機動戦士ガンダム 無血のオルフェンズ 転生者の誓い   作:江波界司

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人ならざる者

 ルナが鉄華団地球支部に来てから一週間、アーブラウとSAUが衝突してから既に半月以上が経過していた。

 ルナという大きな戦力増加の期待も虚しく、局地的な戦闘がまばらに続く。

 どれだけ小さな勝負に勝とうとも、大きな場面には一切の影響を出さない。何一つ変わらず、流されるままに。タカキは指揮を執る。

 

 

「お疲れ」

「……うん」

 ランドマン・ロディから降りた二人のパイロット、アストンとルナは顔を合わせることなく歩く。

 地球支部の鉄華団は、未だに彼女の存在を上手く扱えていない。現にルナと話しているのはタカキかアストンだけだった。

 食える時に食い、寝れる時に寝る。この先の読めぬ戦況を鑑みつつも、子供らはただそれを繰り返すしかなかった。彼らには、先など見えていないのだから。

「なぁ。前に言ってたの。どういう意味だ?」

「……前に?」

 携帯食料を噛み切りながら、アストンは彼女が来た一週間前の事を思い出す。

「俺とお前は、少し違うってやつ」

 そんなことも言ったかもしれない。

 薄過ぎる心当たりに、ルナは記憶を巡る。あの時は、確か初めてアストンと会った。

 あぁ、と思い出した彼女は顔をアストンに向ける。

「……私とアストンさんは、多分ほとんど同じ。……でも、違う」

 語彙力、と表現しようか。

 まともな教育も受けていない、人生経験も少ない上に知っているのは戦闘だけ。そんなヒューマンデブリ、もとい彼女ではここまでが限界だった。

「良くわかんねぇ」

 ガシガシと頭を掻くアストンは視線を上げた。座っている彼は視界にタカキを捉える。

「タカキなら、分かるかな」

 聞いてみようかと、アストンは彼の元へ向かう。

 ルナも最後の一口を押し込み、立ち上がった。

 

 

「アストンとルナの違い?そりゃあ色々違うと思うけど」

「でも、ほとんど同じだって」

「うーん。俺にもさっぱり」

「ここにいたか」

 隣にいるルナと三人で話していたタカキ、アストンの前に全体指揮を務める男、ガラン・モッサが歩いて来た。

「三人には感謝している。鉄華団とアーブラウが急造ながらも機能しているのは三人のおかげだ」

 この言葉に嘘はなかった。

 戦闘経験のないアーブラウのMW隊を指揮するタカキ。隊長としての責任からか、目的と命令をしっかり把握し達成している。

 そしてMSの部隊を率いるアストンは、命令などが全く出来ないルナと共に戦線を保ちながら、味方への被害を最小限にまで抑えていた。

 だが、それでも、死者が出ない訳ではない。

「悲しいな。だが、ここが踏ん張りどころだ。後少し、もう少しで道が開く。それまでどうか手伝って貰いたい」

「あ、はいッ」

「……」

「……」

 威勢よく応じるタカキと、無言の二人。そんな彼、彼女らに茶化すような言葉を残して、ガランは笑いながら去っていゆく。

 その後ろ姿を、ただ一人だけが最後まで見つめていた。

 

 

 ✕✕✕

 

 

「もう一回……いや、あと七回ッ」

「まだやる……多過ぎですっ!」

 シミュレーターから出てきたジュリエッタは、虫の息の男の言葉に力強く反論した。

 地球から帰って数週間。いくらラスタルから許可を得たとはいえ、これだけの期間を一人の男の訓練に付き合わねばならないとは。

「少しは私の身にもなって下さい」

 自分より弱い相手と戦って得るものなど、無くはないだろうがたかが知れている。強さを求めるジュリエッタは、いっそ殴ってでも止めようかとすら思っていた。彼が少女を止めた時のように。

