銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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遊希の動揺、遊望の微笑

 

 

 

 

 

「エヴァちゃんっ! エヴァちゃん!!」

 

 壁に叩きつけられたエヴァに鈴は悲鳴にも近い声を上げて駆け寄った。エヴァは命に別状こそないものの、身体を強く打ちつけたショックで気を失っていた。とてもソリッドビジョンのものとは思えない強い衝撃を受けていたエヴァが無事だったことに安堵した鈴はエヴァの身体をぎゅっと抱きしめる。すると、エヴァの身体が微かに震えていることに気が付いた。

 彼女は気を失っているのだが、無意識のうちにエヴァの身体にはこのデュエルで今まで味わったことのない恐怖を植え付けられてしまっていたのである。それを間接的に悟った鈴の眼からは涙がぽとり、ぽとりと零れ落ちた。

 

「所詮、紛い物のデュエリストなどこの程度の力しか持てないということですか。不甲斐ないですね」

「!!」

 

 遊望のその言葉を聞いた鈴はエヴァをその場に優しく寝かせると、立ち上がりデュエルディスクを構えた。表情は一見落ち着いたように見えるが、その根底にはこれまで抱いたことのない怒りが噴き出していた。

 

「何のつもりですか? 私にデュエルを挑むとでも?」

「それ以外に……何があるっての!!」

「あなたと私では全てにおいて差があります。負けると分かっていても挑むのですか?」

 

 デュエルをする前から負けることを考えるデュエリストなどいない。それでも鈴はわかっていた。自分より遥かにデュエルが強いエヴァが一太刀も浴びせることなく敗れ去った相手である。遊希や竜司ですら勝てるかどうかわからない相手に自分が勝てる道理はないと言っていいだろう。

 

「ええ、ぶっちゃけあたしじゃ勝てないかもしれない。でも、あたしは―――友達が侮辱されたまま逃げるような臆病者じゃない!!」

「友達……ですか。いいでしょう、あなたとエヴァ・ジムリア。二人の首を持っていけば天宮 遊希も私と戦わずにはいられないでしょうからね」

(……こいつの目的は、やっぱり遊希! ダメ、こんな危険なやつを遊希のところに行かせるわけには行かない!!)

 

 勝算は限りなく低いかもしれない。それでも戦わなければいけない時はやってくる。決意を秘めた鈴のデュエルが今、始まろうとしていた。

 

 

鈴 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

遊望 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(鈴)

 

「無謀を承知で私に挑むのです。先攻はお譲りしますよ」

「……言ってくれるじゃない。じゃあ遠慮なく先攻を取らせてもらうわ」

 

 挑発されながらも先攻を取る鈴に対して遊望は情けない、と吐き捨てる。しかし、鈴からしてみればこのデュエルはエヴァの仇を討ち、遊希を守ることに繋がるデュエルでもある。そのため、恥や外聞を気にしているだけの余裕などなかった。

 

「先攻を取らせたことを後悔させてあげる。あたしのターン、あたしは手札1枚をコストに魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動! デッキから攻撃力3000以下、守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2枚まで手札に加える!」

「そう言えばあなたのデッキは【儀式青眼】でしたね。ならば私と同じカードが入っていてもなんらおかしいことはありません」

(初対面のはずなのに、あたしのデッキを知っている……ますます訳わかんないんだけど)

 

 一抹の不安を覚えながらも、鈴はデッキのキーカードであるブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンと青眼の亜白龍を手札に加える。この2枚が手札にあるかないかで彼女のデッキの初動は大きく変わるといっても過言ではない。

 

「そしてドラゴン・目覚めの旋律の効果で墓地に送られたのはジェット・シンクロン。ジェット・シンクロンの効果を発動、手札1枚をコストにこのカードを墓地から特殊召喚する! そしてジェット・シンクロンの効果の発動コストで墓地へ送られたのは伝説の白石。伝説の白石の効果でデッキから青眼の白龍1枚を手札に加えるわ!」

