「行くわ、バトルよ! 青眼の混沌龍で《竜騎士ブラック・マジシャン》を攻撃!」
青眼の混沌龍 ATK3000 VS 竜騎士ブラック・マジシャン ATK3000
「青眼の白龍を素材に儀式召喚されている青眼の混沌龍の効果を発動するわ! このカードの攻撃宣言時に相手フィールドに存在する全てのモンスターの表示形式を変更する!」
竜騎士ブラック・マジシャン DEF2500
「そしてこの効果で表示形式を変更したモンスターの攻撃力・守備力は0になる。青眼の混沌龍は貫通効果を持っているわ!」
竜騎士ブラック・マジシャン DEF2500→DEF0
「っ……!!」
「“混沌のカオス・ストリーム”!」
青眼の混沌龍 ATK3000 VS 竜騎士ブラック・マジシャン DEF0
紫音 LP4000→1000
「永続罠《ディメンション・ガーディアン》の対象になっている竜騎士ブラック・マジシャンは戦闘では破壊されません……」
「だけど、サンドバッグよ。ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンで竜騎士ブラック・マジシャンを攻撃!“混沌のマキシマム・バースト”!」
ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 VS 竜騎士ブラック・マジシャン DEF0
紫音 LP1000→0
*
「また、勝てませんでした……」
がっくりと項垂れる紫音。最初に出会った時も含めて鈴とは5度のデュエルを行ったが何れも敗北してしまっていた。5度目となるこのデュエルでは先攻で竜騎士ブラック・マジシャンを融合召喚し、永続罠カード・永遠の魂とディメンション・ガーディアンで強固な布陣を築くことができた。それでも青眼の火力の前には太刀打ちできず、苦杯を舐めることになってしまった。
「手札には幻想の見習い魔導師があったので竜騎士ブラック・マジシャンの弱点である攻撃力の高い相手に対応できたのですが……」
「青眼の混沌龍の表示変更効果はコンバットトリックに強いからね。でも、それでも0になった守備力を2000にできたはずよ?」
「それでもカオス・MAXに攻撃されたらちょうど4000ダメージ……混沌龍の攻撃のタイミングで使っていたところで貫通ダメージを合わせても守り切れませんでした」
「ディメンション・ガーディアンの対戦闘破壊効果が裏目に働いちゃったパターンよね。もしそれが無かったら、永遠の魂で竜騎士ブラック・マジシャンのステータス変動をリセットして特殊召喚できたわけだし。でもこれでまた一つデュエルの流れが理解できたと思わない?」
確かに結果としては敗北に終わっている。しかし、この5度の敗北から紫音は様々なことを学ぶことができていた。負けたことで見つけた反省点や課題を次に活かし、今後の糧にすること。それができるかできないかでデュエリストの成長度は大きく変わっていく。鈴はデュエルを通して紫音にそれを伝えたかったのだ。かつて自分が竜司や遊希相手にそうだったように。
「鈴ー! 夕食作るから早く戻ってきてー!」
「わかった、すぐ戻るねー!」
千春に呼ばれてロッジへと戻る鈴と紫音。その途上、鈴は隣を歩く紫音の手を握った。驚いた様子を浮かべた紫音に対し、鈴は前を向いたまま話し始める。
「ねえ、今日デュエルしていて楽しかった? 結果はよくなかったけど……」
少し申し訳なさげな鈴の顔を見て紫音は思わず吹き出した。
「いえ、気にしていません。むしろこっちこそお礼を言いたいくらいです」
「えっ?」
「確かに勝てはしませんでしたけど……一戦一戦のデュエルで色々なことを学ぶことができています。だから、今凄く楽しいんです、私!」
そう言ってニッコリと微笑んだ紫音の顔は夏の夕焼けと流れ落ちる汗によって一段と美しく、かつキラキラと輝いていた。
*
「うん、仕込みはOKのようね」
千春が料理の確認をし、OKを出す。夕食を作ったのは未来以外の五人だった。特に関西出身ということで味にうるさく、料理のスキルもある華とフランス生まれのヴェートが他の三人をリードする形で夕食の仕込みは思っていた以上に問題なく終わった。
「当然や、だってうちがおるんやし」
「関西は名物料理が多いですからね……本場仕込みの料理楽しみです」
「ボクはヴェートさんのフランス料理も楽しみだな~」
