機動戦士ガンダム 無血のオルフェンズ 転生者の誓い   作:江波界司

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作者はニュータイプでもコーディネーターでもありません。
駄文にはご注意ください。


無知なる一兵

 ビスケット生存という原作ブレイクに成功した翌日。イオク隊は月へと向かった。

 これにより、その後の展開も少し変わる。

 リヒトの考えではビスケットが生きているという事実は、鉄華団がカルタ・イシューを過度に恨むこともなくなる。そうなれば彼女の生存ルートも見えてくる。

 要は、あのレール上での決闘で生き残ればいい。そこを越せば、残るは鉄華団とクーデリアの活躍を待つのみ。万事上手くいく。

 イオク・クジャンが例の作戦に加わった事についても何も問題視されることはなく、カルタ・イシューもギャラルホルン本部へと移動。

 リヒトは一息つくだけの事を成した。

「それで、君がリヒト・ストラトス君、だったか」

 が、まだ息はつけないらしい。

 アリアンロッド艦隊の総指揮、月外縁軌道統制統合艦隊の長。ラスタル・エリオンを前に、リヒトは姿勢を正す。

「はい」

「硬くならなくていい。それに、君の話は聞いている」

 言いながら、ラスタルは自分の後方にいるジュリエッタ・ジュリスに目を向けた。彼についての話、報告人はジュリエッタである。

「なんでも上官を誑かし、グレイズ一機と引き換えに地球外縁軌道統制統合艦隊のカルタ・イシューに恩を売ったらしいな」

(できる限りの悪印象で紹介しやがったな、あのアマ)

 文句を噛み殺し、リヒトは静かに応える。

「その件に付きましては、本来果たすはずだった鉄華団とクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄の拘束が失敗した故の結果です。イオク様に対し意見したこと、深くお詫び申し上げます」

 あくまでも自分の失態だと伝える。そこにあるのは彼の事情だ。

(こんな所でイオクが責任問題に問われたら、今後利用しにくくなるからな)

 中々のクズっぷり。

 そんなクズにラスタルはむしろ上機嫌そうに返した。

「頭を上げよ。君の行動は確かに失態だ。しかし、いやむしろ賞賛すべきものがある」

 は?と、思わず素に戻りそうになった。それ程までに驚きフリーズ。それは後ろにいるジュリエッタも同じだった。

「短い期間で敵の情報、戦力の確保、大義名分の作成、上官への打診。ここまでをやってのけ、更に作戦失敗時の布石まで用意。見事だ」

(なんかめっちゃ褒められた)

 冷静に考えれば、確かに新兵がほぼ一日でここまでの戦果を挙げたのは大きいかもしれない。その方法は果たして褒められるものなのかはさておき。

「お褒めに預かり光栄です」

「ふむ。君は作戦指揮に向いているのやもしれん」

 頭を下げたまま、リヒトは歯を食いしばる。ここで変にリアクションしては、逆にその道を絶たれる恐れがあるからだ。

「そこで、君にある仕事を任せたい」

(来たっ!)

