ちなみに私のクリスマスプレゼントはメ◯カリで落札した銀河眼の残光竜×2でした。
時は12月24日。世間的にはクリスマスイブにあたるこの日、少しばかり慌ただしいホテルのロビーで一人の少女が電話をかけていた。その少女は年齢にして10歳前後のまだ幼い少女である。彼女はとある理由で家族と別れ、一人遠く離れたヨーロッパの島国・イギリスへと来ていた。
「うん……クリスマスにはそっちに帰るから。うん、わかった。じゃあ待っててね? あっ、ケーキと七面鳥は残しておいてよね? うん。じゃあね」
そう言って少女は電話を置いた。電話を置いた少女はふぅ、と小さくため息をつくと、両手で小さくガッツポーズを作る。そんな少女の頭をいつの間にか後ろに立っていた一人の男性がぶっきらぼうにぐしゃぐちゃと撫でまくった。
少女はやめて、と連呼しながら振り返り、その男性の脛を思い切り蹴り飛ばす。そこは所謂“弁慶の泣き所”という場所であり、どのような豪傑でも脛を蹴られると思わず涙を流してしまう場所なのだ。男性はうめき声をあげながら、その場所を右手で摩っており、その様を少女は口をとがらせてみていた。
「いてて……思いきり蹴るなよ」
「雄一郎さんが悪いんですよ! もう、セットした髪の毛がぼさぼさに……」
「いいじゃねえか。これから日本に帰るんだろ? 飛行機の中で寝てるうちに寝癖になるって!」
「な・り・ま・せ・んー!」
少女は顔を真っ赤にして怒るが、男性が口元でしーっ、と言うと両手で口を抑えて黙り込んだ。公共のスペースで大の大人と少女が喧嘩となると要らぬ注目を集めてしまうからだ。一部界隈では有名人である二人はそういうゴシップ誌の餌になる真似は避けたかった。
「悪い悪い。いや、お前が珍しく嬉しそうにしてるからちょいと気になってな」
「もう、私が嬉しそうにしちゃいけないんですか?」
膨れっ面を浮かべる少女に対して、頭をペコペコと下げる男性。そんな彼らにまた別の男性二人が声をかけてきた。一人は少女や男性と同じ日本人の優しそうな男性であり、もう一人は背が高く細身の白人男性であった。
「雄一郎、あまり遊希ちゃんをからかっちゃ駄目だろう?」
「悪かったって。でも時折からかいたくならないかこいつ?」
「まあ気持ちはわかるけどね」
「竜司さんも納得しないで下さいよ……」
「どうでもいいだろうそのようなこと……ところで天宮くん、君はこれから日本へ帰るのか?」
「はい。もう今年のプロリーグの試合は終わりましたし、年末年始は家族と過ごしたいので……今から帰ればクリスマスには家に帰ることができそうです」
「そうか。それにしてもお前たちの母国である日本には神道というものがあるのにキリスト教の祭りであるクリスマスを祝うのだな」
「日本は良くも悪くも捉われない国でね。お正月には神社にお参りをし、法事はお寺で行い、秋にはハロウィンで仮装し、冬にはクリスマスを祝うものだよ」
「人によっちゃあ、きっちりラマダンまでやるし川で沐浴だってするぜ」
「凄い国だな日本は。まあそういう国だからこそ、お前たちのようなプロデュエリストが育つ土壌になるのかもな。星乃 竜司、藤堂 雄一郎……そして、天宮 遊希」
白人の男性ことミハエル・クリストフは両腕を組んでは感心した様子で頷く。彼に面と向かって褒められた三人は何処か照れ臭いようで、一様に頭の後ろを掻いていた。そんな時、遊希は腕時計の時間を確認する。搭乗する飛行機のフライトの時間まであと2時間ほどであり、そろそろホテルを出て空港に向かわなければならなかった。
天宮 遊希―――彼女はわずか7歳でプロデュエリストとしてデビューを果たすと、彼女だけが持つと言われる特別なデッキ【ギャラクシー】を駆使して瞬く間に世界的なプロデュエリストとなった。
デュエルの時は勇ましくまた年齢に似合わぬ強さを誇る彼女も、デュエルディスクを置けばおっとりとした心優しいまだ10歳の少女である。竜司たちが保護者代わりになってくれているとはいえ、最愛の両親と自分を慕ってくれている妹ら家族三人と離れて暮らすというのは精神的に負担をかけるものとなっている。そのため、少しでもまとまった休みが取れれば日本へと帰り、家族との時間を過ごすようにしていた。
「あっ……もう行かないと」
「そうか、気をつけてな」
「道中の無事を祈る」
「お父さんお母さんに宜しく言っておいてね」
