「フィールドにモンスターがいないのに、RUMですって!?」
RUMというカードは、フィールドのXモンスターをランクが1つ上のXモンスターにランクアップさせるために必要なカードである。しかし、今の遊望のフィールドにはXモンスターはおろかモンスターすら存在しない。そのため本来ならRUMというカードを遊望は発動することすらできないはずである。
「このカードを……七皇の剣を普通のRUMと同じと思わないでください。このカードが私の中に眠る真の力を目覚めさせるのです!」
《RUM-七皇の剣》
通常魔法
このカード名の効果はデュエル中に1度しか適用できない。
(1):自分のドローフェイズに通常のドローをしたこのカードを公開し続ける事で、そのターンのメインフェイズ1の開始時に発動できる。「CNo.」以外の「No.101」~「No.107」のいずれかをカード名に含むモンスター1体を、自分のEXデッキ・墓地から選んで特殊召喚し、そのモンスターと同じ「No.」の数字を持つ「CNo.」モンスター1体を、そのモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。
「このカードは自分のドローフェイズ時に通常のドローをしたこのカードを公開し続けることで、そのターンのメインフェイズ1の開始時に発動できます」
「……随分と面倒な発動条件ね」
「強い力にはいつでもリスクが伴うものです。このカードを発動することで、No.101から107までのいずれかをカード名を含むXモンスター1体をEXデッキまたは墓地から特殊召喚し、そのモンスターと同じCNo.(カオス・ナンバーズ)と名のついたXモンスター1体をそのモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚します」
遊望の口にした【CNo.(カオス・ナンバーズ)】とはNo.の中でも選ばれたモンスターのみが到達できる境地にある存在である。カオスの力をその身に受け入れることで、その力をさらに高いレベルに昇華させ、No.においては「進化」または「真の力を解放する」のだ。
銀河眼の時空竜を含むオーバー・ハンドレッド・ナンバーズはNo.の姿は本来その身に秘めた力をセーブするための仮の姿であり、カオスの力を取り込んで解放したCNo.の姿こそが言わば真の姿なのである。
「今からお姉さまにお見せするのは私の、時空竜の真の姿です! 七皇の剣の効果で墓地のNo.107 銀河眼の時空竜を特殊召喚します!」
天空に七つの赤い星が瞬いた瞬間、墓地より時空竜が蘇る。時空竜は金色のオーラを纏っており、その力は先ほど対峙した時より遥かに強いものとなっていた。
「時空竜よ―――七皇の力を得て己が真の姿を解放せよ!!」
時空竜は劈くような咆哮をあげ、金色の光となって天へと昇っていく。天空には混沌が渦巻き、光と闇が合わさった力が大爆発を起こす。その力は精霊を宿す遊希、遊望、エヴァのみならず周囲にいた竜司、鈴、千春、皐月の四人にもはっきりとわかるほどのものとなっており、大気と大地がその力に怯えるが如く震撼を始めた。
「これは……地震?」
「違う。あのカードの力よ!」
混沌渦巻く空に輝く7つの星が点と線となって繋がった。7つの星は1つとなり、天空に剣となってその姿を顕現させる。
―――“混沌の世界に七つの星輝く時。我に命与えし者、真の姿を解き放つ! 逆巻く銀河を貫きて、時の力溢れる世界より飛来せよ! 永遠を超える龍の星!!”―――
混沌から流れ落ちたのはひと粒の雫のような光。その光はやがて金色の剣のような物体へと姿を変え、その金色の剣は1体の龍へと姿を変えた。
(あのドラゴンは……私を倒した……)
3つの頭に巨大な身体と6枚の翼。身体は鋭い刃のような鱗で覆われ、右胸には自身を現す「107」の刻印。そのドラゴンこそ、遊望が鈴を散々に打ち負かしたドラゴンだった。
―――ランクアップ・カオス・エクシーズチェンジ!! 顕現せよ!! CNo.(カオス・ナンバーズ) 107!!―――
―――《超銀河眼の時空龍》(ネオ・ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン)―――!!