「しかし、レストランとかで食べるようなものではないですよ? ポトフとかテリーヌのような料理です」
「それでもかなり美味しいと思いますよ?」
すぐに食事に移るべきか、とも思ったが皆夏の暑い日差しの中デュエルの特訓やデッキ改造を繰り返して汗をかいていた。ベタついた肌のまま食事に移るのもなんだろう、と思った遊希たちは先に風呂に入ることを勧めた。このロッジの風呂は十代の少女たちならば五~六人は同時に入れるほど広くなっており、みんなで汗を流してから食事を摂ったほうがいいだろう、ということになった。
「じゃあパパっと汗流そうや」
「そうだね。紫音ちゃんとか汗だくだよ?」
「……匂ってませんか?」
「問題ないですよ? 私家族以外の人とお風呂に入るのは初めてなので楽しみです」
「ヴェートは日本の風呂に入ったことはあるん?」
「実は初めてなんです。日本はお風呂にも力を入れていると聞いていますからね。それに関しても楽しみです」
そう言いながら部屋に着替えやバスタオルを取りに行く紫音・華・愛美・ヴェートの四人。しかし、キッチンにいた五人の中で唯一橙季はその場から動こうとはしなかった。
「どうしたの? お風呂入っちゃいなさいよ」
「あっ、いや……私はちょっと……」
「橙季ちゃんどうしたの? ボクたちと一緒にシャワー浴びちゃおうよ!」
千春のその問いに何処か動揺した様子を見せた橙季であったが、付いてこないことを不審に思った愛美によって無理やり連れていかれてしまった。橙季は何故お風呂に入りたがらなかったのだろうか、と千春は少し疑問に思ったが、単に恥ずかしいだけなのかな、と特に気に留めることは無かった。
「未来ちゃんお風呂入れる? なんだったら私が一緒に付いて行ってあげてもいいのよ?」
「あう、だいじょうぶです……」
「本当? 本当に大丈夫?」
「さすがにしつこいわよあんた」
一人で風呂に入れるのだろうか、と心配するあまり一緒に付いていこうとする遊希の首根っこを鈴が思い切り引っ張る。遊希の身体がぐん、つの字に曲がった。
「ちょっと、むち打ちになったらどうしてくれるの」
―――いや、今のはお前が悪いぞ?
「親友を犯罪者にしないためならむち打ちだろうが滅多打ちだろうがなんだってしてやるってーの」
「幼稚園児とかならともかく小学生ならお風呂くらい大丈夫なのではないでしょうか……?」
「遊希も案外過保護なところがあるのだな」
夕食作りに参加していなかった未来の分の着替えは紫音と華が持ってきてくれたようで、それを知った未来は華やヴェートが呼ぶ声に誘われてぽてぽてと風呂場へと向かった。
*
「うわっ、愛美案外スタイルええんやな」
華が服を脱いで一糸纏わぬ姿となった愛美の身体を見てまじまじと感想を述べる。愛美の身体は程よく締まりながらもその身体には女性らしい丸みもところどころで見られていた。紫音や華が中学1年生なのに対し、愛美はボーイッシュながらも中学2年生である。わずか1年ながらも思春期の少女はその1年の間に成長の違い思いのほかあるのかもしれない。
「そうかなぁ……ボク修学旅行の時によくお尻の形がいいとかみんなに色々と言われたんだけど……そんなに変かなぁ」
「別に変なことではないですよ。むしろ誇るべきことだと思います」
「愛美おねえちゃんいいなぁ……わたしもおっきくなったらきれいなおねえさんになれるかなぁ」
「大丈夫ですよ。未来ちゃんも私たちくらいの歳になったらきっと美しくなっていますから。ほら、手を上げて下さい。上を脱ぎましょうね」
最年長のヴェートは未来が服を脱ぐのを手伝う。アジア人の中に一人だけいる欧州人だけあってスタイルや発育の良さに関しては彼女の右に出る者はいない。それこそ彼女のスタイルは遊希やエヴァに匹敵するほどのものであった。そんな中、一人だけ服を中々脱ごうとしない少女がいた。橙季である。そんな彼女を見かねて華と愛美が声をかけた。
「あれ、どうしたんや橙季? もしかして服脱ぐの難しいん?」
「あっ……その……」
「じゃあ手伝ってあげるよ! その服着るのも脱ぐのも難しそうだし!」
「いや、大丈夫だから……」
一糸纏わぬ姿の愛美が橙季の服のボタンを次々と外していく。橙季は恥ずかしいのか顔を真っ赤にして抵抗するも、最早抵抗らしい抵抗にはなっていなかった。
(あれ……橙季ちゃんって意外と身体がしっかりしてるような……まあ、女の子でもガタイのいい子は多いよね!)
