「ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンでダイレクトアタック!」
「……っ!!」
「―――遊希、これで最後。あんたを助けてあげる!!」
ディープアイズの放った鮮烈にして美麗なる光が遊希を包み込んでいく。これはあの時の恩返し。そんな意味合いの込められたディープアイズの一撃が、この悲しきデュエルに幕を下ろした。
遊希 LP1700→0
「遊希!」
ライフが0になり、敗れた遊希は気を失ってしまったのか、そのまま前に倒れそうになる。それに気がついた鈴は自分でも驚くような速さで彼女の下に駆け寄ると、崩れ落ちた彼女の身体をぎゅっと抱き抱えた。
不本意なデュエルとはいえ、このデュエルは鈴の勝利に終わった。本来のデッキではないとはいえ、持てる力を互いに出しつくせたのだから両者ともに悔いはない。負けたとはいえ鈴といいデュエルができたことに満足がしたのか、充実した様子の遊希は実に穏やかな寝顔を見せていた。
(光子竜、遊希は……)
―――大丈夫だ、疲れが溜まっていたのだろう。眠っているだけだ。
光子竜の言う通り、遊希は鈴の腕の中で小さく寝息を立てているため、デュエルに敗れたからといっていつ目覚めるかどうかわからない眠りに落ちる、ということはないだろう。その事実だけでも鈴たちにとっては救いだった。
「遊希、ゆっくりお休み。さてと……次はあなたの番だよ」
そう言って鈴はその場に遊希を横たわらせる。そして遊希を守るかのように彼女の前に立つと、いよいよ本丸となる相手と対峙した。
「……まさか、あなたがお姉さまにデュエルで勝つなんて……」
遊望はその表情こそ氷のように冷淡に見えるが、遊希が鈴に敗れたことに対して少なからず動揺しているようだった。
「あたしもそれだけ修練を積んだってことだよ。あんたに無力って言われたことが悔しかったからね」
「精霊を宿したのみならず、お姉さまやエヴァ・ジムリア……本来の宿主の下から離れた精霊とも心を通わせることができる。あなたも紛れもなく精霊使いなのでしょう。無力と言ったことは詫びます」
そう言って遊望はペコリと頭を下げた。元々の性根が礼儀正しい彼女はその辺りの謝罪はできるのだろう。それを見て鈴は一縷の望みに賭けることにした。
「へへっ、あたしの力を認めてくれるんだ。じゃあさ……あたしたちと一緒に来ない?」
―――鈴!?
鈴の脳裏に精霊たちの驚く声が響く。これまで遊望がしてきたことを考えると、とてもそんなことは言えたものではないからだ。
「……はい?」
そして、そんな突拍子もない鈴の提案に驚いたのは遊望も一緒だった。しかし、鈴はこのような提案を何も思いつきで言っているわけではない。
「今のあんたは精霊になっているんけど、元々は人間だし人間としても過ごすことができるはずだよ。それに……遊希はずっと悲しんでいた。あんたやご両親を守れなかったことをずっと悔やんでいた。あたしとしては、そんなあの子の想いを汲んであげたいって思ってるんだ」
「そうですか……あなたはとても、優しいのですね」
そう言って微笑んだ遊望の笑顔はたまに遊希が見せるそれと同じように愛らしいものだった。
一度命を落としながらも精霊となって生まれ変わった彼女だが、元々は人間の少女である。精霊として新しい命を得たとしても、人の姿をしているのだから人間の世界でも暮らせないわけがない。仮に何か不都合が生じたとしても、遊希はもちろん自分たちだって遊望のことを守ることができるからだ。
遊望の笑顔を見た鈴は彼女の心の奥に眠っていた人間だったころの優しい心が目覚めたのだと確信した。そしてその手を遊望に向けて差し出したのである。
「一緒に……行きましょう?」
「……はい」
鈴の差しだした手を遊望が手に取ろうとした瞬間だった。
―――鈴、離れてっ!!
