銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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三時のおやつな決闘者

 

 

 

☆TURN04(紫音)

 

「私のターン、ドローです。私は手札からマジシャンズ・ロッドを召喚。効果を発動し、ブラック・マジシャンのカード名がテキストに記された永続罠《永遠の魂》を手札に加えます。そしてバトルです! マジシャンズ・ロッドでセットモンスターに攻撃!」

 

マジシャンズ・ロッド ATK1600 VS ガガガマジシャン DEF1000

 

 マジシャンズ・ロッドの放った魔法攻撃によって、未来のセットモンスターである《ガガガマジシャン》が破壊される。これで未来を守るモンスターは無くなり、紫音のフィールドには攻撃力2500のブラック・マジシャンが2体存在している。

 

「あうう……」

「未来さん、悪く思わないで下さいね。これがデュエルですから。ブラック・マジシャン2体でダイレクトアタック!“ブラック・マジック”!」

 

ブラック・マジシャン×2 ATK2500×2

 

未来 LP4000→LP0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あうう……まけちゃった」

「ごめんね、ボクたちがついていながら」

「ううん、華おねえちゃんも愛美おねえちゃんもいろいろおしえてくれてありがとね。わたしうれしかったよ?」

(あー、これはアカン。この可愛さはワールドクラスやん)

 

 そう言って首を小さく傾ける歩美を見て、華と愛美の心臓が「キュン」と音を立てる。ただ、デュエルに負けてしまってもなお、それを前向きに捉えることができる時点で未来にはデュエリストの素質があることが伺える。

 

―――お前の見る目は間違っていなかったようだな?

(ええ。自分で言うのもなんだけど、私があの年齢の頃は負けた後あんなに明るく振る舞えなかったわよ?)

―――お前は負けた後大泣きしてたからな。

(うっさい。さて、ここからは鈴の出番よ)

 

 ただ、遊希にとっては未来のことよりも紫音の方が気になっていた。確かに勝つことができたとはいえ、未来はまだまだデッキを組んだばかりの初心者であり、紫音のような経験者からしてみれば「勝てて当たり前」なのである。勝てて当たり前の試合に関しては敗者は学ぶことが多くても、勝った者が得るものを見つけ出すのは難しいのだ。

 

(そこに関しては鈴がどれだけ気づかせてあげられるか、ね。さてと……)

 

 遊希は未来を華や愛美たちに任せると、デュエル後の反省会を行っている様子の鈴と紫音のところへと歩いていく。遊希の思った通り、紫音はこのデュエルに満足していないようであった。一方で鈴はそんなデュエルであっても勝てたこと自体を喜ぼうと紫音を諭していた。

 

「どんな形であれ勝ったことは事実だし、次に未来ちゃんとデュエルする時は少なからず未来ちゃんも意識すると思うよ?」

「そうかもしれませんけど……」

「それに未来ちゃんについているのはあの遊希だしね。明日もしデュエルする機会があったら、びっくりするほど強くなってるかもしれないしね」

「そうですか……わかりました」

 

 ぺこりと頭を下げて紫音は鈴のもとを去っていった。自分一人で落ち着ける場所で考えることで冷静に振り返ろうとするのだろう。やり方はそれぞれ違えども、皆が皆それぞれのやり方で強くなろうという気持ちに満ち溢れていた。

 

「鈴」

「遊希! デュエルお疲れ様、未来ちゃんすっごいね!」

「……正直私もすぐX召喚に繋げられるとは思っていなかったわ。しかも単純にレベル4を2体並べるんじゃなくてレベルの違うモンスターを効果を使ってランク4のX召喚に繋げるんだから驚いたわ」

「またまた謙遜しちゃって。遊希の指導の賜物ってやつでしょ?」

「……それもそうかもしれないわね♪」

「さすが遊希。さっきはごめんね、その……ロリコン扱いしちゃって」

「……」

「遊希……っ!?」

「鈴、あなたを侮辱罪と名誉毀損罪で訴えるわ。理由はもちろんわかっているわよね?あんたが私をロリコン扱いして私のあることないことを言いふらしたからよ? 懺悔の用意をしておきなさい。近い内に訴えるから。裁判も起こすから。裁判所にも問答無用で来てもらうから。慰謝料の準備もしておいてちょうだい。あんたは犯罪者だから。少年院にぶち込まれる楽しみにしておきなさい。いいわね?」

