機動戦士ガンダム 無血のオルフェンズ 転生者の誓い   作:江波界司

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作者はロリコンではありません。





厄災前の約束

 ガラン・モッサが死に、一ヶ月が経った。

 アリアンロッドで涙を堪えたジュリエッタと何かを隠したリヒトは、今までにも増して訓練に明け暮れる。

 彼の中にあるのはアストンを救えなかった自責の念と、後に来る厄災への覚悟だった。

 ガランが死んだ報告を、ラスタルは何故かリヒトも呼んで行った。そこにどんな意図があったのか。リヒトには分からなかったが、少なくともあの男の死は原作と変わらぬもの。

 すなわち、例の内戦で死んだ者もまた――。

「次は、絶対に。あのバカを止めて救うッ!』

『何の話ですか!』

 独り言のつもりだったが、後半からは聞こえていた。

 ジュリエッタは怒りを力に変え、突き出したソードはシミュレーションで正確に作られた敵のコクピットを貫いた。

『機体、大破』

「あー……くそッ」

 悪態をつきながらシミュレーターを降りる。三時間ぶっ続けで戦った相手を横目に、リヒトは手元のストローに口をつけた。

「訓練か。精が出るな」

 並ぶ二人に対しての声は、どうやら上から来た男のもののようだ。

「ヴィダールさん」

「さん付けはよせ。そこまで礼を払われる謂れはない」

 軽く応える仮面の男。それに不満そうなのはジュリエッタだ。

「全く……なぜこうも言っていることがめちゃくちゃなのでしょうか」

「ホントですね」

「あなたのことなのですが」

 と、どうやら不機嫌の矛先はリヒトらしい。

「兵としての力はいらないと言っておきながら」

 彼女が言うのはリヒトという男を初めて認識した時のことだ。あの時、彼は自分のすべき事は他にあると言ったのだが。

「要らないとは言ってませんよ。ある程度は必要です」

「ある程度、とは?」

 質問の主は意外にもヴィダールだった。

 彼は彼で、リヒトという男に興味がある。何せラスタルも、そして恐らくジュリエッタもその道で認めている力の持ち主なのだから。

「そうですね。まぁ、先輩を倒せるくらいには」

 かつてない挑発に、ジュリエッタは怒りを隠すために鼻で笑う。

「あれ以来、私に一太刀も当てられないあなたがですか?」

「俺が使うのは弾丸ですけどね?」

「ものの例えですっ!」

(わ〜、分かりやすい)

 内心ほくそ笑みながら、リヒトは持っているドリンクを一気に飲み干した。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 例の戦いの傷を忘れるには、もう少し時間がかかるだろう。いや、あるいは忘れない。

 それ程の変化が、鉄華団には起きていた。

 まず、タカキが脱団した。

 彼曰く――「今回の件、全部の責任は俺にあります。味方を死なせたことも、団長に相談しないで彼女を巻き込んだことも……」

 ラディーチェに落とし前を付けさせたタカキは、やはりルナに対して負い目を感じていた。仕方がなかったとはいえ、あれだけの重荷を彼女一人に背負わせたのだから。

「それに、俺はこれ以上、背負える気がしません」

 負い目と同時に、タカキは自らの命令で死んでいった仲間を思う。もっと自分がしっかりしていれば。そんな後悔が、彼の足を、意志を鈍らせた。

 ――「タカキには、守るべき家族がいる」

 そう言ったのは、ルナだった。アストンと共に地球へ来た団長オルガ・イツカと話したのは、彼女なりの恩返し。それだけしか出来ずとも、タカキとフウカに感謝していた二人は、精一杯の行動で示したのだ。