青眼の叫びと同時に鈴はそして何が起きたかわからないまま遊望に差し出した手を引いた。鈴の眼に映ったのは片方の手に握られていた剣を振るう遊望の姿だった。
時空竜を模した装飾がついたを剣を振るう遊望の眼はいつにもなく冷酷であり、そしていつにもなく憐れみを帯びていた。
「な、なにを……」
「うふふっ、あなたは本当に優しいのですね。優しくて……そして悲しいほど愚かです。精霊を使いこなせるのだから少しは成長したのかと思いきや、まさか前より頭が弱くなっているとは……」
そう言って高笑いする遊望。鈴は遊望を説得すればこれ以上誰も傷つくこと帰ることができるのではないか、と思っていた。しかし、今の遊望を見てその考えがやはり甘かったということを思い知らされた。
「とてもお優しくて、とても愚かなあなたは私を受け入れられると本気で思っているのでしょうが、私は違います。そもそも私とお姉さまの世界に他の人間など必要ありません。私とお姉さまは二人で、失われた姉妹の時を取り戻すのです。このまま全てを丸く収めようなどと……反吐が出る!!」
穏やかな笑みが一転、まるで燃え上る業火の如く苛烈な目つきでこちらを睨みつける遊望。どうやら鈴の提案は火に油を注ぐ形になってしまったようだ。
「うーん……まあ、そう上手くは行かないよね」
―――当たり前でしょ……もうっ!
改めて遊望と距離を取った鈴は再度デュエルディスクを起動する。遊希とのデュエルが終わってからまだ10分も経っていないが、どちらにせよ遊望との連戦になることは覚悟の上で臨んでいた。擦り切れそうな神経を更に研ぎ澄まし、目の前の敵に集中する。
―――鈴。お前の身体は……精霊三体を同時に使役するというのは相当の負担なはずだ。
(うん、ぶっちゃけこのまま倒れてあったかい布団で寝たいレベルに疲れてる。でも、それでもあたしがやらなきゃいけない。あたしがやらなきゃ誰がやるっていうの?)
―――……愚問だったな。
(そうだよ。でも、単に宿られてるだけだと割に合わないからさ。青眼、スカーライト、光子竜。みんなもあたしに力を貸して!)
精霊三体を従え、デュエルに臨もうとする鈴を見た遊望もまたデュエルディスクを顕現させると戦闘態勢を取る。先ほどの憤怒の表情を残しつつ、まるで弱者を見るような眼で彼女は鈴たちを見つめていた。
「……いいでしょう。ならばあなた諸共その精霊たちはデュエルで屠って差し上げます。それこそ二度と立ち上がれなくなるまでに!!」
「前までのあたしとは違う。それを教えてあげる」
デュエルが始まるにあたって鈴は遊望に先攻後攻の決定権を譲った。デュエルモンスターズのルールではドローこそできないが、基本的には先攻有利のゲームである。
しかし、以前先攻を取った結果鈴は遊望に後攻ワンキルを許す結果になってしまった。あの時は初見殺しということもあったのだが、先攻を取ったところであの時と同じ轍を意図せず踏んでしまえば元も子もない。
それを警戒した彼女は敢えて遊望に先攻後攻の決定権を譲ったのである。遊望は少し意外そうに首を傾げながらも貰えたことに素直に喜んで先攻を取った。
「言っておきますが、先攻後攻の決定権を私に譲渡したのはあなたですからね? それを負けの言い訳にしないでくださいよ」
「……わかってるわよ、そんなこと」
星乃 鈴と天都 遊望。二人のデュエリストによる、最後の決戦の火蓋が切って落とされた。
先攻:遊望【銀河眼の時空竜】
後攻:鈴【儀式青眼】
遊望 LP8000 手札5枚
デッキ:55 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
鈴 LP8000 手札5枚
デッキ:37 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠(Pゾーン:青/赤):0 墓地:0 除外:0 EXデッキ:15(0)
―――デッキ60枚!? 隣の芝刈りでも使うつもりなのかな??