 心拍数が上がっていることを自覚しながらも、リヒトはあくまでクレバーに口を開く。

「仕事、ですか」

「ああ。実はとある星の調査を依頼したい。本来ならギャラルホルンとの繋がりが強い業者に頼むのだが、君でも問題はないはずだ」

「……」

 返事を渋るのも無理はない。何せこの展開、原作では知ることもないサイド中のサイドストーリー。先が読めないなら自分は戦争の消耗品となんら変わらない。

「……規模については、聞いてもよろしいでしょうか?」

「詳しいことは、これにある」

 渡されたのは薄型のタブレットのようなもの。この世界ではごく普通の書類代わりだ。

「拝見いたします」

 受け取り、目を通す。

 期間は、時系列でおよそ鉄華団が夜明けの地平線団とぶつかる辺りまで。かなり長い。

 内容は主に調査と採掘。未開拓の為、状況には臨機応変に対応、とのこと。

 作業の規模としてもそれなりに大きい。東京ドームの大きさが二桁は必要。――だからこそ、疑いも持つ。

「人数は20名の中隊規模。駆り出されるのは全員が新兵。MW6台にMS一機を搭載した輸送船で向かい、帰還ですか」

「不服かね?」

 目の前で何かを吟味するラスタル。リヒトはそれよりも強い眼光を彼女の後ろから感じながら、深呼吸を一つ。

「立場上、お伺いすることは失礼かも知れません。予め、無礼をお詫びします」

「ああ。それで?」

「ラスタル様は、私の責任で私の同期に罰を与えるおつもりなのでしょうか?」

 ジュリエッタが物申すのを片手で止め、ラスタルはその目を細めた。

「詳しく聞こうか」

「本来業者に頼む予定だった業務。それを新兵に委託する。それも新兵のみでの活動。上官も不在なら命令を与えるだけの立場もない。場は間違いなく荒れるでしょう」

 これは事実だ。マクギリス・ファリドが言うところの腐りきったギャラルホルンの内情でも、やはり上下関係の重要性は大きい。そんな中、月と離れ上官もいない地域で同期に命令を受ける。ストレスがすぐに心のタンクを満タンにするだろう。

「それを纏められると考えて君を呼んだのだが、私の見当違いだっかな?」

「ラスタル様の思慮深い考察を信じ、仮に私に指揮の才があるとしましょう。しかし、指揮は指揮官故にできる行動。指揮すべき立場にない者の命令は、一方的な苦言とすら取られかねません」

 聞いたラスタルは右手で顎を摩り、小さく笑った。

「それもそうだ。では、地球での働きを評価し、君に中隊での指揮官の位。中隊長としての役職の他、私の直属の部隊という立場を与えよう」

「なっ!?」

 驚きの声を上げるジュリエッタ。その事に関してはリヒトも同感だった。

 いくら配属されたとはいえ、個人の細かい所属は更に分布する。イオク隊に入った彼は、しかしまだ新兵。これと言った立場は持っていない。

 だが、これがラスタル・エリオンの部隊ともなれば話は変わってくる。

 分かりやすく表現すれば、いきなり四天王、みたいなもの。流石にそこまで位は大きくないが、それでも新兵に対して命令を出すには十分過ぎる立場。何ならお釣りがくるだろう。

「ラスタル様。いくらなんでもそれは……」

 それはやり過ぎだ。ジュリエッタがそう思うのはごく自然。

 本来は王将。その側近に練度の低い者は配置されない。歩兵一つとっても、その役割と責任は大きい。

 そこでこの状況。いきなり戦力の低い新兵を配置するのは、自殺行為でもある。それに、周囲との軋轢にもなりかねない。

「ジュリエッタ、安心していい。これはあくまでも仮の話だ」

「仮……ですか?」

 その反応も、ラスタルは読んでいる。

「これは彼がこの仕事をするに当たって必要だと判断した前提。彼がこの仕事を受けるか否かは、まだ決まっていない」

(ジュリエッタが聞きたいのはそこじゃないだろうに。そこも知ってて言ってんだろうな。このおっさん)

 無意識にジト目になりそうなのをどうにか耐え、リヒトはラスタルに言う。

「仮に、ではありますが、もしも私にその地位を頂けるというならば、謹んでお受けします」

「そうか。では、早々に始めよう」

「え?あれ……?」

 おいてけぼりのジュリエッタを無視し、リヒトは部屋を出た。

 

 

 ✕✕✕

 

 

「ハッハハハ」

 扉が閉まり、部屋にはラスタルの笑い声が響く。

「あの、ラスタル様?」

「なるほど、見込みがあるな。あの男」

 ここまで上機嫌なラスタルを見たのは、ジュリエッタも久しぶりだった。

 彼女は再度ラスタルを呼び、彼もそれに応える。

「あの男。この場で何のデメリットもなく、ラスタル・エリオン直属部隊の名を貰って行った」

「え、ええ。し、しかし、それはラスタル様が差し出したのでは?」

「いや、出させられた、が正しい」

 あのラスタル・エリオンが負けた?

