銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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絆深める決闘者

 

 

 

 

「あんたたち!! もう消灯時間って言ったでしょうが!! 何騒いでるのよ!!」

 

 青筋立てて部屋に乗り込んできた千春はまさに鬼の形相と言える表情をしていた。しかし、如何せんこれが遊希やエヴァのような女性にしては長身ならいざ知らず、それが千春だったため、その迫力は小柄なことからだいぶ薄れていた。最も最初は半狂乱だった愛美も身長の低さからその人物が千春であることに気付く。

 

「千春さああん!!」

 

 愛美はまるで獲物に襲い掛かる獣の如く千春に飛びついた。自分より背が10センチ高い愛美が飛びついてきたため、支えきれなくなった千春はその場に尻もちをついて倒れる。愛美は千春が倒れるのにも構わず、彼女の胸に顔を押し付けて泣いていた。

 

「ちょっと、これどういうことよ!」

「いやー、怪談話をしてたら愛美がこの手の話ダメだったみたいでなぁ……」

「はぁ? あんたたちねぇ……」

 

 泣きじゃくる愛美をあやしながら、千春は彼女に見えないようにサムズアップをする。当然ながらこの怪談話をすることも千春には織り込み済みであった。

 紫音・華・ヴェートの三人が怖い話をしてそれに弱い愛美を怖がらせ、頃合いを見て千春が止めに入る。それが作戦の第1段階であった。最も愛美がここまで取り乱すとは思っていなかったため、作戦とは言えど千春は流石に罪悪感に苛まれた。

 

「ったく……いい加減寝なさいよ。未来ちゃんだって寝てるんだから起こしちゃダメよ?」

「はーい」

「それにしても愛美さんがこんなに怖がったのに未来さんは全然起きませんね」

「きっと疲れているのでしょうか……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんね、愛美ちゃ……えっ?」

 

 寝ている未来の顔を覗こうとして布団をめくったヴェートの顔が強張る。なんと今までそこで眠っていたと思われる未来の姿が布団の中に無かったのである。ヴェートが真っ青な顔をしてその場にいた全員を見るも、皆が首を横に振る。怖い話をするのはそうだが、未来が居なくなるということに関しては計画のうちにない。

 

「……まさか神隠しってやつ?」

「ひいっ!!」

 

 悲鳴を上げて愛美が紫音の布団に潜り込んだ。

 

「ま、愛美さん?」

「ううう……紫音んん……ボクひとりじゃこわいよぉ……」

 

 泣きじゃくりながら上目遣いをして紫音にすがる愛美。学年こそ1学年上であるが、怯え震える今の愛美は未来に負けず劣らず庇護欲を掻き立てる存在となっていた。

 

「……わかりました。今日は一緒の布団で寝ましょう? 二人なら怖くありませんよね」

「私もいますよ? 愛美さんを一人にはしませんから」

「あの、ほんまごめんな? まさかそんなに怖がるとは思わなかったから……あの、千春さん。未来ちゃんは……」

「神隠しなんて迷信よ! 未来ちゃんは私たちが何とかするからあんたたちは安心して寝なさいな」

 

 千春はそう言って勇ましくドアを閉める。皆の前では気丈に振る舞った彼女であったが、階段を下りるとすぐさま遊希たちのいる1階の寝室へと駆け込んだ。1階の寝室では鈴、皐月、エヴァの三人が千春が戻ってくるのを今か今かと待ちかねていた。しかし、唯一遊希だけは今日はもう疲れてしまったのか布団を被ってぐっすりと眠ってしまっているようだった。

 

「あっ、千春。計画は問題なくいけそう?」

「計画……は大丈夫だけどやばいことになったわ」

「やばいこと?」

「未来ちゃんがどこにもいないのよ。もうとっくに寝てると思ったら布団の中にいなくて……」

 

 未来が部屋にいない、ということに鈴たちは戸惑いを隠せないようだった。もし未来が本当にいなくなったとなれば愛美と橙季にドッキリを仕掛けて仲直り作戦などと言っている場合ではない。

 まだ幼い彼女は何かあったとしてもろくに抵抗することができないだろう。鈴たちは指導者として、アカデミアの学生として参加者である彼女たちの身の安全を守る使命がある。放っておくわけには行かない、と判断した四人はまず未来を探しに行くことにした。

