遊希「そうなの? どんなカード?」
鈴「それがそのカードがどんなカードか忘れちゃったんだって」
遊希「カードの名前忘れるってどうなのそれ? 竜司さん大丈夫?」
鈴「色々聞いてみたんだけど思い出せないんだって」
遊希「じゃあその聞いてみたカードのことを教えてちょうだい? 一緒に考えてあげるから」
鈴「えっと……デッキ融合で簡単に出せるカードって言ってた」
遊希「《超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ》じゃない? その特徴は完璧にドラグーン・オブ・レッドアイズよね? すぐわかるわよそんなもの」
鈴「うん、あたしもそのカードだと思ったの。でも真紅眼融合と《ブラック・マジシャン》と《真紅眼の黒竜》を使わない【青眼】デッキで出せるカードなんだって」
遊希「じゃあ違うわね。ブラック・マジシャンと真紅眼の黒竜、そして真紅眼融合を使わないでドラグーン・オブ・レッドアイズは出せないわ。もうちょっと詳しく教えてくれるかしら?」
鈴「なんで《ドロドロゴン》で代用できるかもわからないんだって」
遊希「いやそれ完璧にドラグーン・オブ・レッドアイズよね? ドロドロゴンでブラック・マジシャン指定して《青眼の亜白龍》とか《太古の白石》を素材にすれば出せるわよね?」
なんで《真紅眼融合》も《捕食植物ヴェルテ・アナコンダ》も入れていない【魔術師】とかで出せるんですかねあのカード
遊望の作り出した髑髏の仮面を見た遊希は言葉を失った。まるで掘りを泳ぐ鯉のように、口を開けたり閉めたりすることしかできなかった。鈴を、千春を、皐月を操った髑髏の仮面の正体が自分の妹である、という事実など到底受け入れられないし、受け入れたくなかったのである。
「信じられない、という顔をされていますね。ですが、全て事実なんです」
それだけ言って遊望はこれまで自分が行ってきたことを事細かに話し始めた。とある強大な力を持ったデュエルモンスターズの精霊と融合し、精霊として生まれ変わった自分の身体が馴染むのに5年の時を要したため、すぐに行動に移すことはできなかった。
しかし、精霊の持つ驚異的な力を完璧に自身のものにした遊望はまさにその精霊という生き物の本能がままに動いた。まず最初に彼女が取ったのは、両親を手にかけたマフィアたちへの復讐であった。
マフィアたちは遊望の死をニュースで知っていただけに、死んだはずの遊望が目の前に現れたことはかなりの驚きようだったという。彼らは奇声を上げながら銃や刃物で遊望を襲ったのだが、精霊となった遊望にそんなものが通じるわけがない。
彼女は精霊の持つ力を解放し、今と同じ姿になるとマフィアを一人、また一人とその爪で引き裂いていった。精霊となった遊望がマフィアたちを皆殺しにするまで1時間もかからなかった。事が事なので公にはならなかったものの、マフィアの一グループが丸々壊滅させられたことは世界中の裏社会に衝撃を与えたという。
「まあそんなことはどうでもいいことですね」
(どうでもいい……? 人の命を……奪うことが……?)
