銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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三竜結束

 

 

 

 

 

今まさにデュエルを始めようとした千春とエヴァの間に割って入る鈴。彼女は光子竜が千春と皐月の二人に話したいことがある、ということを伝えた。精霊である光子竜の言葉を直接聞き取ることができるのは精霊使いである鈴とエヴァだけであり、彼らの言葉を千春と皐月に伝えるには鈴かエヴァによる通訳を介さなければならない。

 しかし、それでは精霊である自分の真意は十分に伝わらないだろう、と考えた光子竜は地下室の装置を使って自分の意志を自分の言葉で伝えたいと思ったのである。

 

「おや、どうしたんだいこんな時間に……」

 

 地下室に行くと、どうやら装置のメンテナンスで完徹した様子のジェームズが四人を出迎えた。端正な顔立ちには疲れが見え、目の下には大きな隈ができている有様だった。しかし、アースランド・テクノロジーの将来の経営者となるジェームズ自らがこのような状態になるまで装置に手を加えていたのには理由があった。

 

「ジェームズ! どうしたんだその顔は!?」

「ははは、人間徹夜を繰り返すと本当に体調は悪くなるんだね……ナポレオンは1日に3時間しか寝なかった、とかいうけどそれは嘘だね。3時間しか寝ないで皇帝ができるものか。きっと彼はきっと裏で居眠りをしていたんだ……」

「ジェームズさん、どうしてあなたはそこまで……」

「これは予め受けていた依頼でね……遊希さんを助けるため、装置をアップデートさせていたんだ。僕も彼女に救われた者の一人として―――」

「ジェームズ、もう寝ろ! お前にまで倒れられたら私は……」

「ありがとう、エヴァ。ではお言葉に甘えさせてもらうよ……僕が社長になったら社員の定時退社を徹底させないと……」

 

 そう言ってジェームズと彼の部下である科学者たちはふらふらとおぼつかない足取りで地下室を出ていった。隣の部屋に仮眠室が設置されていたため、そこでしばし睡眠を取るのだろう。

 

「……いいリーダーになりそうですね」

「日本のブラック企業の社長にジェームズの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわね」

 

 フィアンセを褒められて悪い気がしないエヴァは照れ笑いを浮かべる。そんな彼女を尻目に鈴は装置のスイッチを入れる。まるでパソコンを立ち上げた時のように内部の基盤と熱がこもるのを防止するためのファンが起動し始めた。

 ジェームズの改良のおかげで装置の起動がだいぶ楽になったこともあって、鈴のように精密機械に強くない素人でも容易に操縦することが可能になっており、そこにもジェームズの気遣いと尽力が現れていた。

 

「千春、皐月。ここに立ってもらえるかしら」

「……ここでいいの?」

「ええ」

「いったい何が……」

 

 千春と皐月が装置の目の前に立ったのを見た鈴は装置の中心部に設置されていた小型のデュエルディスクに光子竜のカードを置いた。次の瞬間、実際のデュエルでモンスターを召喚するのと同じように光子竜の姿が映し出された。ぱっと見た限りではソリッドビジョンで映し出されるのと同じように見えるが、すぐに千春と皐月はそれが普通のソリッドビジョンでないことに気が付いた。

 

「千春、皐月。こうして直接会話をするのは初めてだな」

「……えっ? 今誰の声?」

「ま、まさか……」

「そのまさかだ。私は銀河眼の光子竜。天宮 遊希の精霊……だが当の精霊使いがいないから今こうしてこの機械を通してお前たちに直接喋りかけている」

 

 そう言って光子竜は翼や尻尾を動かしてみる。千春と皐月は唖然とした様子で互いの顔を見ると、無言で光子竜を見上げていているだけだった。

 

「さて、自己紹介している場合ではないな。だいたいお前たちが感付いていると思うから言ってしまうが、私たちはジェームズらが作り上げたこの機械を通して精霊の力を結集させ遊希がどこに囚われているかを探り当て救出に向かう。そしてそれには鈴とエヴァだけを行かせる。それを決めたのは私だ」