 

 西日をバックによくわからないことを言い放つ遊希。戸惑う鈴であるが、そんな二人を千春とエヴァは冷めた目で見ていた。

 

「なーにやってんだかあの二人は……」

「おい、そろそろおやつの時間だぞ。おやつのメニューは予てからの希望通りホットケーキでいいか?」

「はい、材料はキッチンにあったのでそれを使いましょうね」

(遊希さん、そのネタは微妙に旬を過ぎています。ですが、そういうスラングを実際に使うシチュエーションを作り出すところ、私はあなたに敬意を表するッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3時はおやつの時間。10代の少女たちにとっては決して譲れない時間であると言ってもいい。最もおやつを食べたい、と言い出した未来は10代ですらないのだが。

 

「あ、あの……いいだしたのはわたしだからわたしがみんなのぶんのホットケーキをつくりりたいでしゅ」

 

 未来のその言葉を受けて、料理に一家言ある千春と華、そして未来を指導している遊希の四人でホットケーキ作りをすることとなった。

 

「じゃあ必要な材料を確認するわね。薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、卵、牛乳にサラダ油が必要よ。まずは薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖をボウルに入れて混ぜるわよ!」

 

 千春の指示を受けて三人はホットケーキを作り始めた。華は元々料理に自信があるのか、手際よく千春の指示を受けて生地を仕上げていく。一方で未来はまだ小さいため料理自体したことはないようだが、遊希が的確にアドバイスを送ることで無難にこなしていく、といった様子だった。

 

「千春さん、言われた通りボウルに入れた卵と牛乳を混ぜたで。次はどうすればいいんや?」

「じゃあ最初に混ぜたものと今混ぜた牛乳卵の2つをさらに混ぜて。泡立て機を使って粉っぽさが無くなるまで混ぜるのよ!」

「よっしゃ、いくでー!」

「うう、うまくまざらないよぉ……」

「大丈夫よ未来ちゃん。私が付いてるから」

「遊希おねえちゃん……うん、わたし、がんばる!」

 

 フライパンで焼こうにも、さすがにコンロが足りないため、備品としてあったホットプレートにも生地を流し込んで焼き上げる。キッチンには瞬く間にホットケーキの甘い香りが充満し、それがリビングの方にも流れていく。

 

「うん、良い香りだな」

「もうできてるのー?」

 

 ホットケーキとメイプルシロップの香りに釣られてやってきたエヴァと愛美に千春は焼きあがった分をリビングまで持っていくように言った。いつの間にかウエイトレスとなった二人によってどんどん運ばれていく。

 

「うーん、全員の分を待っていると冷めてしまうな。私たちはまだ後でいいから皆は先に食べているといい」

「えっ、いいんですか?」

「皆さん頭を使って疲れているでしょうからね」

「休憩の後もまだまだデュエルの練習をするから、甘いものでリフレッシュしておいてねー」

 

 一見優しい言葉のように聞こえるが、それは鈴たちによる厳しい修行の予告でもあった。鈴は自分自身がそうやって強くなったこともあってか、実戦を通して問題点や課題点を見つけ、それを修正した上でさらに実戦を重ねるといういわゆるスパルタ的な指導であった。

 それこそ幼い未来や国や文化の違いがあるヴェートではついてこれなかったかもしれないが、紫音は何分鈴に対して借りがあったため、そんな彼女の指導に必死に食らいついていた。

 

「わかりました、では先に頂きましょう。ヴェートさん、橙季さん。今二皿ありますがどうしますか?」

「でしたら私は後でいいですよ? 私なんて何事もエヴァさんに任せきりでしたから」

 

 ヴェートはそう言って二皿のホットケーキを紫音と橙季に譲った。彼女の言う通り、エヴァによるデッキ改造の提案を飲んだ彼女はエヴァとともに運営本部へと向かい、足りないカードを調達していたのである。

