機動戦士ガンダム 無血のオルフェンズ 転生者の誓い   作:江波界司

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見知らぬ顔の戦士

 時は人の意識を意に返すことなく流れる。

 鉄華団とクーデリア・藍那・バーンスタインが起こした行動は世界へ大きく影響し、変革の兆しは少しずつ現れていた。

 蒔苗の報告でギャラルホルンへの不満は高まる世間の裏では、鉄華団という組織の活躍が噂となる。それにより、戦場では子どもを兵として使う風潮は煽られ、ヒューマンデブリの数は増加の一途を辿った。

 そして、エドモントンの戦い。悪魔と悪魔の一戦もまた、多くの恐怖と畏怖を与える事案そのもの。

 世界ではガンダムフレームという厄祭戦時代の遺物を回収する動きが活発化し、ギャラルホルン内でもMSの研究が進められた。

 ――鉄華団は、そんな時代の流れの中心にいる。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 有り体に言って、リヒト・ストラトスは有能な指揮官だった。

 長期間に渡る労働。それも少人数且つ同期だけともなれば、問題点は両手で足りぬ程出てくる。加えて、指揮をするのが急な出世を果たした射撃“だけ”の男。ストレスも反発も簡単に予想できる。

 これだけの悪条件の中、どうやって真面目な隊が創れようか。

 しかし、創り上げた。

 業務開始に先立ち、彼はこう言い放った。

「上司がいない?ならばここは最高の訓練所に他ならない」

 ギャラルホルンの新兵ならば、その多くがMSでの戦闘を希望する。それが名誉ある戦いなら尚更。

 では、出撃できる者は誰か。およそ新兵の内で選ばれることはまず無い。仮にあるとすれば、それこそ実力で先輩を黙らせるくらいは必要だろう。

 リヒトが最高の訓練所と表現した理由。それは自由にMSの訓練を、上司へ譲らなくて済むからだ。それだけ時間を費やす事ができるからだ。

 もっとも、腐敗しかけたこのギャラルホルンに、一体どれだけ真面目に訓練をする正規兵がいるのかは疑問だが。

 ともあれ、この一言に部下19名は士気を上げた。

 業務内容にも抜かりはなく、調査と休息、MS訓練の時間を的確かつ適切に割り振り、爆発しないストレスの発散と過労にならない配慮を心掛けた。

 これにより、ラスタルから命じられた調査任務は期間を終え、特筆することなく終了した。そう、“特筆することなく終了した”のである。

「有り得ねぇ〜」

 自室のベッドに横になりながら、リヒトは今までの不満の全てを零した。

 この調査では発掘も担っていたが、文字通り何も無かった。

 彼が求めていたガンダムフレームは発見されず、成果0での帰還を余儀なくする羽目になる。

 輸送船は月へと、帰路を等速で進んでいた。

「隊長。エイハブウェーブの反応が」

 突如備え付けのモニターにブリッジから通信が入り、リヒトは体を起こした。

「ギャラルホルンのものか?」

「いえ、恐らく民間のものかと」

「数は?」

「MSの反応が計4機。それと戦艦の反応が2つ。戦闘中でしょうか?」

 そこまでは判断出来ない。リヒトはそちらに移動すると伝え、念の為にとグレイズの準備を命じた。

 月からはまだ離れている。ここから援軍を呼ぶにしても時間が掛かる。仮に戦闘に巻き込まれるとしても、出来れば自分達だけで対処したい。

(じゃねぇと昇進に響きそうだ)

 扉を開け、操縦桿を握る兵が真っ先に視界に入った。

「場所は?」

 半重力を利用しながら近場の手すりを使い、方向を変えてブリッジの中央に位置を取る。

「左やや後方。ここらはそれなりに離れていますが、どうしますか?」

 通信士はヘッドセットを耳から外しながら、椅子ごと振り向く。

(どうするって、そりゃ逃げるだろ)

 わざわざ関係のない戦闘に参加する理由はない。が、気になることもある。

 至って冷静に……しかし、リヒトはこう切り返した。

「MSの照合は出来るか?」

 少し待ってくださいと間をとり、担当はキーボードを操作した。

「ヘキサフレームの反応が3機。機体の種類まではわかりませんが、民間のものならそこまで性能は高くないはずです」

「ん?4機いたんだよな?」

「もう一機はデータに一致するものがありませんでした」

 リヒトはブリッジ内を移動し、窓へ顔を近付けた。

 視界の先には発せられる閃光が戦闘の激しさを知らせている。

「該当なし、か……」

 頭に浮かぶ可能性を考慮し、リヒトは行動に出た。

「艦はここで待機。俺がグレイズで出る」

「出るのですか?」

 隊長自ら、という驚きよりも、そもそも関与するのかという困惑が大きなセリフだった。

「ここは月周辺、言ってしまえばアリアンロッドの統率下に当たる。なら、そこでの戦闘は出来る限り減らすのが理想だろう」

 それに、と反動を使いながら出口へ向かう。

「上手く立ち回れば、色々なことに片がつく」

 金髪仮面の男をイメージしながら、隊長はブリッジを後にした。

 