「えっ、じゃああんたが決めたの?」

「私たちでは……やはり駄目なのでしょうか?」

「……鈴やエヴァから聞いたと思うが、お前たちは精霊使いではない。精霊使いではない普通のデュエリストにこれからの戦いは厳しい」

 

 自分たちも遊希を助けたい、と懇願する千春と皐月であるが、精霊である光子竜に直接ここまで断言されてしまうと返す言葉も無くなってしまっているようだった。しかし、光子竜はそんな二人を見てため息をつくとやれやれと言った様子で続けた。

 

「……と思ってはいたが。先ほどのデュエルを見て考えを改める必要があると感じた」

「えっ? それは……」

「それもこれも。鈴、お前のデュエルの危うさだ」

 

 まるで格下の弱者を見下ろすような眼を浮かべる光子竜。鈴はよもや自分に飛び火するとは思っていなかった。

 

「精霊使いになったにも関わらずデュエルに粗っぽい。これではお前を安心して見れる日はいつ来るのかわからないぞ!」

「ちょっ、何よそれ! 私だって頑張って……というか光子竜は遊希のデュエルばかり見てきてるから目が肥えてるのよ!」

「それは認めよう。だが、それを差し引いてもまだお前を独り立ちさせるわけにはいかない。さて、どうしたものか……」

 

 光子竜は腕を組んで何やら考え込む。そして明後日の方向を見ながらつぶやくように言い放った。

 

「はぁ、何処かに鈴と同程度の実力を持ち、鈴と強い絆を結んだデュエリストはいないものか。うーん、一人では不安だから二人ほどいてくれるといいのだがな……」

「えっ」

「まあ……自分で言うのもおかしな話だが、私は精霊としての力はスカーライトや青眼よりも上だ。だから鈴に加え人間二人くらいなら……私の力で守ってやることもできる」

 

 最も庇護対象が増える、ということはそれだけ自分のために割ける力のリソースが減ってしまう、ということでもある。そう前置きしながらも、光子竜は心からの言葉を伝えた。

 

「だからな、千春、皐月。どうか……お前たちも鈴を支えてくれ。遊希を、助けるために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……鈴さん」

 

 光子竜に同行の許可を貰った皐月はデュエルでかいてしまった汗を鈴と共に部屋の風呂で流していた。夏休みの交流会の時のように五人全員で入れるほど浴室は広くないため、実際にデュエルを行った二人だけで入ることにしたのである。

 せっかく二人だけなのだから、ということで健闘を讃え合う形で身体を洗い合った鈴と皐月は浴槽に向かい合って湯につかる。10代の女子二人といっても部屋のバスタブではさすがに狭いのだが、その狭さが逆に二人の距離を詰めるのに役立っていた。

 

「何、皐月?」

「以前私と千春さんが1日いなかったことありましたよね」

 

 数日前、千春と皐月は1日中寮にいない日があった。二人が揃って戻ってきたのは次の日の午前中だったこともあって、隣室である鈴も気にはなっていた。

 

「あの時、私たちは実家に帰っていたんです。その……両親に遊希さんを助けに行くことを伝えるために」

「ご両親に? 反対されたんじゃ……」

「はい、事の顛末を話したところ、はじめは猛反対されました。ですが、直接面識はないものの、遊希さんのことは両親にも話していたので……」

 

 皐月の両親は鈴や千春の両親と違ってそれほどデュエルには明るくなかった。それでも娘がデュエリストを志してアカデミアに進学してから親として娘の応援ができるように必死にデュエルのことを学んだという。

 

「私のデッキのカードの中には、両親からプレゼントしてもらったカードも入っています。離れていても、家族が私と共に戦ってくれる。その思いがあったから、今日ここまでやってこれたんです」

「……それで、ご両親の許可は……」

「最終的には納得してもらいました。千春さんも一緒です。まあ千春さんの場合はご両親もご兄弟も千春さんのような方なので」

 