「ほらほら脱いだ脱いだー!」
「だ、ダメ……」
*
「だってしょうがないじゃない。あんなに可愛らしい子がお風呂入るんだから覗く変質者とか出る危険性だってあると思わないかしら?」
「誰かが鏡を持ってない? 変質者予備軍が何か言ってる」
「誰が変質者予備軍よ」
「あんたよあんた」
その頃、居間では遊希と鈴の痴話喧嘩が繰り広げられていた。最も今回の件については全面的に鈴が正しく、それをわかっていた千春・皐月・エヴァの三人はそんな二人に構うことなく食器の準備やテーブルの清掃、テレビを見ていたりしていた。
「私はこの隣の県出身だからわかるのよ。こんな田舎だからこそそういうのが出るって」
「それは田舎、というかこの県の県民に対する侮辱にあたるからやめなさいって」
正義感と紙一重の欲望に熱くなる遊希とそれを受け流し続ける鈴。そんなに未来ちゃんと一緒がいいのか、と鈴が匙を投げかけた瞬間である。
―――きゃあああっっ!!
紫音たちが使っている風呂場から悲鳴が聞こえたのは。
「ねえ今のって!!」
「お風呂からだぞ!」
「もしかして本当に変質者が……」
「ほら言わんこっちゃないじゃない、バカ鈴」
バカとはなんだ、と鈴が返そうとした時、お風呂からはバスタオル1枚をまとったずぶ濡れの紫音・華・未来の三人が駆けだしてきた。
「うわー、マジでびっくりしたわー……」
「ありえない……ありえないです!!」
「紫音、華、どうしたの? もしかして本当に変質者でも」
「あのね、橙季おねえちゃんがお―――」
「アカーン!! 未来ちゃんはそんな言葉口にしちゃアカンでーっ!」
咄嗟に未来の口を塞ぐ華。いったい何があったのか、と鈴と皐月が風呂場へと向かう。
「……校長先生に伝える?」
「そうしましょう! 本当に覗きだったら許せないんだから!」
千春がロッジの電話を手に取ろうとした時である、またしても風呂場から悲鳴が聞こえてきた。それは鈴と皐月のものであった。もしかしたら本当に覗き魔でもいたのだろうか。そうなればこっちに来ていない愛美やヴェート、橙季たちの身にも危険が迫る。
「また!? いったいなにがどうなって……」
「あのね! あのね……橙季おねえちゃんが……」
苦笑いする華と怒り心頭の紫音を尻目に未来は何かを必死に伝えようとしていた。
「橙季に何があったの? 教えて歩美ちゃん」
「……橙季おねえちゃんが……橙季おねえちゃんが―――」
―――橙季おにいちゃんだったの!!
「えっ?」
遊希と千春とエヴァが未来のその言葉の意味を理解するの数秒の時を要した。まさか、と思いつつ風呂場に向かうと、そこにはがっくしと項垂れた鈴と両手で恥ずかしそうに顔を隠している皐月、そして泣きじゃくる橙季とそれを宥めるヴェートにバスタオルで前を隠したまま呆然と立ち尽くす愛美の姿があった。
「おい、何だか思っている以上にカオスな状況だぞ?」
「鈴、皐月……大丈夫?」
「ごめん。ちょっと失礼するわね!」
遊希とエヴァが鈴と皐月を気遣おうとする中、千春は単身橙季の元へと向かうと、彼女が纏っていたバスタオルを少しめくり上げた。きゃっ、という小さな悲鳴を上げる橙季であったが、千春は構わず彼女の身体を確認する。
「千春? えっと……聞いていいことなのかしら」
「その……橙季は、未来の言う通りの人間なのか?」
できれば未来の嘘であってほしい、と願った遊希とエヴァ。しかし、実際に橙季の身体を確認した皐月は無表情のまま二人の聞きたくない言葉を聞かされることになった。
「……うん、ついてる」
橙季の身体には生物学的に、人間の女性に存在しない器官が確かに存在していた。
二宮 橙季―――彼女、いや彼は男性だったのである。