「はい! それでは……また!」
少女は着替えや貴重品、デッキやデュエルディスクを入れたトランクを引いて元気よく駆けていった。ホテルの前に待たせてあった送迎の車に乗り込むと、すぐに日本に帰る飛行機の出る空港へと向かった。道中事故や事件などのアクシデントが無ければ遊希は明くる25日、すなわちクリスマスには日本の成田空港に到着する。
空港に着く頃には両親が迎えの車を出してくれることになっており、その車で実家へ帰り、年末年始の微かな休みを家族と共に過ごすのだ。遊希は空港へ向かう車の中でその間何をして過ごすかの計画を立てていた。
「えーと……みんなとの話と、プレゼントとごちそうと……」
帰ってからしたいことを指折り数える遊希。竜司や雄一郎、ミハエルらプロデュエリストの仲間との日常やプロリーグでの活躍など、離れていた間のよもやま話をするのはもちろんのこと、クリスマスツリーの飾りつけやサンタクロースから届いているであろうプレゼントを開封しては妹と仲良く遊ぶのだ。
大晦日は家族で祖父母のお墓参りに行って、帰りにファミリーレストランで外食をする。夜には格闘技を見たがる父、歌合戦を見たがる母、バラエティを見たがる遊希、アニメを見たがる妹とチャンネル争いをしながら、年越しそばを食べる。去年は寝落ちしてできなかった年越しの瞬間を家族四人で過ごすことも忘れてはならない。
今年はお年玉幾ら貰えるだろうか、初詣でおみくじを引いて大吉を引けるだろうか、おせち料理の伊達巻をお腹いっぱい食べれるかな、書初め上手になったかな―――考えれば考えるほどやりたいことが浮かんでくる。遊希は今、とても幸せだった。
―――そんな希望に満ち溢れた彼女が絶望に突き落とされるのはそれから約12時間後。成田空港に降り立った彼女を迎えに来ているはずの両親がいつになっても一向に現れないのだ。空港のロビーのソファに座りながら遊希は待ち続けた。そして彼女の下に飛び込んできたのは「両親の死」という10歳の少女にはあまりにも残酷すぎる報せだった―――
*
竜司、雄一郎、ミハエルは年明け間近までロンドンに滞在する予定だった。しかし、彼らは遊希からの連絡を受けてすぐに日本へと向かうことになった。
遊希から話を聞いた当初は冗談を言うな、と電話越しに激怒した竜司であるが、そもそも遊希がそんな冗談を言う少女でないことは外ならぬ彼が一番理解していた。竜司は雄一郎に頼んで日本の警察に事の子細を教えて貰うように依頼した結果、遊希の言っていたことが事実であることがわかった。
「……それは本当か? 質の悪い冗談ではないのか!?」
その話を二人から聞いたミハエルは椅子から飛び上がるようにして立ち上がった。ついこの間まで遊希が両親と電話で会話していたのを知っている。それが何故こんなことになるのか、と普段は平静な彼が珍しく取り乱していた。
「冗談じゃない。遊希ちゃんのご両親が……亡くなられた」
「そんでもって幼い妹さんは行方知れずだってよ。あいつは、遊希は今ひとりぼっちだ」
「……二人はすぐに日本に戻るのか?」
竜司と雄一郎は何も言わずに頷いた。ミハエルはそうか、と一言だけ言うと彼も同行する意志を伝えた。竜司にも雄一郎にもミハエルにもそれぞれ家族がおり、夫として父親として戻るべき家がある。それでも彼らは遊希を支えることを選んだ。
デュエリストとしての彼女は大人である自分たちも舌を巻くほどの実力を持ち、若干10歳でプロリーグという戦場を戦う彼女には常に敬意を持って接している。しかし、この三人が遊希を気遣うのにはそんな彼女の本性にあった。
それは遊希がプロデュエリストとしてデビューしたばかりの頃である。竜司からとんでもない新人が出たよ、という話を聞いていた雄一郎とミハエルは遊希との初のデュエルで苦戦しながらもなんとか勝利を収めていた。その直後に竜司を介して四人で食事をする機会があり、宿泊しているホテルのレストランへ向かったのだが、雄一郎とミハエルは驚愕した。
「あ、あのっ……今日は、ありがとう……ございました」
その時出会った遊希はデュエルの時に対峙した勇ましい少女ではなく、何処にでもいる普通の少女だったのだ。当時7歳ながらその美貌は10年経てばハリウッドスターやパリコレモデルに匹敵する可能性を秘めていたが、そんな美少女の素顔は他人と目を見て話すことができなかったり、事あるごとに緊張で声を上ずらせたり、出されたピーマンやニンジンが食べれなかったり、と見ていてハラハラして仕方のない少女だったのである。