《CNo.107 超銀河眼の時空龍》
エクシーズ・効果モンスター
ランク9/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3000
レベル9モンスター×3
(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このターン相手はフィールドで発動する効果を発動できず、このカード以外のフィールドの全ての表側表示のカードの効果はターン終了時まで無効化される。
(2):このカードが「No.107 銀河眼の時空竜」をX素材としている場合、以下の効果を得る。●このカード以外の自分フィールドのモンスター2体をリリースして発動できる。このターン、このカードは1度のバトルフェイズ中に3回までモンスターに攻撃できる。
「超銀河眼の時空龍……!! だけど、光子竜皇の効果を発動すれば超時空龍の攻撃力を上回るわ!」
「あら、お姉さまらしくない。私が何の策もなく真の力を開放するわけないじゃないですか。私は超時空龍の効果を発動します! このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除くことで、このターンお姉さまはフィールドで発動する効果を発動できず、このカード以外のフィールドの全ての表側表示のカードの効果をターン終了時まで無効にします!」
「なっ……!?」
「時も、世界も……全てが私の思うがまま。すべからく支配せよ! “タイム・タイラント”!!」
超時空龍から発せられた力によって遊希の中の時そのものが巻き戻るような不気味な感覚に襲われる。時空竜の効果である“タキオン・トランス・ミグレイション”はバトルフェイズの開始時のみに発動できる効果であり、フィールドに存在するモンスターの効果こそ無効にするが、魔法・罠カードの効果までは無効にできない。自身の効果で攻撃力上昇と2回攻撃が可能になる者の、次元幽閉やミラー・フォース系のような戦闘反応のカードは対処できないという弱点があった。
しかし、超時空龍となって得た“タイム・タイラント”はカードの種類問わず全てのカードの効果を無効にし、かつ相手にカードの発動をさせないという効果がある。最もモンスターの効果を無効化できるのは発動ターンのみ、と永続的に無効化する進化前より短くなっているが、召喚反応の罠やカウンター罠に対処できないという点を除けばその制圧力の強さは火を見るよりも明らかなのだ。
「っ……!」
「これで光子竜皇の効果は無効になります。攻撃力を上昇させる効果は発動できません。全てを終わらせましょう、お姉さま?」
「何を言って……」
「お姉さま、私はお姉さまを本気でお慕いしております。故に何をするにも本気なんです。デュエルにおいても、お姉さまを愛し慕う気持ちでも―――CNo.107 超銀河眼の時空龍よ、お姉さまの光子竜皇を攻撃!!」
超時空龍の3つの頭に膨大な力が集まっていく。それに対する光子竜皇も自身の持てる全てのエネルギーを収束させる。攻撃力では劣っているし、普通にぶつかれば破壊される。しかし、それを理解した上で光子竜皇はただでは破壊されてたまるかとばかりに迎撃態勢に移っていた。
「行きなさい!“アルティメット・タキオン・スパイラル”!」
CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500 VS No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK4000
超時空龍と光子竜皇。2体の銀河眼の攻撃は光と光となって強大な力をもって混じり合い、その力はまさに天地を震撼させるほどのものとなっていた。激しい揺れと衝撃に耐えながらもデュエルを続ける遊希と遊望。2体の龍はまさにそんな姉妹のこのデュエルにかける意志を感じさせるほど力強かった。
その力の前にデュエルのために頑丈に作られた教室の壁にはヒビが入り、ガラスが音を立てて吹き飛ぶ。その衝撃はアカデミア全体へと生じ、アカデミア全体および街全体を強い地震が襲うこととなった。机に向かって書類作業に追われていたミハエルは地震を感じ、机の下へと避難するものの、手にしたスマートフォンには地震の情報は表示されていないことに疑問を持った。
(この揺れは……一体……?)
ミハエルは無意識に職員室を飛び出した。彼も歴戦のデュエリストである、デュエリストとして過ごしたために培われた直感が彼を突き動かしていた。
「無駄な足掻きを。ですが、お姉さまの足掻く姿もまた美しい……ですが、この力の差は埋まらない!!」
数十秒ほど拮抗した2体の竜の戦闘であるが、やがて素の攻撃力で勝る超時空龍の攻撃が光子竜皇の攻撃を圧倒し始めた。そして光子竜皇は断末魔の悲鳴と共に光の中へと消えていった。
「光子竜皇!!」
遊希 LP2250→LP1750
「きゃああっ!!」
―――遊希!!
光子竜皇が破壊された衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされる遊希。数値の上ではわずか500のダメージであるが、その500のダメージは今までのデュエルで体験したことがないほどの衝撃だった。
―――大丈夫か、遊希!
(嘘、たった500のダメージでこんな……?)
