機動戦士ガンダム 無血のオルフェンズ 転生者の誓い 作:江波界司
「この動き……阿頼耶識。鉄華団か」
三機のランドマン・ロディの攻撃を紙一重で捌きながら、マクギリスは新たなMSの反応に視線を泳がせる。
「これは――」
硬い、重量を感じさせる衝突音が鳴り響く。自分だけでなく、自分達を囲む鉄華団までが動きを止めている。
それぞれが見つめる先。困惑、歓喜、驚愕と、多様な感情の視線を一身に受けるその姿は赤い花を双肩に構えた白き狼。鉄華団の力の象徴、ガンダムバルバトスルプスだった。
「三日月さんッ!?」
例に漏れずバルバトスとを見つけたタカキは、敵機の姿がないことを確認し、MWの進行方向をそちらへと変え、向かった。
✕✕✕
味方機へと向けられたライフルを叩き潰し、三日月はカメラに映った周辺を伺う。
「とりあえず止めた。けど……」
『三日月さんッ!』
遅れて到着した
「これ、どういう……」
『……どいて』
困惑に零した感動詞を遮るように、機体に通信が入った。
出元は味方機から。だがその声も内容も、明らかに敵対的な意志を感じさせている。
『誰だよ、お前』
通信は三日月の下へも届いているらしく、彼は荒々しい声で問うた。
バルバトスルプスが見る先には鉄華団仕様のランドマン・ロディ。やはり味方陣営からのものだ。
『……関係ない。私は、命令を果たすだけ』
二度目でハッシュ、三日月は、相手が女だと確信する。だからこそ、その存在が分からない。
鉄華団の機体に団員ではない誰かが乗っている。地球で何かしらの罠があったことを知っている彼らが、今ロディに乗るパイロットを敵と判断するのに他の理由はいらなかった。
ソードメイスを構え、バルバトスルプスは臨戦態勢に入る。
『で、お前の目的って、何?』
『……みんなを守る。でも、そいつはみんなに入ってない』
右手のハンマーチョッパーを前方に突き出し、ルナは“そいつ”を指し示す。バルバトスの後ろにいるゲイレールを。
が、その光景をハッシュの目線、あるいは客観的に見れば、ロディがバルバトスに刃を向けているように見えてしまう。
『あー、聞いたのは俺だけど……やっぱどうでもいいや』
『……そう』
相対する二人は、どちらも会話を得意とする者達ではない。むしろ、行動で示す者達だ。
その内の一人が自らの得物を向け、もう一方が構えれば当然。
――衝突。
噴射されるスラスター、加速する機体、蹴られ抉られた地面。そして甲高い金属の衝突音が辺りに響く。
荷重を加え合った支点を外すように、両機は一度離れる。
互いに初撃を受けられ、目の前の相手に対して評価を変えた。
「……強い」
「めんどくさいな」
片方は余裕そうな感想だが、その実、戦況不明なこの場面でやり合うのは楽ではないだろうという感覚的な分析の現れだ。
「なにがどうなっている……」
一方、眼前で起こった第三勢力の登場に、ガランは一歩引いて場を見渡す。誰も動けていないところを見ると、どうやら誰の意図にもなかったことらしい。
『隊長。こいつら、上で足止めしていた奴らです』
『なに?そうか……ならば撤退だ。十中八九、俺たちのことがバレた』
素早い判断で部隊に伝えると、自らもゲイレールのスラスターを最大に戦線離脱にかかる。
「なッ!?ちょ、これどうすんスか」
『ハッシュ、あいつら追って。俺はこいつをやる』
『え、あ、りょ、了解です』
「……逃がさない」
避難する目標を目で捉え、ルナは加速する。その敵を切り落とす最短ルートに、バルバトスルプスが割り込んだ。
「お前の相手は俺だろ」
振り下ろされるソードメイスをギリギリで躱し、サイドスカートに隠してある手榴弾を左手で投げつけた。
三日月は斜め右上にソードメイスを振り上げそれを弾く。バルバトスの頭上で爆発が起きたが直接的なダメージはない。
ルナはバルバトスには目もくれず、再びガランへと進行する。
「だ〜か〜ら」
それを見てから動いたにも関わらず、バルバトスはロディの目の前に立ちはだかった。
『お前の相手は俺って言っただろ』
『……どいてって言った』
一切の油断なく立ち合う二機。顔すら知らぬ二人は先に動いた方が負ける達人同士の戦いのように動きを止めていた。
✕✕✕
「やはりバルバトスか」
ランドマン・ロディとの衝突をその目で捉え、マクギリスは一呼吸置いた。
それを感じ取ったのか、自らを囲んでいた三機が機能を開始し始める。
後ろの一機がマシンガンを放つ。狙いは陽動だろう。
躱すと予測された場所に先回りした一機、アストンがハンマーチョッパーを振りかぶる。
「これでッ!」
この戦闘を終わらせる一撃を――
『アストン!ストップ!』
止めた。
それは耳に届いたタカキの声でもあるが、何より突如として目の前に現れたMSを見たことによって、でもあった。