遊望はもちろん遊希にとってもそのマフィアたちは家族の仇である。それでも大多数の人間を殺して回ったことをどうでもいいの一言で片づける遊望に千春と皐月は恐怖する。
「その後は……この髑髏の仮面を作ってアメリカにあるI2社にお邪魔しました」
「I2社……」
髑髏の仮面と黒いローブで身を隠した遊望はアメリカにあるI2社の本社へと侵入、幾重にも張り巡らされた警備をすり抜けてカード保管室へとたどり着いた。そこで彼女は数枚カードを物色し持ち去った。
鈴が使った【紋章獣】、千春を暴走させた【三幻魔】、皐月を弄んだ【三邪神】、エヴァの恋人・ジェームズを凶行に駆り立てた【地縛神】。本来世に出回っているはずのないそれらのカードを全て奪い取ったのは遊望だったのだ。
「私は奪い取ったカードに力を与えました。元々そうなる素養を秘めていたとはいえ、使用者にあれだけの力を与えるカードとは思っていませんでしたが」
そう言って遊望は美しく、かつ不気味な微笑みを鈴、千春、皐月の三人に向けた。遊望はまずアカデミアの学生に化けて鈴をデュエルで倒し、精霊の力を植え付けた【紋章獣】デッキを渡して自らの手駒にした。
そんな鈴は遊望の思うがまま動き、千春と皐月をデュエルで破った。二人にも同様に遊望は精霊の力を植え付けた【三幻魔】デッキと【三邪神】デッキを渡し、同じように自らの手駒にしたのである。
「……あんたが……あんたが私たちを……!!」
「どうでしたか? 私に操られるがまま学友を次々と手にかけた気持ちは?」
「っ!?……」
千春と皐月に操られている当時の記憶はほとんどない。遊希から聞いた話だけでも罪悪感に苛まれていたため、首謀者である遊望の言葉に千春も皐月も返すことはできず、共に悔し涙を流すことしかできなかった。
「まあ、覚えていないでしょうからわからないでしょうね」
「どうして私たちを……」
「……私としてはお姉さまとあなたたちの仲を割くことが目的でした。私の望みを果たすためにはどうしてもお姉さまの周りには人が多すぎたので」
遊望は何も酔狂でこういったことをしていたわけではない。それでも今彼女が何故このようなことをしたのか、を考えていられるほど遊希に余裕はなかった。遊希は遊望が話をしているのにも関わらず、立ち上がるとポケットサイズに折りたたまれていたデュエルディスクを展開し、腕につける。
「お姉さま……何のつもりですか?」
「……見てわからないの?」
「もしかして私とデュエルをするつもりですか? このようなことを言うのもなんですが、お姉さまが今の状態で冷静なデュエルができるとでも?」
竜司は遊希をそうさせている張本人がどの口で言うのか、と思ったが実際問題今の遊希の心理状況はかなり逼迫していると言ってもいいだろう。彼女の中には遊望と会えた喜び、そんな遊望が全ての事件を裏で操っていた黒幕であるということを知った焦り、鈴たちを傷つけられた怒りなど様々な感情が混沌としていたのである。
そんな心理状況ではいくら遊希ほどの腕を持つデュエリストであっても正常な判断を下せるわけがない。それを取り分け感じていたのは今、遊希に最も近い存在である光子竜であった。
―――遊希。
(……黙って)
―――今のお前に……いつものデュエルができるのか?
(黙れって言ってるのが聞こえないの!?)
―――……
(お願い。しばらく黙っていて)
遊希の意志は固かった。光子竜は彼女に言われた通り、彼女に干渉することを控えることにした。
「遊望」
遊希が遊望の名前を呼ぶ。先ほどまで微笑を浮かべていた遊望の顔からはその微笑みは消えていた。
「あんたは道を違えた。姉として、私はあんたを倒さなければいけない」
「倒す……そうですね。私もいずれこうなることは覚悟していました。私の手でお姉さまを手にかけなければいけないということを」
「……その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ。精霊になったかどうか知らないけど―――私の手であんたを地獄へ送り返す。それが、姉としてできる最期の優しさよ!!」
「地獄ですか。お姉さま知っています? 地獄って……そんなに悪いところじゃないみたいですよ? うふふっ」
遊希と遊望。彼女たち姉妹がこのような形で対峙するとは誰が予想できたであろうか。精霊を宿す者同士のデュエルとあって、二人がデュエルディスクを構えた瞬間、閉め切られているにも関わらず部屋には何処からか風が吹き始める。
光子竜は精霊そのものとなった遊望とはまた違った精霊の存在を感知していた。それでもその精霊の正体までは見極めることができずにいた。だが、光子竜はその精霊らしき存在から力以外にもまた別の波動を感じていた。
―――なんだ……なんだこの波動は。
光子竜の心には得体のしれない波動に対する動揺が生まれていた。そんな彼の動揺を知る由もないまま、遊希と遊望のデュエルの火蓋が切って落とされた。
「「デュエル!!」」
先攻:遊望【ドラゴン族】
後攻:遊希【光子銀河】
遊望 LP8000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤)0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
