機動戦士ガンダム 無血のオルフェンズ 転生者の誓い   作:江波界司

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眠り覚める者

 テイワズの本拠地といえる巨大な船、歳星(さいせい)

 検問を通って入ったある部屋で、リヒトは名瀬(なぜ)、アミダと共にマクマード・バリストンと顔を合わせた。

「一応話した通りだ。ルナって子が鉄華団に入った」

「女がか?いくら少女だと言っても、普段ならお前が面倒を見そうなところだが」

「提案はしたんですけど、本人から断られたんで」

 ここに来る途中に通信でアポを取っていた名瀬は、ルナと自分の後ろにいる男の関係性を確信はないが伝えていた。

 本来ならスパイを疑う所だが、交渉の時に見た目と、あからさまに怪しい行動がスパイらしからぬと名瀬は結論付ける。ついでに反応を見る狙いもある分にはあったが、“名無し”の男は何もリアクションを取らなかった。

「で?そっちの若いのは」

「おやじと話がしたいんだと」

「初めまして。フリジア商会の者です」

 “名無し”の男はゆっくりと頭を下げる。

 タービンズ艦での交渉の時、名も無い商談相手を信用できないと言われれば確かにそうだと、リヒトは見繕った社名を語る。もちろん、そんな商会は初めから存在しない。

「聞かない名だな」

「新設されたばかりの、しがない行商ですから」

「それじゃ、俺らは席を外します」

 言って、名瀬とアミダが部屋を出た。

 二人だけの部屋で、マクマードがソファに座るよう求める。

「全く知らない相手だ。普段なら追い返すところだが。名瀬の案内で来たなら、それなりの話があるのだろう?」

 リヒトが知る限り、マクマード・バリストンは温厚な性格ではある。ただしこういった、仕事が関係する時には話が別だ。

 巨大な組織を纏める力を持った者の風格が、圧力となって身を固める。

 緊張を悟られぬように気を払いながら、リヒトは切り出した。

「新設と言っても、こちらにはそれなりの情報力があります。例えば、今鉄華団に任せれている火星の開発について、とか」

「……」

 意図的に不敵な笑みを浮かべるリヒトと、真意を覗こうとするマクマードの視線が交差する。

 テイワズ内でもかなり大きな仕事を鉄華団に任せた。この事実は別段秘密にしているわけではない。だが、決して大っぴらにしているわけでもなかった。

 それこそ、鉄華団の名が広まっていることを利用した節はあるが、開発の内容、その細部までを宣伝して回ってはいない。

 男の情報源に思考を巡らせるマクマードに、リヒトは続ける。

「情報があるというのは、それだけで儲かります。過去から今を、今から未来を知ることすら、膨大な情報があれば可能ですから」

「つまりあんたは、その膨大な情報の中にテイワズが買い取るであろうものがあると言いたいのかな?」

 いえ、とリヒトは笑顔で否定する。

 それにマクマードは僅かに目を細めた。

 ――この男、さっきから怪しさを自ら演出しているな。

 まだ本名も知らぬ目の前の若者は、不敵な笑みを崩さない。鉄華団についての情報があると言った時も、わざとこちらを探るような口振りで話していた。名瀬からの通信から聞いた話では“名無し”と名乗っていたようでもある。

 およそこんなに怪しい交渉相手はそうはいない。

 基本的に交渉とは信頼関係で行う。信じてもらう為に策を弄し、時には騙すこともやってくるのが商人だ。

 しかし、眼前に構える若造は違う。

 信じてもらう為、どころか逆に信用できない要素だけを見せてくる。こんな相手との商談、蹴ってしまうのが得策。

 だが、まだ始まってもいない話を切り捨てるには早いと、マクマードはリヒトに問うた。

「それじゃあ、何が目的だ?」

「大層なものではないです。ただ、マクマード・バリストンは、未来投資にご興味はお有りかと」

 

 

 ✕✕✕

 

 