ガンダムグシオンリベイクフルシティ。テイワズの下で改修され、装甲と出力、ついでにゴツさまで強化された鉄華団二機目のガンダムフレームだった。
『礼を言おう』
『必要ねぇ。団長にはあんたを殺させねぇよう言われてるだけだ。大事な商談相手だからってな』
グシオンリベイクフルシティのパイロット、昭弘・アルトランドは素っ気なく返す。仕方がない。彼の心中は、さほど穏やかではなかったのだから。
『昭弘さん。火星のみんながここに?』
位置の関係上近かった為、MWで駆けつけたタカキが聞く。
『いや、それなりの人数で、な』
それよりも、と。未だ激しい衝突を繰り返す方を見ながら、昭弘は何が起きているのかを聞き返した。
『タカキ。あれはどういうことだ?』
さっきのルナの通信は昭弘も聞いていた。
『そうだ、止めないと。アストン』
『いや、そうだろうけど……』
昭弘の言葉で思い出したかのようにタカキは呼びかけたが、そこでアストンが動くのを躊躇うのも無理はない。
止めるにせよ何にせよ、この時誰も、ルナが何故このような行動を起こしたのかは知らなかったのだから。
『ちょっと三日月!なんで仲間とやりあってんの!?』
『ラフタ?』
『ほんとに、一体何がどうなってるんだい?』
どちらかが力尽きるまで続くかと思われた闘いはラフタとアジーの介入で幕を閉じた。
『良くわかんないけど、とりあえず抵抗しないでね?』
「……」
機体性能も含めて分が悪かった三日月との戦闘。そこに援軍が来れば、結果は見えている。ルナは早々に武装解除した。
『すいません三日月さん。敵、見失いました』
『あーうん。大丈夫』
戻ってきたハッシュも合流し、その場はひとまず収まった。
何が起きているのかを把握できる者はその場にはいなかったが、それも分かれたもう一方がどうにかするだろう。
✕✕✕
時を同じくして、地球へと降りた鉄華団の別働隊。
副団長の一人、ユージン・セブンスタークともう一人の副団長、ビスケット・グリフォンによって、ラディーチェが行ったガラン・モッサとの契約が顕になった。
ラディーチェは念の為調べておいたガラン達の隠れ家の場所を提供したが、ユージンは落とし前をつけさせることを宣告した。
「で?どうすんの?」
ユージン達と合流した後。三日月は両手を拘束したルナの前で現指揮官のユージンに問うた。
「三日月達は、あのラディーチェって奴から聞き出した地点に向かってくれ。敵のボスは昭弘がやる。それでいいんだな?」
「あぁ。頼む」
彼には原作の時ほどの激しい感情は見受けられない。だが、自分の仲間を、家族をヒューマンデブリの時のように扱い、利用したことに憤慨していたのは間違いなかった。
的確な指示だったが、三日月が聞きたいのはそこではなかったはずだ。それはユージンも理解している。
「問題はこいつか」
胡座を掻き、後ろに回した両手を気にすることなく真っ直ぐに睨む少女。ルナと視線を合わせていたユージンはビスケットに顔を向ける。
「ビスケット、こいつのこと――」
「あの……」
言い切るより先に、手を挙げて割り込んだのはタカキだった。
「俺に任せて貰えませんか?」
皆、タカキから大体の状況は聞いていた。
ルナが鉄華団に仮入団したこと。この半月弱、味方を最大限守りながら闘ってくれたこと。そして三日月と剣を交えたことも。
この場の誰もが、この赤髪の少女に関して気になる部分があった。
ユージンは優先順位を頭の中で付け直す。
「とりあえず、最優先なのはガラン・モッサのことかな」
「先に言うなよッ。まぁそういうわけだ。タカキ、そいつはひとまず任せる」
「了解」
ビスケットから先を越されたことを些か気にしているようで、ユージンは声を張って周囲へ行動を促した。
✕✕✕
さっきまでMSが置かれていた倉庫で、タカキとルナが目線を合わせて地面に座っている。腰を下ろしたタカキの後ろにはアストンが立っていた。今回の追撃戦に参加しなかったのは、このらタカキの付き添いが理由でもある。
「ルナは、なんでこんなことをしたのかな?」
温厚な彼らしく聞かれ、ルナは視線を下げる。彼女の頭にはあの夜に言いかけた言葉が浮かんでいた。
「……タカキさんは優しい。優しすぎます」
その言葉でタカキと、アストンも記憶を蘇らせる。
「……だから、気にしなくていい」
これが、彼女があの日言いかけた言葉。
どういう意味なのか。アストンは彼女と同じく胡座を掻くタカキに目を向ける。判断は、タカキに任せようと。
それに対しタカキは、ルナという少女のことを考えていた。
彼女は命令を果たすために戦った。命令――みんなを守る。
あの時、彼女は言った。――そいつはみんなに入ってない、と。
今思えば、この一ヶ月以上も続いた戦闘で、ルナは、誰一人殺していない。それは敵、ギャラルホルンを含めてのこと。
優しすぎる。その言葉が示すのは?