「……なるほど、手札コストを上手く活用できていますね。ふふっ、少しは楽しませてくれるのでしょうか?」

「そのうち笑えなくなるよ、あんた。あたしはマンジュ・ゴッドを召喚! 召喚に成功したマンジュ・ゴッドの効果であたしはデッキから儀式魔法、高等儀式術を手札に加える。そして高等儀式術を発動! デッキの通常モンスター、青眼の白龍を儀式の生贄に捧げ、手札からレベル8の儀式モンスター、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚!!」

 

 鈴のデッキのエースモンスター、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが雄叫びと共に降臨する。先攻1ターン目ではバトルフェイズが行えないため、その真価を発揮できるとは言い難いが、それでも4000の攻撃力と強力な耐性は消費の激しい儀式召喚に相応しいだけの力を持ったモンスターだ。

 

「そして手札の青眼の白龍を相手に見せることで、手札の青眼の亜白龍は特殊召喚できる! 更にレベル4のマンジュ・ゴッドに、レベル1のチューナーモンスター、ジェット・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! 来て!《転生竜サンサーラ》!」

 

《転生竜サンサーラ》

シンクロ・効果モンスター

星5/闇属性/ドラゴン族/攻100/守2600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「転生竜サンサーラ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードが相手の効果で墓地へ送られた場合、または戦闘で破壊され墓地へ送られた場合、「転生竜サンサーラ」以外の自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「転生竜サンサーラを守備表示でS召喚。このカードが相手の効果で墓地に送られた場合、または戦闘で破壊されて墓地へ送られた場合、サンサーラ以外の自分または相手の墓地のモンスター1体を特殊召喚できるわ!」

「マンジュ・ゴッドをフィールドに残さず、次に繋げる効果を持ったモンスターをフィールドに……あの青眼を使うことを認められるだけはありますね」

「それはどうも。曲がりなりにもあたしはこのセントラル校のデュエリストで、星乃 竜司の娘。半端なデュエルはできないんだよ。あたしはカードを1枚セットして、ターンエンド!」

 

 

鈴 LP8000 手札1枚

デッキ:30 メインモンスターゾーン:2(ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、青眼の亜白龍)EXゾーン:1(転生竜サンサーラ)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1 墓地:5 除外:1 EXデッキ:14(0)

遊望 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)

 

 伏□□□□

 □□亜M□□

  転 □

□□□□□□

 □□□□□

遊望

 

○凡例

転・・・転生竜サンサーラ

 

 

☆TURN02(遊望)

 

「さて、それがあなたの先攻1ターン目なのですね、星乃 鈴」

「……だったらなんだっていうのよ」

「攻撃力4000のカオス・MAXに3000の亜白龍、そして守備力2600かつ墓地のモンスターを特殊召喚できるサンサーラ。なるほど、中々の布陣です。ですが……私を相手にするにも関わらず、この程度の布陣で満足されているようではとんだ期待外れですね」

「なんですって……? もう一度言ってみなさいよ!!」

「ええ、何度でも言いましょう。星乃 鈴、あなたではエヴァ・ジムリアの仇を討つどころか、天宮 遊希を守ることすらできやしない。何故なら、あなた程度のデュエリスト……私にとっては相手をする価値すらないのですから!!」

 

 遊望がそう叫ぶと同時に、何か得体の知れない重圧が鈴の身体に圧し掛かった。

 

(っ、何!? この気迫……押しつぶされる……!!)

