「うん、その調子よ皐月! 一気に畳みかけちゃいなさい!」
鈴と皐月、二人がそれぞれの想いを秘めてデュエルを行っている中、千春は一人いつもと同じように振る舞っていた。三度の飯よりデュエル、という姿勢を地で行く彼女はそのデュエルが他人のものであろうとまるで自分のデュエルのように臨んでいた。
「千春……」
「何エヴァ? そんな辛気臭い顔しちゃって。あ、まさか皐月に勝ってほしくないんでしょ?」
「い、いやそういうわけでは……」
「まあ私としてはどっちが勝ってもいいんだけどね。仮に皐月が負けたら次は私がデュエルをするまでだけど」
(千春……)
―――うーん、あたしとしてはなんとなく千春の気持ちもわからなくないなぁ……
☆TURN06(鈴)
「あたしのターン、ドロー!!」
―――そのカードは……
今鈴がドローしたカードはデッキ改造にあたって抜くか抜かないか迷っているカードの1枚だった。今までの鈴のデッキならいざ知らず、深淵の青眼龍が精霊として鈴のデッキに加わってからはアンチシナジーになるリスクのはらんだカードだったからだ。
―――鈴、わたしのことは、気にしないで……
(青眼……)
―――そのカードがあれば、このデュエルに……勝てる。
「わかったよ、青眼。あなたのため、あたしはこのデュエルに勝つ!」
「……このデュエルに勝つ? どのようなカードをドローしたかは知りませんが、勝ちを焦っているのは鈴さんも同じなのではないでしょうか?」
「勝ちを焦る、か。じゃああたしが焦っているかどうか、試させてあげる! 墓地の深淵の青眼龍の効果を発動! このカードをゲームから除外し、フィールドのレベル8以上のドラゴン族モンスターの攻撃力を1000アップするわ!」
青眼の白龍 ATK3000→ATK4000
「青眼の攻撃力が、ヴァレルエンドを超えましたか……」
「青眼とマグナヴァレットの攻撃力の差は2200。これだけだとギリギリライフを0にできない。でーもー……」
そう言ってニヤリと笑いながら手札のカードを見る鈴。青眼の白龍は光属性のモンスターであり、光属性のモンスターには属性用のサポートカードも数多く存在する。
(あんなあからさまに“あのカード”の存在を臭わせてくるなんて……きっとブラフです。ブラフのはずです……ですが、もし本当にあのカードだったなら……)
「マグナヴァレットと墓地のヴァレット・トレーサーを対象にヴァレルエンドの効果を発動します! そしてそれにチェーンしてリンクモンスターの効果の対象になったマグナヴァレットの効果を発動します!」
チェーン2(皐月):マグナヴァレット・ドラゴン
チェーン1(皐月):ヴァレルエンド・ドラゴン
「チェーン2のマグナヴァレットの効果で、マグナヴァレット自身を破壊し、フィールドのモンスター1体を墓地へ送ります! マグナヴァレット……青眼の白龍を撃ち抜きなさい!」
皐月の意志と決意を乗せたマグナヴァレットは自身の命を銃弾に変え、青眼の白龍の心臓を撃ち抜く。これで青眼の白龍を除去すれば、鈴の手札にあるであろう《オネスト》が活きる機会は失われる。そうすれば鈴に打つ手はずなどなく、次のターンにマグナヴァレットの効果で特殊召喚されたヴァレットモンスターを含めた3体の総攻撃で一気に鈴のライフを削れる。
「青眼……」
「これで鈴さんの青眼は3体とも墓地。その手札が墓地の青眼を除外して儀式の生贄に仕えるカオス・フォームならともかく、それはカオス・フォームではない……そうでしょう?」
「……さすがにバレちゃってたか」
「いくらなんでも私のことを甘く見過ぎです。私だって、千春さんだって……遊希さんや鈴さん、エヴァさんと同じように戦えます!」
胸に手を当て、必死に訴える皐月。その姿はいつもの大人しく、控えめな彼女の姿はない。
「確かに私と千春さんにはデュエルモンスターズの精霊はありません。ありませんが! 私たちだってデュエリストです! 厳しいデュエルの世界に飛び込んだ人間です! 精霊がいないからと言って、足手纏いにされる謂れなどありません!!」
「皐月……」
「それに、私も千春さんも、あの時遊希さんに助けてもらいました!」
あの時、という言葉を聞いて鈴は天を見上げる。鈴が、千春が、皐月が。三人が遊希に助けられたあの時。あの時のことを、鈴は忘れたことがない。
「あの時助けてくれた遊希さんが助けを求めているのなら、あの時助けられた私も遊希さんを助けたい。そう思うことは……おかしなことでしょうか?」
「ううん、おかしくない。おかしくないよ」