 もっとも、ラスタルの言葉もあってそれはできないのだが。

「だいたい、何故ここ最近、あなたはそんなにも戦いを欲するのですか。今までのあなたらしくない気がします」

 ジュリエッタもそこまで詳しくリヒトを知っているわけではない。

 だが、彼の言った『別のやり方』とは明らかに食い違った方法だと、彼女は感じているのだ。

「手を、広げるため……ですよ……」

 息を切らしながら、彼は言う。

「まだ俺の手が届かないところに、いるから、です」

「どういう意味ですか」

 リヒトがラスタルに直談判した際、ジュリエッタもその場にいた。つまり彼の地球降下の理由を聞いている。

『ルナをどうにかします』

 ギャラルホルン、それも月外縁軌道統制統合艦隊では、確かにルナという少女の対処には困る。ラスタルはリヒトにその役を一任した。

「彼女なら、鉄華団に行ったはずだと」

 そして地球に降りてすぐ。ルナは行方不明となる。

 ジュリエッタが言うにはいなくなる直後、鉄華団について彼女と話していたとリヒトは聞いている。リヒト自身の考えを言った事もあり、ルナは鉄華団地球支部で対応してくれていると結論付けた。

「あなたの望む通りになって、それで何故焦るのですか」

「……」

 これはきっと、彼自身の言葉で言っても伝わらないだろう。

 彼は未来を知っている。変わる前の、救われぬ未来を。

 リヒトは『ハッピーエンド』、つまり救うことを誓った。それはギャラルホルンも、鉄華団もということになる。

 双方、自らの力で生き抜く力がある。それらがぶつかり合うことで失われる命を、リヒトは救う。

 だが、彼女は、あの少女だけは違った。

 彼の知る未来に、ルナという少女は存在しない。彼女はあの時死んでいた。

 ルナには、生きていく力がない。でなければ、あの時あの場所で、彼女は死ぬことはなかったはずなのだ。

 死ぬはずだった命を救い、されど失われてしまうのなら、それは救ったことにならない。

 ――だから、守る。

「あの子だけは……必ず」

 主語だけが先行した言葉に、ジュリエッタは首を傾げた。リヒトは注釈を入れることはなく、訓練の続行を希望した。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 地球での反乱戦は、始まりから一ヶ月が経った。

 静かな夜に、ガランの下へ連絡が入る。

「鉄華団は諦めて衛星から撤退、か」

 狙い通りだと静かに笑うガランの頭の中では、この先のビジョンが鮮明に描かれていた。

 鉄華団を巻き込んでのこの戦闘。タカキや他の団員が意味を見失っている戦いの真の目的はマクギリスの株を落とす、それだけのものだった。

 ラスタルから言われた通り、戦闘を長引かせれば長引かせるほど地球外縁軌道統制統合艦隊の、ひいてはマクギリス・ファリドの名声は地に落ちる。そのためにガランも、全体指揮は長期戦の構えを徹底していた。

『順調のようですね』

「あぁ。滞りはない」

 情報提供者の通信相手はこの件の協力者でもあるラディーチェ・リロト。画面の先でラディーチェは不敵な笑みを浮かべていた。

『流石の手腕、と言うべきでしょうか。鉄華団をあそこまで手懐けるとは』

 それに対し、ガランはこの男と組んだ当初の会話を思い出す。

「奴らはアンタが言った通りただの獣。しっかり躾て、たまに褒めてやれば簡単に頭を下げる」

 特にあのタカキという少年。

 力があっても知恵が足りない。逆にその力を十分に使わせてやればここまでの戦果が上がる。

 ――なるほど、ヒューマンデブリとはそういう奴らか。

 この先も予定通り進行することを伝え、ガランは通信を切る。コクピットから出て、周囲に人気がないことを確認すると、自分のテントに入っていった。

 ガラン・モッサは慎重な男だ。

「……」

 そんな彼でも、影に潜んだ人影には気が付かなかった。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 終わりの見えぬ戦線に、突如として変化が起こる。