プロの世界ともなれば表舞台こそ華々しいものであるが、プロというものになる以上どうしても利権や金銭が飛び交うのが実情であり、彼女にはそんな大人の汚い世界には染まり切ってほしくなどなかった。それならばせめて可能な限り自分たちの手で遊希を守っていこう。三人は自然と彼女を気遣うようになっていた。
最初は人見知りな性格もあって中々心を開かなかった遊希であったが、いつだって優しく暖かい竜司、まるで同年代の悪ガキのように接してくる雄一郎、厳しいながらも的確なアドバイスをくれるミハエルという三者三様の大人たちに囲まれた彼女はデュエルそして私生活を通して徐々に心を開いていったのだった。
「正直俺たちが彼女にできることは限られている。でも彼女を支えてあげるだけでも何かの支えになるはずだよ」
竜司のその言葉にプロの世界で20年以上生きてきた三人は改めて結束を誓った。まず、何をするにも情報は大切である。そのためホテル、空港、機内と場所を移しながら彼らは集められるだけの情報を集めようと奔走た。
幸い雄一郎が藤堂グループの社長も兼任しているということもあって各国のメディアや企業に顔が利く。それが功を奏して日本に着くまでに事件のことが次々と竜司たちの耳に入ってきた。竜司たちは今遊希が受けていると思われる目を覆いたくなるような事態に彼らは言葉を失った。
日本の警察およびマスコミ各社からオフレコで伝わってきたのは天宮家の人々が雪の降るクリスマスイブに何者かの襲撃を受けたということである。前々から世界で遊希だけが持っている「デュエルモンスターズの精霊」という力を狙って世界中のマフィアが暗躍していることは裏で聞いていたが、竜司たちやプロリーグを統括する組織によって遊希に護衛がついていたこともあって、マフィアたちは彼女に手を出せないでいた。しかし、痺れを切らした一部のマフィアが遊希本人ではなく家族に手をかけるという凶行に走ったのである。
「一体どこの誰がこんなことを……」
このことが明らかになるのはしばらく後のことなのだが、彼女の家族に狙いを付けたのは極東アジア地域に最大の縄張りを持つマフィアだった。マフィアたちは雪の降るクリスマスイブに都市部から離れた郊外にある遊希の家を襲っては遊希の両親を銃殺。タバコおよび料理による失火によって発生した火災が原因、と殺害を偽装したのである。
ただ、警察の調査およびマスコミの報道によると死亡が確認されたのは遊希の両親だけであり、7歳になる彼女の妹・遊望は行方知れずだともわかった。遊希の両親は彼女だけでも助けようとして、事前に彼女だけを逃していた。そのため彼女だけはマフィアの襲撃を逃れられたと思われるが、それでも当時は雪の降る夜であり、7歳の少女が一人で外出したとなれば遭難してしまっているという恐れもある。いずれにしても無事を確認できていないのが現状だった。
(……遊希ちゃん、どうか気をしっかり……)
竜司たちが遊希の待つ県へと着いたのは事件発生から四日後のことであった。最初は警察署に保護されていた遊希だったが、彼女は帰ってきてから何も口にしようとせず、疲労と栄養失調で倒れてしまい、地元の大学病院へ入院していた。
病室を訪れた竜司たちが見たのはすっかり憔悴しきった遊希だった。美しい黒髪はぼさぼさになり、目の下には濃い隈が現れ、数日間泣き腫らした目はまるでホオズキのように真っ赤に染まっていた。
「遊希……ちゃん」
「……あ、竜司……さん……? りゅうじさん……!!」
ベッドの上から窓に映る景色をぼーっと眺めているだけだった遊希であるが、竜司たちが来たとわかった瞬間、大粒の涙を流して竜司に抱き着き、狂ったように泣きじゃくった。その様を目の当たりにして普段は明るい雄一郎も、何ごとにおいても冷静なミハエルも遊希に慰めの言葉すらかけてあげることができなかった。
年が明け、竜司たちが戻ってきてから少しずつであるが遊希の体調は回復の兆しを見せていた。しばらくは寝たきりが続いていた遊希だったが、病院内を散歩するくらいのことはできるようになった。幸い病院側がマスコミをシャットアウトしてくれていたため、遊希が直撃取材を受けるということはなかったものの、病院の周囲には取材陣が毎日のように陣取り、上空を報道ヘリがバラバラとローターの音を響かせる日々が続いた。