遊希 LP8000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤)0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
☆TURN01(遊望)
「さて、他の皆様には先攻を譲っても絶対に勝てるという自信はありましたが……お姉様相手にはそうさせるわけには行きません」
先攻後攻の決定権を得た遊望は、躊躇することなく先攻を取った。ただ、遊希同様に大型のドラゴン族をデッキに多数採用している遊望のデッキも先攻が強い訳ではない。
「なんでもいいわ、とっとと始めなさい」
「ではそうさせて頂きます。私は手札より魔法カード、トレード・インを発動します。手札のレベル8モンスター1体をコストに2枚ドローします。螺旋竜バルジをコストに2枚ドローします」
先攻は最初のターンはドローすることはできない。そんな先攻ドロー不可というルールの弱点を補うためのカードが遊望のデッキには大量に投入されている。レベル8のモンスターを多く採用している遊望のデッキはトレード・インは必須と言えるカードの1枚であった。
「さらに手札から魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動します。手札1枚をコストにデッキから攻撃力3000以上、守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2体まで手札に加えます。私が手札に加えるのは闇黒の魔王ディアボロスと―――銀河眼の光子竜です」
「銀河眼の光子竜ですって!?」
―――……遊希、落ち着け。確かに彼女の持つカードは私のカードだが、あれは所詮カード。中身のない抜け殻のようなものだ。
確かに精霊・銀河眼の光子竜は遊希の下にしかおらず、遊望の持つ銀河眼の光子竜はあくまでカードでしかない。それでも自分と共にあり、数多の困難を乗り越えてきた光子竜が敵に回るというものは遊希にとってはやはり気分のいいものではなかった。
「どこで光子竜のカードを手に入れたかは知らないけど、私は銀河眼の光子竜というカードを知り尽くしている。そんなカードで挑んで勝てると思ってるの?」
遊希はハッタリをかけてみる。遊望にそれが効くかどうかなど考えている場合ではなかった。そんな中、遊希を案ずる声が後方から届く。
「ゆ……うき……! ダメ、油断しないで!!」
「鈴!?」
「鈴、大丈夫か?」
「パパ……あの子は……あの子は……」
「大丈夫だから、鈴。仇は取るから横になっていて」
竜司に介抱されていた鈴がゆっくりと起き上がる。デュエルに敗れたばかりの彼女は満足に動けないようであったが、エヴァが意識を失ってしまっている今、デュエルで何が起きたのか、そして遊望のデッキがどのようなものなのかを唯一知る人間であった。
(あの子のあの格好……やっぱりあれは遊望……)
「私は手札の星雲龍ネビュラの効果を発動します。このカードと手札の闇黒の魔王ディアボロスを相手に見せることで、その2体を守備表示で特殊召喚します。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、この効果の発動後、ターン終了時まで私は光・闇属性のドラゴン族モンスターしか召喚・特殊召喚できなくなります」
「重いデメリットが付くとはいえ、強い効果ね……」
「更に墓地の螺旋竜バルジの効果を発動します」
《螺旋竜バルジ》
効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2500
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドに光・闇属性のドラゴン族モンスターが2体以上存在する場合に発動できる。このカードを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
(2):自分メインフェイズに発動できる。自分フィールドの全てのモンスターのレベルはターン終了時まで8になる。
「このカードが手札・墓地に存在し、私のフィールドに光・闇属性のドラゴン族モンスターが2体以上存在する場合、このカードを守備表示で特殊召喚できます。この効果で特殊召喚に成功したこのカードはフィールドから離れた場合に除外されます」
「レベル8のモンスターが3体……」
「そして手札の輝光竜セイファートを召喚。私はネビュラとセイファートをリンクマーカーをセット。召喚条件はドラゴン族モンスター2体。サーキットコンバイン! 現れなさい《天球の聖刻印》」
《天球の聖刻印》
リンク・効果モンスター
リンク2/光属性/ドラゴン族/攻0
【リンクマーカー:左下/右下】
ドラゴン族モンスター2体
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手ターンに1度、このカードがEXモンスターゾーンに存在する場合、自分の手札・フィールドのモンスター1体をリリースして発動できる。フィールドの表側表示のカード1枚を選んで持ち主の手札に戻す。
(2):このカードがリリースされた場合に発動する。手札・デッキからドラゴン族モンスター1体を選び、攻撃力・守備力を0にして特殊召喚する。
