☆TURN01(千春)
「あら? 先攻後攻の決定権は私にあるのね。なら先攻はお嬢ちゃんにあげるわ」
先攻後攻の決定権を与えられたパープルはまるで幼い子供に話しかけるような優しい笑みを浮かべながら千春に先攻を譲った。確かに外見だけ見ればパープルは千春より年上のいわゆる妖艶な美女といった外見であるが、そもそも人間ではない彼女に子供扱いされることが納得いかなかった。
「ちょっと、子供扱いしないで! 確かに背は低いかもしれないけど、私の志はあんたなんかよりずーっと大きいんだからね!」
「あらそうなの? だったらその大きな志をお姉さんに見せてちょうだい?」
「うー……」
悔しいが、まともにやりあえば口ではあちらの方が一枚も二枚も上手だ。そして相手が上手いのは口だけではない。千春の使う【サイバー・ドラゴン】デッキは高火力を駆使したワンターンキルが持ち味のデッキであり、そのデッキを使用するデュエリストは本来不利とされる後攻を好んで使うことが多いのだ。しかし、パープルが自ら先攻を千春に譲ったということは、千春はそのサイバー・ドラゴンお得意の戦法を封じられたことになる。彼女が千春のデッキを知っているかどうかは不明であるが、実戦の前から既に千春は自分がパープルの掌の上で転がされている感覚に包まれていた。
「まあいいわ、私を敵に回したことを後悔させてあげるから! 私は手札のサイバー・ドラゴン・ネクステアの効果を発動! 手札のサイバー・ドラゴンを捨てることでこのカードを手札から特殊召喚するわ!」
「……あなたのデッキはサイバー・ドラゴンなのね。後攻を取って正解だったわ」
パープルはほっと胸をなでおろすかのような仕草を見せる。どうやら千春のデッキ内容については遊望から知らされていないようであった。
(相手は私のデッキ内容を知らなかった……メタを張られている心配はなさそうね)
「そして特殊召喚に成功したネクステアの効果を発動するわ! 墓地の攻撃力または守備力が2100の機械族モンスター1体を特殊召喚する! 戻ってきて、サイバー・ドラゴン!」
サイバー・ドラゴンは上級モンスターであるが、相手フィールドにモンスターが存在する場合に手札から特殊召喚できる半上級モンスターだ。そのため先攻では相手フィールドにモンスターが存在する可能性が極めて低いため、手札事故の原因になりかねない。そんなサイバー・ドラゴンデッキの弱点の一つをこのネクステアが補ってくれるのだ。
「手札から魔法カード、エマージェンシー・サイバーを発動! デッキからサイバー・ドラゴンモンスター、または通常召喚できない光属性・機械族モンスター1体を手札に加えるわ!」
「……先攻でも動けるように工夫しているのね。チェーンはないわ」
「なら、エマージェンシー・サイバーの効果で私はデッキからサイバー・ドラゴン・ドライを手札に加えるわ。そして今加えたドライを召喚! そしてドライの召喚成功時に発動する効果にチェーンして手札のサイバー・ドラゴン・フィーアの効果を発動!」
チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・フィーア
チェーン1(千春):サイバー・ドラゴン・ドライ
「チェーン2のフィーアの効果、サイバー・ドラゴンの召喚に成功した時、自身を手札から特殊召喚するわ! そしてチェーン1のドライの効果でフィールドのサイバー・ドラゴンモンスター全てのレベルを5にするわ!」
サイバー・ドラゴン・ドライ 星4→星5
サイバー・ドラゴン・フィーア 星4→星5
サイバー・ドラゴン・ネクステア 星1→星5
千春のフィールドにはサイバー・ドラゴン本体のみならず、サイバー・ドラゴンモンスターとしても扱うドライ、ネクステア、フィーアと計4体のサイバー・ドラゴンが存在している。1体1体のステータスは遊希たちのエースモンスターと比べて低いが、融合・X・リンクと幅広い召喚法を取れるのがサイバー・ドラゴンデッキの魅力だ。
(あまり時間は割きたくないけど……先攻でワンキルはこのデッキじゃ無理だから……こうするしかないか)