 皐月のその言葉から千春の家族は皆千春と似たような性格をしている、ということはわかった。きっと自分が今の千春の立場に立った場合、同じ選択をしていたはずだ。故に千春の家族は戦いに臨む千春の背中を強く押す選択をした。

 

「だから……もう家族の許可は貰っているんです。私たちは」

「そうだったんだ……」

 

 鈴は千春と皐月の二人が自分たちと同じくらい、いやそれ以上にこの問題について考えていることを知った。危険極まりない場所に行く、ということについても全て話した上で説得するのだから彼女たちの意志は固いのだろう。そんな二人に黙って行こうとすれば皐月も闘志を剥き出しにして向かってくるわけだ。

 

「ありがと、あとごめんね」

「そんな……謝らないでください。私も頭に血が昇っていましたから」

「正直あのデュエルしてる時の皐月凄く怖かったよ。悪役キャラのコスプレしてる時よりもよっぽど」

「あう……そ、それに関しては……忘れてしまいたいです」

「黒歴史化決定って感じね。それじゃあ……」

 

 そう言って鈴は目の前に座る皐月の身体に手を伸ばす。交流イベントの時やプールに行った時から思っていたことなのだが、その性格に似つかわない皐月の体つきには同性ながら羨ましいと同時に悔しいと思っていた。

 

「りっ、鈴さん!?」

「忘れさせてあげよっかな~」

 

 両手をぐにぐにと動かして皐月の身体を弄る鈴。同性でなければまず間違いなく警察沙汰になるレベルの行動にされるがままであった皐月が悲鳴を上げた。もちろんその声を聞いて風呂場に駆け込んできた千春とエヴァから鈴がこんこんと説教されたのは言うまでもない。ただ、彼女たちはそんな束の間のことも楽しんでいた。これからはそういうスキンシップすら取れなくなるかもしれないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴たちがつかの間の青春(?)を謳歌していた頃、竜司とミハエルの姿が地下室にあった。彼らをここに呼んだのは他ならぬ光子竜である。彼の指示を受けて鈴たちは光子竜、スカーライト、そして深淵の青眼龍のカードを装置に残したまま二人に来るように伝言を頼んでいたのだ。

 

「……なるほど、確かに最初は私たちだけで確かめておいた方がいいね」

「ああ、遊希がどこに捕らえられているか。まずは事の分別つくお前たちに確かめてもらいたい。鈴たちにやらせると、計画もなしに突っ込んでいく可能性があるからな……」

 

 光子竜の言葉に頷く竜司とミハエル。デュエリストとしての腕や格は鈴たちはおろか遊希をも上回る二人であるが、精霊を持たないこと、そしていざという時に鈴たちを助けられるように二人は敢えてバックアップおよびサポートに回る選択を取ったのだ。もちろん、大人として、教育者として子どもたちを危険な所に送り込むという現実を噛み締めながら。

 

「お前たち精霊三体の力で、遊希の捕らえられている場所がわかるというのか?」

「ああ、あの青年が……ジェームズが寝ずに取り組んでくれた。彼のおかげでこの装置を介せば私たちのような精霊の波動を捉えることができる」

「ただ、精度にはまだまだブレがあるかもしれないから、おおよその場所になっちゃうかもしれないけどね。でも、あたしたち3体の精霊が力を合わせれば、大きな誤差を起こすことはないんじゃないかな?」

「……1体では足りなくても、3体が手を取り合えば……可能性は広がる……」

「“三本の矢”か。この場合は“三体の竜”と称するのが正しいかもしれないね。ならば、私たちはその三体の竜の持つ力に頼らせてもらうよ」

 

 光子竜の指示を受け、アースランド・テクノロジーの研究員から予め手渡されていた装置の説明書に従って装置を本格的に起動させる竜司とミハエル。浮かび上がった3体の精霊の身体に光が灯り、彼らの持つデュエルモンスターズの精霊としての力が増幅されていく。

 

(……遊希、お前はどこにいる。一緒にいた時は鬱陶しくてたまらなかったお前の小言が、今では欲しくて欲しくてたまらない。届いてくれ、皆がお前の帰りを待っているんだ―――!!)

