「鈴、おやつの前にお願いしたいことがあるんだけどいいかしら」
午後3時まであと30分ほどとなった頃、遊希が未来を連れて鈴のところへやってきた。鈴は実践トレーニングと称して紫音とデュエルを繰り返しており、一戦一戦を通して彼女に何が足りていないのかを見つけていく方式を取っていた。
「あら、どうしたの遊希?」
「実は未来ちゃんのデッキが完成したんだけど」
「はやっ!?」
未来はデッキも完成していなければ、ルールもはっきりと理解できていないなど(年齢を考えると仕方ないことなのだが)スタートラインにすら立てていない状態だった。それをわずか1時間程度でデュエルができる状態にまで上げてくるのだからそこは遊希の力量ということなのだろう。
「が、が、が、がんばりましゅ……」
最も当の未来は緊張を隠しきれていないようだったが。
「未来ちゃん、緊張する必要はないわ。初めてのデュエルはリラックスして臨みましょう?」
「は、はい!」
「それで、聞いたところによると鈴と紫音は実戦経験を積むようにしているようね。だったら未来ちゃんの相手を紫音に任せたいんだけど……」
「あたしは別にいいけど、紫音はどうする?」
「……未来さんとのデュエルであっても、私にとっては新しい発見になるはずです。そのデュエル、お受けします」
未来と紫音のデュエルが組まれたことを聞いた他のメンバーがぞろぞろと集まってくる。しかし、公平な立ち位置とは言えども人間とは弱い方に肩入れをする、所謂判官びいきをする生き物だ。
そのため、まだデュエリストとしては生まれたての未来を応援する声が大きくなり、自然と紫音はアウェーに立たされていた。最もこれも鈴の狙いであり、応援が少なかったとしてもどれだけ自分のデュエルが貫けるかを鍛えるためのものであった。
「そうね……華、愛美。未来ちゃんのサポートを頼めるかしら。あなたたちも教える側に立ってみてわかることがあると思うわ」
「ボクたちでですね、わかりました!」
「よっしゃ! ウチらがしっかりサポートしたるさかい、大船に乗ったつもりでいてや!」
「華おねえちゃん、愛美おねえちゃん。よろしくおねがいしましゅ」
もちろんどのカードを召喚したり、どの魔法・罠をどのタイミングで発動するかなどを決めるのは未来だ。華と愛美はドローフェイズからエンドフェイズまでの流れやチェーンがしっかりと組めているかなどを見る役を務めることになる。
「さて、未来さんが相手でも私は手を抜きません。全力で行かせてもらいますよ」
「おねがいしましゅ! わたしもほんきでいきましゅ!」
噛み噛みながらもしっかりと力のこもった眼で紫音を見つめる未来。デュエリストに年齢は関係ない。例え幼くても、デッキを組み、デュエルディスクを手にしたその瞬間から一人のデュエリストとして戦場に立つ。今この瞬間、一人の幼い少女は間違いなくデュエリストとなっていた。
「「デュエル!!」」
先攻:未来【???】
後攻:紫音【ブラック・マジシャン】
未来 LP4000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:5(0)
紫音 LP4000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
☆TURN01(未来)
「えっと、わたしのターンでしゅ!」
「未来ちゃん、先攻はドローできへんから気を付けるんやで?」
「ドローフェイズからスタンバイフェイズを通して、メインフェイズ1に移行する。未来ちゃんはこのメインフェイズ1でモンスターを召喚できるんだよ」
「わかりみゃした……えっと、スタンバイフェイズからメインフェイズ1でしゅね。えっと、えっと……」
初手5枚の手札をじっと見つめてどのカードから出すべきかを熟考する未来。その様はデュエルの相手である紫音も愛らしいと思ってしまうほどであった。
(可愛いですね……でも、私も手加減するわけにはいきません)
「えっと、このモンスターさんをしょうかんしましゅ! えっと、ガガガガガ……」
「未来ちゃん、ガが2個多いで」
「そうでした……えっと《ガガガシスター》ちゃんをしょうかーん!」
噛み噛みになりながらも、未来が召喚したのは小さな魔法使いの姿をした女の子のようなモンスターだった。
《ガガガシスター》
効果モンスター
星2/闇属性/魔法使い族/攻200/守800
このカードが召喚に成功した時、デッキから「ガガガ」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。また、このカード以外の自分フィールド上の「ガガガ」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターとこのカードは、エンドフェイズ時までそれぞれのレベルを合計したレベルになる。「ガガガシスター」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
「ガガガシスターは召喚に成功した時に発動できる効果があるね。じゃあ使ってみようか?」
「はい! ガガガシスターさんのこうかをはつどうしましゅ! わたしのデッキからガガガっていう魔法・罠カードさん1まいをてふだにくわえましゅ! デッキからえーと……えーと……《ガガガリベンジ》をてふだにくわえるね!」
「オッケー、そのカードでいいよ!」
「でも墓地にガガガモンスターはおらへんで?」
「まあすぐに使う必要はないしね。次のターン以降でいいんじゃない?」
「それもそうやな。さあ、未来ちゃん! いてこましたれ!」
「うん! えっと、わたしのフィールドに、ガガガモンスターがいるから、このモンスターさんはてふだからとくちゅしょうかんできます! おねがい、《ガガガキッド》くん!」
《ガガガキッド》
効果モンスター
星2/闇属性/魔法使い族/攻800/守1200
自分フィールド上に「ガガガキッド」以外の「ガガガ」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。この方法で特殊召喚に成功した時、自分フィールド上の「ガガガ」と名のついたモンスター1体を選択し、このカードのレベルを選択したモンスターと同じレベルにする事ができる。この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。