―――わからないが、枚数が多いからと言って気を抜くなよ。枚数が多いということはそれだけ取れる手が多いということなのだからな。
☆TURN01(遊望)
「私のターン。私は手札から魔法カード《混沌領域》を発動」
《混沌領域》(カオス・テリトリー)
通常魔法
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札から光属性または闇属性のモンスター1体を墓地へ送って発動できる。そのモンスターとは属性が異なり、レベル4~8の通常召喚できない光・闇属性モンスター1体をデッキから手札に加える。
(2):墓地のこのカードを除外し、除外されている自分の通常召喚できない光・闇属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキの一番下に戻す。その後、自分はデッキから1枚ドローする。
「私は手札の闇属性モンスター《ドラゴンメイド・チェイム》を墓地へ送って1つ目の効果を発動します。デッキからそのモンスターとは属性が異なり、レベル4から8までの通常召喚できない光・闇属性モンスター1体を手札に加えます」
「いきなりサーチカード……混沌領域の発動にチェーンして手札から増殖するGの効果を発動!」
「やはり持っていましたか。ですが問題ありません。増殖するGの発動にチェーンしてこちらは灰流うららをチェーンします」
「っ……!」
チェーン3(遊望):灰流うらら
チェーン2(鈴):増殖するG
チェーン1(遊望):混沌領域
「チェーン3の灰流うららによってチェーン2の増殖するGの効果の発動は無効。いいですね?」
「……あたしの増殖するGの効果は無効になるわ」
「では、チェーン1の混沌領域の効果を適用します。私が手札に加えるのはレベル4・光属性の輝白竜ワイバースター。そして墓地の闇属性モンスター、ドラゴンメイド・チェイムを除外してワイバースターを特殊召喚します」
遊望が取ってきた戦法は輝白竜ワイバースター、そして対となる効果を持った暗黒竜コラプサーペントを絡めてくるであろうコンボ。いわゆる【ドラゴンリンク】デッキが得意とする戦法である。
しかし、皐月が自身のヴァレットデッキでこの戦法を使っていた頃と比べるとキーカードである守護竜アガーペイン、守護竜エルピィの2体のリンクモンスターが禁止指定されているために本来の力は発揮できなくなっていた。もちろんそれでも油断はならないものであり、特殊召喚を多用するこのデッキに刺さるものとして是が非でも増殖するGは通しておきたかった。
「ワイバースターをリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク1のストライカー・ドラゴンをリンク召喚します。そしてリンク召喚に成功したストライカー・ドラゴンおよび墓地に送られたワイバースターの効果を発動します」
チェーン2(遊望):輝白竜ワイバースター
チェーン1(遊望):ストライカー・ドラゴン
「チェーン2のワイバースターの効果でデッキから暗黒竜コラプサーペントを手札に加え、チェーン1のストライカー・ドラゴンの効果でデッキからフィールド魔法、リボルブート・セクターを手札に加えます。そして墓地の光属性モンスター、ワイバースターをゲームから除外し、コラプサーペントを特殊召喚。私はストライカー・ドラゴンとコラプサーペントをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。リンク2のドラグニティナイト-ロムルスをリンク召喚。墓地へ送られたコラプサーペントの効果、そしてリンク召喚に成功したロムルスの効果を発動します」
チェーン2(遊望):暗黒竜コラプサーペント
チェーン1(遊望):ドラグニティナイト-ロムルス
「チェーン2のコラプサーペントの効果で2枚目のワイバースターを手札に加えます。そしてチェーン1のロムルスの効果で更にドラグニティの神槍を手札に加えます。さて、ワイバースターおよびコラプサーペントの自身の効果による特殊召喚は1ターンに1度まで。なので墓地の混沌領域の2つ目の効果を発動します。墓地のこのカードを除外し、除外されている1枚目のワイバースターをデッキボトムに戻して1枚ドローです。そしてロムルスの効果で手札に加えた装備魔法、ドラグニティの神槍を発動」
《ドラグニティの神槍》
装備魔法
「ドラグニティ」モンスターにのみ装備可能。
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):装備モンスターは、攻撃力が装備モンスターのレベル×100アップし、罠カードの効果を受けない。
(2):自分メインフェイズに発動できる。デッキからドラゴン族の「ドラグニティ」チューナー1体を選び、このカードの装備モンスターに装備カード扱いとして装備する。