 参加者のデッキ改造ということも考えて竜司たちはショップや購買から多くのカードを取り寄せ、それを無料で提供していた。しかし、エヴァはカードこそ受け取ったものの、実際に改造するとなるとまた話は変わる。結局、計画を立てるだけに留まり、実際にデッキ改造には至っていなかったのである。

 

「鈴さん、せっかくですから私たちも手伝いませんか? さすがに全員分のホットケーキを四人で作るというのは酷な気がします」

「……それもそうね。キッチンにスペースがあったら手伝おっか」

 

 待つだけでは幾分暇だったのか、キッチンを覗く鈴と皐月。すると次々と出来上がっていくホットケーキを運ぶように千春に言いつけられた。さすがに六人も入れるほどロッジのキッチンは広くはないということか。

 

「ところで鈴さん、鈴さんは随分紫音さんとデュエルをされていたようですが」

 

 ホットケーキを一緒に運びながら皐月がそう尋ねてきた。皐月は実戦よりも座学の方が得意なタイプである。アカデミアで学んだ4か月、ならびにアカデミア入学まで独学で学んできた知識を元に愛美と橙季のデッキや戦法に助言を加えるやり方を取っていた。

 

「さすがにスパルタだったかな? でも紫音はもっと実戦を経験しなきゃといけないと思うわ」

「と言いますと?」

「あの子は自分でも言っていたけど、済ました顔をしているつもりで動揺がすぐ顔に出ちゃうの。知識はあるし、デッキの完成度は高いけど、不測の事態に対処できなければあのまま上に行くのは難しいと思うんだよね」

「なるほど……ですが、その弱点を克服できれば……」

「最低でも私たちと肩を並べられる存在になれる。あたしはそう思ってるよ」

「そうですか……! では私も負けないように頑張らないと」

 

 やり方や価値観は正反対と言える鈴と皐月であるが、根底に流れるものは変わらない。二人は自分のやり方が本当に正しいのか、という疑問を少なからず抱いていたがこの瞬間、その疑問はシャボン玉のようにふわふわと浮かんで消えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 最後に未来が食べ終わっておやつタイムは終了した。ホットケーキを作っていたため、食べ始めるが遅かった遊希と未来、千春と華以外のメンバーは先に片づけて練習の続きに移っていた。

 

「皿洗いはどうすればええんや? ウチやったらちゃちゃっとやってまうで?」

「いや、みんな自分の分は自分でやってくれたから私たちは自分たちの分を洗うだけで大丈夫よ」

「じゃあそれならすぐ練習に戻れるな、デュエル♪ デュエル♪」

 

 鼻歌を歌いながら自分の分の食器をキッチンへと運んでいく華。とにかくデュエルがしたい千春に最初は辟易していたが、そんな彼女の毒気にあてられたのか元々その素質があったのか。華もすっかりデュエルがしたくてたまらないようだった。

 

「あ、あの遊希おねえちゃん」

「どうしたの? 未来ちゃん」

「ホットケーキつくりではずっと未来おねえちゃんにてつだってもらってばっかりだったから……おさらあらいは私がやりましゅ」

「……いいの? 一人でできる?」

「できましゅ!」

 

 相変わらずカミカミの未来であったが、その表情があまりにも真剣だったため遊希は未来に食器の運搬と食器洗いを任せることにした。

 

「本当に大丈夫なの?」

「……何が?」

「未来ちゃんよ。見たところ家事に慣れていないようだから……」

「可愛い子には旅をさせよ、っていうでしょ? 大丈夫よ。あの子はお皿を割ったりとかはしないわ」

 

 遊希がそう言った瞬間である。ロッジ中に「パリーン!」という割れた音が響いたのは。

 

「あっ……」

「千春さーん! 未来ちゃんお皿割ってもうたでー!」

「遊希、箒とちり取り! 華、未来ちゃんにはお皿に触れないように言っといて!!」

「わかった、任せとき!」

―――……おい、物凄い早さでフラグを回収したぞ。

(でもお皿落としてあたふたする様、可愛いと思わないかしら?)