「……あいつらうっさいな。プライバシーってもんを知らねえのかよ」
「日本のマスメディアというものはだいぶ節度がないのだな」
「それが彼らの仕事だ、仕方ないよ。それよりも……事件の捜査は進んでいないのかい?」
竜司たちはここのところ病院近くのホテルに連泊して遊希の面倒を見るようにしていたが、それでも彼らがここに滞在できる時間も残りわずかとなっていた。
表向きには警察の捜査は進んでいると報道されているが、実はそう上手く行っていないのが現状だ。裏では犯人がそのマフィアであることを掴みつつあったのだが、そのマフィアは彼らの拠点がある国の政府に近づき、政府を通して圧力をかけてきているという。
現在の政権与党はこの事件を受けてその圧力に屈してはならないという姿勢を取っているが、その政権を追い落としたい野党にそれに連なる市民団体と一部マスメディアが結託して遊希の名を出しては政府および警察の批判を行い始める始末であった。
「なるほど……これは推測だけど、恐らく裏で手を引いているのは諸外国の政府だろうね。僕や雄一郎、遊希ちゃんのようにプロデュエリストを多く輩出したことで危機感を感じているのかもしれないな」
あくまで推測であるが、と付け足した竜司は表情を変えぬまま、空になったお茶の缶を強くテーブルに叩きつけた。もしその推測が事実であるとすれば、そんなくだらないことのために10歳の少女から家族という掛け替えのない存在を奪ったことになるのだから。
やりきれない思いが三人を包み込む中、病院のロビーを一人の若い女性看護師がやってきた。病院にはお年寄りもいるのに走り回るのは危ないだろう、と思っていたがそんな看護師は息を切らし、肩で息を整えながら竜司たちに伝えた。
―――行方不明だった遊望が発見された、と。
警察の捜索の結果、遊望は発見されたという。一瞬だけ良かった、と胸を撫で下ろす3人であったが、すぐに気付いてしまった。警察からの報告では発見された、とだけしかなく、その中に“無事”という言葉が無かったからだ。聞き違いもしくは伝え忘れであってくれ、と願ったがそれは最悪の結果となってしまった。
母親の手で一人マフィアの魔の手から逃げ出せた遊望であったが、雪の降る中、闇に包まれる山を彷徨い歩いたと思われる彼女は寒さによってそこで力尽き、そのまま7年という短く儚い命を終えた。
野生動物にその亡骸を食い散らかされなかったのは不幸中の幸いであり、警察の霊安室に運ばれた彼女の亡骸はまるで人形のように美しいままであった。血の色が消え、不気味なほど真っ白になったことを除いては。
「……ゆみ……? ゆみ……おねえちゃんだよ? ねえ、おきて。おきてよ……ゆみ!!」
警察から遊望が発見されたことを聞いた遊希は病院を飛び出して警察署へと駆けつけた。遊希は何度も遊望の名を呼びながら、もう二度と応えてくれない、氷のように冷たくなった妹を抱きしめた。
大人しくおっとりとした姉と明朗快活でいつでも元気いっぱいな妹。性格が真逆の二人であったが、姉妹仲はとても良く、七五三の時には美人姉妹として地方紙の一面を飾ったほどの美少女姉妹。嬉しい時は共に笑い、悔しい時は共に怒り、悲しい時は共に泣き、楽しい時は共に笑った。いつでも自分の後をついてくる妹に姉は精一杯の愛情を送り、そんな優しい姉を妹はいつだって尊敬していた。両親だけではなく、そんな妹までもが命を落としてしまったのである。10歳の少女の心を砕くには十分すぎるほどの衝撃であった。
両親、そして遊望の死を受けて遊希はプロデュエリストを引退することを表明。表舞台からは姿を消し、彼女と関われるのは竜司たちだけとなってしまった。やがて遊希はそんな竜司たちとも接することを拒み始め、最後まで彼女を支えようとした竜司もまた遊希は自ら遠ざけたのだ。
「遊希ちゃん……」
「竜司さん。もう、来ないで下さい。私は……親と妹を殺した犯罪者ですから」
「そんな……!」
「みんな言っています。天宮 遊希が精霊を持っていたから。プロになって有名になったから両親と遊望は死んだ、って」
この頃遊希を親殺し、妹殺しという根も葉もない噂が襲っていた。もちろんそれは真っ赤な嘘であるのだが、嘘も100回言われれば真実になるとはよく言ったもので、マスコミの報じることが真実、という誤った認識を持った人々の悪意が傷ついた彼女の心に止めを刺した。