 

「指揮官様が出てどうすんだよ。出世頭殿?」

 出撃用の準備をし、グレイズのコクピットに手を掛けたところで声を聞いた。振り向いた先にいたのはリヒトの同期。ここでは全員がほぼ同期だが、中でも訓練を一緒に受けていた男だ。

(あ、そういや言ってなかった)

「一応、本部に連絡。それと俺がいない間、状況判断はお前に任せる。必要なら指揮も頼む」

「え、マジ?てか、違うくてさ。俺が行った方いいんじゃねぇかってことだよ」

 リヒトの成績を知っているからこその進言。射撃や狙撃ならともかく、これから戦地に行くならば近接戦ができる者の方が有利だろう。

「いや、今回は俺が行った方が何かと好都合だ」

 しかし、今回に限っては違う。

 そもリヒトはこの介入の理由を誰にも告げていない。部下へ言ったのはあくまでも建て前。真の目的はあるブツの回収だ。

「同じ機体が3機。となると3対1で戦っているはずだ」

 そして、その1が恐らくガンダムフレーム。

 リヒトの狙いは十中八九劣勢だろう、ガンダム陣営の方を助け、その後月まで誘導してガンダムフレームを手に入れること。

 厄祭戦時の機体とはいえ、これならラスタルへのいい土産になるだろう、という考えだ。

「あくまでも目的は仲裁。どちらが撤退できればいいんだし、そうなれば射撃だけでもやれる」

「と言いつつ、アックスも装備してる辺りよ」

「護身用だ」

 任せたぞ、と捨て台詞のように言って、グレイズへと乗り込んだ。

 カメラの向こうで敬礼する同期の姿が見える。

『リヒト・ストラトス。グレイズ、出るぞ』

 一度は言ってみたかった出撃台詞ベスト10から、不可能を可能にする男を選択した。

 輸送船より、グレイズは発進する。

 

 

 ✕✕✕

 

 

「……弾薬、残り10……スラスター出力、60%低下……」

 パイロットは静かに呟く。

「……機体損害、34%……内、フレーム損傷、13%……」

 現状を正確に認識し、未来を推測した。

「……死んだ」

 命令は船を守れ。機体を持ち帰れ。つまりは死なずに勝って帰還しろ。

 これでは最優先の船の防衛すら不可能だ。

 敵機のソードクラブがこちらへ向かって振り下ろされる。

 素早い反応で躱し、隙だらけの右肩へ蹴りを入れた。

 そこへ追撃に左手のショートメイス。横薙ぎに振る、寸前で止め、後方へ移動。放たれた弾丸を回避した。

 自分を囲うように位置取る二機――。

「……二機っ!?」

 しまった、と。振り向いたのとほぼ同時、後ろで爆発が起きた。

「……あっ……あぁ……」

 船が、沈んだ。自分の守るべきところが、帰る場所が、消えた。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 爆発の衝撃を盾で受けながら、グレイズは加速する。

(間に合わなかったか……)

 だが、リヒトは不謹慎にも希望を持った。

 これで、ガンダムフレームが手に入りやすくなった、と。

 離れた位置にいる戦艦を一瞥し、MSのぶつかる戦場に向かう。

 視界に捉えた三機。その内二機は、彼の知っている形とは少し違うが、分類はジルダのようだった。

(単にSAUのと装甲が少し違うって感じか)