―――駄目だこいつ、早く何とかしないと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロッジの中でそんな騒ぎが起こっているのを知ってか知らずか、ロッジの外では先に戻った鈴と紫音、皐月と愛美・橙季、エヴァとヴェートは変わらずデュエルおよびデッキ改造を行っていた。

 

「運営本部から足りない分のカードは頂いてきました。このカードでデッキを改造しましょう」

「わかりました。あの、皐月さん……」

 

 何かを決意したかのような表情の橙季は自分の正直な気持ちを伝える。ホットケーキを食べながら彼女はずっと自分のデッキのことについて考えていたのだ。

 

「どうしましたか、橙季さん?」

「実は……私も使いたいカードがあったんです」

「えっ? そんなカードがあったんですか? だったら早めに教えて頂ければ……」

「今の私に使いこなせるか不安だったので……このカードなんですが」

 

 橙季の言うカードを見た皐月は目を丸くして驚いた。そのカードはとても強いカードだったのだが、使いこなすのはおろか実際にデュエルで使うのにも高い難易度を誇る上級者向けのカードだったのだ。

 

「こんなカードを持っていたんですね……ですが、橙季さんのデッキでなら上手く活かせるカードです。わかりました、ではこのカードを使えるようにデッキを作り変えてみましょうね」

「はい……あの、宜しくお願いします!」

「ねえねえ、皐月さーん! ボクのデッキはー!」

「愛美さんのデッキは完成度が高いので、これらのカードをサイドデッキなり予備カードとして持っておくのが良いでしょうね」

 

 そう言って皐月が凛に差し出したのは数種類のモンスターであった。

 

「《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》と《ヴォルカニック・クィーン》……それに【壊獣】? これって相手にモンスターを渡しちゃうカードじゃ……」

「確かにラヴァ・ゴーレムとヴォルカニック・クィーン、そして壊獣は相手フィールドに特殊召喚されるモンスターですね。特に前者は攻撃力3000もあります」

「それだと敵に塩を送ることになっちゃうんじゃ……」

「ですが、これらのモンスターには共通点があります。それは相手フィールドのモンスターをリリースして特殊召喚できるモンスターです。愛美さんのデッキは【トリックスター】カードによってバーンダメージを与えるデッキです。そんなデッキの弱点と言えば?」

「あっ、さっきのデュエル!」

「はい。私のマテリアルドラゴンやヴァレルロード・S・ドラゴンのようなモンスターもリリースしてしまえばいいんです。リリースしてしまえば効果を止められることもバーンダメージをライフ回復に利用されることもありませんからね」

 

 それ以外にも皐月が例に挙げたのは《ダーク・シムルグ》のような相手のセットを封じるカード。《魔封じの芳香》とのコンボが著名な【アロマダムルグ】のような相手であってもリリースという形で対応できるのだ。

 

「なるほど、これならライトステージとマンジュシカ、リンカーネーションのコンボが際立つんですね! ボクのデッキを益々強化することができます!」

「まあメインから入れるカードでもないので、サイドデッキに入れるくらいで留めておきましょう。さて、デッキ改造の目途も立ちましたし、これからは実際にデッキを回してやっていきましょう」

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 




全員のデッキが明らかになったので、ここでまとめておきます。

赤崎 未来【ガガガ】および【希望皇ホープ】
青山 紫音【ブラック・マジシャン】
浅黄 華【HERO】
ヴェート・オルレアン【ジャンクドッペル】および【ウォリアー】
二宮 橙季【サイバース族】
藍沢 愛美【トリックスター】

既にお気づきだとは思いますが、パートナーの組み合わせは各作品の主人公(ヒロイン)+ライバルキャラデッキとなっています。

未来(遊馬)-遊希(カイト)
紫音(遊戯)-鈴(海馬)
華(十代)-千春(亮)
ヴェート(遊星)-エヴァ(ジャック&クロウ)
橙季(遊作)愛美(葵)-皐月(リボルバー)

ちなみに、登場人物の名前に『虹に使用されている七色』という共通点もあったりします(※ヴェートはフランス語で「緑」)。
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