 大した外傷もない睡蓮(スイレン)獅電(シデン)は整備班に回された。

 MSを降りた二人が三日月の元に集まる。

「おつかれ」

「……はい」

「うす……」

 ルナとハッシュがそれぞれ返す。ルナは平常運転だが、ハッシュは心なし落ち込んでいた。

「気にすんなって。こいつに勝つの、多分俺でもムズいからよ!」

「あ、いえ……それは気にしてないんスけど……」

 気を遣って肩を組んできたシノに、ハッシュは申し訳なさそうに応えた。

「あの、ルナさん。今の勝負はルナさんは受けた立場だと聞いたのですが」

「……はい」

「なぜ受けようと思ったのですか?」

 少し離れた位置で、ハッシュに聞こえないくらいの音量で話し始めたクーデリア。彼女は三日月の話を聞いたが、ルナ自身はどう思っていたのかが気になったのだった。

 アトラも知りたいらしくルナへ寄る。ルナはクーデリアの声に合わせて静かに答えた。

「おやっさんが、戦闘データが欲しいって言ってたから」

「あー……」

「そ、そうですか……」

 三日月はハッシュに少しは慈悲の心があったようだが、彼女はそもそも彼のことを見てもいなかった。

「これ、流石に言えないですよね」

「ええ。本人の為にも」

 ヒソヒソと話すアトラとクーデリア。二人が目線を向けているのは、シノに絡まれながら昭弘や三日月と話しているハッシュだ。

「気にしてねぇって、じゃあ何で落ち込んでんだよ?」

「最初から勝てるとは思ってなかったんスけど、ここまで手抜かれて手も足も出ないのは流石に堪えるというか……」

「無理もない。お前も見てたろうけど、あいつ、三日月とやり合えるくらいに強いからな。機体も睡蓮(スイレン)の方が性能が高かった」

 明弘のフォローを素直に受けることにしたハッシュは、自分が目標とする三日月の背中を見ていた。

 

 

 

 ✕✕✕

 

 

 

 ハッシュ対ルナの戦闘が終わってから誤差数分。オルガに二つの伝令が入った。

 一つ目は歳星(さいせい)から、本格的に調べてもらうべく火星で見つかった三機目のガンダムフレームと共に送っておいたMWもどきについて。

 正体不明でコクピットもなかったそれを起動したところ、MWもどきは制御不能で暴れ回った。解析に回してもテイワズの過去の資料に情報もなかったらしい。

『ギャラルホルンのカルテなら何かしらの記録があるかもしれないんだけど』

 鉄華団から整備班代表で歳星(さいせい)にいるヤマギの伝言を聞き、オルガはマクギリスに連絡を取ることを考えた。

 その予定を早める必要性が出たもう一つの知らせ。それはビスケットの口から告げられた新しい発掘体の発見だった。

「形状は、全体は見えないが人型らしくない。それとかなり巨大であると推測できる」

「で、そいつが例のMWもどきと関係があるらしいんだったか」

「恐らくね。近くで数体、同じものが見つかっているからね」

 オルガが連絡を取ったマクギリスは快く調査への助力を約束した。

 

 

 数週間後、マクギリスの火星到着ともに発掘体の調査を開始する。

「なにか心当たりがあるのか?」

「あくまで君たちから聞いた話をもとにした推測だが、今から見に行くものの正体は、MAだ」

「モビル⋯⋯アーマー?」

 移動中の車の中で、オルガは首を傾けた。

 一つの車両に乗っているのはオルガ、ビスケット、マクギリス、石動、そして三日月。その後方に続くもう一台には副団長のユージン、三日月の部下ハッシュ、整備班からザックが搭乗していた。