「でしょう。だからこそ、除け者にされたくはないんです。だから、私は鈴さんとエヴァさんに認めてもらうために、このデュエルに臨みました。私が鈴さんに勝てば、一緒に戦えるって……」
「皐月、わかったよ。あんたたちの気持ち。だけど、あたしはこのデュエルに勝つ。あんたたちの気持ちを踏みにじってでも、遊希を助けに行く! 手札から魔法カード、龍の鏡を発動!!」
「ド、龍の鏡!? オネストではなかった―――」
鈴の手札をオネストと信じて疑わなかった皐月であるが、それはあくまで皐月の思い込みに過ぎなかった。
「そもそもさ、パパのデッキと違ってあたしのデッキは闇属性のカオス・MAX主軸のデッキなんだから光属性サポートのオネストが入ると思う? 普段の皐月ならそんな思い込みしないんじゃない?」
「っ……」
「慎重なことは大事だけど、慎重すぎるのもよくないってことで! あたしは墓地の青眼の白龍3体を除外融合!」
墓地より舞い上がった3体の青眼の白龍の身体が次元の渦に吸い込まれていく。そして現れたのは三つの命が一つとなった新たなる究極竜。
「“歴戦の誇り高き白龍よ。今新たなる力を示し、絶対の勝利を齎せ!”融合召喚!!」
―――《真青眼の究極竜》!!―――
《真青眼の究極竜》(ネオ・ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)
融合・効果モンスター
星12/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3800
「青眼の白龍」+「青眼の白龍」+「青眼の白龍」
このカード名の(1)の効果は1ターンに2度まで使用できる。
(1):融合召喚したこのカードが攻撃したダメージステップ終了時、自分フィールドの表側表示のカードがこのカードのみの場合、EXデッキから「ブルーアイズ」融合モンスター1体を墓地へ送って発動できる。このカードは続けて攻撃できる。
(2):自分フィールドの「ブルーアイズ」モンスターを対象とする魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、墓地のこのカードを除外して発動できる。その発動を無効にし破壊する。
「真青眼の究極竜……!?」
「バトル! 真青眼の究極竜でヴァレルエンド・ドラゴンを攻撃!!」
「ヴァレルエンドを!? ヴァレルエンドは戦闘では破壊されません!!」
「わかってるわよ、そんなこと!“ネオ・アルティメット・バースト”!」
真青眼の究極竜 ATK4500 VS ヴァレルエンド・ドラゴン ATK3500
皐月 LP2350→LP1350
「そして融合召喚したこのカードが攻撃したダメージステップ終了時、あたしのフィールドの表側表示のカードがこのカードのみの場合に発動できる効果があるわ! EXデッキからブルーアイズ融合モンスター1体を墓地に送ることで、このカードは連続攻撃ができる。そしてこの効果は1ターンに2回まで使用できる!!」
「なっ……!?」
「あたしはEXデッキの青眼の究極竜を墓地に送り、真青眼の究極竜でヴァレルエンド・ドラゴンに追加攻撃!“ネオ・アルティメット・バースト”第二打!!」
真青眼の究極竜 ATK4500 VS ヴァレルエンド・ドラゴン ATK3500
皐月 LP1350→LP350
「きゃあああっ!!」
「これで終わり! EXデッキの青眼の双爆裂龍を墓地に送り、3度目の攻撃!“ネオ・アルティメット・バースト”第三打!!!」
真青眼の究極竜 ATK4500 VS ヴァレルエンド・ドラゴン ATK3500
(そんな……届か―――なかった……)
自身の破壊耐性効果によって身を挺して皐月を守り続けてきたヴァレルエンド・ドラゴンの身体が崩れ落ちる。ヴァレルエンドが倒れることは、皐月の決意が砕かれることを意味していた。
皐月 LP350→LP0
*
「はぁ……勝てた……」
―――よかったね、鈴。
深いため息と共にいつの間にかにかいていた汗を拭う鈴。晩秋の朝とあって肌寒いはずなのにデュエルに集中していたこともあってか全身からは湯気が出かねないほどの熱気を発していたのである。
このまま放置していては風邪をひいてしまう。一刻も早く遊希を助けに行きたいのに、風邪をひいて寝込んでいては元も子もないと思った鈴は皐月に話を聞く前にまずは汗を流してしまおうと部屋に戻ろうとした。
「すっかり汗かいちゃったわ。ねえ皐月……」
「うっ……ううう……」
