒト。彼は本格的に配属されることになった。

 だが、その配属先が、問題だった。

「これから諸君は、我、イオク・クジャンと共に栄光ある戦歴を積むことになるだろうっ。各位、誇りと覚悟を胸に奮励努力して欲しいっ!」

 整列させられた十数名の兵士は居住まいを正し、返答と共に敬礼する。

 だが一人だけ、敬礼とは裏腹に心の中で悪態をつく者が。

 そう、リヒト・ストラトスである。

(マジかよ……よりによって、これかよ)

 彼は色々とツッコミたかった。

 まず、何故彼、イオク・クジャンがここにいるのか。

 答えは人員補給。隊を動かすこと自体は出来る彼なのだ。新兵を隊に招いても不思議ではない。

 次に、何故リヒトが配属されたのか。

 彼は射撃、特に長距離での成績が今期一位だった。

 クジャン公曰く、「戦場に置いて、友軍を支援出来る者が必ず必要になる」とのこと。

 だが、彼は思う。

(当たらなければどうということはない、だろ)

 ギャラルホルンである以上、戦う相手は鉄華団である。

 そんな戦場を駆ける悪魔に長距離射撃が通用すると?

 仮に対象を母艦にすればどうか。答えは決まっている。

 狙われて、落とされる。

 初見殺しの一撃必殺を披露し、それを外した日にはどうか。間違いなく殺されるだろう。

 成績がいくら高くとも、百発百中ではない。まして経験のない戦場。それで外すなという方が無茶である。

 以上を踏まえ、リヒト・ストラトスは自らの未来を考える。

(俺、死んだ)

 それもかなり早めに。

 

 

 

 壮行式のようなものが終わり、彼は用意された自室に向かう。

「しかしどうだ。ここでイオク・クジャンが出てくるってことは、もしかして原作ブレイク出来てないか?」

 歩きながら呟くように言って、彼は熟考する。

 原作、つまり自分の知るバットエンドが回避出来る。

 極端な話、誰も死なずに平和に出来る。

 いや、流石に死者ゼロは無理だろうが、それでもメインキャラクターは守れるのでは?

 そう思うとテンションが上がる。

(俺の知っている知識があれば、出来るんじゃないか?)

 問いかけというより確認。出来るという答えを自ら用意し、心の中で返す。

 だがこうして考え事をしていれば、まして歩いていれば前方不注意は当然。

 知らぬ間に肩同士がぶつかる。

 現実に引き戻され、リヒトは声を上げる。

「はっ、申し訳ありませんっ!」

 自分は新兵であり、ここは配属先の職場。出会う人間は基本上司。まして対向から来たのなら尚更だ。

 反射的にとった敬礼に、目の前の男は片手を据えて応える。

「いや、問題ない。新兵か。緊張するもの無理はないが、ほどほどにしておけよ?」

 現実に聞いた記憶はないが、この声を彼は知っていた。

 リヒトは目の照準を合わせて確認する。

 ラスタル・エリオン。

 自分がぶつかったのは、鉄華団に止めを刺した男。そして平和を作った男だった。

 複雑な気持ちを押し込めながら視線を泳がせる。

 ラスタルの後ろ、付き人のように続く女性。ジュリエッタ・ジュリスがそこにいた。

 ぶつかったことを無言で責める視線が辛い。リヒトはすぐにラスタルへと向かい直す。

「本当に申し訳ありませんでした」

「ああ」

 お咎めはないらしい。

 それでは、と下げた頭をゆっくり上げ、リヒトはその場を離れる。

 すれ違いざま、物凄い形相で睨むジュリエッタの顔は当分忘れられそうになかった。

 

 

 

 一日の業務が終わり、彼はベッドの上で頭を抱えていた。

「やべぇ、これ……」

 悲しいかな、気付いてしまったのである。

「俺、フミタン救えねぇじゃんっ」

 どう足掻いてもここからでは不可能な原作ブレイク。

 時系列的にはもう鉄華団は地球に向かって動いている。ならばその道中で失われる命にリヒトは関与出来ない。

「早速一人死んじまったよメインキャラ……」

 ネガティブなことを考えれば思考もネガティブになる。彼は今まさに負の連鎖にいた。

「しかもこれ、もし俺の行動で早くも原作と流れが狂ってたら……俺の知識なんの意味もねぇじゃんか……」

 ゴロゴロと悶える彼は疲れに勝てず、そっと眠りについた。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 日も経てば人は立ち直る。

 配属されて期間も少し経ち、慣れ始めた職場で彼は自分がすべきことを考えていた。

「原作ブレイクに当たっての分岐点。まずはビスケットの生存だ」

 メインキャラの死亡を防ぐため、リヒトは策を練る。

 とにかく自分が出来る範囲で誰も死なせない、と心に決めたのがつい先日。さし当たっての目標がビスケット救済だった。

 もっと言えばアイン・ダルトンも助けたいと考えたが、どう考えてもバルバトスを止める手段が思いつかなかった。勿論それ以外でも候補はあるだろうが、彼は少しだけある可能性に恐れを感じていた。