―――幻魔や邪神が可愛く思えるレベルとはな。さすがに恐れいった。
「超時空龍の攻撃を受けた立ち続ける。さすがお姉さま、後ろで倒れている紛い物たちとはやはり違います」
「……遊望!! あんたは鈴やエヴァに勝ったのかもしれないけど、だからといって二人を侮辱することは許さない!」
「……お姉さま、どうしてあんな人たちのためにお姉さまが怒っているのですか? あんな人たち、ただの他人じゃないですか?」
「あんたにはわかんないでしょう。鈴やエヴァ、千春や皐月は―――私にとってはただの他人じゃないの。大事な親友であり、仲間なの。お父さんやお母さん、遊望がいなくなった私を支えてくれた。家族と同じくらい大事な存在。私は、そんな仲間たちのため、このデュエルに勝ってみせ―――」
―――はぁ、お姉さま……寝言は寝て言ってください。
遊望のフィールドに君臨するように存在していた超時空龍の姿が消える。そして彼女のフィールドには墓地に存在するはずの、彼女の駆る銀河眼の光子竜が現れていた。
「……えっ……?」
「ずっと伏せていたカード、やっと使うことができました。罠カード《竜の転生》」
《竜の転生》
通常罠
(1):自分フィールドのドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。その自分のドラゴン族モンスターを除外し、自分の手札・墓地からドラゴン族モンスター1体を選んで特殊召喚する。
「竜の……転生……?」
「私は超時空龍を除外することで、私の墓地の銀河眼の光子竜を特殊召喚しました。当然、まだ私のバトルフェイズは続いています。これが何を意味するかおわかりですよね?」
遊希の残りライフは1750。対する銀河眼の光子竜の攻撃力は3000。これが意味することはその場にいる誰もが理解していた。
「そ、そんな……嘘……」
遊希は必死に自分の目の前で起きている状況を飲み込もうとする。しかし、そこに普段の冷静沈着な彼女の姿はない。今まさに自分に襲い掛かろうとしている銀河眼の光子竜を前に、彼女はまるで蛇に睨まれたカエルのように動くことすらできなかった。
「お姉さま、これで―――これで全てが終わります。銀河眼の光子竜でお姉さまにダイレクトアタック」
「あ……ああ……」
―――遊希、逃げろ! 遊希ッ!!
光子竜は必死に呼びかける。それでも遊希の頭の中は真っ白になっていて動くことも考えることすらもできずにいた。
―――“破滅のフォトン・ストリーム”―――
銀河眼の光子竜 ATK3000
―――遊希ッ!!……遊……!!
(光子竜……そんな、嫌っ……!!)
迸る破滅の光が自分の身体を、意識を、心を飲み込んでいく。そんな感覚に襲われた彼女の耳に光子竜の言葉は届かない。それと同時に光子竜の存在を表わす波動も徐々に感じられなくなっていった。
遊希 LP1750→LP0
*
光子竜の攻撃はまさに暴れ狂う竜が如く、教室中を包み込んだ。あまりにも激しい光に直視することはできなかったが、その場にいた誰もが感じていた。遊希がこのデュエルに敗れたという事実を。攻撃を受けた遊希の身体は大きく吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。あまりにも強い力だったのか、制服はところどころボロボロになり、遊希が愛用しているデュエルディスクは無残にも破壊され、中にセットされていた遊希のデッキのカードが周囲に散乱していた。
「遊希……遊希っ!!」
敗れた遊希の眼からは一粒の涙がこぼれ落ちる。その眼に光はなく、まるで死んだ人間のそれのように虚ろになっていた。鈴は倒れたまま動かない遊希の元にふらふらになりながらも駆け寄ろうとしていた。
「鈴……駄目だ、戻れ……」
「えっ……」
意識を取り戻したエヴァのその声に鈴が足を止めた瞬間である。彼女が進もうとした先に灼熱の炎が壁となって現れたのは。もしエヴァが止めていなかったらきっと今頃鈴の身体は灼熱の炎によって灰と化していただろう。目の前に起きていること、そして数歩足を進めていたら自分の命はなかったかもしれない。それを実感した鈴はその場に力無く座り込んでしまった。
「あっ……あああ……」
「それ以上近づくことは許しません。そもそもあなたには最初から興味ありませんから」
怪しい笑みを浮かべながら、遊望は倒れて動かない遊希の身体を抱き上げた。気を失った遊希の腕がぶらりと垂れ下がる。
「遊希!?……遊希をどうするつもり!?」
「どうするも何も……私はお姉さまの妹ですよ? 私の家へと帰るのです」
「家……?」
「もう私の願いはほぼ叶いました。もう言ってしまってもいいでしょうね。私が皆さんを操り、お姉さまと私のデュエルにこぎつけた本当の理由……それはお姉さまを私のものにするため」
遊望の眼からは涙がこぼれ始める。遊望は遊希たち家族と共にこれから長い時を共に過ごすはずだったが、彼女の命は理不尽な手によってわずか7年で幕を閉じてしまった。
しかし、何の因果か精霊と融合して新たな命を得た彼女は、遊希を己が物へすべく精霊としての力を蓄え、計画を成就させるため、自らの願いを叶えるため、全てを実行に移した。I2社からカードを奪い、鈴たちを洗脳して操り、そして今日遊希たちの目の前に現れた遊望。それも全て遊希を自分のものにするためだったのである。
―――お姉さま、これからはずっといっしょ。もう誰にもお姉さまを渡しません。私たちの失われた姉妹の時間をこれから、取り戻しましょう?