「えっと、ガガガシスターちゃんのこうかをはつどうします! ガガガシスターちゃんとガガガキッドくんのレベルをたしざんします!」
「ガガガシスターとガガガキッドのレベルは同じ2や!」
「だから、2+2で4になるよ!」
ガガガシスター 星2→星4
ガガガキッド 星2→星4
「レベル4のモンスターが2体……X召喚ですね」
「レベル4になった、ガガガシスターちゃんと、ガガガキッドくんでおーばーれい!」
ガガガシスターとガガガキッドはまるで未来と同年代の少年少女のように、にっこりと微笑みながらオーバーレイユニットとなって天空に昇っていく。2つの小さなモンスターの魂によって生まれたのは光の中から現れる白き希望の名を持った戦士。
「2たいのモンスターさんで、おーばーれいねっとわーくをこうちく! えくしーずしょうかん! えっと……“みんなをまもるやさしいちから!”」
―――おねがいしましゅ! 《No.39 希望皇ホープ》さん!!
《No.39 希望皇ホープ》
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2500/守2000
レベル4モンスター×2
(1):自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にする。
(2):このカードがX素材の無い状態で攻撃対象に選択された場合に発動する。このカードを破壊する。
「No.!? まさか、そんなレアカードを……」
数あるXモンスターの中で【No.】の名前を持つモンスターは比較的稀少性の高いモンスターが多い。それこそ遊希のように実績のあるデュエリストもしくは裕福な者しか持っていないカードだ。未来の家は比較的裕福な家庭というのもあるが、目に入れても痛くない娘が「デュエルをやりたい」と言い出したことが嬉しかった両親は「希望」という言葉をその名に含むホープをプレゼントすることで、未来に「希望を持って育ってほしい」という思いを込めていたのだ。
(よし、X召喚はちゃんとこなせているわね)
―――まるで昔のお前みたいだな?
(あら、私はもっとハキハキとやっていたわよ?)
―――どうだが。しかし、ホープ1体でしのぎ切れるだろうか?
(……難しいかもしれないわね。でも、今はまずお父さんとお母さんから貰った大事なカードをデュエルで使うことができたことを喜ぶべきだと思うわ)
遊希はまるで娘を見るような眼で未来を見ていた。その眼には単に可愛らしい未来を愛でること以外の理由も込められていた。
「えっと、わたしはカード1まいをセットして……ターンエンドです!」
未来 LP4000 手札3枚
デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(No.39 希望皇ホープ ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:0 除外:0 EXデッキ:4(0)
紫音 LP4000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
未来
□□伏□□
□□□□□□
□ 希
□□□□□□
□□□□□
紫音
●凡例
希・・・No.39 希望皇ホープ
☆TURN02(紫音)
(希望皇ホープはオーバーレイユニットを1つ取り除くことで、モンスターの攻撃を無効にできる。恐らく私の攻撃を凌いで次のターンの反転攻勢に繋げたいのでしょう。未来さんがそう考えているかはわかりませんが……ですが、攻撃を止めるだけで勝てるほどデュエルは簡単なものじゃありません)
「私のターン、ドロー! 私はマジシャンズ・ロッドを召喚します!」
《マジシャンズ・ロッド》
効果モンスター
星3/闇属性/魔法使い族/攻1600/守100
「マジシャンズ・ロッド」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。「ブラック・マジシャン」のカード名が記された魔法・罠カード1枚をデッキから手札に加える。
(2):このカードが墓地に存在する状態で、自分が相手ターンに魔法・罠カードの効果を発動した場合、自分フィールドの魔法使い族モンスター1体をリリースして発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。
「召喚に成功したマジシャンズ・ロッドの効果を発動します。デッキからブラック・マジシャンのカード名が記された魔法・罠カード1枚を手札に加えます。チェーンはありますか?」
「ちぇ、ちぇーん? えっと……ないです」
「わかりました、では効果を処理します。マジシャンズ・ロッドの効果で私は黒の魔導陣を手札に加えます。そして永続魔法、黒の魔導陣を発動します」
《黒の魔導陣》
永続魔法
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードの発動時の効果処理として、自分のデッキの上からカードを3枚確認する。その中に「ブラック・マジシャン」のカード名が記された魔法・罠カードまたは「ブラック・マジシャン」があった場合、その1枚を相手に見せて手札に加える事ができる。残りのカードは好きな順番でデッキの上に戻す。
(2):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が召喚・特殊召喚された場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。
「黒の魔導陣の発動時の効果処理として、私はデッキの上からカードを3枚確認します。そしてその中にブラック・マジシャンのカード名が記された魔法・罠カードまたはブラック・マジシャンがあった場合、その1枚を相手に見せることで手札に加えることができます。私が手札に加えるのは罠カードの《マジシャンズ・ナビゲート》。そして私はカードを2枚セットして、ターンエンドです」
未来 LP4000 手札3枚
