銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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希望へつながる道

 

 

 

 

 

 光子竜を目覚めさせたことで鈴たちの前に希望の道が拓かれる形となった。そしてさらなる吉報が彼女たちの下へともたらされたのはそれから2日後のことである。

 それは竜司の要請を受けてI2社と海馬コーポレーションのデュエルモンスターズ界における最大手2社が協力し、雄一郎が社長を勤める藤堂グループが資金を、ジェームズの実家であるアースランド・テクノロジーが技術を提供することで作り上げた特殊な装置が完成したという知らせだ。

 

「スカーライトと青眼は私たちの身体に宿る精霊だ。私たちが傍にいなければ本来の力は発揮できない」

 

 エヴァのその言葉を受けて、エヴァと鈴は遊希を助けに行くという決意を確固たるものとしていた。ただ、遊望がやったように精霊たちが力を合わせれば遊希のいる場所へと繋がる道が拓かれるかもしれない。

 そこで真価を発揮するのがこの特殊な装置である。この装置は精霊の持つ力を可視化し、精霊の謎を解明することで人間と精霊の結びつきを強めようという目的で作られたのだ。

 遊希が銀河眼の光子竜という精霊をその身に宿していることはデュエルに携わる者なら信じる信じないは別として誰もが知っていることだ。そこでその力を解き明かそうとしたI2社の科学者たちは遊希のデュエルのデータを密かに集め、それを利用して人間と精霊を繋ごう、と考えたのである。

 

「I2社ってそんなことをしてたんだ……で、遊希はそれを?」

「知っていたら受けると思うかい?」

「……確かに」

 

 ははは、と苦笑いをする鈴。最も遊希がプロの世界を引退してしまったため、計画はその時点では未完で終わる。それでも精霊の力を覚醒させたエヴァのデュエルや遊希のライディングデュエルからデータを取ることで開発は再開されていたのだが。

 

「で、その機械は未完成なんでしょ? ちゃんと機能するの?」

「出来自体は雄一郎やジェームズくんの会社の力を借りても70%と言ったところかな……」

―――だが、70%もできているのであれば話は別だ。私とスカーライト、青眼も力があれば補える。

 

 光子竜は置き去りにされた遊希のデッキと共に一時的に鈴が所持することになった。光子竜が2体の精霊の力を得てパワーアップしたのと、鈴の精霊使いとしてのポテンシャルが予想以上に高かったことで遊希と同じように鈴の意識も共有できるようになったのだ。

 

―――最も、私たちに無断でそのようなデータを取っていた、というのは気に食わんがな。

「……だってさ。パパ」

 

 そして光子竜ら精霊の言葉を鈴が間に入って伝える。これもまた鈴に任せられた大事な任務となっていた。

 

「うっ……それについては済まなかったと思っているよ」

―――だが、そのおかげで遊希を助けられるかもしれない。それに関しては……礼を言う。

「良かったねパパ。光子竜がありがとう、だってさ。ところでパパ……話したいことがあるんだ」

 

 一呼吸おいて真剣な顔になる鈴。遊希を助けに行くことについてであるが、相手はそれこそ天宮 遊望という少女の姿をしていたとしても、その小さな身体には精霊である銀河眼の時空竜の力が宿っている。その力の全貌こそ未知数と言えども、光子竜やスカーライトを擁する遊希やエヴァをも打ち破ったほどの強大なものだ。まともに相手取るならば、精霊の加護を受けているデュエリストでなければ不適格である。それは鈴とエヴァ、そして精霊たちが相談を重ねた上での総意だった。

 

「……つまり、私はミハエル教頭では足手纏いになりかねないということかな?」

「そ、そんな悪い言い方をするつもりは」

「いいんだ、それは私もわかっている。精霊を倒すには精霊をぶつけるしかない。それが遊希くんを助けるために必要なことだとすれば我々は受け入れよう」

 

 竜司もミハエルも現実を見れる大人である。彼らは何が正しくて何が間違いかを自分で把握できる。しかし、それができないであろう二人の顔が鈴の脳裏には浮かんでいた。

 

「パパ……千春と皐月なんだけど」

「わかった、彼女たちは関わらせない」

 

 もし遊希を助けに行く、となればまず間違いなく千春と皐月も乗ってくるだろう。しかし、いざ戦いとなれば精霊を持たない二人を守れるだけの保証がないのだ。仮に遊希を助けられたとしても、その途上で千春と皐月の身に危険が及んでしまっては元も子もないのだ。