しかし、鈴は後方から聴こえてくる涙声に足を止めた。振り返るとデュエルに敗れた皐月は両の眼をウサギのように真っ赤に腫らしては大粒の涙を零していた。
今まで皐月とは何回もデュエルをしてきたが、デュエルの後の彼女は感情を乱すことなく勝っても負けても優しげな笑みを浮かべては闘った相手を讃えるのが織原 皐月というデュエリストである。そのため敗れた後にこうも感情をむき出しにする彼女を見るのは親友の鈴も初めてだった。
「……皐月」
「私はこのデュエルで……私は絶対に勝たなければいけなかったのに……私は……」
下を向いて涙を流す皐月の肩に千春が手を置く。皐月と違いこの時の千春は妙に落ち着いていた。彼女としては皐月同様に感情を爆発させたかったのかもしれないが、今は自分が皐月の代わりに自分たちの真意を鈴とエヴァに伝えなければならない、という使命を胸に秘めていた。
「千春……」
「あのね、最初にあんたとデュエルしたいって言いだしたのは皐月なのよ。鈴とエヴァが何か二人でこそこそしてるって」
*
「……最近鈴さんとエヴァさんが妙に余所余所しいような気がするのですが」
それは今から数日前、千春と皐月が二人で一緒に授業を受けていた時のことである。いつものように隣同士になり、大型スクリーンに映し出されたパワーポイントに書いてあることを黙々とノートに写していると、隣に座っていた皐月がまるで独り言を言うかのように言い出した。
優等生の皐月は普段なら授業中には滅多に私語を口にしない。口を開くにしても受けている授業のことくらいなのに、珍しく授業以外のことを話し出したのだから千春は驚いた様子で隣に座る少女の横顔を見た。
「どうしたのよ急に。まあ……精霊の力を使えるようになってからはエヴァや校長先生と一緒になることは多くなったようには思えるけど」
「……千春さん、これは私の思い過ごしかもしれないのですが……」
「うん」
「この間鈴さんとエヴァさんが精霊の力で遊希さんの精霊……銀河眼の光子竜を復活させました。そして彼女―――天宮 遊望さんはこう言っていましたよね」
―――このワームホールは世界と世界を繋ぐもの。私のような選ばれた者だけが開くことのできるもの。最も、お姉さまの光子竜やエヴァ・ジムリアのレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでも開けないことはないとは思いますが……―――
「今私たちの下には銀河眼の光子竜、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト、そして深淵の青眼龍の3体の精霊が存在しています」
「……遊望の言っていたワームホールを開くための条件が揃っている」
「はい。なのでこう思ってしまうのです……鈴さんとエヴァさんの二人だけで遊希さんを助けに行ってしまうのではないか、と」
千春は聊か飛躍しすぎではないか、とも思ったがあり得ない話ではなかった。デュエルモンスターズの精霊を介したデュエルではゲーム上のライフだけではなく、デュエリストの身体や精神に影響を及ぼすケースも多く見られていた。デュエルモンスターズの歴史においても幾つか報告されていることであり、実際に千春と皐月は遊望によって洗脳されている。
そのため精霊を持たない人間が行くことは危険極まりない話であり、万が一のことが起きてしまえば精霊の加護がある鈴やエヴァはともかく、自分や皐月の身の安全は保障できないのだ。
「……私はこのままでいいのでしょうか?」
「ま、まあ仮に遊希を助けに行くってなれば事前に教えてくれるでしょ? ほら授業中なんだから集中しないとね」
無理やり話を切った千春であったが、それ以降入っていた授業の内容はほとんど頭の中には入ってこなかった。
*
「最初は皐月が気にしすぎているだけかな、って思ってたわ。でも皐月って鋭いのね。私たち見ちゃったのよ、前にエヴァのフィアンセと科学者っぽい人たちがアカデミアに入っていくのをね」
「……」
エヴァは天を仰いだ。ジェームズたちは他の生徒に見つからないようにと夜間にアカデミアに入るなど気を遣ってくれていたが、よりによって千春と皐月に見つかってしまったというのは誤算だった。
「あのね、女子高生って結構噂好きなのよ」
「まさかそれだけの情報で……」
「……はい。私たちは鈴さんとエヴァさんが何をしようとしているのかを大体掴みました」
―――あんたたちわかりやすいのね、やっぱり。
―――スカーライトが……それ言う?