「本当の力というものを見せてあげましょう。私のターン、ドロー。手札から魔法カード、トレード・インを発動。手札のレベル8モンスター、螺旋竜バルジをコストに2枚ドローします。そして魔法カード《精神操作》を発動します」

 

《精神操作》

通常魔法(2020年1月1日から準制限カード)

(1):相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得る。この効果でコントロールを得たモンスターは攻撃宣言できず、リリースできない。

 

「精神操作……!? でも、カオス・MAXは相手の効果の対象にはならないわ!」

「言われなくともわかっています。なので対象は転生竜サンサーラです。そして手札から《輝光竜セイファート》を召喚」

 

《輝光竜セイファート》

果モンスター

星4/光属性/ドラゴン族/攻1800/守0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、ドラゴン族モンスターを任意の数だけ墓地へ送って発動できる。墓地へ送ったモンスターの元々のレベルの合計と同じレベルを持つドラゴン族モンスター1体をデッキから手札に加える。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の光・闇属性のドラゴン族・レベル8モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「セイファートの効果を発動します。手札のレベル8・ドラゴン族モンスターの銀河眼の光子竜を墓地へ送り、墓地へ送ったモンスターの元々のレベルの合計と同じレベルを持つドラゴン族モンスター1体をデッキから手札に加えます。私が手札に加えるのはレベル8の星雲龍ネビュラです。そして私は転生竜サンサーラと輝光竜セイファートをリンクマーカーにセット。アローヘッド確認、召喚条件はドラゴン族モンスター2体。サーキットコンバイン!“終わりなき銀河を衛りし竜よ。選ばれしものに眠りし力となれ!”リンク召喚! 現れよ!《銀河衛竜(ギャラクシー・サテライト・ドラゴン)!!」

 

《銀河衛竜》

リンク・効果モンスター

リンク2/闇属性/ドラゴン族/攻2000

【リンクマーカー:左下/右下】

ドラゴン族モンスター2体

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分・相手のバトルフェイズに、フィールド・墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの元々の種族・属性がドラゴン族・光属性の「No.」Xモンスター1体を対象として発動できる。バトルフェイズ終了時まで、相手が受ける戦闘ダメージは半分になり、対象のモンスターの攻撃力は、そのモンスターの持つ「No.」の数値×100になる。

(2):相手エンドフェイズに発動できる。デッキからカード1枚を選んでデッキの一番上に置く。

 

「銀河衛竜……また見たことのないモンスターが……」

「このカードは私に眠る力を引き出してくれるカードです。さて、あなたは耐えられますか?」

「リバースカードオープン、永続罠、リビングデッドの呼び声を発動! 墓地の青眼の白龍を特殊召喚するわ!」

「あらあら、焦ってしまってみっともない……ですが、もうあなたの負けは決まりました。墓地のセイファートの効果を発動します。このカードをゲームから除外し、墓地の光または闇属性・レベル8のドラゴン族モンスター1体を手札に加えます。私が手札に加えるのは闇属性・レベル8の螺旋竜バルジ。そして手札の星雲龍ネビュラの効果を発動、このカードとバルジを特殊召喚します」

 

 遊望のフィールドには、これで再びレベル8のモンスターが2体。しかし、光子竜を素材にしていない光子竜皇は相手に与える戦闘ダメージが半分になるデメリットがある。いくら高い攻撃力を持っていようと、その真価を発揮することはできない。つまりそれは光子竜に頼らずともそれに比肩しうるだけのカードがある、ということでもあった。

 

「私はレベル8のネビュラとバルジでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!―――さあ、恐怖しなさい!! 星乃 鈴!!」

「っ!?」

 

 

 

 

 

―――これが、敗北の味です―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空き教室ってデュエルの実技用の部屋だったんですね」

「そうだよ、しばらく使う予定が無いからね。ところで遊希くん」

 

 竜司に呼びかけられた遊希が気怠そうに後ろを振り返る。竜司は段ボール箱を抱えながら階段を上っている最中だった。

 

「なんですか、校長先生?」

「何故私が段ボール箱を持たされてるんだい?」

「あら、女性に荷物を持たせるような男性だったんですね。失望しました、校長先生」

「ははは……」

 

 竜司に対しては相変わらずの遊希であったが、これが彼女なりの愛情表現であることを知っていると随分微笑ましいものであった。遊希と竜司の間に流れる独特な空気にすっかり慣れた皐月は階段を上った先の廊下で目的地である空き教室の案内板を指さす。

 