「バカなことを言うな! 君は何も……!!」
「じゃあなんでお父さんとお母さんと遊望は死んでしまったんですか!! なんで……なんで……なんで……!!」
泣きじゃくりながら竜司に縋りつき、彼の胸を叩き続ける遊希。竜司はそんな彼女をただ抱きしめてやることしかできなかった。
「……お願いします。もうそっとしておいてください。私と関わると……竜司さんや蘭さん、鈴ちゃんにまで迷惑をかけてしまうんです。おねがいします……」
竜司は遊希の意を汲むことにした。それから直接会うことは無くなっても定期的に電話やメールなどで会話は続けており、やがて5年後に彼女をデュエルアカデミア・ジャパンへと迎え入れることとなったのである。
*
「……なんで、なんで死んでしまったはずのあなたが生きているの? 遊望?」
「……」
姉の問いかけに妹は何も答えなかった。遊希はさらに話を続ける。
「ごめん、今凄く混乱してる。でもね、2つだけ。言いたいことがあるの。まず1つ目、どんな形であってもあんたと再会できたこと、おねえちゃんとっても嬉しかった」
普段の遊希がまず見せないような穏やかな微笑み。それはまさに愛しい妹を見る姉の顔だった。しかし、その顔はすぐに崩れ、やがて遊希の顔は怒りと戸惑いが混ざったような顔へと変わる。
「そして2つ目……あなた、鈴とエヴァに何をしたの?」
実際そうではないのだが、常々自分のせいで死んでしまったと思っていた妹がどのような形であれ自分の前に現れたということは遊希にとっては喜ばしいことだった。それでも、そんな最愛の妹が自分の親友2人を傷つけたとあれば話は変わってくる。
「何をするも……ただデュエルをしただけですよ? 私も一応デュエリストです。デュエリストがデュエルをするのに理由が必要なのですか?」
「そうね。デュエリストに何故デュエルをする、と尋ねるほど無駄なことはない。でも私が聞きたいのはそこじゃない。どうしてそのデュエルで鈴とエヴァは傷ついているの?」
「……お姉さまもわかっているはずです。デュエルにおいてデュエリストの身体に直接ダメージが行く。その理由を」
遊希の脳裏にはある二文字が浮かんだ。この世界において自分やエヴァ、そして以前綾香たちを操って手駒にした髑髏の仮面が持っていると思われるもの。
「“精霊”……」
「私にもその精霊の力が根付いております。一度命を落としたはずの私がここにいるのも、その精霊のおかげなのですから」
「……まさか、精霊の力で蘇ったとでもいうの!?」
「さすがお姉さま、理解が早いですね。ですが50点といったところです。私の思考、意志、記憶……それら精神的な面は元の天宮 遊望のものと言っていいでしょう。ですが……この身体および力は……天宮 遊望および人間のものではありません」
そう言って遊望はツーサイドアップのヘアスタイルを形成していた頭のリボンを全て解いた。結ばれていた髪がストレートになる瞬間である、彼女の美しい黒髪は瞬く間に銀色の髪へと変化した。
「その髪は……」
「せっかくです。今の私の全てをお見せ致します」
そう言うと遊望は胸の前で両手を合わせる。次の瞬間、彼女の身体は眩い光に包まれ、その姿を全く別のものへと変えた。銀色の髪と遊希に近い雰囲気の顔つきはそのままに、彼女の後ろからは紫色に輝く機械的な翼と尻尾が生えてきたのだ。
「―――今の私は人に非ず。私、天宮 遊望は人として死を迎えた後、デュエルモンスターズの精霊として新たな命を享けたのです。お姉さまの銀河眼の光子竜、エヴァ・ジムリアのレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトと同じ、いやそれ以上の力を持つデュエルモンスターズの精霊となって―――」
「精霊……」
「そう。そして精霊となった私は……行動に移しました。その一例が、これです」
遊望の手には光が集まり、あるものを形成する。それを見た遊希は言葉を失った。
「―――お姉さま、見覚えありますよね? この……髑髏の仮面」
遊望はそう言いながら作り出した髑髏の仮面を顔に付けてみせた。銀色の髪に髑髏の仮面―――竜司と雄一郎、ならびに雄一郎と桜の親子の絆を、エヴァとジェームズの恋心を、遊希と鈴・千春・皐月の友情を。それらを汚く弄んだ、遊希にとって決して許すことのできない存在がそこにはいた。