―――ちょっ、それどういう意味よ!
先ほどまで泣きじゃくっていた皐月は千春が話している間に落ち着きを取り戻したようだった。それでも涙で眼と眼の下が真っ赤になっている姿はなんとも珍しい光景であるが。
「あのね、皐月……」
「……わかっています。鈴さんとエヴァさんが何をしようとしていたかなんて」
「もう教えてしまってもいいだろうな」
鈴とエヴァはI2社と海馬コーポレーション、雄一郎やジェームズの協力を得て遊希を助けに行くための装置を密かにアカデミアに地下に完成させたことを伝えた。千春と皐月はだいたいのことは掴んでいたようであるが、まさかそんな機械をアカデミアの地下に作っていたということまでは知らなかったようだった。
「道理で科学者のような見た目の方が……」
「黙っててごめん。でもね、あたしたちとしては二人を危険な目に遭わせたくなかったの」
千春と皐月は決して聞かん坊の子供ではない。そのため鈴やエヴァの真意は十分に理解できていた。しかし、理解できていたからこそ鈴とエヴァの気遣いが痛ましかったのだ。
「鈴とエヴァが、私たちのことを考えていてくれたってのはわかる。でもさ、それだとあんたたち自身は誰が守るの?」
千春と皐月が二人の気遣いを素直に受け入れられない理由。それは鈴とエヴァの中に自分たちは大丈夫、という気持ちが少なからずあったからだ。精霊使いと言えどもエヴァも遊希ほど長い時を精霊と共に過ごしたわけでもないし、鈴に至っては深淵の青眼龍についてわからないこともまだまだ多い。
そんな付け焼刃の二人で遊希が勝てなかった遊望相手にデュエルが成立するのだろうか、遊希を助けるどころかミイラ取りがミイラになる事態すら考慮しなければならないのである。
「確かにあんたたちは私たちとは違う。精霊使いっていう特別な存在かもしれない。でもだからといって、あんたたちが無事に戻ってこれるって保証はないじゃない!」
「そ、それは……」
「……私が今回デュエルを挑んだ理由、そして鈴さんに何としても勝ちたかった理由、わかりますか? まあ、デュエルの時に言ったからわかっていますよね? デュエルにおいて鈴さんに勝つことで私のデュエリストとしての力を鈴さんに知ってもらいたかったんです」
鈴とエヴァが自分たちを置いて遊希を助けに行くのは自分たちが精霊使いではない、という理由もあった。それを悟った二人はデュエルで自分たちが勝利すればその不安を払拭できると考えたのである。
千春も皐月も過去遊希に助けられている。今度は自分たちが助ける番だ、という決意に溢れていた。精霊使いといっても百戦百勝というわけではなく、ここで自分たちがデュエルで鈴とエヴァの精霊使い組から勝利を収めることができれば、精霊の所持未所持という問題ではなく、自分たちの力を直接認めさせることができる。
鈴やエヴァより自分たちの方が強いと認めさせれば連れてはいけない、ということにはならないはず。無理を通して道理を引っ込めさせるということではないが、こうすれば自分たちの望みは叶うと思ったから。
「だからこそ……だからこそ……負けたくなかったんです……」
「まだ諦めるのは早いわよ皐月。なんたってこの私がいるんだから! さあ、鈴でもエヴァでもどっちでもいいからデュエルしなさい!」
皐月の次は自分だ、と言わんばかりにデュエルディスクを構える千春。致し方ないといった様子でデュエルディスクを構えるエヴァ。
はっきり言ってしまえばエヴァと千春では鈴と皐月以上に実力の差があり、千春自身も普通にぶつかり合えば負けるのは自分であると理解しているだろう。それでも挑まなければならない、避けられない戦いがやってくる。
「千春、エヴァ……」
―――鈴。
自分はどうするべきなのだろうか、と悩む鈴に光子竜が声をかけた。
(光子竜?)
―――今から地下室へ向かって貰えないだろうか? 千春と皐月も一緒にだ。