 そこまで大きいことではないが、それに準ずる内容にジュリエッタは驚きを隠せない。

「彼は最初聞いた。これは罰なのかと。私はそれに肯定も否定もしなかった」

 確かに、と彼女は頷く。

「そして、そこから仕事を受けるならば立場をよこせと言ってきた。全く強引だが、そこで私の出方を見たのだろう」

「出方、ですか?」

 提示された仕事はかなり過酷なものと予想された。ならば気になるのが優先度。ラスタルがこの仕事をどれだけ重く受け止めているか、だった。

「私があそこで大きな地位を与えれば、それがイコールで重要性に繋がる」

「なるほど」

 そしてラスタルはリヒトに対して地位を与えた。これでリヒトが受ける理由はおおよそ揃う。

「仮に断られればそのまま業務も白紙。よく考えられている。それに上官に対しても一切引かずにここまでやる豪快さ。若いが、おもしろい」

 ラスタル・エリオンがリヒトを評価することで、ジュリエッタの彼に対する印象も少し変化する。

 よく分からない男、と。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 その日の内に、ラスタルが提示した条件は全て揃えられた。すなわち、リヒト・ストラトスの異動である。

 輸送船やMS、MWの準備もすぐに終わり翌日。ラスタル・エリオン直々の命令として、部隊は編成された。

 こうしてリヒトは新兵を19人集め、月から離れる。

「ま、大丈夫だろ」

 一人部屋で零したリヒト。船での移動はもうしばらく続くが、その間に彼はこの世界を思う。

 これからしばらくは大きな分岐、つまりメインキャラの死亡はない。原作通り行けばアストンの死には間に合う。

 社長椅子の様なそれの背もたれに体重を預ける。

「さて、どう転ぶかな」

 この遠征に、リヒトはある期待を胸に潜めていた。

 原作とは違う。未開拓の地。調査、発掘。

 ここから連想できるもの。つまり――新しいガンダムフレームの発見だ。

 見つかれば相当な利益が出る。

 まずは、責任者である自分の昇進の可用性。今回のラスタル直属部隊という肩書きはあくまでも仮。この仕事一杯でまたイオク隊へと戻されるだろう。だからこそ、この成果は大きい。

 次に、純粋な戦力アップ。もしもジュリア以上の性能ならば、ジュリエッタの生存率もかなり上がる。そうなれば自分も彼女を気にせずに動ける。鉄華団もギャラルホルンも、死人は出したくないのだ。

 もう一つとして、期間の短縮も可能性としてはあるのだが、ここにはそこまで期待出来ない。流石に期間を勝手に破るのは問題という考え方もあるからだ。

 何はともあれ、こうしてすべきことは決まった。幸か不幸かそこまで親しい者はいないが、この20人で出来る限りのことをしよう。

 そう、彼は胸に誓った。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 地球。議会がある町から少し離れた荒野で、戦闘は続いていた。