 元々、去る者を止める気の無かったオルガに言っても、それは無意味だったが。

 しかし、その説得はタカキの一言で意味を成すことになる。

「俺に頼む権利がないのは分かっています。でも、それも踏まえて、オルガさん。ルナを、雇ってやってください」

 鉄華団に起きた変化の二つ目。

 少女、ルナの入団である。

 タカキが頼んだのはルナに対する償いだけではない。彼女は誰かに迷惑をかけることを拒んでいた。それは自分を救った男の下にいることを避けた所から知れる。

 ルナは初めから鉄華団への入団を希望していた。自分で働いて生きていくことが目的だと、タカキは察している。

 ルナは、彼の命令を果たした。みんなを守ってくれた彼女に、タカキは報いたかった。

 一方、オルガにとってルナの入団はかなり難しい問題だった。

 まず原則を破ることになる。オルガ自身の信念が揺げは、やがて鉄華団全体の歪みになりかねない。それは避けるべきではないかと。

 次に、男所帯である鉄華団に入れて良いものかということ。確かにメリビットやアトラはいるが、それはあくまでも非戦闘員。いくら阿頼耶識を持っているとしても、彼女を戦場に送るのは団長として胸を張れる行動なのか。

 悩むオルガの背を押したのは、三日月だった。

「俺が面倒見るよ」

「……は?」

 もちろんオルガが入れるって言うならだけど。三日月がオルガに向ける目はいつもと変わらぬ、問う瞳だった。

 オルガが驚いたのは言うまでもない。三日月が誰か一人に対して興味や関心を抱いたのを、彼は少なくとも自分に向けられた(それ)しか知らなかった。

 ――珍しく、ミカの意見だしな。

 ルナとタカキを呼んだ彼は、片目だけで少女を見つめた。

「鉄華団は、働きに見合った報酬をやる」

 みんなを守ったルナの功績は、評価に値するとオルガは告げた。

 

 

「アストン……」

 鉄華団が地球を発つ少し前。タカキは離れる友たちと顔を合わせていた。

 目の前の二人、ルナとアストンは目を背けることなく向かっている。

「今までありがとう。おかげで楽しかったし、最後まで戦えた」

 心からの感謝。初めて向けられるそれに、アストンはむず痒い頭を掻きながら少しだけ下を向く。

「こっちこそ、楽しかった……」

 彼らしいなとタカキは微笑み、アストンの隣に立つルナを見る。

「ルナもありがとう。ルナがいなかったら、多分、もっと酷いことになってたかもしれない」

「……私の方こそ、ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げる少女に、タカキも同じ様に応えた。

 これで、会うのは最後かもしれない。そう思うと、何やら込み上げてくるものがある。

 ルナが顔を上げたと同時、タカキは二人の肩を寄せて抱きしめた。身長が違う所為でアストンは膝を曲げながら立つ状態だ。

「本当に、ありがとう……元気で」

「あ、あぁ」

「……はい」

 震える声で、それでもタカキは涙を堪える。これが今生の別れじゃない。それがどれだけ嬉しいことか。

 アストンもルナも、感情には疎いところがある。

 それでも、その時だけは、そっと手を回して応えた。

 

 

 ✕✕✕

 

 

「無理言ってすまねぇ。兄貴」

「気にすんな。むしろこれくらいの無理は可愛いもんだ」

 宇宙のとある空域で合流した鉄華団とタービンズ。オルガの兄貴分である名瀬(ナゼ)は帽子を片手で抑えながら控えめに笑っていた。

「それで。この子がルナちゃんか。よろしくな?」

「……よろしくお願いします」

 握手を求めた名瀬に対し、ルナはお辞儀で返す。何やら距離を感じる対応だが、発端は数分前に遡る。

 

 

 オルガはある意味自分を曲げてルナの入団を認めた。だがやはり守るべきところは守った方が良いだろうと。ひとまず報告すべきところ、すなわち兄貴に連絡を取った。

 都合がいい事に近くにいたタービンズは鉄華団のイサリビと並走。そのまま目的地までの被る道のりを進むこととなった。

『鉄華団で女がいると問題がありそうなのは、まぁ分かる。なら、いっそ俺が受け入れてもいいぞ?オルガ。お前らのおかげもあるが、こっちは阿頼耶識に対しての差別は無いしな』