 すぐに納得し、右手のライフルで標的を狙う。宇宙である以上分かりずらいが、今は上から全体を把握している図だ。

 有効射程ギリギリ、謎のMSに向かいソードクラブを構え、突撃した機体へ発砲し、穿った。

 正確に捉えた弾丸はジルダの右腕を破壊し、二撃目の予測から後退させた。

「むっ」

 さっきの爆発の主犯。いち早くグレイズを見つけたジルダが接近してくる。ライフルを向けるが、この位置ではシールドで有効打にはならない。

 舌打ちを堪え、孤立したMS方へ向かう。

 自分を追う機体をライフルで牽制しつつ、シールドで庇うように三機の間へ入った。

『まさかあの機体、ギャラルホルン!?』

『なんでこんな所に……月とは離れてるぞ』

『ちっ……どうすんだ艦長?』

 集合した三機は、突如現れたMSへ困惑し、様子見を含めて攻撃を躊躇う。

 背を向けているが、撃たれないことへ疑問を持ちながらも、リヒトは通信を繋ぐ。

『あ――こちらギャラルホルン、アリアンロッド艦隊所属の者だ』

『ギャラルホルンが何の用だっ』

 本来は宇宙海賊同士の喧嘩に割り込むわけがない。だからこそ激高する艦隊の長に、真っ赤な嘘を平気で言い放った。

『悪いがもうすぐ遠征していた隊が帰還する。そのルートで戦闘されては迷惑だ』

『なにっ?』

 辺りを静寂が包み、リヒトは周辺への警戒をより強める。

(ないとは思うが、伏兵がいたら厄介だ)

 距離的にも彼の得意条件だが、損傷した機体を庇いながらで戦うのはやはり難しい。すぐにでも輸送船に帰りたいところだ。

 そんな思いが通じたのか、三機のMSは撤退し、戦艦も進路を変えた。

 急な撤退には疑問が残ったが、ひとまず息を吐く。

『大丈夫か?』

『……』

 通信は入っているようで、中からは無言のノイズだけが聞こえる。

(さっきから動かないのは、気絶してるからか?)

 さし当たっての目標は達成。リヒトはMSを輸送船へ持ち帰った。

 

 

 ✕✕✕

 

 

 輸送船のMS収納スペース。

 ここでは細かい分析や解体は出来ないが、装甲から覗くフレームには見覚えがある。と言ってもリアルで、ではないが。

「やっぱり、ガンダムフレームか」

 腕を組みながら、宙を浮かぶリヒトは誰に言うでもなく呟いた。

「こんなもん持ってきて、どうする気だよ」

「もちろん、ラスタル様へのお土産だ」

 隣で愚痴るような同期に、目を合わせず答える。

(ラスタルに、そんで、ジュリエッタにもってことにもなるか)

 異性に贈り物なんてしたことのない彼は、誰にも知られずに気恥ずかしさに悶えた。

 部下の中で解析が得意な者に頼んでからしばらく経ち、ようやくコクピットの解除が完了した

「サンキュ」

「これくらいなら簡単ですよ。どうやら、整備がかなり適当なとこにいたみたいっスね」

 左手を挙げて応え、リヒトはコクピットの正面に立つ。

 そして、開いたコントロールルームにいたのは、彼が驚くのも無理がない人物だった。

 

「なにっ……!?」

 

 遠目とはいえ、このガンダムの戦闘は見ていた。これだけ粗悪な整備状況でもMS三機と対等に撃ち合う。加えてあの反応速度と動き。

 間違いなく乗っているのは阿頼耶識の所有者。つまり、ヒューマンデブリ。

 そこまでは覚悟していた。自分より遥かに小さい子どもが乗っていることは。

 パイロットのヘルメットをとり、確認する。

 ああ、やはり、間違いない。

 そこにいたのは、ボサボサの赤髪を雑に束ねた、ヒューマンデブリの少女だった。

 

 

 ✕✕✕

 

 

「で、隊長?アレ、どうすんの?」

「どうするって言われてもな」

 阿頼耶識は、その所有者が気絶している内は接続を外させない。

 ギャラルホルンがそういった知識を持っている筈もなく、リヒトの指示で今は交代で見張りながらガンダムと赤毛の少女の現状を維持していた。

「取り敢えずは月に戻るしかないだろ。あの子は……」

「隊長。アリアドネ経由で通信が」

 アリアドネ。ギャラルホルンが使う正規ルートの通信。警戒する理由もなく、モニターへ繋がせた。

『アリアンロッド艦隊、イオク・クジャンだ』

(なんか久しぶりだな)

 一応の上司に、リヒトは礼儀正しく返した。

『アリアンロッド艦隊所属、未開発地区調査中隊。隊長のリヒト・ストラトスです』

『おお!』

 感嘆を漏らすイオクの隣から、これもまた久しぶりのジト目が覗く。

(ジュリエッタも一緒ってことは、夜明けの地平線団との後ってことか)

 ようやく時系列を正確に把握し、リヒトは月への帰還途中であることを告げた。

 

 

 

 

 




今回登場の少女。
アニメで昭弘が弟と別れる時に映っていたヒューマンデブリ(恐らく女の子)をイメージしました。オリキャラです。
感想お待ちしております。
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