 朗報だった。敵の隊長が姿を現したのだ。

「……あれ、でいいの?」

『肩付きのグレイズリッター。間違いない、報告にあった通りだ』

 木々に身を潜めるMS隊が見つめる先、他の兵とは一線を違えた動きで機体を無力化していく一機のグレイズ。パイロットはマクギリスだった。

 ガランはマクギリスの評価が地に落ちるまで一年だろうと戦い続けるつもりだったが、どうやら痺れを切らしたらしい。

『俺達が周辺を片付ける。鉄華団で頭を仕留めろ』

『『了解』』

 通信先からの声を聞き、ガランはゲイレールでの移動を開始する。

 その直後、自らの機体の肩が切りつけられた。

 ――潜伏していた?いや、それはないはず。

 咄嗟にダメージを負った右肩を庇うように位置を変え、敵がいるだろう方向を向く。

 そこには、得物を振り下ろしたランドマン・ロディの姿があった。

「どういうことだ?鉄華団が裏切った?まて、こいつ……」

 パイロットはあの赤髪の少女。他の団員やMSは全く反応できていない。つまり、あの新米の独断専行、勝手な味方機への攻撃か。

『どういうつもりだ!』

 ヒューマンデブリの分際で、と声に出さず悪態をつくガラン。彼の長い経験は、さっきから告げている。――殺されるぞ。

 どう考えても自分ではこの単機に勝てない。さっきの攻撃の所為か右手の反応も悪く、もうすぐマクギリス機も警戒域に入るだろう。ならばどうするか。

 真っ先に彼が見つけた脱却法は、ルナをスパイだと断じることだった。

『きさま、さてはギャラルホルンの……』

『……私は命令を聞くだけ』

『やはりか!』

 この短い会話が隊全体へと伝わり、彼女はこの瞬間、鉄華団を裏切ったスパイとなった。

 

 

『おいアストン。どうなってんだよこれ!』

『俺だって分かんねぇ』

 ガランから命令が入った。

 ――裏切り者を殺せ。

 確かに、鉄華団を裏切ったあいつは敵。今ここで殺すべきだ。さっきの会話から、ルナがギャラルホルンのスパイである疑惑もある。

 なのに、彼の中の何かが止めにかかる。

「あいつが、裏切るのか?」

 ルナはこの戦場で、誰よりも生きることに拘っていた。そんな彼女が、何故今、ここで。こんないかにも死地へ向かうような場面で裏切るのか。

『おいアストン!』

 タカキはMWを率いて撹乱に出ている。今MS隊を指揮するのは自分だ。

 どうする?