「あそこですか、校長先生?」

「ああ、あそこだ。鈴とエヴァくんはそこにいるはずだけど」

「もしかして鈴とエヴァのことだからデュエルしてたりして」

「その可能性はあるわね。でもエヴァと鈴じゃ結果は見えているようなものだけど」

「やっぱりねー……ほら、見てなさい。今にもドアが吹き飛ぶくらいどっかーん、って豪快に―――」

 

 千春がそう言いかけた瞬間である。爆音と爆風が二人のいるはずの空き教室のドアを思い切り吹き飛ばしたのは。耳を劈く音に驚いた四人はその場に咄嗟にしゃがみ込む。

 

「なっ……何が起きたんですか?」

「わかんない。でも嫌な予感がする!!」

 

 何が起きたのかはわからない、だが、これが決して安心できる事態ではないということはわかる。遊希たちはその部屋にいるであろう鈴とエヴァの無事を確かめるべく、急ぎその部屋へと駆けつけた。遊希たちが部屋の中に入ると、物が散乱し、土埃の舞う部屋で倒れている鈴とエヴァの姿があった。

 

「鈴!!」

「エヴァ!!」

「エヴァさん!!」

 

 竜司と千春・皐月がそれぞれ倒れている鈴とエヴァの下に駆け寄った。竜司に抱き抱えられた鈴はうめき声のような声をあげながらゆっくりと目を開く。気を失ってしまっているエヴァと違って鈴にはまだ意識があるようだった。

 

「あ……パ……パ……」

「鈴、どうした!? いったい何が……!!」

 

 竜司が鈴に何が起きたのか問いただそうとし、千春と皐月が倒れているエヴァに駆け寄っているその間―――遊希はただ一人教室の入り口で呆然と立ち尽くしていた。

 

「嘘……なんで……どうして……」

 

 両手で口を押える遊希の顔はまさに顔面蒼白という言葉が似合うほど青白くなっていた。彼女は目の前で起きている光景が受け入れられなかったのだ。そんな遊希を美しい双眸で見据えた遊望はにっこりと遊希に微笑みかける。傍からみれば一人の美少女の微笑みとして、とても美しいものだろう。しかし、遊希からしてみればその微笑みは何よりも彼女の心を乱すものとなっていた。

 

「ちょっと、遊希! どうしたのよ! そんなところに突っ立って……」

「ありえない……そんな……ありえない……だって……」

「ありえないって、いったい何がですか?」

 

 混乱する遊希を見た竜司が彼女の視線の先にあるものを確認する。すると遊望の顔を見た竜司もまた遊希と同じように信じられない、といった顔を浮かべる。そんな二人に構うことなく、遊望は変わらず笑みを見せていた。そして、遊希たちの混乱も収まらぬ彼女は耳を疑う言葉を口走った。

 

 

 

 

 

 

―――あれからもう5年になりますか。ますますお美しくなられましたね。私も誇らしいです。

 

 

 

 

 

 制服のスカートの裾を両手でつまみ、片方の膝を軽く曲げて背筋を伸ばしたまま少しばかり身を屈める。遊望はヨーロッパの伝統的な女性の挨拶であるカーテシーを鮮やかにしてみせた。その立ち居振る舞いは動揺して壊れたラジオのようにそんな、やなんで、などとぶつぶつとうわ言のように同じ言葉を繰り返す遊希とは正反対であった。

 

「5年……?」

「5年前って……確か……」

 

 千春と皐月は前に遊希から聞いた話を思い出していた。今から5年前に起きた遊希の人生を大きく変えたあの出来事のことを。そして遊望の顔をじっくりと見て彼女たちもまた、何故遊希が動揺しているのかを察した。本来起こり得ないはずのことを。

 

「ねえ遊希!? ま、まさかあの子って……!!」

 

 遊希は何も言わずに頷くと、小さく、消え入りそうな声で呟くように言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――天宮 遊望(あまみや ゆみ)―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――5年前に命を落とした、私の……妹―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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