銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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第1章 邂逅する少女たち
プロローグ


 

 

 目が覚めると、少女は自分の知らない世界にいた。空には満天の星が煌めきながら、何処か寂しくも美しい世界。それはさながら絵本の中でしか見られないような幻想的な世界だった。

 何故自分はこんなところにいる? 今まで暖かい布団の中にいたはずなのに。何がなんだかわからない少女は周囲を見回しながら必死に父と母、妹の名を呼ぶ。しかし、何処からも返事は無い。少女は見知らぬ世界に飛ばされた不安と孤独に怯え、やがて大声で泣き始めてしまった。そんな少女を見かねたのか、呆れ気味に少女の名を呼ぶ声が彼女の脳内に響き渡った。

 

 

―――泣くな、遊希(ゆうき)よ。

 

 

 遊希―――と呼ばれた少女が声のした方向を見上げる。すると満天の星空からは全身が青く輝いた巨大な生き物が彼女の目の前にゆっくりと降りてくた。光り輝く翼を持ったドラゴンのようなその存在は、そのまま地上に着地すると、巨大な体を器用に折り曲げては遊希の顔を覗き込む。一方の遊希は呆然とその巨大なドラゴンを見上げていた。

 

「ぐすん……あなたは、だあれ?」

―――私か? 私は……私は……

 

 遊希の問に返答に困った様子のドラゴン。遊希はそんなドラゴンの姿を見て首を傾げる。

 

「どうしたの?」

―――いや、このようなことを言っても信じて貰えるかどうかわからないからな。言うべきか言わざるべきか……まあ、自分自身で言うのもなんだが、私は“デュエルモンスターズの精霊”だ。

 

“デュエルモンスターズの精霊”。その言葉を聞いて遊希の眼の色が変わる。5歳の少女でも、その存在は知っていた。

 

「せいれい!? あなたせいれいさんなの!?」

 

 遊希は興奮して巨大なドラゴンの足元に縋りつく。ドラゴンもとい精霊は、遊希のその突拍子もない行動に少し戸惑いの様子を見せる。ドラゴンはこの少女には“疑う”という感情が存在しないのか、と思った。

 だが、この少女、両親の名を呼んでは大声で泣き喚くところから少女というよりも幼女と見るのが正しい。まだまだ精神的にも肉体的にも幼いため、目の前で起きている事態を把握出来ていないのだろう……と青いドラゴンは解釈した。

 

「ねえ、せいれいさん!」

―――ん、何だ?

「いっしょにあそぼ! わたしせいれいさんとおともだちになりたいの!」

―――おともだち、だと?

「うん!」

―――……お前たち人間にとって未知の存在たるこの私を前にして臆することなく“おともだち”か。面白い……いいだろう、今日から私とお前は友達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっんん……」

 

 少女は気だるそうな声を上げ、ゆっくりとベッドから起き上がった。あまり眠れなかった気がした。少女は大きくあくびをすると、枕元に置いてあったスマートフォンの画面を見た。真っ暗な部屋において唯一の光源となるその画面には「5」の数字が映し出される。寝る前にかけていたアラームが鳴る時間よりも1時間近く早く起きたことになる。

 

「なんで……なんであの時の夢を見たのかしら……忘れたくても忘れられない思い出だというのに」

 

 天宮 遊希(あまみや ゆうき)はスマートフォンの傍らに置いてある箱を手に取り、その箱を開けた。その箱の中には数十枚のカードが入っている。

 デュエルモンスターズ―――モンスター・魔法・罠の3種類のカードからなるそのカードゲームは今からはるか昔にインダストリアル・イリュージョン社(通称・I2社)初代社長の“ペガサス・J・クロフォード”によって製作され、瞬く間に世界的人気を誇るカードゲームとなった。

 そのカードの影響力は凄まじく、発売からかなりの時が経った今でもデュエルモンスターズで戦う者―――“デュエリスト”の世界一を決める大会も開かれるほどのものとなっている。

 そして遊希は日本デュエルモンスターズ協会の指導の下、そのデュエリストを育成する学校であるデュエルアカデミア・ジャパンの入学試験を今日受ける。最も一次の筆記試験はひと月ほど前に既に合格しており、今日は二次試験かつ最終試験でもあるデュエルの実技試験が行われるのだ。