遊希を抱きかかえた遊望の姿が銀河眼の時空竜の姿へと変わる。そんな遊望を鈴が呼び止めた。ここで自分が動かなければいけない、確証はないが、彼女はそう感じてならなかった。
「待って! それは遊希が望んだことなの!?」
―――お姉さまは……望んでいないでしょうね。
「だったらそんな無理やりな方法を取る必要はないじゃない! もし生きてるんだったら、また昔のように暮らせばいいんじゃないの!?」
―――死んだことになっている人間を受け入れてくれる場所がこの世界にあると思うのですか? あなたは。今でこそだいぶ薄れたとはいえ、お姉さまはずっと一人で苦しんできた。親殺し、妹殺し―――謂れのない誹謗中傷をその身で受けてきたお姉さまの心の痛みが、苦しみが、貴様にわかるというのか!!
「っ!?」
―――精霊をその身に宿しもしないくせに、利いた風な口を利くな! 貴様のような力もないくせに綺麗事を言う人間など……反吐が出る。
遊望が、時空竜が雄叫びを上げた瞬間である。天井に渦のようなものが生じ始めた。
「あれは……」
―――このワームホールは世界と世界を繋ぐもの。私のような選ばれた者だけが開くことのできるもの。最も、お姉さまの光子竜やエヴァ・ジムリアのレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでも開けないことはないとは思いますが……では皆様、今までお姉さまと仲良くして頂いてありがとうございました。形だけの上っ面の絆だったとしても、お姉さまは幸せだったでしょう。ですがもう心配ありません。お姉さまは私と共に恒久の時を生きるのですから。
このままだと遊希が連れていかれてしまう。絶対に止めなければいけない、とは思うものの鈴はその場から動くことができなかった。遊望に言われた「精霊をその身に宿しもしない」という言葉が彼女の心に深く刺さっていた。
(精霊を持たない私は……遊希の心の痛みを理解できていなかったの……?)
「鈴! 鈴ってば!!」
「千……春……」
「遊希さんが、遊希さんが!!」
「遊希を……連れてなどいかせない! スカーライト!!」
―――っ、待てってえの!!
この中で唯一精霊を持つエヴァがスカーライトを召喚し、時空竜を止めようとする。しかし、傷つき、治癒が万全でないスカーライトと時空竜では力の差があまりにも大きすぎた。スカーライトの放った灼熱の炎は時空竜の作り出した光のバリアによって防がれ、弾き返されてしまう。
―――うふふっ、今の貴様の力では私に触れることすら不可能ですよ。
―――ねえ……時空竜。
―――……何でしょうか。
―――あんたは、こんなことをして、それで満足なの?
―――……ええ、とても。最高の気分です。
時空竜はそれ以上スカーライトの言葉に応えることはなかった。そして遊希を連れたまま、時空竜の身体はそのままワームホールへと吸い込まれていく。
「嫌っ、待って! 待ってってば!!」
―――あら、涙だけじゃなくて鼻水まで……あまりに哀れで醜い存在なのでしょうか。あまりにも醜いので一つだけいいことを教えてあげましょう。私と見つけ出し、お姉さまを取り返したいのであれば、この世界のどこかにいる私を見つけ出してみせることですね。最も、私を見つけたいのであれば……あと光子竜、スカーライト以外に精霊が1体は必要になるでしょうが。
―――あたしと光子竜以外の精霊……そんなのいるわけ……!
意味深な言葉を残し、消えていく時空竜。追いすがる鈴やエヴァたち、スカーライトを嘲笑うかのように彼女は姿を消した。これまでの喧騒が、激戦が嘘のように静寂が戻った。
「校長、こちらでしたか。いったい何が……?」
「そんな……嘘でしょ? 嘘だよね、嘘だって言ってよ……遊希、遊希ぃぃぃ!!」
すっかり静かになった教室には鈴の泣き叫ぶ声だけが響き渡っていた。親友の、自分を呼ぶその声は―――遊希にはもう届かない。
*
―――うふふっ、お姉さま。これで私とお姉さまはずっと一緒。誰にも邪魔はさせません、これから姉妹の時を作り直しましょう?
作り出されたワームホールの中を進む時空竜は遊希を優しく抱き抱える。意識を失い、虚ろな目をした遊希に時空竜の、遊望の言葉は届かない。
―――お姉さま……あなたは、私が守ります。