 ルナが不在なのはMSなしでの行動の為。三日月もバルバトス無しではルナと大した差はないが、マクギリスからの要望により同行している。

 件の場所へ到着すると、ビスケットの話通り見たことのない形の機体が半身以上を埋めて存在していた。

「さっきも話したが、これはあくまで鉄華団への協力って形を取ってもらう。万が一の時の指示その他は聞いてもらうぞ」

「構わない。代わりに発掘したいくつかの機体を解析に借りていくことは守ってもらいたい」

「問題ねぇ」

 既に済ませている話し合いを再度確認し、調査を開始する。

 ――はずだった。

 突如として現れたMS軍に、一同は身構える。

『ギャラルホルン、アリアンロッド艦隊所属、イオク・クジャンだ。マクギリス・ファリド、貴様を拘束する!』

 流れてきた通信の声に耳を傾け、マクギリスが答えた。

「私が何をした?罪状もなく拘束される言われはない」

『惚けるな!七星勲章を秘密裏に入手しようとしていることは既に分かっている!』

 オルガが小さく聞いた七星勲章について、マクギリスに代わって石動が説明する。

 七星勲章とは厄祭戦時代にMAを破った者に与えられる称号で、その功績をもとに今のセブンスターズの権威の序列が作られている。

 現在第一位のイシュー家は空席となっており、ここでマクギリスが動けば直接的に序列に影響が出るらしい。

 尚も否定するマクギリスにしびれを切らし、イオクは機体を前進させる。

「――っ!待て!それ以上は」

 マクギリスの停止も虚しく、レギンレイズの進撃がトリガーとなった。

 地震と錯覚する程の振動が起こり、畏怖を巻き起こす駆動音が鳴り響く。

 イオクの目の前、脅威そのものであるMAが――目を覚ました。

『――――!!!』

 声にならない奇声が耳を震わせる。全長はMSよりもはるかに大きく、鳥の如き翼と嘴が登りきった日に輝いていた。

 オルガの素早い判断で車に乗り込む一同と、現れた謎の敵機に銃を向けるアリアンロッドの部隊。その先陣たるイオクは、逃げるは恥とレールガンを放った。

 

 

 ✕✕✕

 

 

「……これ、今出せますか?」

「出せるかって……そりゃぁ整備は終わってるけどよぉ?」

「……分かりました。ありがとうございます、おやっさん」

「ん?っておい!んな勝手に……そもそもそいつは――」

 

 

 

「おいおいおいおい!どうなってんだよこれはぁ!?」

 叫ぶユージンは、車の後方の窓から追っ手に目を向けていた。

 同席しているマクギリスの話では、MAは無人の殺戮機械であり、その目的も人類を滅ぼすこと。故に人の多い方を標的とする習性がある。

「あのちっこいのもMAなのか!?」

「厳密に言えばそうだろう。あれはプルーマと呼ばれるMA本体のサブアームといったところか」

 MAによって生み出されるMAの子、プルーマ。逃走し始めた際に見えたMAとプルーマが団体的に動こうとしている始終。そんな光景を否定するように、三機のプルーマだけが鉄華団の用意した車を追って来ていた。

「っくそ。離れたから大丈夫だと思ったのによぉ!」

「もしかしたらあっちのギャラルホルンが片付いたからかもしれねぇな」

「どうすんだ?オルガ。このままだとすぐに追いつかれるぞ!?」

「分かってる!」

 車両とプルーマの速度は歴然。あとどれだけの猶予があるのか。本部に連絡は入れたが、ここに来るまでには時間が掛かってしまう。

 諦めがオルガの脳に過ぎった瞬間。鈍器が地面を抉った。

 後方からの衝撃でバランスを崩す車の中で、彼らは目にする。

 ――プルーマを貫いたソードメイスを。

 並んだ内、先行していた真ん中のを潰されたプルーマはそれを避けるように進む。

 その左翼が、無残に踏み潰された。

 プルーマは対象を変更。二機を撃墜したMSに向かう。進路を変えて正面に捉えた機体は、もうそこにはいない。

 プルーマの赤い目にはさっきまでそこにいたはずの機体と、そこにあったはずの武器は映らない。

 故に、ソードメイスを拾って跳躍していたMSの攻撃を躱すことは出来ず、装甲を貫通する破壊音とともにその機能を停止した。

「あの武器……というかあれは……」

「バルバトス?」

 驚きを隠せないオルガの横で、三日月は自分の相棒の姿を見る。

 バルバトスルプス。三日月の乗るガンダムフレームは今、彼以外のパイロットによって動いていた。

 コクピットが開き、中から赤毛の少女が現れる。

「……三日月さん、持って来ました」

 危機が去ったことで車を止め一度外に出てきていた一同は唖然とする。理由はオルガの通信から来るまでの時間が短過ぎることもあったが、もう一つ――。

「確か、バルバトスは三日月用にカスタムされてて阿頼耶識使ってる奴じゃまともに動かせねぇって……」

「いくら手術を二回受けてるっていっても、これは流石に……」

 引き気味なユージンとビスケット。ビスケットに至っては彼女の実力を生で見ることもなかったが、三日月が自ら面倒を見ると言った時からある程度の覚悟はしていた。が、足りなかったようだった。

「オルガ、どうする?」

「取り敢えず本部に戻るぞ。流石にミカ一人であれを相手取るのは無茶だ」

「分かった。ってことだからルナ〜」

「……了解」

 逆に大した驚きもないオルガと三日月はすぐに動き、ルナは再びバルバトスに乗って先に本部へ向かう。

 ちなみにこの時、ルナが睡蓮(スイレン)ではなくバルバトスに乗ったのは、飛来したMSを見た時点で緊急性と三日月の方が強いという実務性を考慮した結果であった。

 

 

 

 

 

 

 




時間軸的にリヒトがマクマードと交渉しているのは、MAが目覚めるより少しだけ過去の出来事になります。
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