 親友を裏切ることになりかねない決断を下すことは鈴にとってはとても厳しいことだった。それでも、鈴はこれ以上誰かが傷つく姿を見たくない。そんな想いがあったのだ。

 結局、竜司やミハエルら周囲の人間に協力してもらい、装置の存在については箝口令を敷いてもらうことでこのことをアカデミア内で知るのは竜司、ミハエル、鈴、エヴァの四人だけになっていた。

 

「友達を助けるために友達に嘘をつく……私、酷いね」

―――鈴……

―――お前は何も間違っていない。あの二人のデュエリストとしての腕は認めるが精霊が関わるとなると別の話だ。

 

 鈴は自分の中の罪悪感と戦いながら寮の部屋に戻った。秋も終わりが近づき、冬へと入るにつれて陽が落ちて闇に包まれる時間が早くなっていた。

 

「おかえり鈴、もうすぐ夕ご飯できるわよ!」

「もし良ければお風呂お先にどうぞ」

「うん……」

 

 一人になってから、隣室の千春と皐月は定期的に鈴の部屋に訪れては共に過ごすようになっていた。しかし、優しくして貰えば貰うほど、鈴の心はこの二人の親友を裏切らなければならない、という事実にちくちくと痛むのだ。アカデミアの地下室にI2社と海馬コーポレーションから装置が持ち込まれたのはそんな折のことだった。

 装置と聞くとどうにも仰々しいものを感じるが、いざ届けられた装置を見てみると大人一人ほどの大きさをした細長い機械だった。見た目こそコンパクトだが、時代が進むと共にパソコンや携帯電話が小さくなっていったようにこの手の機械も小型化が進んでいるのだろう。

 最も、大きい小さいに関係なく次元転送装置のような非現実的なものを作り上げること自体が普通では考えられないことなのかもしれないのだが。

 

「ジェームズ!」

「エヴァ。元気そうで何よりだよ」

 

 装置を運び込む際に同行したのは藤堂グループの社長で美咲の父、そして竜司の旧友である雄一郎とアースランド・テクノロジーの後継者でエヴァのフィアンセであるジェームズだった。一度は破綻した二人であるが、あの事件を契機によりを戻したことでこうして両親公然の恋仲となっている。

 

「おうおう、お熱いねぇ若者は」

「すまないな、雄一郎。忙しいのにわざわざ」

「どうってことねえよ。なにより事の重大さが重大さだしな」

 

 竜司はもとより雄一郎にとっては遊希も知らない仲ではない。彼女が拉致されてしまい、そしてその犯人がかつて自分を操っては娘に手を出させた相手となれば雄一郎としてもどうにか一矢報いてやりたい相手でもあるからだ。

 

「さて、すぐにでも装置を起動させたいところだが……生憎テスト運用もまだなんだよなぁこれが」

「今日ここに装置を持ってきたのは銀河眼の光子竜と鈴さんの深淵の青眼龍、エヴァのスカーライトとこの装置がどのくらい親和するかのテストです。光子竜によると装置の完成度が70%ほどなら精霊の力で十分に補えると聞きましたが、それもあくまで予測でしかない。なのでまずは実際に精霊の力を通してどのくらいこの装置が力を発揮できるかを確認します」

 

 ジェームズが装置のスイッチを押すと、カードを置くためのスペースが装置から引き出される。このスペースには海馬コーポレーションのデュエルディスクのノウハウが応用されており、ここにカードを置くことで実際のデュエル同様にモンスターの姿を投影できるようになっているのだ。

 3つあるスペースは三角形の頂点にあたる位置にあり、一番上の頂点に光子竜、左下に深淵の青眼龍、右下にスカーライトのカードを置く。するとデュエルでモンスターが召喚されたかのように3体のドラゴンのソリッドビジョンが現れた。だが、この装置に備わる機能はそれだけに留まらなかった。

 

「光子竜、どんな気分?」

「普通のデュエルディスクとなんら変わりないようだが……? ん、待て。今私の声が……」

「そうです。このソリッドビジョンは今の人類が実現できる最大限の技術を取り込んでいるので精霊使いでない僕たちも精霊の声を聞くことができるようになるんです」

 

 精霊使いでなくとも自分たち精霊とコミュニケーションが取れる。その事実に光子竜は腕を組み、感嘆の言葉を漏らす。

 