 相談を受けて、名瀬が最初に提示した打開策はタービンズにルナを入れること。鉄華団の兄弟分なら異動も大した事にはならないだろうという判断だ。

『あ〜……えっと、兄貴』

『どうした?』

『この子が。嫌です、って……』

 申し訳なさそうなオルガの伝えた伝言に、タービンズの船、ハンマーヘッドのブリッジに笑い声が響く。

「ダーリン振られてやんの〜」

「しかも超年下に……プッ」

 あらら、と顔を人差し指で掻きながら名瀬は小さくため息をついた。

 

 

 と、こんなことがあったわけで。

 ルナからすれば、タカキに入れてもらったと言っても過言でない鉄華団から引き抜こうとした男にどうしても距離をつくってしまうのは無理からぬことだ。

「本人の意思もありますし。やっぱり俺で面倒を見ます」

「その方が良いみてぇだな。よろしくやれよ?」

「はい。むしろMSの件、任せちまってすみません」

「いいさ。それくらいお安い御用だって言ったろ?」

 ルナが自分の意志だけ告げてブリッジを出た後、オルガが名瀬に頼んだのはタービンズでも少し面倒な内容だったが、名瀬は快く了解した。

「ん?おい、ルナはどこ行った?」

 赤髪の少女は兄貴に頭を下げている間にいなくなっていた。自分の隣にいた三日月に聞くと、どうやらアミダが連れていったらしい。

 行き先は、タービンズの船だった。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 更に幾日かの時は流れ、昨日の明日は今日となっていく。

「……おかしい」

 一人自室で腕を組むリヒト。彼はここまでの状況整理と未来予測から、不可解な点を見つけた。

 MA(モビルアーマー)が、動かない。

 時期的にはそろそろのはずだった。ここまでの活躍で、ラスタルからもガランのことを教えられるくらいには評価を得ている。

 なのに、未だマクギリスの動向や鉄華団の情報が入って来ないのだ。

 実は自分の知らないところで話が進んでいることも考えたが、イオクがまだ動いていないためそれはないとすぐに分かる。

 少しずつ、だが確実に、彼の知る未来と食い違った世界は時間を刻んでいた。

 

 

 アリアンロッドには現在、二機のガンダムフレームが存在する。

 整備班はその所為もあり忙しなく動いていた。

 原因の一つ、ヴィダールの内部構造についてはパイロットにも手伝って貰いってどうにかするかという話が上がる。

 問題はあと二つ――もう一機のガンダムフレームと、グレイズの新型だ。

 同時進行とはいえ、完成が近い方からやるのは至極当たり前。面倒な部分が多いビフロンスを後回しに、少しずつ新型の方へと人員は割かれていた。

「問題はテストプレイなのよねぇ〜」

 デジタルファイルを片手に、ヤマジンは愚痴を零していた。聞き手はジュリエッタである。

「実践で試すのですか?」

「出来ればそれがいいんだけど、やっぱり難しいかな」

 ヤマジン曰く、新しい機体にテストプレイ、それも実際に乗ってのデータは必須。出来れば機体の力を最大限に引き出してくれる乗り手が欲しいようだった。

「まぁ、ボチボチ当たってみるよ」

「……そうですか」

 雑に返したジュリエッタの中では、もう結論が出ていた。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 さて、新しい環境には新しい問題が付き物である。

 月に到着した鉄華団もまた、新たな問題に衝突していた。

 ――そう、物理的に。

「これで!」

「……」

 獅電のパルチザンを太刀で弾き、背中に回り込むように移動する。

「ぬぉ!」

 ハッシュは持ち上げたパルチザンを強引に引き、左へ斜めに叩きつける。

 紅いMSは飛び上がって足元を狙った鈍器を躱し、重力に従って落ちる力を太刀に込めて下に払う。

「んぐっ」

 紙一重で地面を抉った刃から離れるように、ハッシュは後退した。

「……これ、使いやすい」

 自らの持つ武器を見ながら、ルナは感嘆の声を漏らした。

 