 

 光子竜が、スカーライトが、青眼が。ただ“遊希を助けたい”という想いを込めて咆哮し、力を発揮する。やがて装置には4つの光が現れた。4つの内3つの光が同じ位置に点在していることから、この3つは光子竜たち3体の精霊の力ということがわかる。ならば自然と残り1つの光が銀河眼の時空竜の放つ波動であり、そこに遊希がいるということになるのだ。

 

「見つけた、あそこに遊希くんがいる! ミハエル、あの位置の座標を割り出すことは―――」

「既にやっている! この場所は……!?」

 

 装置には世界的な検索エンジンを運営するサイトによる衛星写真が映し出される。人工衛星によって映し出された写真がコンピューターを介して成層圏の彼方から時空竜が潜み、遊希がいると思われる場所を割り出した。その場所を見た竜司とミハエルは息を呑んだ。

 

「何故このようなところに遊希が……?」

「わからない、けれど。目的地は決まったな」

「ああ、すぐに準備を整えよう。鈴たちにも伝えるんだ」

 

 二人は踵を返し、装置のある部屋を出る。装置にはでかでかと、I2社日本支部の写真が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お姉さま! 私お姉さまに似合いそうなドレスを縫ってみたのですが、どうですか?」 

 

 光子竜たちによって、遊希が囚われている場所が突き止められたころ。精霊・銀河眼の時空竜と一体化した遊望はI2社日本支部の高層ビルの中にある一室にいた。遊望はこの部屋を精霊の力で改変し、まるで生前の自分が遊希と共に幼少期を過ごした実家そっくりの空間へと作り変えていたのだ。

 

「……」

「……まだ、私の声には応えてくれないのですね。お姉さま……」

 

 しかし、遊望が手料理を振る舞ったり、手を針で傷つけながら作った洋服を見せても遊希は何も答えることはなかった。意識自体はあるようなのだが、その瞳にかつての光はない。光子竜を失い、鈴たちとも離れ離れになってしまったショックですっかり彼女は心を閉ざしてしまったのであった。

 

(……私のしたことは間違っていたのでしょうか? 死した私がお姉さまと共にあることは過ちなのでしょうか?)

 

 確固たる意志と理由を持って遊希を連れ去る、という行動に移した遊望であったが、ここにきて彼女は自分の決断に疑問を感じるばかりであった。

 

(いえ、そんなことはありません。私は何も間違っていない。私が……私が動かなければ……)

 

 理想と現実の間で揺らぐ一人の少女。そんな時、遊望は微かに大気が震えたのを感じ取った。光子竜たちによって遊希の居場所が追っ手に伝わったのと同時に、遊望もまたこの場所を突き止められたのに気づいたのだった。

 

「そうですか……こんなにも早く……来てしまいましたか。愚かな……自ら命を捨てに行くというのですね。お姉さま、私はこれからいずれ来るであろう来客を出迎えるための準備に入ります。邪魔者を追い払ったら今度こそ、姉妹の時間を過ごしましょう?」

 

 そう言って遊望は部屋を出る。部屋の前には三人の男女が立っていた。黒いスーツのようなものを纏った怜悧な眼差しをした長身の男性、白い長髪をポニーテールにまとめた中性的な少年とも少女とも取れる小柄な人物、赤と黄色のメッシュが入った紫色の髪とドレスが際立つ豊満な女性。三人は遊望の顔を見ると、何も言わずその場を後にした。

 

「さあ、あなたたちはどのようにして滅びへと向かうのでしょうか? うふふ、楽しみでなりませんね」

 

 漆黒の闇の中に、可憐な美少女の微笑みが怪しく浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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