「鉄華団。今度こそ捻り潰してくれる」

 グレイズリッターに乗ったカルタは目標に向かって速度を上げる。

『ガエリオ。私に続きなさい!』

「全く、気が滅入る」

 こちらはガンダムフレーム、キマリストルーパーに乗るガエリオ・ヴォードウィン。彼らは援軍としてここに来たのだが、その地位の関係上、この場の指揮をすることが出来た。

『お前達は街へ行け』

『しかし……』

『こちらは、問題ないッ』

 右手に構えられた大型の槍はバルバトスへと向けられる。

「またあんたか」

 スラスターの角度を上手く変え、回避する。三日月・オーガスは眼前に二機を見据えた。

「やりにくいな」

 それはこの二対一の状況もあるが、今装備している特殊メイスの性能も関係していた。

 破壊力こそあれど決め手に欠けるそれは、特に機動力を重視した敵機には適さなかった。

『カルタ。あちらは任せろ』

『話は聞いているわ』

 ガエリオが指したのは鉄華団のMS軍、四機の事だった。

 街へと進路を変えたグレイズリッターを昭弘が追う中、突如漏影を影が覆う。

「なにッ?」

 ラフタが見上げ、あるものを視界に捉えた。

 ――巨大なグレイズ。

 他よりも一回り大きな黒い機体が飛来し、ラフタは回避行動を取る。

 降り立ったグレイズは、足先の四枚の爪で地面を抉った。

『なに、あのデカいの』

『なんでもいい。やるよ』

『了解』

 アジーが並び、すぐに進撃を始める。

 左右に揺さぶりながら、徐々に距離を詰め、砲撃。グレイズの正面へ弾丸を飛ばす。

 回避しないグレイズ。正面で爆発が起こる。

「貰った!」

 回り込んだラフタ機がメイスを構え、振り下ろす。重量がそのまま破壊力になる棍棒は、当たらなかった。

 アクロバティックな動きでそれを躱し、空中で身動きの取れない漏影にグレイズの爪が回転したドリル状の足を突く。

「きゃぁぁぁ」

「ラフタッ!」

 援護に向かうアジーはトリガーを引くが、砲撃は躱され、グレイズがすぐにアジー機の後ろを取る。

「この反応……まさか、阿頼耶識!?」

 理解すると同時、片手用の大型アックスが機体を無惨に抉る。砕かれた装甲の隙間からはオイルが吹き出し、返り血のようにボディを汚したグレイズは次の獲物を見つけ、動き出した。

 

 

 鉄華団は苦難の末、クーデリアと蒔苗氏を送り届けた。

 その影には、生存したビスケットの活躍もある。彼が別行動となったユージン達と連絡を取り合い、万全とは言えなくとも、原作よりも好条件で戦えたのは事実である。それにより、本来より時間も少しばかり短縮されたことは、しかし彼らは知らない。

 同刻、荒野はリアクターの振動音がやけに響く静けさに包まれていた。

「お前は……」

「マクギリス・ファリド……」

「元気そうで何よりだ。ガエリオ、カルタ」

 突如現れた機体、グリムゲルデ。そのパイロットの正体を知り、二人は困惑に動きを止めた。

『どういうことだ……なぜ、お前が……』

『全て、私の思惑通り、ということだよ。ガエリオ』

 親友だと思った男が、恋焦がれた男が、目の前にいる。――敵として。

 そしてマクギリスは全てを明かす。彼の狙い、アインの存在理由、カルタやヴォードウィン家の利用計画。およそ二人にとって、これ程までに酷な話はなかった。

 ――信じ、裏切られたのだから。

「マクギリスッ!」

 自らの死を望まれ、感情が葛藤するカルタは動けない。

 そんな彼女をよそに、彼らはぶつかる。

「来い、ガエリオ。我が友よ」

 両腕の盾に収納された剣を出し、幾度と繰り出されるキマリスの槍を弾く。

 力を流され僅かに出来た隙に、黄金色の剣が穿ち、装甲へとヒビが入る。その度に、機械的なダメージを受けた機体のコクピットでは、パイロットへ害を及ぼしかねない電流が発生した。

「マクギリスッ……」

 口からは血が零れだし、視界も霞み始めた。

 振り絞ったガエリオのその声は機体越しの彼にはと届かない。

「友情も、愛情も、私には届かない。怒りの中で生きてきた私には」

 やがてキマリスは膝を着き、抵抗すら不可能な程の傷に沈黙する。

「さよならだ。ガエリオ」

「マクギ……――」

 キマリスを貫いた剣は、血ともオイルとも取れる汚れを纏った。

「さて――」

 剣を引き抜き、振り向く。メインカメラの中心にいるのは、グレイズリッター、カルタだ。

『これで、終わりにしよう』

『わた……しは……』

 絶望の中で、カルタは言葉を紡ぐ。

『それでも、私は――』

 目を閉じ、彼はただ耳を澄ましていた。

『……そうか』

 カルタの言葉を聞き、マクギリスは一歩ずつ歩み寄る。

 そして確実に命を刈り取れる距離。ガエリオの時と同じように、右腕に着いた剣を構えた。

『カルタ。……ありがとう』

 無慈悲に、無惨に、剣はグレイズリッターを切り裂いた。

 

 

 




原作と被る部分は少し略す感じで進めるつもりです。
感想お待ちしております。
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