 受験者は一次試験と二次試験の結果をもとに選定される。知識と実力、その二つを兼ね備えた者でなければ、栄えあるデュエルアカデミア・ジャパンの制服に袖を通すことは許されないのだ。

 

「……シャワーでも浴びてこようかな」

 

 遊希は手に持っていたデッキをケースに戻すと、ベッドから降りる。ケースの中のデッキの最初のカードには、かつて幼い時に遊希が夢で出逢った、あのドラゴンの姿が描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ来ませんか。いったいどうしたと言うのでしょうか……」

 

 入学試験が行われる試験会場の前で一人の男性が困ったような表情を浮かべていた。彼は本年度からこの学校の校長に就任する星乃 竜司(ほしの りゅうじ)。デュエルアカデミアの校長職を打診されるまでは現役のプロデュエリストとして世界にその名を轟かせていた日本人デュエリストである。

 数年前に初老を迎えた竜司は年齢的にはまだまだ若く、一線から退くには早い方なのだが、彼がこの学校の校長という指導者の道を選んだのには色々と訳があった。

 

「校長、もう時間ギリギリです。これ以上遅らせると一日の行程に支障が出てしまいますよ」

「……やむを得ませんね。彼女のことは諦めて二次試験を開始しま……」

 

 竜司がそう決めた瞬間である、会場の前に何処からともなく現れた一台のタクシー。そのタクシーからは気だるそうな顔をした一人の少女が降りてきた。

 腰まである少し癖のついた黒髪、眠そうに開いた半目、ミニスカートからすらりと伸びた脚。他でもない天宮 遊希その人である。竜司は遊希が試験会場に来るのを今か今かと待ちわびていたのだ。

 

「天宮君!」

「……ああ、これは星乃さん。おはようございます」

 

 眠そうに目を擦る遊希、一方の竜司は慌てた様子で腕時計を見る。試験開始から既に20分も過ぎている。竜司は校長という立場にありながら、唯一会場に姿を見せていなかった遊希を待つため、試験開始時間をずらしていたのだった。

 

「なんでこんなに遅れたんだ……君のために皆が迷惑を掛けられて……」

「あら、私を待っていてくれたんですか? 私なんて待たずに始めてしまえば良かったのに」

「……私は君がこの学校を受験してくれると聞き、校長という職を受けたんだ。私が言うのもなんだが、君なら“また”日本を代表するデュエリストになれる。だから……」

 

 竜司が校長という職を引き受けるのにも訳があった。竜司のように世界大会で活躍する中堅~ベテランのプロデュエリストは数多く存在するものの、日本からは最近若手のプロデュエリストがあまり育っていなかった。

 国内大会レベルならば老若男女数多くのデュエリストがいる。しかし、世界となれば話は別。近年若手のデュエリストで結果を残すのは専らデュエルモンスターズの生まれた国であるアメリカや人口の多い中国が殆どであった。この事態を重く見た協会は竜司をはじめとした世界で結果を残すプロデュエリストを指導者として招聘し、若手デュエリストの育成に努めることとしたのだ。

 

「……正直、国や協会がどう思おうと私には無関係だと思うのですが……」

 

 遊希は何処か冷めた面持ちを浮かべる。竜司は幼い頃から遊希のことを知っているが、近年の彼女は表情の変化に乏しかった。彼女の笑顔はある事件の影響で失われていたのだから。

 

「でも星乃さん。あなたは……普通の人間じゃない私を受け入れてくれました。家族を失った私にとってあなたは親のような存在です。そんなあなたが喜んでくれるのであれば、私はこの学校に受かってみせます。これは私なりの恩返しです」

「天宮君……ほら、そんなことはどうでもいいから早く会場へ!」

「そんなことって……はい、わかりました」

 

 少しばかり口を尖らせながら会場へ歩いていく遊希。その後ろ姿を見届けた竜司は大きく溜息を付いた。

 

「校長、あの子が……」

「ああ、天宮 遊希。わずか7歳でプロデュエリストとしてデビューし、私に匹敵する実力を持ったデュエリスト。そして何より……この世界において“デュエルモンスターズの精霊”を従える唯一の存在だよ」

 

 

 

 

 

 

 

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