「そしてレベル8のディアボロスとバルジでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」
―――“闇に生まれし聖なる龍よ。神の影となりて、全てを導く鍵となれ”―――
―――《No.97 龍影神ドラッグラビオン》―――
《No.97 龍影神ドラッグラビオン》
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守3000
レベル8モンスター×2
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードは相手の効果の対象にならない。
(2):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。自分のEXデッキ・墓地から「No.97 龍影神ドラッグラビオン」以外のドラゴン族の「No.」モンスター2種類を選ぶ。その内の1体を特殊召喚し、もう1体をそのモンスターの下に重ねてX素材とする。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できず、この効果で特殊召喚したモンスターでしか攻撃宣言できない。
「No.……!?」
―――私のカードを持っているのだ。No.を持っていてもおかしくはない……
「ドラッグラビオンの効果を発動します。オーバーレイユニットを1つ取り除き、私のEXデッキから同名カード以外のドラゴン族Xモンスター2種類を選びます」
ドラッグラビオンの咆哮と共に2枚のカードが浮かび上がる。いずれもNo.のカードであり、そのうちの1枚は遊希も所持しているカードだった。
「お姉様もこのカードの強さはよく知っているはずです。私はNo.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシーを特殊召喚し、もう1枚のカード《No.46 神影龍ドラッグルーオン》をタイタニック・ギャラクシーのオーバーレイユニットにします!」
「タイタニック・ギャラクシー……」
―――タイタニック・ギャラクシーは1ターンに1度、魔法カードの発動を無効にして自身のオーバーレイユニットに変える効果とオーバーレイユニットを1つ取り除くことで攻撃対象を自身へと変える効果を持っている……
「ドラッグラビオンの効果を発動後、私はモンスターを特殊召喚できず、この効果で特殊召喚したモンスターでしか攻撃宣言ができません。まあ、先攻なのでそう関係はありませんが……墓地のセイファートの効果を発動します。このカードをゲームから除外し、墓地の光・闇属性のドラゴン族モンスター1体を手札に戻します。ネビュラを手札に戻して……まあ、こんなものでしょうか? カードを1枚セットして、ターンエンドです♪」
遊望 LP8000 手札2枚
デッキ:31 メインモンスターゾーン:2(No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ORU:2、No.97 龍影神ドラッグラビオン ORU:1)EXゾーン:1(天球の聖刻印)魔法・罠(Pゾーン:青/赤)1 墓地:3 除外:1 EXデッキ:11(0)
遊希 LP8000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤)0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
遊望
□□□伏□
魁□影□□□
聖 □
□□□□□□
□□□□□
遊希
○凡例
聖・・・天球の聖刻印
影・・・No.97 龍影神ドラッグラビオン
(タイタニック・ギャラクシーは言わずもがな、龍影神ドラッグラビオンは相手の効果の対象にならない。そして天球の聖刻印は相手ターンに自分の手札・フィールドのモンスターをリリースすることでフィールドの表側表示のカード1枚を持ち主の手札に戻すことができる……)
攻守共に最高値は3000と遊希のデッキであれば上回ることは容易であり、また銀河眼の光子竜はその効果からXモンスターに強い。しかし、魔法カードによる全体除去を狙おうものならタイタニック・ギャラクシーで防がれ、大型モンスターを出そうものなら天球の聖刻印でバウンスされる。そして次のターンまでドラッグラビオンを残せば更に別のNo.モンスターをEXデッキから出されるリスクもあった。
(そして輝光竜セイファート……全部の効果は知らないけれど、1枚でランク8のX召喚ができる星雲龍ネビュラをサルベージされていて、遊望の手札の1枚はレベル8の光子竜)
―――遊希。
(……何よ)
―――頭は冷やせたか?
(……)
―――お前の気持ちはわかる、私も動揺を隠せない。だが、こんな時だからこそ落ち着いて事に臨むんだ。
(……うん。ごめんね、さっきはキツくあたって)
妙にすんなり謝る遊希に光子竜はやはり違和感を感じていた。彼女の心理状況はやはりと言っていいか、安定はしていない。それならば自分が遊希を支えなければならないと光子竜は改めて誓うのであった。
『銀河の竜を駆る少女』2019年内の更新はこれで最後になります。本年中は大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願い致します。