 ✕✕✕

 

 

 ルナの入団から二週間弱。タービンズより鉄華団にある贈り物が届いた。

「ん。紅い」

 火星ヤシを頬張りながら、三日月は目の前のMSを見上げる。

「紅いッスね」

「……紅い」

 そんな彼の後ろに並ぶ鉄華団遊撃隊長の部下二名、ハッシュとルナも続いた。

「名瀬がオルガに頼まれてね」

 三人と同じくMSに目を向けながら近付いてきた背の高い、体に傷のある女性。タービンズの一番の姉貴分、アミダは腰に両手を付けながら立ち止まった。

「オルガは?」

「名瀬と話してるよ」

「これ、タービンズで作ったんスか?」

「作った、って言うのは、ちょっと違うかな」

 タービンズでは阿頼耶識を搭載した機体は扱っていない。ココ最近鉄華団で主流になっている獅電も阿頼耶識を積んでいないのがいい証拠だ。

 しかしアミダが言うに、この紅いMSには阿頼耶識が搭載されている。オルガが名瀬に頼んだ無理とはこれの事だった。

「名前は睡蓮(スイレン)。ロディフレームをタービンズ式に改良した機体だよ。性能は漏影(ロウエイ)より高いって話だ」

 見た目はやや細身で獅電の様にも見えるが、全体的な形状は漏影に近い。カラーリングは紅をベースに、所々白いラインが入っている。

 ともあれこれは、タービンズと鉄華団。二人の大将がルナの為に用意した機体だった。

「……そう言えば、シノさん。……さっき、怒ってた」

「へぇ。なんでだい?」

「……見た目、被ってるって」

 

 

 正式に鉄華団に入り、ルナの生活は一変した。

 まず見た目。ボサボサだった髪はロングのままではあるが綺麗に切りそろえられ、後ろで一つに纏めても不潔感はない。

 服装もラフタが用意した黒のチューブトップを着ている。チューブトップの理由は、ルナ自身が動きやすい物を欲しがった為だ。

 そしてやる事も増えた。

 三日月のように特化した阿頼耶識での戦闘ができる分、ルナの仕事は訓練よりも他のことを優先的に回される。

 それが、炊事だ。

 前の船ではその辺の事もやらされていた為、包丁その他の使い方は上手い。アトラが軽く絶句する程に上手い。クルクルと、両手でバタフライナイフの如く回す姿には年齢の低い団員が食い付いて見る程だった。

「私の出番……」

 その傍らでひっそりと涙を流すアトラは、それでも手を休めず料理を続けていた。

 色々な問題は危惧されたが、思ったよりも早く、ルナという存在は鉄華団に馴染んでいく。

 そんなある日、ルナの目の前にハッシュが立った。

「俺と、勝負して下さい」

 三日月がテーブルで昼食を食べている中、身長差のあり過ぎる二人が向かい合う。

「三日月さんを越える前に、あんたを越えないといけないんで」

 ハッシュが年下に敬語なのは珍しい。理由は主に、三日月が自らルナを自分の下に置いたことだ。

 ハッシュはルナの強さを見ている。地球ではバルバトスルプスに乗る三日月を相手に一歩も引かずに戦っていた。彼女もまた、自分と違うことはすぐに分かる。

 気に入らないのが半分と、意地が半分。

 無論、倒せるなんて思ってもいない。それでも、戦えればその分だけ、憧れに近付ける。

「……いいよ?」

 彼の思いとは関係なく、ルナは承諾する。

 勝負するならシミュレーターで、ではない。阿頼耶識を使った実践。それはハッシュもわかっているだろう。

 未来を知る者の知らぬ間に、火蓋は切られた。

 




主人公ってなんだっけ……
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