「人間の技術も侮りがたいな……精霊に勝るとも劣らない。ああ、自己紹介が遅れたな。改めて名乗らせてもらおうか、私は銀河眼の光子竜だ。天宮 遊希に宿る……いや、宿っていた精霊だ。皆、今まで遊希を支えてくれてありがとう。この通り感謝している」

 

 まるで人間のように言葉を発し、ぺこりと頭を下げる光子竜の姿に竜司やミハエルはもとより開発関係者である雄一郎やジェームズも驚きを隠せないようだった。最も光子竜本来の性格もあって立ち居振る舞いが何処か尊大に感じてしまうのは仕方のないことなのかもしれないが。

 

「マ、マジかよ」

「これが目の前で起きているのだからそうなのだろうな……」

「いや、こちらこそ……彼女が辛い時によく支えてくれたね、ありがとう」

 

 丁寧なあいさつを交わす光子竜の横でスカーライトは困惑していた。エヴァはともかく精霊使いではない他の人間とこうして話す機会がやってくるなど思ってもみなかったからだ。

 

「あー……これはあたしも自己紹介しなきゃいけない流れ? えっと、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトです。あの……エヴァの精霊やってます」

「スカーライト、なんか適当だな」

「しょうがないじゃん、思いつかなかったんだからさ!!」

 

 口喧嘩を始めるエヴァとスカーライトを宥めようとジェームズが仲裁に入るものの、スカーライトは「次エヴァを泣かしたら承知しないからね!」とジェームズにまで小言を言い始めてしまったためますます口論は飛び火した。その脇でどうしようとおろおろしている深淵の青眼龍に竜司が声をかけた。

 

「君が、深淵の青眼龍だね」

「あっ……はい。あなたが……鈴のお父さん」

「ああ、そうだよ。すまないね、この世界に目覚めたばかりなのにこのようなことに巻き込んでしまって……日々戸惑っているだろう?」

「えっと……正直に言えば……そうです。でも怖くとかはないです。だって鈴が傍にいてくれるから」

 

 青眼が精霊として目覚めてまだひと月も経っていない状況であるが、勝手の違う人間の世界においてこうして不自由なく過ごせているのには鈴の存在があった。

 鈴は青眼が精霊として目覚める前からたびたび心を通わせてくれたこともあり、彼女の人間に対する恐怖心や不信感はとっくに無くなっていたのである。精霊にしては内気な青眼が鈴以外の人間と普通に会話ができるのも一重に彼女の努力の賜物でもあった。

 

「それに……遊希は鈴の友達です。鈴の友達ということは……すごくいい子なんだと思います。だったら……鈴のためにもその友達を助ける力になりたい、そう……思っています」

 

 青眼のその言葉に竜司は安心したかのような微笑みを浮かべて頷く。その時の竜司の顔はどこか鈴に似ているように思えた。その後、光子竜、スカーライト、青眼の3体による出力調整が行われた。データを見ながらジェームズが精霊たちに力の出し具合について指示を出すが、何分慣れない機械に対する力を出すためそれについては光子竜たちも四苦八苦しているようだった。

 それでもある程度のデータが取れたジェームズは1週間後を目途に装置の最終調整を終わらせるという。デュエルについては自信のある鈴やエヴァであってもこの手の機械に対してはジェームズのような専門家に任せなければいけなかった。

 

「ジェームズ……さん。あなた一人で大丈夫なの?」

「呼び捨てでも構わないよ。そうだね、さすがに僕一人では厳しいから本社から腕利きのエンジニアを連れてきている」

「あまり無理をするのではないぞ……」

「わかっているよ。でも僕としても僕にできる形で遊希さんを助けたい。遊希さんが助けてくれたことで僕も救われたし僕とエヴァもやり直すことができたから……」

「ジェームズ……!!」

 

 目の前に自分がいるのに所構わずアツアツになれるあたり本当にこの二人は仲良しなんだろうなぁ、と鈴は小さくため息をついた。

 

―――いわゆるリア充ってやつ?

―――リア……なんだそれは。

―――えっと……人間界の言葉でリアル、つまり……生活が充実している人のことを指すらしいです。

―――そんな言葉があるのか……うむ、遊希には当てはまらないな。

―――あー、わかるわー。

 

 そして見た目が立派なドラゴンのものとは思えない会話が鈴の脳裏に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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