 自問自答は短く、考えても仕方ないとアストンは諦めた。

 そして。

『俺達は、ギャラルホルンを叩く。俺に続け!』

『『了解!』』

『おい!』

 肩付きのグレイズリッターへと向かった鉄華団の隊を横目に、ガランは後退しながら引き金を引く。

「くそッ。どこかでしくじったのか……」

 歴戦の猛者といって相違ない彼は、目の前の人に、否、獣に恐れを抱いていた。

『……私、耳だけはいいの』

 自分を狙う殺人者から通信が入る。

 そのままの意味なら、ガランが隠していた会話を聞かれた。

 ラディーチェと結託したことも、この先どう動くかも。それ以前に、鉄華団を利用しているだけだということも。

 ――ならば不味い。ここは、撤退か……。

 ついさっきまで味方だと錯覚していたロディの鉈が掠る。

 反応速度が違いすぎた。ライフルも意味がなく、そも反撃すらままならない。さっきからガランの部下が仕掛けているというのに、それを一切無視してガランだけを狙っている。

 人の身でありながら、他の命を狩ろうとする姿はまさしく獣。

「ヒューマンデブリとは、こういう奴らかッ!」

 味方が一機沈んだ。踏み込み過ぎだ。反撃でもう動けないだろう。

 だが、その一撃が僅かな隙を生んだ。

 ブースターを加速させ、右手のピッケルで頭を叩く。硬い装甲は貫けないが、衝撃で態勢が崩れた。

 すかさず蹴りを入れ、機体を後ろ向きに倒した。

 深追いはせず、ガランはライフルの有効射程内で距離をとる。

『油断したな、少女戦士よ』

 左手のライフルをコクピットに向け、言わずとも動けば撃つと告げる。

「……誰も、死なせない」

 そんな脅しに恐怖はなかった。ただ彼女は自ら定めた思いを吐く。

「それが、あの人の願いだから」

『これで終わりだ』

 ルナの機体に向けていたライフルが――突如、真下に落ちた。

 その場の誰も、反応が出来ない。

 一瞬にも満たない沈黙の後、ガランの視界が白く覆われる。煙幕や閃光ではない。もっと物体的な、物理的な白さ。

「……ガン、ダム?」

 離れていた彼女が、その姿を見て零した真実だった。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 数日前の夜。

 タカキとアストンの眠るテントに、一人の訪問者が来た。

 ルナである。

 話があると告げられ、タカキはアストンに聞く。こちらも聞きたいことがあったことをルナに話して、三人はテント内で三角形に座った。

「それで、話って?」

「……私への命令。みんなを守る、で合ってる?」

「合ってる、よ?」

 ぎこちない返事は単に動揺していたから。

 タカキが少しだけ驚いたのは、彼女がその命令の為に戦っていることだった。

 確かに、ルナは命令を聞くと言った。だが、だからといって、ただそれだけの為に戦えるだろうか。

 それが、ヒューマンデブリという存在なのだろうか。

「それがどうした?」

 タカキの心中を知るわけもなく、アストンは追求する。

「……命令、の範囲だから」

「ん?」

 これにはタカキも言いたいことが掴めず、アストンと共に首を傾げることになった。

 ルナはアストンの方を向き、続ける。

「……あなたは死ぬのが仕事じゃない」

「ッ!」

 図星を突かれたようにアストンは固まる。

 ヒューマンデブリという自覚は、確かに彼の中で大きく存在している。それ故に、どこかで何かを諦めている気も。

 それが自分の命だとしたら――。

 少なくとも、今の彼には否定出来なかった。

「……もしも死ぬ気なら、本当に死ぬなら。私は殴ってでも止める」

 ある人の受け売り。あの時自分を救った言葉を、今救うべき者に。

 ルナは反応すらできていないアストンから視線を外すと、彼の隣にいるタカキに向けなおす。

「……それと、タカキさん」

「何かな?」

 正直、彼女がアストンに言った真意を聞きたかった。だがそんな希望を思い止め程の意志を、ルナの瞳から感じ取ったのだ。

「……あなたは、優しすぎる」

「……え?」

「それは悪いことじゃない。だから……」

 ルナは詰まり、それ以上は続けない。

 少しの間だけ待ったが、やはり口を開くことはなく。黙って立ち上がり、出口へと向かった。

「……だから、フウカも優しいのかな」

 彼女がフウカと過ごした時間は数日程度。それでもルナはあの優しい家族を、兄妹を忘れないだろう。

 彼女はテントから去っていった。

「結局、何が言いたかったんだろう?」

「……さぁ?」

 考えるのは苦手だと言ってそれきり、アストンは寝床の上で静かに眠った。

 一方、タカキは考える。

 ルナが何故、こんなことを言ってきたのか。そして恐らく誤魔化した先、あの後何を続けようとしたのか。

 布で覆われた天井を見て、そっと目を閉じる。

 ルナと会ってから、実はそこまで長くはない。それに接している時間も少ない。自分と彼女との間には、まだ壁のようなものがある。

「ちゃんと言ってくれる時が来るといいんだけど」

 待っているだけではダメだろう。そう思うタカキは眠りにつくまで、、ルナに対してどう接すべきかを思考していた。

 

 

 

 

 

 




早くも文が迷走中。
駄文です、ご勘弁を。
感想お待ちしております。
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