 

「ちょっと遊希、起きて。寝てる場合じゃないわよ。未来ちゃんが……」

 

 そう言って遊希を布団の上から揺らす鈴。すると、布団の中からは揺れた衝撃で寝返りを打ったのか手がぱたりと出てきた。

 

「……なあ」

「どうしたんですか?」

「この手だが……遊希の手にしては小さくないか?」

「えっ」

 

 布団の中から出てきた手は明らかに遊希のものではなかった。その手はまるで小学生の女の子のもののように小さく可愛らしいものだったのだ。

 

(あっ)

 

 布団の中から微かに聴こえた声。鈴が思い切り布団をはいでみると、布団の中には目を見開いている遊希とそんな彼女の腕の中ですやすやと眠る未来の姿があった。遊希は鈴たちが仲直り作戦の計画を練っている間に眠そうだった未来をひそかに自分の布団に誘い込んでいたのであった。それを見た鈴や千春はもちろん、皐月やエヴァまでもが侮蔑および哀れみの眼を遊希に向ける。

 

―――だから辞めておけと……

「おはよっ、遊希♪」

 

 いつになく優しい声で遊希の耳元で囁く鈴。

 

「言っておくけど、これには理由があるの」

「遊希♪」

「愛美に対して怖い話をするのでしょう? だったら一番幼いこの子を巻き込むわけにはいかない。そうでしょう?」

「遊希♪」

「鈴、眉間にしわが寄っているわ。私は笑ってる鈴が好きの方が好きよ」

「遊希」

「……はい」

「正座」

「はい」

 

 それからしばらくして未来は皐月とエヴァの手で無事2階の布団に戻された。そしてその裏で鈴と千春によって遊希がみっちり絞られたのは言うまでもない。

 

―――理由を話せばわかってもらえたのではないか? 未来を連れ込んだ本当の理由を。

(……そんなこと、言えるわけがないじゃない。楽しい雰囲気が辛気臭くなるでしょう?)

―――お前という奴は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事未来が戻ってきて1時間ほど経った頃だろうか、紫音の布団の中で小さく寝息を立てていた愛美がふと目を開ける。紫音が隣で眠っていてくれていたため、ゆっくりと寝付くことができた愛美であるが、それでもまだ華たちの話した怪談のことが頭の中から中々抜けずにいた。

 

「……ねえ、紫音。紫音」

「んん……どうしたんですか? 愛美さん」

「ボクおトイレ……行きたいんだけど、ひとりだとちょっと……」

「はぁ、しょうがないですね」

 

 ため息をつきながら起き上がった紫音が付き添う形で愛美と紫音は1階にあるトイレへと向かった。実はこれも作戦のうちの1つであり、怪談話をする前に華は愛美に土産代わりに持ってきた京都のお茶を振る舞っていた。今日の夜はだいぶ蒸し暑く、これから怪談話をするなんて心にも思っていなかった愛美は華の出すお茶をついついお代わりしてしまっていたのである。

 廊下や階段の電気を点けながら降りると、1階は既に寝静まっているようだった。愛美が「そこで待っててね」と言いながらトイレに入ったのを皮切りに、紫音はパジャマのポケットからスマートフォンを取り出すと、鈴を通じて連絡ができるようになった遊希のスマートフォンに通話アプリで愛美と自分が今1階にいることを告げた。

 

「……紫音から連絡よ。愛美は今1階のトイレにいるって」

「よし、次は私たちの番よ。遊希、紫音に頃合いを見て2階に戻るように伝えて」

「了解」

 

 1階の寝室は寝静まっているように見せかけるため遊希たちは極力小さな声で会話をしていた。ここで自分たちが何をしようとしているのかがバレてしまえば、作戦は水の泡と化してしまう。

 作戦立案者かつリーダーの千春の指示のもと、鈴・皐月・エヴァが白いシーツを持っていつでも出れるように待機する。今度全員に限定スイーツを奢ることで許して貰った遊希は通信役として千春の言葉を的確に紫音に伝える。

 

「紫音ー、いるー?」

「いますよ」

「紫音ー?」

「いますってば」

「紫音ー?」

 