腕を組んで絞り出すように、タカキは思考を続ける。そして、一つの仮定を得る。
「全部、自分の責任。ってことにしたい」
まさか気付かれるとは思っていなかったのだろう。ルナは思わず視線を上げた。
「ルナ。君に命令したのは俺だ。だから、その責任は俺が取るべきことだよ」
そう、彼女は守ろうとした。みんなを。鉄華団を、そして戦う必要のないギャラルホルンを。
ある夜に、ルナはガランの思惑を知った。生まれつき耳が良かったのが幸か不幸かは判断しかねることにだが。
そこで彼女は、ガランが真に敵であると認識し、自分が出来ることを考えた。
あの日、タカキとアストンのテントを訪れたのは、そのことを相談する為だった。しかし、彼女なりに失敗のリスクを考えた。
仮に二人を巻き込んでガランと戦うとなった場合。今戦っているSAU、ギャラルホルンの部隊を含めて敵にすることになる。そうなれば、当然味方の死亡率も上がってしまう。
そこまで考えてルナは、たとえ失敗しても誰も死なない、独断専行という道を選んだ。もしも自分が危なければ、すぐに逃げるつもりだった。
タカキの言葉を否定しようと口を開く。だが声を発するより先に、いつの間にか立ち上がっていたタカキの手が頭に置かれた。
「ごめん。全部ルナに押し付けて。俺は何もできなくて、ルナにまで頼って。本当に、ごめん」
「……」
だから、優しすぎる。
その手の温もりをルナは知っている。形も使い方も違うけれど、身に覚えがあった。
タカキの手は優しい。あの時、自害を選んだ自分を止めた、あの優しい拳のように。
✕✕✕
「くっそ、こんなはずじゃ」
事実上初めてのMS戦闘の中、ハッシュは恐怖に押されていた。
シールドもソードメイスも奪われ、もう後がない。
自分へと向けられたピッケル。命を刈り取る一撃は、大きな衝撃と共に遮られた。
敵機と自分の間に立つ白い背中。不甲斐ない自分を守ってくれた存在に、ハッシュは思わず零す。
「三日月さんッ」
だが、そんな彼の感動を知るはずもなく、三日月は舌打ち混じりに呟く。
『邪魔』
「え……」
もう既に後ろは見ていない。眼前の敵を叩きのめす為に、バルバトスルプスは進む。
その光景が、後ろ姿が彼の憧れと重なり。ハッシュは声にならない感情を吐き出した。
「くそッ。機体の反応が悪いか」
眼前に迫るハルバードを自分のピッケルごと空へ弾き、ガランはライフルで威嚇しながら距離を開ける。
整備が完璧でない所為か、昼にロディから受けたダメージが機体の性能に見受けられた。
『身内が死んで仇討ちか。お前は実に真っ当だ』
『うおぉぉぉ!』
装甲に当たる弾丸を意に介さず、グシオンはゲイレールに接近する。
『だが、戦場ではまともな奴から死んでいくのが常――』
グシオンの拳がゲイレールの頭部を捉えたが、致命傷にはなっていない。ライフルも捨て、スラスター出力を上げて後退する。
だが逃がさない。昭弘もまた、加速して追う。
『己が正義を守らんと、もがく奴から、淘汰されていくのだ!』
引き付けた。これで回避は出来ないだろう。
急ブレーキと共に、展開式のシールドアックスを、ガランは右手で横薙ぎに振り払う。
――捉えた。その感触は彼の知っている仕留めたものではない。
メインカメラが、今切り付けた対象を捉える。
巨大な、爪。いや、ハンマーのような、ハサミだった。
『よかったな。あんたはまともで!』
開かれた破壊の刃はゲイレールの腹部を捉える。ギシギシとフレーム諸共を潰す音が、徐々に狭まるコクピットの中まで、その死の近付きを知らせていた。
『お褒めに預かり感謝するぜ。名も知らぬ小童よ』
潰れゆく機体の中で、ガランは迷いなく操作する。
『この老頭児の死は必ずやお前の未来の姿となる』
モニターに表示された文字列は、たった一つのアクションを待つのみとなった。
『昭弘っ!』
駆けつけたラフタの声が耳に届くとほぼ同時、目の前の男が微かに笑った気がした。
『さらばだッ!』
――悪ぃ……ラスタル。
間近にいたグシオンを巻き込み、ゲイレールは爆散した。
『昭弘〜!』
コダマする声に応えるように、爆煙と火炎の中からグシオンは現れる。
『平気だ。俺は、生きてる』
その言葉にたった一人の男の手によって十数名の家族の命が失われた。また彼は、守ることができなかった。その事実があの時、手が届かなかった弟を思い出させる。
『そうだね。あんたは生きてる』
それでも、昭弘は生きている。守りたかったものを、少しずつ失いながら。
あれ?主人公……。
いやしょうがないですよね?だってギャラルホルン、というかアリアンロッドが全然動かないんですもん。
感想お待ちしております。