「私はサイバー・ドラゴン・フィーアとサイバー・ドラゴン・ネクステアをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚、サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」
2体のサイバー・ドラゴンからリンク召喚されたのはサイバー・ドラゴン・ズィーガー。リンク2のサイバー・ドラゴンリンクモンスターであり、自身が攻撃宣言していない場合、自身の攻撃による戦闘ダメージと引き換えに攻撃力2100以上の機械族モンスターの攻撃力を2100アップさせる効果を持っている。素の火力が低めのサイバー・ドラゴンの火力を補える効果を持ったモンスターだ。
「そしてレベル5となったサイバー・ドラゴンとドライでオーバーレイ! 2体の光属性・機械族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 起動せよ! サイバー・ドラゴン・ノヴァ!」
「サイバー・ドラゴン・ノヴァ……でも、それで終わりじゃないのよね?」
「わかってるんだったら説明はいらないわね。でも、まずはこの効果よ! サイバー・ドラゴン・ノヴァの効果を発動! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、墓地のサイバー・ドラゴン1体を特殊召喚するわ。私は墓地のフィーアを守備表示で特殊召喚! そしてフィーアが存在する限り、フィールドのサイバー・ドラゴンモンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップする!」
サイバー・ドラゴン・ズィーガー ATK2100→ATK2600
サイバー・ドラゴン・フィーア ATK1100/DEF1600→ATK1600/DEF2100
「そして、サイバー・ドラゴン・ノヴァでオーバーレイ・ネットワークを再構築! エクシーズ・チェンジ! ランク6のサイバー・ドラゴン・インフィニティをX召喚! サイバー・ドラゴン・インフィニティの攻撃力はオーバーレイ・ユニットの数×200アップするわ!」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:2 ATK2100/DEF1600→ATK2500/DEF2100
「ステータスの底上げされたサイバー・ドラゴンたちに万能カウンターのサイバー・ドラゴン・インフィニティ。なるほど、手ごわいわね」
「あんまり時間はかけたくないの。私は永続魔法、未来融合-フューチャー・フュージョンを発動。これでターンエンドよ!」
千春 LP8000 手札0枚
デッキ:34 メインモンスターゾーン:2(サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:2、サイバー・ドラゴン・フィーア) EXゾーン:1(サイバー・ドラゴン・ズィーガー)魔法・罠(Pゾーン:青/赤):1(未来融合-フューチャー・フュージョン)墓地:3 除外:0 EXデッキ:12(0)
パープル LP8000 手札5枚
デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
☆TURN02(パープル)
「じゃあお姉さんのターンね、ドロー。はぁ」
後攻のパープルはカードをドローした後に溜息を吐く。いいカードを引けなかったのだろうか、と千春が思っていると、彼女はその溜息の理由を話し始めた。
「あなたのデッキ、サイバー・ドラゴンなのに融合しないのね。せっかく同じ召喚法を駆使する相手とデュエルができると思ったのに。お姉さんがっかりしちゃった」
「っ……サイバー・ドラゴンが全部融合とは限らないわ! 状況に応じて的確なプレイングが必要なデッキなのよ!」
「まあ、そうなんだけどね。それでもお姉さんは融合にこだわりを持っているの。それを教えてあげる。私は手札からフィールド魔法、闇黒世界-シャドウ・ディストピア-を発動」
闇黒世界-シャドウ・ディストピア-は存在するだけでフィールドのモンスターの属性を全て闇属性に変えてしまうフィールド魔法だ。その効果故に特定の属性であることを求められるデッキにはそれだけで刺さるメタカードと言える。
(シャドウ・ディストピア……わかった!)
