機動戦士ガンダム 無血のオルフェンズ 転生者の誓い   作:江波界司

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再来の厄災

 火星の周辺から様子を見ていたアリアンロッドの一隻。

 イオク隊からの通信が途絶えたとこで、ジュリエッタとヴィダールは状況確認の為に降下した。

 

 

✕✕✕

 

 

 

 遡ること約一時間。

 イオク隊は既に隊長だけを残して全滅し、大きく破損したレギンレイズの中でイオクが死んでいった仲間への涙を流していた頃。

 鉄華団本部ではMA討伐の為の作戦会議が行われていた。

 その際、マクギリスだけでなく今回の視察に参加した者達からも情報を集める。

 ザックが帰還中に見かけたプルーマは使われていない施設を襲っていた。マクギリスの話では人間の補給路を断つのが狙いだと。

「俺たちを襲ってきたプルーマは?あいつらは群れで動くんだろ?」

「恐らく、たまたま私達の近くに埋まっていた個体が目を覚ました為だろう」

「その際、一番近くにいた僕達を狙って来たと」

「あぁ」

 ビスケットとマクギリスの会話で大凡の状況を把握した一同。

 あくまでもギャラルホルンにあった過去の情報だったが、MAは人類を殺すために作られ、無人で多くの人を狙う。

 つまり、あの巨大な敵の狙いは火星の都市クリュセということだ。

 さらにMAにはプルーマを生産する機能があり、物資があれば時間経過で無限に増殖する。プルーマ自体はそこまでの戦闘力と装甲はないが、数の多さはそれだけで脅威であった。

「MAを殺るには、まずちっこいのとの分断が最優先。その上で素早く倒せ、ってことか」

「難しいことは分かっている。私達もできる限り尽力しよう」

 マクギリスの提案へおざなりに返し、オルガの一声で鉄華団は動き出す。

 

 

 ✕✕✕

 

 

「……っくそぉ……私は、私は……」

 一人レギンレイズの中で嘆く男。イオク・クジャンはひたすらに逃げることしか出来なかったあの一時を悔やんでいた。

「……皆の思い、決して無駄にはせんぞっ!」

 その悔しさは大きな覚悟へと変換され、胸の前の拳は力強く握られている。

「必ず私が、一矢報いて……」

『それはもう少し待ってください、イオク様』

 まさにアクセルを踏もうとした瞬間、聞き覚えのある声が静止を掛けた。

 ジュリエッタではない。この声の主は――。

『リヒトか!?』

『お久しぶりです』

 ボロボロのレギンレイズの前に現れた一機のグレイズ。肩やその他一部の装甲が旧式で、装備はロングライフルに大シールド、腰にはアックスが添えられていた。

 イオクはコクピットから這い出てリヒトをその目で見ようと立ち上がる。リヒトも見てから外に出た。

「よく生きて戻ってくれたっ!」

(ラスタルのやつ、なんて説明したんだよ……)

 リヒトがラスタルから強引に許可を貰った隠密行動。アリアンロッド内でも極秘に行われたそれの説明についてはラスタルが行っていた。

 リヒトは知らないが、イオクが聞かされた内容は死と隣合わせの危険だが重要な任務であるということだけ。うまくはぐらかしたのはラスタルの手腕と言えるだろう。

 知らぬリヒトはどうにか話を合わせる。

「え、ええ。どうにか……」

「なるほど。やはり苦労したようだな、装甲も予備のものを使う程に」

(いや、戦闘はしてないけど)

 グレイズの装甲が旧式なのはリヒトが自ら頼んだもので、行商を演じるのにギャラルホルンの新品装備では怪しまれる可能性があるからであった。

「もうすぐジュリエッタ先輩とヴィダールが来る筈です。一矢報いるのはそれからにしましょう」

「いや、私がやらねばならん!彼らに救われた命、今ここで使わずしてどうする!」

「ここであなたが討たれれば、部下の犠牲の全てが無駄になります。ここは一度様子を見るべきです」

「だが!」

(あ〜めんどくせぇな、この人)

「一人でやる必要はないでしょう。我々は仲間です」

「仲間……!」

 わかったっ!と威勢の良い返事をしたイオクはレギンレイズに入り、ここへ向かっているはずのジュリエッタたちへ信号を送った。

 リヒトもグレイズへ戻ると、同期からの音声が耳に入る。

『調子はどうですかい?リヒト』

『上々だな。グレイズの調子もいいし。お前が整備できるとは思ってなかったぞ』

『前に言ったろ?もとは整備志望だったって。地球じゃ手が足りてるっつんで普通にMS乗ってたけどよ』

(言ったっけ?多分俺が俺になる前の話だろうな)

 現在のリヒトは過去のリヒト、つまり憑依された側の記憶もある程度受け継いでいる。ただし、例えば昨日の晩ご飯や全く合わない知人などのどうでもいい内容は忘れてしまっている。