 用を足しながらもひたすら不安な愛美は絶えず外にいる紫音の名を呼ぶ。2回ほど呼んだ時は紫音は返答していたが、3回目以降になると呆れたのか紫音が返事をしなくなってしまった。

 さすがに参加者の中ではヴェートに次いで2番目に年長の自分のこの様に呆れてしまったのだろうか、と愛美も思ったため、早めに用を済ませて外に出ようとした。待たせてごめんね、と言いながら廊下に出た愛美であるが、さっきまでそこにいたはずの紫音の姿はそこには無かった。

 

「えっ……紫音? 紫音、どこにいるの? 紫音!!」

 

 薄暗い廊下を恐る恐る探してみる愛美であったが、どこにも紫音の姿はなかった。いなくなった未来が戻ってきたため、神隠しなどというものは完全に否定されていたが何分怖いものが大の苦手な愛美である。彼女の中では紫音はまさしく霊的な存在によって何処かへ連れ去られてしまった、という結論に至ってしまった。

 

「どうしよう……紫音が……紫音が……そうだ、華とヴェートに……!」

 

 恐怖のあまり錯乱状態に陥っていた愛美であるが、自分一人でどうにかできる問題ではないと判断して2階へと駆け上がろうとする。素早く戻れば、きっと大丈夫だろうし、華とヴェートの二人がかりなら霊も手を出せまいと踏んだのである。

 愛美は意を決して階段から2階へ上ろうとするも、さっき点けたままにしたはずの階段の電灯はいつの間にか消えていた。霊が電気を消してしまったのだろうか、と思いつつ廊下にある階段の電気をつけるためのスイッチに手を伸ばした。そして明かりを点けた彼女は絶句した。

 階段の登った先になんと白く大きな布が3枚、ふわふわと浮いていたのである。間違いない、こいつらが紫音を連れ去った張本人であると愛美の中の本能が察知した。

 

「っ……そうだ、皐月さんたちなら……」

 

 2階へ上がるのを諦めて皐月たちの眠る部屋へと行こうとした愛美であったが、次の瞬間である。皐月たちのいるはずの部屋のドアからも階段の上にいた霊と同じ姿をしたものが5つ、ゆっくりと出てくるのである。

 

「そんな……皐月さんたちまで……そんな……っ!!」

 

 もはやこのロッジで無事なのは自分だけなのだろうか、と思い絶望しかけた愛美。しかし、そんな時に彼女の脳裏に浮かんだのは橙季の顔であった。このままロッジの外に出てしまえば一人で逃げることはできる。だが、ここで橙季を置いて逃げてしまうという選択肢は無かった。

 正直あのようなことがあったのだから会話をするどころか顔を合わせることすらも今の時点では気が引ける。ただしここで彼を犠牲にして自分だけが助かろうということが許されるのだろうか。何より喧嘩したまま謝ることもできずに橙季と今生の別れを迎えてしまっていいのだろうか。少なくとも橙季だけは、橙季だけは助けたいという気持ちが愛美の中には芽生えていた。

 

「橙季ちゃん……!」

 

 愛美はゆっくりと後ずさりしながら橙季の眠る部屋へと向かった。霊たちはゆっくりと迫ってくる。自分が何処へ行こうとしているのかは彼らには筒抜けかもしれない。それでも向かわなければならないのだ。

 

(お願い……無事でいて。橙季ちゃん……)

 

 じりじりと下がっていった愛美は辿り着いた部屋の襖を開ける。橙季が眠っている部屋は畳張りの和室になっており、愛美は畳の感触を確かめ、自身が完全に部屋に入ったことを察するとゆっくりと音を立てないように襖を閉めた。

 振り返ると、和室の真ん中に丁寧に敷かれた布団で橙季が小さな寝息をたてていた。安らかな寝顔を浮かべている彼の顔を見た瞬間、愛美の中では気まずさよりも橙季が無事であったことの喜びが大きくなっていた。

 

「橙季ちゃん、橙季ちゃん……起きて……」

「んん……あれ……愛美……ちゃん?」

 

 愛美によって起こされた橙季はまるで良家のお嬢様が着用するようなピンクのフリフリの寝間着を着用していた。自身を男性と認識している橙季であったが、やはり幼少のころからずっと着てきた女性用の寝間着が一番落ち着くのであろうか。しかし、今はそんなことなど愛美にとってはどうでもいいことだった。愛美は橙季が無事だったことを確認すると、何も言わず泣きながら彼に抱き着いた。