「シャドウ・ディストピアの発動にチェーンして、サイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動!」
チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・インフィニティ
チェーン1(パープル):闇黒世界-シャドウ・ディストピア-
「チェーン2のサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、シャドウ・ディストピアの発動を無効にして破壊するわ!」
「そうね、チェーン1のシャドウ・ディストピアは無効にされて破壊されるわ」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:1 ATK3000→ATK2800
「こんなに早くインフィニティの効果を使っちゃってよかったの?」
「だって、今しか使えないじゃない。超融合にはそもそもチェーンできないんだから」
シャドウ・ディストピアで属性を闇に変更するメリットに超融合とのコンボが挙げられる。超融合は相手フィールドのモンスターを素材に融合召喚が行える速攻魔法であり、相手のチェーンを受け付けないことから非常に止めにくい魔法カードだ。
このカードでフィールドの闇属性モンスター2体という召喚条件を持つ融合モンスター、スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴンを融合召喚する―――という目論見を防ぐためにも千春はシャドウ・ディストピアの発動を許すわけにはいかなかったのだ。
「そこまで見抜かれていたようね。でも、残念ながらこの手札に超融合はないの。残念だったわね」
「なきゃないでそれでいいわ。結果的にサイバー・ドラゴンたちを守れたんだもの!」
「……どこまでも前向きなのね。じゃあお姉さんも好きにやらせてもらうわ。私は手札から魔法カード《捕食活動》を発動」
《捕食活動》(プレデター・プラクティス)
通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
(1):手札から「捕食植物」モンスター1体を特殊召喚する。その後、デッキから「捕食活動」以外の「プレデター」カード1枚を手札に加える。このカードの発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。
パープルのデッキは【捕食植物】(プレデター・プランツ)。闇属性・植物族で統一されたカテゴリーであり、融合召喚および実質このカテゴリーの専用カウンターである捕食カウンターを駆使する効果を持つデッキだ。
「……超融合は崩しのためのカードじゃないようね。普通に戦術に組み込めるデッキだったってこと」
「そういうこと。捕食活動の効果で私は手札から捕食植物モンスター1体を特殊召喚するわ。《捕食植物スピノ・ディオネア》を特殊召喚」
《捕食植物スピノ・ディオネア》
効果モンスター
星4/闇属性/植物族/攻1800/守0
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターに捕食カウンターを1つ置く。捕食カウンターが置かれたレベル2以上のモンスターのレベルは1になる。
(2):このカードがこのカードのレベル以下のレベルを持つモンスターと戦闘を行ったダメージ計算後に発動できる。デッキから「捕食植物スピノ・ディオネア」以外の「捕食植物」モンスター1体を特殊召喚する。
「そして捕食活動の効果でデッキから捕食活動以外のプレデターカード1枚を手札に加える。私が手札に加えるのは《捕食植物バンクシアオーガ》。そして特殊召喚に成功したスピノ・ディオネアの効果でサイバー・ドラゴン・ズィーガーに捕食カウンターを1つ置く」
サイバー・ドラゴン・ズィーガーの機械の身体に植物の種子のようなものが植え付けられる。このカウンターを活かしたデュエルもまた捕食植物というカテゴリーの特徴と言えた。
サイバー・ドラゴン・ズィーガー 捕食カウンター:1
「サイバー・ドラゴン・ズィーガーはレベルを持たない。捕食カウンターの意味はないわね!」
「ええ、そう。だけど更なるコンボには繋げられる。私はフィールドの捕食カウンターが置かれたモンスター1体……サイバー・ドラゴン・ズィーガーをリリースし、捕食植物バンクシアオーガを特殊召喚!」
千春の言うように、レベルを持たないリンクモンスターやエクシーズモンスターは捕食カウンターによるレベル操作の影響は受けない。しかし、それ以外の効果によって利用されることはある。サイバー・ドラゴン・ズィーガーの身体を絡め取った植物はやがて身体にたくさんの口や目がついた不気味な果実のようなモンスターへと変貌した。
《捕食植物バンクシアオーガ》
チューナー・効果モンスター
星6/闇属性/植物族/攻2000/守100
(1):このカードは相手フィールドの捕食カウンターが置かれたモンスター1体をリリースした場合に手札から特殊召喚できる。
(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。相手フィールドの表側表示モンスター全てに捕食カウンターを1つずつ置く。捕食カウンターが置かれたレベル2以上のモンスターのレベルは1になる。
「ズィーガーに捕食カウンターを乗せたのはこのためだったのね……!」