(つまりこいつのことはリヒトにとってどうでもいい奴ってことで)

 悲しい事実を隠蔽し、音声だけのためモニターに映ることはない同期へ声を掛ける。今、彼はリヒトたちが乗っていた小型輸送船にいるはずだ。

『そっちは大丈夫か?どっちにも見つかってないだろな?』

『ギャラルホルンにも鉄華団にも見つかってねぇよ?なんで隠れなきゃならないのかは知らねぇけど』

『一応俺らは隠密行動中だからな』

『お前は動いて良いのかよ』

『後で先輩に謝ればどうにか。でも船を見られるのは流石にまずいだろってな』

 リヒト達は鉄華団とマクギリスの関係性を調べる為に動いている。それを勘づかれる訳には行かない為、ギャラルホルンの一般兵にも鉄華団にも接触を持つのは避けるべきだった。

 だが、今回だけは見逃せない。イオク・クジャンがMA関係で出す被害は大きく、止めるにはこうして介入せざるを得なかった。

 しばらくの間待機し、リヒトとイオクは援軍と合流する。

 

 

 ✕✕✕

 

 

『目標は順調に進行中。あのちっこいのと速度を合わせてるみたいだ』

『了解だ。昭弘たちはそのまま監視を続けてくれ。ユージン、そっちはどうだ?』

『データ見たぜ?この分なら間に合う』

 鉄華団が立てた作戦の第一段階、MA本体とプルーマの分断準備は順調に進み、罠をはるユージンとの通信を一度切ったオルガは説得に走ったビスケットの合流を待つ。

 ビスケットとメリビットがクリュセへと向かい、作戦が失敗した場合に備えて住民を避難させるよう話したがクーデリアの一存で断られていた。その事は既に通信が入っている。

 厄災戦で暴れ回った破壊の天使。それを相手取った上で失敗の許されぬ戦いに、オルガだけでなく鉄華団全体が気を引き締める。

『ミカ、準備は出来てるか?』

『いつでも行ける』

「よし」

 躊躇いなく返された言葉に安堵し、オルガは着陸場へ移動したマクギリスを思う。

 彼らからも戦力を出すと聞いたが、移動もあり時間が開いてしまう。理想はここでマクギリスが来る前に倒すことだが、やはり不測の事態には備えておきたい。

「一応、確認は取っておくか」

「その方がいいだろうね。僕がやっておく」

「ビスケット」

 オルガの後ろから声を掛けたビスケット。彼は静かに笑っていた。今がそんなことをしている場合でない事は百も承知だが、オルガという人間を知る彼からすれば笑みが零れるのも仕方がない。

 ――あのオルガが、立ち止まって考えてるんだから。

 突っ走る事のできるオルガと、道を選ぶことのできるビスケット。互いが互いを支えることで成り立ってきた鉄華団は、オルガが変わるように変化を繰り返しながら強くなって来た。最初は子供だけの小さな兵団。それがタービンズの兄弟になり、テイワズの後ろ盾も貰った。バルバトスだけでなくグシオンや一度は戦い合った元ヒューマンデブリも加わり、地球での活躍を評価されても来た。

 ビスケットは思う。この先危ない橋を渡ることは、させない。それがオルガの目指す“上がり”への最短だ、と。

 だからこそ、オルガのこの小さな変化は嬉しかった。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 作戦の概要は、大きく三つの段階を経て完成するものである。

 まずは誘導。昭弘達MS隊が見張り、MAがしっかりと罠を通るか確認する。移動ルートが変わった場合などを含め随時報告し、有事の際は応戦。次の段階へ繋げれるよう行動する。

 次に分断。ユージンの班が岩肌を砕いてプルーマと本体を大凡で分ける。

 最後が殲滅。プルーマ本体はそこまで脅威ではない為、シノ不在の流星隊だけで攻撃。クリュセへの進行を封じる。MA本体と少量のプルーマは昭弘の隊と三日月のバルバトスで襲撃。細かな点は現場に任せ、ルナ、ハッシュの行動については三日月に一任された。

 第一段階は間もなく終了し、MAはポイントへと近付いている。

『ユージン、頼むぞ』

『任せろ。ここでしくじったりしねぇよ』

 誘い込むにあたってはプルーマの挑発が必須。その為、現在はタービンズのラフタ、アジーに指揮権が移された流星隊が射撃を開始した。

「ほらほらー、早くおいでぇ!」

『ユージン、そろそろ良いかい?』

 加速してくるプルーマを撃ち落としながら少しづつ後退。プルーマの大半を前方に集める。

「えーっと、取り敢えず二人は待機。俺らかあっち側がまずくなったら助けて」

「了解です」

「……了解」

 銃撃が続く谷を見下ろす遊撃隊、三日月、ハッシュ、ルナは臨戦態勢をとる。対面の崖の上には昭弘たちがスタンバイしていた。

「よーし……今だぁ!』

 ユージンの掛け声と共に、分散していた団員達が動き出す。仕掛けられた爆弾が岩肌を爆散し、MA本体であるハシュマルを瓦礫の壁で隔離。プルーマは少し残っているが、誤差の範囲である。