 

「愛美ちゃん!?」

「橙季ちゃん……良かった……キミが無事で……!」

「どうしたの? いったい何が……」

「あのね……あのね……」

 

 愛美は橙季にこれまでの経緯を話した。そして紫音を連れ去ったと思われる霊が複数、自分を狙ってこの部屋へと近づいてきていることを伝えたのである。最初は半信半疑といった様子の橙季であったが、あまりにも彼女が真剣に話すため彼は愛美は嘘をついていないと判断した。取り敢えずこのまま部屋にいるのは好ましくない、と判断した橙季は布団が入っていた押し入れに避難することにした。

 押し入れの中には予備の布団以外にも衣装ケースが複数個入っており、それを積み重ねることで押し入れを外側から開けられないようにすることができる。それで日の出まで耐え忍べば幽霊に攫われることはない、というのが彼の狙いであった。橙季は愛美を守るために必死だった。火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、自分一人では重くてすぐには敷けなかった布団を持ち上げると、バリケードを作ってその中に愛美と一緒に逃げ込んだ。

 

「よし、これで……」

「……っ」

「橙季ちゃん……!?」

 

 これでしばらくは大丈夫のはず、と安堵の表情を浮かべた橙季の身体に暖かく柔らかい感触が当たる。愛美が突然彼の右腕に抱き着いてきたのである。狭い押し入れの中で二人の身体が密着するのだが、愛美の身体は恐怖に震えていた。

 

「愛美ちゃん……大丈夫。私がいるから……」

「ねえ、橙季ちゃん……」

「なぁに?」

「……どうして、ボクに教えてくれなかったの……? その……性別のこと……」

「っ……」

 

 愛美のその言葉に橙季は返答に詰まる。彼の右腕を抱きしめる愛美の力が少し強まったように感じた。

 

「ボク、キミの性別とかは正直そんなに気にしてない。女の子でも男の子でも橙季ちゃんは橙季ちゃんだから。でも、ずっと教えて貰えなかったのはすごく寂しかったんだよ?」

「ごめんなさい……最初会った時からずっと言おう、言おうとは思ってたけどタイミングを逃してしまって……言えずにここまで来ちゃった。男の子なのに女の子の格好をしてるってばれたら……嫌われると思ったから……」

「みんながどう思うかは知らないけど、ボクはそんなことでキミを嫌ったりしない! 実際に今日1日一緒に過ごしてみてわかったもん。キミはとってもいい子だって……だから……!」

「愛美ちゃん……ありがとう。ごめんね……」

 

 愛美は言葉では厳しい態度を取ってしまっていたが、それはあくまで真意の裏返しに過ぎなかった。彼女は誰よりも橙季と出会ったばかりの時のように仲直りしたかったのである。

 そして橙季もまた自分の嘘によって傷つけてしまった愛美に対して謝りたかった。そして元通りの関係になりたかった。二人の感情は同じ方向を向いていながらも、すれ違っていただけだったのだ。

 二人が改めて自分たちの間に生まれていた絆を再確認しあった時である。二人が隠れている押し入れの襖がガタガタと音を立てて揺れたのは。

 

「ひっ!」

「……嗅ぎつけられた?」

「どうしよう……」

 

 橙季の右腕に抱き着いて怯える愛美。できればこのまま朝までやり過ごせれば、と思っていた橙季であったが、ここを察知された以上襖1枚で持久戦などできるはずがない。彼は右腕にくっついた愛美の腕を剥がすと、いつでも外に出れるように身構えた。

 

「橙季……ちゃん?」

「愛美ちゃん。最後に仲直りできて良かったよ。これで……思い残すことはないかな」

「ちょっと待って……それって……」

「大丈夫。愛美ちゃんには指一本触れさせない。だから安心して……愛美ちゃんは……私が……いや、僕が……守るからっ!!」

 

 橙季は襖を内側から抑えていた衣装ケースを退かすと、1、2の3のタイミングで思い切って外に飛び出した。

 

 

 

―――この子には手を出させない! 僕が相手だ!! さあ、どこからでもかかって……!!