「さすがに攻撃力を2100も上げられたら手の打ちようがないもの。さて、このバンクシアオーガはチューナーモンスターであるわけだけど、捕食活動を発動したターン私は融合モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。だったら融合素材にするまでよね。魔法カード、融合を発動。スピノ・ディオネアとバンクシアオーガの2体を融合。“魅惑の香りで虫を誘う二輪の花よ。今一つに交わりて全てを食らう妖花となりて花開け!”融合召喚!《捕食植物キメラフレシア》!」
《捕食植物キメラフレシア》
融合・効果モンスター
星7/闇属性/植物族/攻2500/守2000
「捕食植物」モンスター+闇属性モンスター
(1):1ターンに1度、このカードのレベル以下のレベルを持つフィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。
(2):このカードが相手の表側表示モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。ターン終了時まで、その相手モンスターの攻撃力は1000ダウンし、このカードの攻撃力は1000アップする。
(3):このカードが墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズに発動できる。デッキから「融合」魔法カードまたは「フュージョン」魔法カード1枚を手札に加える。
「キメラフレシア……また面倒なモンスターを!」
「効果も優秀でアフターケアも万全。お姉さん、こういう無駄のないモンスターは好きよ。でも、この子だけじゃない。フィールドから墓地に送られたバンクシアオーガの効果であなたのモンスター2体に捕食カウンターを乗せるわ」
サイバー・ドラゴン・インフィニティ 捕食カウンター:1
サイバー・ドラゴン・フィーア 捕食カウンター:1
「でも……私にはまだ通常召喚権が残っている。《捕食植物サンデウ・キンジー》を召喚」
《捕食植物サンデウ・キンジー》
効果モンスター
星2/闇属性/植物族/攻600/守200
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分が融合素材とする捕食カウンターが置かれたモンスターの属性は闇属性として扱う。
(2):自分メインフェイズに発動できる。闇属性の融合モンスターカードによって決められた、フィールドのこのカードを含む融合素材モンスターを自分の手札・フィールド及び相手フィールドの捕食カウンターが置かれたモンスターの中から選んで墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
「サンデウ・キンジーがモンスターゾーンに存在する限り、私が融合素材にする捕食カウンターが置かれたモンスターの属性は闇属性として扱うの。そして、サンデウ・キンジーの効果は……」
「捕食カウンターが置かれたモンスターを融合素材にできる……」
「そういうこと。私はサンデウ・キンジーの効果を発動! サンデウ・キンジー自身および捕食カウンターが置かれているサイバー・ドラゴン・インフィニティとサイバー・ドラゴン・フィーアを融合!!」
サンデウ・キンジーの力によって千春のフィールドの2体のサイバー・ドラゴンが望まぬ融合素材として消えていく。そして現れたのは物々しい三つ首の竜のような姿をした植物であった。
「“魅惑の香りで虫を誘う一輪の花よ。全てを惑わし、闇に誘い一つに集え!”融合召喚!《捕食植物トリフィオヴェルトゥム》!」
《捕食植物トリフィオヴェルトゥム》
融合・効果モンスター
星9/闇属性/植物族/攻3000/守3000
フィールドの闇属性モンスター×3
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードの攻撃力は、このカード以外のフィールドの捕食カウンターが置かれたモンスターの元々の攻撃力の合計分アップする。
(2):このカードが融合召喚されている場合、相手がEXデッキからモンスターを特殊召喚する際に発動できる。その特殊召喚を無効にし、そのモンスターを破壊する。
(3):相手フィールドのモンスターに捕食カウンターが置かれている場合に発動できる。このカードを墓地から守備表示で特殊召喚する。
「トリフィオヴェルトゥムは融合召喚されている場合、1ターンに1度相手のEXデッキからのモンスターの特殊召喚を無効にして破壊することができる」
もしこれが遊希や鈴であれば、EXデッキに依存せず高打点のモンスターを特殊召喚することができるため、トリフィオヴェルトゥムであろうとも容易に突破できただろう。図らずともメインデッキのモンスターが揃って攻撃力が低めな千春の弱点を突いた形になった。
「最も、融合召喚はトリフィオヴェルトゥムでは防げないわけだけど……未来融合が発動するまで、このデュエルが続いているのかしらね」
「……っ!」
「バトルよ。キメラフレシアでダイレクトアタック」
捕食植物キメラフレシア ATK2500
千春 LP8000→LP5500
「きゃっ!」
「まだまだ行くわよ、トリフィオヴェルトゥムでダイレクトアタック」
捕食植物トリフィオヴェルトゥム ATK3000
千春 LP5500→LP2500
「きゃあああっ!!」
2体の捕食植物の攻撃が千春の小さな身体に襲い掛かる。
(鈴、エヴァ……!!)
しかし、危機に晒されてもなお千春の決意は揺らぐことはなかった。