『作戦開始だ!』

 オルガが叫び、MSが飛来する。

 阿頼耶識の補正を駆使して落下しながらの行進間射撃でプルーマを狙い撃つ。

『三日月、続け!』

『分かった』

 両のサブアームで持っていたライフルを捨て、グシオンリベイクフルシティは両手でハルバードを握る。格闘に備えるべく、カメラメインだったオープンフェイスがその双眸を顕にした。

 一拍差をつけて動いたバルバトスルプスも担ぐようにソードメイスを構え、落下する重みをそのままぶつけるはずだった。

 ――そう、はずだった(・・・・・)

「――ぐふぉ……」

 モニターに浮かんだ赤文字とともに、昭弘が鼻から出血して意識を失った。

『昭弘?昭弘!?』

 無防備に落ちるグシオンを目にした三日月が呼びかけた。返事はなく、機体はそのままハシュマルの頭上へと向かっていく。

 バルバトスは空中で体勢を変え、スラスターの出力を上げる。ソードメイスでグシオンを左腕から叩き、落下地点を僅かに逸らす。自らも反動で左に動き、二機はMSの首を両側へ躱すように地面に当たった。

「――――!」

 奇声の如きハシュマルの鳴き声が谺し、眼前の敵を滅ぼさんと左脚を上げる。三本の爪を支える足の裏の中心からニードルが突き出された。

「まずい……!」

 素早く反応した三日月は、しかし動かない。脳から手へ、手からの機体へと出された指示が、バルバトスへ伝わらない。

 動かない、のではなく動けないのだ。

『おい!』

『昭弘ー!』

 プルーマを相手取っていたチャド、ダンテが叫ぶ。

 無情にもMAはその足を振り落とした。

 それとほぼ同時、二発の着弾が見えた。

 ニードルがグシオンのいない地面へと突き刺さる。ハシュマルの脚にこれといった傷は見えないが、その軌道は確かに変わっていた。

『射撃!?誰だ!?』

 チャドが見上げた先、ルナとハッシュの対面には三機のMSが見える。

『どうだ見たか!これこそが正義の一撃ッ!』

『イオク様。今頭に当ててもさして意味はありません』

『鉄華団、援護する。早くバルバトスとグシオンを下げさせろ』

 片腕のレギンレイズと、万全の装備でツインパイルを両手に持ったレギンレイズ。そしてチャドたちに通信を入れたやや型番の古いグレイズが立っていた。

 リヒトの狙撃で外した脚を逆に踏ん張るハシュマル。鳥のような体の後方から、空を切りながら進む機械音が聞こえた。

『イオク様。MSは狙わないで下さいよ。敵が増えると厄介です』

『任せろ!』

『先輩』

『要りません!』

 既に空中にいるジュリエッタはスラスターでさらに落下を加速させ、右手の得物で首を狙う。

 察知したハシュマルは後方へ避け、ワイヤーブレードを降る。ムチのようにしなった刃はレギンレイズへと向かっていた。

 その鋭利な刃を正確に撃ち抜く弾丸。阿頼耶識の反応にすら対応する尾を撃ち落とし、リヒトはジュリエッタが避難する一秒にも満たない時間を確保した。

 が、一歩分下がったレギンレイズにハシュマルの顔の先端が向いていた。

(ビームが来る!)

 リヒトだけが知る兵器を前にジュリエッタは回避行動が取れない。リヒトが今叫んでからでは遅く、次弾装填も間に合わない。

 ハシュマルの口が輝き出し、瞬間――金属音が響く。

 頭は下を向き、ビームは地面を焼いた。

 ハシュマルの頭部を太刀で穿ったルナはすぐに着地し、臀部のスカート外側に付けられた長方形型のボムをMAへ投げ込んだ。

『ハッシュさん、三日月さんを』

『分かってますよっ!』

『昭弘!返事しろ!おい!』

 チャドがグシオンを、ハッシュがバルバトスを引きずりながら後退。MA側へ来ていたプルーマはイオクのMAを狙った誤射によって牽制出来ていた。

 三度に渡り攻撃を妨げられたハシュマルは、ゆっくりと叩かれた頭を上げる。

「なんだ……あの赤い機体……」

 最悪の結末を防いたリヒトは見知らぬMS、睡蓮(スイレン)に唖然としていた。

 

 

 




ヒーローは遅れてやって来るそうです。
次もできる限り早く更新するつもりです。
感想お待ちしております。
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