「ロムルスにこのカードを装備。そして2つ目の効果を発動。デッキからドラゴン族のドラグニティチューナー1体を選んでこのカードの装備モンスターに装備カード扱いとして装備します。私はデッキから《ドラグニティ-クーゼ》を装備します。そして装備されているドラグニティ-クーゼの効果を発動」
《ドラグニティ-クーゼ》
チューナー・効果モンスター
星2/風属性/ドラゴン族/攻1000/守200
このカードをS素材とする場合、「ドラグニティ」モンスターのS召喚にしか使用できない。
(1):フィールドのこのカードをS素材とする場合、このカードのレベルを4として扱う事ができる。
(2):このカードが装備カード扱いとして装備されている場合に発動できる。装備されているこのカードを特殊召喚する。
「装備カード扱いとして装備されているクーゼは特殊召喚できます。更に手札の《ドラグニティ-レムス》の効果を発動」
《ドラグニティ-レムス》
チューナー・効果モンスター
星2/風属性/ドラゴン族/攻800/守800
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、
このカードをS素材とする場合、「ドラグニティ」モンスターのS召喚にしか使用できない。
(1):このカードを手札から捨てて発動できる。デッキから「竜の渓谷」1枚を手札に加える。
(2):自分フィールドに「ドラグニティ」モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。このターン、自分はドラゴン族モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。
「このカードを手札から捨てて1つ目の効果を発動。デッキから竜の渓谷を手札に加えます。そして竜の渓谷を発動。手札1枚をコストに2つある効果のうち私はデッキからレベル4以下のドラグニティ1体を手札に加える効果を適用します。私はこの効果で《ドラグニティ-ドゥクス》を手札に。そして墓地のレムスのもう一つの効果を発動。墓地からこのカードを特殊召喚します」
ドラグニティ-レムスの2つ目の効果を発動した場合、遊望はこのターンドラゴン族以外のモンスターをEXデッキから特殊召喚することができなくなる。最も彼女のデッキ内容から考えるとEXデッキのモンスターは全てドラゴン族で統一されていても何らおかしなことではないのだが。
「私はドラグニティ-クーゼをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。守護竜ピスティをリンク召喚。そしてリンク2のロムルスとレムスをリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン。リンク3、スリーバーストショット・ドラゴン」
涼し気でありながらも、至って無機質に、抑揚のない声で連続リンク召喚を決める遊望。自身の効果で除外されたレムスであるが、ピスティの効果を使えば呼び戻すことも容易。故にそのデメリット効果も全く気にせずに展開できるのだ。
「ピスティのリンクマーカーは右を向き、スリーバーストのリンクマーカーは真下を向いている。これでピスティの効果を発動できるようになりました。ピスティの効果で私は除外されているドラゴン族モンスター、ドラゴンメイド・チェイムを特殊召喚します」
《ドラゴンメイド・チェイム》
効果モンスター
星4/闇属性/ドラゴン族/攻500/守1800
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ドラゴンメイド」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
(2):自分・相手のバトルフェイズ開始時に発動できる。このカードを持ち主の手札に戻し、自分の手札・墓地からレベル7以上の「ドラゴンメイド」モンスター1体を選んで特殊召喚する。
「レムスじゃない……」
「もちろんレムスを戻して再展開、というのも狙えましたが……そもそもあなたを倒すのにレムスの効果を二度も発動させる必要性が薄いと感じられましたので。さて、特殊召喚に成功したチェイムの効果を発動します。デッキからドラゴンメイド魔法・罠カード1枚を手札に加えます。私が手札に加えるのは《ドラゴンメイドのお心づくし》です。さて、長々とやらせて貰っていますが、あなたもお気づきの通り私はまだモンスターを通常召喚していません。その意味……わかりますよね?」
そう言ってクスクスを愛らしくも意地の悪い笑みを浮かべる遊望。遊希にデュエルで勝ったとはいえ、今の鈴を彼女はそう評価していない、ということがその面持ちから現れていた。しかし、それはただ意地悪に笑っているだけではない。それは圧倒的上位に立つ自分が目下の鈴をこれから全力で仕留めに行く。その笑顔にはそんな意味が込められており、鈴はそこから始まる遊望の全力を受け切らなければならない、ということに他ならなかった。