 歴史の強制力、である。

 タイムスリップでも直らない時間軸のように、ある意味未来人の自分では出来る行動にも制限があるのではないか、と。

 リヒトはネガティブな思考を振り払うように食事を掻き込み、プレートを返却口に返した。

 イオク・クジャンの下に配属はされたが、だからこそ出撃は少ない。ならば今の内に腕を磨くべきだ。たとえガンダムと戦えなくとも、自衛が出来るくらいには。と、リヒトはシミュレーターがある訓練場へと足を運んだ。

「ん?なんだあれ」

 だがいつもと違う光景に、彼は足を止める。

 何故か出来た人集りと、その中心にいる人物。騒ぎではないが、皆が浮き足立つ理由が分かった。

 何故かそこにはイオク・クジャンの姿があったからだ。

 遠巻きに見ているが、状況はすぐに把握出来た。どうやらイオクが直々に稽古を付けてやるとか言い出したらしい。

 だが誰も名乗り出ない。

 当然だ。他の新兵はどうか知らないが、イオクの実力はまぁ言うまでもない。流石に新兵相手には負けないだろうが、どうしても上官との戦闘訓練ともなれば遠慮が出てしまう。

 いや、武闘派的な上官ならいいんだが、七光りのあの人だとなぁ。

「そこで何をしているんですか?」

 後ろから女性の声が聞こえ、俺はすぐに振り向く。

 睨むようなジト目でこちらを見るのは、あのジュリエッタだった。

「はっ、イオク様がお見えだと聞き、遠巻きながらお姿を拝見しようかと」

「私は何故こんなところで突っ立っているのかを聞いたんです」

 今言った気がするんだけど、とリヒトは心の中だけで返す。

 ジュリエッタは道にいたリヒトが邪魔に思えて声をかけたのだと、彼は瞬時に理解した。

(まぁ道は塞いでないんだけどな)

 反論を飲み込んで返す。

「少々見入ってしまっていました。申し訳ありません」

 リヒトが端に寄って道を開けると、彼女は少し進んでから彼の隣に並んだ。

「イオク様は何を?」

「自ら手解きを、と」

「なら、あなたが行って来たらどうですか?」

 嫌味を言うようにしてジュリエッタはリヒトの方を向く。

 リヒトは彼女に嫌われているのだと最初から知っている。だからこそ、ここは穏便に引こうと考えた。

「いえ、私などとても。ここで手を挙げるべきは力のある者だと知っていますので」

 謙遜で誤魔化そうとしたリヒトは、すぐに愚策だと自らを恥じた。

「それは、自分が弱いから戦わないと言ってるのですか」

 リヒトはジュリエッタがどんな人間をおよそ知っている。

 強さを求め、だからこそ弱さを許さず妥協しない。その実直さと精神力はたった一人であの三日月・オーガスと撃ち合うことすら叶わせた。

 そんな彼女は、こうして弱さを理由に逃げる者がどう映るか。ましてそれが嫌いな相手なら。

「……そういった意味ではありません」

 とにかく路線変更。リヒトは彼女が望む上での逃げる手を考える。

 即興だが、やるしかない。彼は腹を括った。

「強さには色々あります。兵として戦う強さもあれば、将として導く強さ、王として考える強さがあります。私は、イオク様と比べるべき強さは持ち合わせてないんです」

 彼女を見て、そしてラスタルとイオクを思い出しながらリヒトは語る。

 我ながら上出来な返しだと彼は自画自賛し、ジュリエッタは少しだけ間を置いた。

 至って冷静に、彼女は問う。

「あなたは、王になる気なのですか?」

 敬語に違和感を感じたリヒトは、これが彼女のデフォルトなのだと決めつけて答える。彼女が好む答えを。

「私ではラスタル様のようにはできないでしょう。ですから、他の道を探すつもりです」

「そうですか」

 ジュリエッタはそう言って訓練場の集団へと向かって歩いていった。

 この時、彼女の中で少しだけ、リヒト・ストラトスという男への評価が変わった。

 配慮の足りない男、から意外に考えている男、と。

 ただ、彼女はまだリヒト・ストラトスという名前すら知らない。

 

 

 

 そんなことを知るはずもないリヒトは訓練場から離れる。

 自分がさっき言った言葉は心にもないことだったが、そこに見えるものがあった。

 イオク・クジャンという男は、およそ人を動かすこと関して凄まじい力がある。それは参謀的な意味ではなく人望的な意味で、だ。

「それに、あいつの行動が結構鬱展開に影響してるしな」

 ならばあの男を利用していけばこの世界の攻略は成せるのはでは?

 微かな希望を胸に、リヒトはギャラルホルンの資料室を目指す。

 

 

 

 

 




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