デッキ:34 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:1(No.39 希望皇ホープ ORU:2)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:0 除外:0 EXデッキ:4(0)
紫音 LP4000 手札4枚
デッキ:32 メインモンスターゾーン:1(マジシャンズ・ロッド)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):3(黒の魔導陣)墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
未来
□□伏□□
□□□□□□
□ 希
□□□マ□□
□伏黒伏□
紫音
●凡例
マ・・・マジシャンズ・ロッド
黒・・・黒の魔導陣
☆TURN03(未来)
「わ、わたしのたーんです!」
「未来ちゃん、このターンから未来ちゃんもドローできるよ」
「は、はい! えっと、どろー!」
「よし、こっからは未来ちゃんが自分でどのカードを使うか決めてみよか!」
「ふぇっ!?」
獅子は我が子を千尋の谷へと叩き落とす―――などということはなく、ライオンは子供が谷底に落ちた場合ちゃんと助けに行くのだが、未来の成長を願った華と愛美は敢えて未来にプレイングを任せることにした。
「不安かな?」
「……だいじょうぶでしゅ! がんばりましゅ! わたしはてふだから魔法カード《ホープ・バスター》をはつどうしましゅ!」
《ホープ・バスター》
通常魔法
自分フィールド上に「希望皇ホープ」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。相手フィールド上の攻撃力が一番低いモンスター1体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
「えっと、わたしのフィールドに希望皇ホープさんがいるとき、あいてのこうげきりょくがいちばんひくいモンスターさんをはかいします!」
「私のフィールドには攻撃力1600のマジシャンズ・ロッドしかいません。そしてマジシャンズ・ロッドの攻撃力分のバーンダメージを私に与えるんですね。ですが、それは私のフィールドにモンスターがいなければ成立しません。ホープ・バスターにチェーンしてリバースカードを発動します。マジシャンズ・ロッドをリリースして速攻魔法《イリュージョン・マジック》を発動します」
《イリュージョン・マジック》
速攻魔法
「イリュージョン・マジック」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分フィールドの魔法使い族モンスター1体をリリースして発動できる。自分のデッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」を2枚まで選んで手札に加える。
チェーン2(紫音):イリュージョン・マジック
チェーン1(未来):ホープ・バスター
「チェーン2のイリュージョン・マジックの効果でデッキからブラック・マジシャン2体を手札に加えます」
「え、えっと……」
「チェーン1のホープ・バスターはマジシャンズ・ロッドがいなくなったから不発やな」
「あうう、でもこれで紫音おねえちゃんのモンスターさんはいなくなりました! バトルで―――」
「メインフェイズ1の終了時にもう1枚のリバースカードを発動します。罠カード、マジシャンズ・ナビゲート!」
《マジシャンズ・ナビゲート》
通常罠
(1):手札から「ブラック・マジシャン」1体を特殊召喚する。その後、デッキからレベル7以下の魔法使い族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。
(2):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が存在する場合、墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードの効果をターン終了時まで無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。
「マジシャンズ・ナビゲートの効果で手札からブラック・マジシャン1体を特殊召喚します。来てください、ブラック・マジシャン!」
《ブラック・マジシャン》
通常モンスター
星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。
「更にデッキからもレベル7以下の魔法使い族・闇属性モンスター1体を特殊召喚します。3体目のブラック・マジシャンを特殊召喚します。そしてブラック・マジシャンが特殊召喚されたことで黒の魔導陣の効果が発動します!」
「黒の魔導陣のこうか……?」
「ブラック・マジシャンが特殊召喚された場合、相手フィールドのモンスター1体をゲームから除外します。未来さんには悪いですが、ホープには消えてもらいます!」
ブラック・マジシャンから放たれた闇の魔術によって、異次元へとホープは消えてしまった。自身の効果で比較的戦闘に強いホープであるが、効果に対する耐性がないのが弱点であった。
「あうう、ホープさん……バトルフェイズにはいったけど、モンスターさんがいないよぉ」
「攻撃できないのでバトルフェイズは無意味ですね」
「えっと、メインフェイズ2にうつりまちゅ。わたしはモンスターさんをセットして、ターンエンドでしゅ」
未来 LP4000 手札2枚
デッキ:33 メインモンスターゾーン:1 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:3 除外:1 EXデッキ:4(0)
紫音 LP4000 手札5枚
デッキ:29 メインモンスターゾーン:2(ブラック・マジシャン×2)EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(黒の魔導陣)墓地:3 除外:0 EXデッキ:15(0)
未来
□□伏□□
□□□伏□□
□ □
□□ブブ□□
□□黒□□
紫音
●凡例
ブ・・・ブラック・マジシャン