 

 

 

 橙季が外に飛び出して勇ましく叫んだその瞬間である。真っ暗だった和室に明かりが灯される。明るくなった部屋には白いシーツから顔を出す遊希たちの姿があった。

 

「えっ……」

「作戦……だ~いせ~いこ~う!!」

 

 千春がそう言うと、遊希は少し申訳なさそうな顔をしてスケッチブックに書かれた「ドッキリ大成功!」の文字を見せる。放心状態の愛美と橙季が遊希たちが何をしようとしていたのかを完全に理解するのに20分ほど時間がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しんっじられない! みんなでボクたちを騙していたなんてっ!!」

 

 真実を知ったまさに愛美は怒り心頭といった様子だった。よもや最初の怪談からずっと仕組まれたことだとは思っていなかったので、当然と言えば当然なのであるが。顔を真っ赤にし、膨れっ面を浮かべる愛美に対して紫音・華・ヴェートの仕掛け人三人はずっと平謝りを繰り返していた。

 

「ごめんごめん……まさか愛美がそこまで驚くとは思わんかったんや」

「つまり上で寝ている未来ちゃん以外の皆さん全員が仕掛け人だったってことですか……?」

「はい……お二人を仲直りさせるためとはいえ、このような作戦をしてしまい申し訳ありません」

「皐月さんまで加担していたなんて……ボクはいったい誰を信じればいいんですか!」

 

 愛美は悔しそうに地団駄を踏む。そしてそのまま隣に座っていた橙季の顔を疑念の表情を浮かべながら覗き込んだ。

 

「ねえ、もしかして橙季ちゃんがみんなにそうしてくれ、って頼んだりしてないよね……?」

「ええっ!?」

「安心しろ。橙季は本当に何も知らない」

「ええ、あたしと千春で作戦を考えてそれ紫音に伝えて紫音が華とヴェートに伝えて、って感じだから」

「そうよ。だから橙季くんは本当に関係ないわ」

 

 そうなんだ、と言って橙季の隣にへたり込む愛美。もしこの計画の発案者が橙季だったますます彼のことを嫌いになっていたかもしれない。そういう事態を避けられた、という意味では愛美は安心していた。

 その瞬間、リビングに掛けてある時計が午前1時を告げる音を鳴らす。古時計ということもあって「ゴーン」と鳴ったその音は状況も相まって臨場感抜群の音であった。

 

「もう1時か……明日に備えて寝ましょう」

「さすがにこの時間になると眠いわね……明日大丈夫かしら」

 

 明日の心配をするくらいなら初めからこんな大それたことをしなければいいのに、と心中でツッコミを入れる愛美。皆がぞろぞろと心の寝る和室を出ていこうとする中、愛美はしばらくその場を動こうとしなかった。

 

「愛美ちゃん? 愛美ちゃんは上に行かないの?」

「……いや、行くよ。でもちょっとみんなが出ていってから、ね」

 

 どうしてだろう、と思う橙季であったが、彼はすぐに愛美の真意を知ることとなった。

 

「あのね、橙季ちゃん」

「うん」

「ボクね……さっきね……とっても嬉しかったよ。橙季ちゃんがボクのこと守る、って言ってくれたこと……」

「あ、あれは……ね。ちょっとカッコつけすぎちゃったかな。私みたいなのが……」

「ううん、そんなことないよ。ボクには橙季ちゃんがとってもカッコよく、頼もしく見えた。橙季ちゃんが助けてくれなかったらボクは……だからね、これは……そのお礼っ!」

 

 

 

 お礼、ってなんだろうと橙季が思った瞬間である。彼の中で時間が止まった気がした。愛美の唇が橙季の左頬にそっと触れたのである。愛美の唇はとても柔らかかった。

 

 

 

「えっ……」

「じゃ、じゃあおやすみ! また明日ね!」

「えっ……えええっ……」

 

 かくして、愛美と橙季。二人の仲直り作戦は成功したのである。出会いとデュエルに明け暮れた激動の1日目はこうして終わったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、みんなおきてぇ~! もうあさの9じだよぉ~!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、未来を除く夜更かしした十人は全員揃って寝坊し、よりによって最年少の未来に揃って起こされるというなんとも不甲斐ないことになったのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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