銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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願い潰えし時

 

 

 

 

 

「……ゆう……き……」

「鈴。あんたのデュエル……熱く伝わってきた。あとは、私が引き受ける。だから、ゆっくり休んで?」

 

 遊希は鈴の身体を包み込むように優しく抱きしめると、彼女の腕からデュエルディスクを外し、自分の腕へと付け替えた。鈴のデュエルディスクを装着すると同時に、鈴に宿っていた光子竜たちとの意識がリンクする。

 

―――久しぶりだな。全く、こんなに長い間離れて……

(ええ、本当に。またあんたの憎まれ口を聞きながらデュエルしなきゃいけないなんて最悪よ)

―――……よかった。お前はいつもの遊希だ。

 

 虚空を見つめながらにっこりと、いつものような不敵な笑みを浮かべる遊希。目覚めた彼女の双眸は対峙する妹の姿を捉える。そこに立っているのは無惨に敗れ、恐れ震えていた少女ではない。紛れもなく一人のデュエリスト・天宮 遊希だった。

 

「遊望」

「何のつもりですか、お姉さま?」

「見ればわかるでしょう? 私がこのデュエルを引き継ぐ」

「……ご自分が何を仰られているかわかっているのですか?……デュエルを引き継ぐということは、今の星乃 鈴の状態を引き継ぐということ。ライフも、フィールドも、デッキもそのままということなのですよ?」

「ええ、わかってるわ。この状態からデュエルを再開する」

「……お姉さま、とんだ物好きですね。ですが、そんなところが愛おしくてたまらない。いいでしょう、お受けします」

 

 遊望の了解を得たことで、鈴に代わり遊希が鈴のそのままのデッキでデュエルをすることとなった。しかし、ライフが初期通りの8000かつ自分のデッキならともかくライフが削れ、遊望のフィールドには超時空龍と銀河衛竜が残っている状態で、他人のデッキを使ってデュエルをするということは決して簡単なことではない。

 

(光子竜、このデュエルに勝つ。勝つしかない)

―――ああ、だがここからどうする?

(……どうしましょうか)

―――……な、何も考えていないのか?

(うん。でも、勝てる)

―――確証は?

(ない)

―――……らしくないな。だが、面白い。ならば、このドローで決めてみせろ!

「私のターン、ドロー!!」

 

 遊希はデッキから“鈴が引くはずだった”カードをドローする。もしこの世界に本当に運命というものがあるならば、本当に不思議なことをする、と思わざるを得なかった。しかし、その不思議で不思議で仕方ない運命の悪戯が遊希の脳裏に広がる勝利というパズルの最後の空白を埋めた。

 

「私は―――手札から魔法カード、復活の福音を発動!」

「復活の福音……! まさか、ここにきて蘇生カードを……!」

「これは、鈴が私に繋いでくれた勝つためのドロー! 墓地のレベル7または8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する! 私に力を貸して、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!!」

 

 遊希の手によってスカーライトが墓地から舞い戻る。しかし、スカーライトの攻撃力は青眼の白龍と同じ3000であり、その効果も攻撃力がスカーライトを上回る超時空龍がいる限りは意味を為さない。

 

―――遊希、久しぶり! 元気そうで良かったよ!

(……ついさっきまで倒れてた私を見て元気そうとかあなたも相変わらずね)

―――そっかな? でも、こんな状態でも一緒に戦えるのは嬉しいわ!

(そうね。スカーライト、このデュエルに勝つにはあなたの力が必要。私に、力を貸して)

―――もちろん!

 

 それでも、遊希の頭の中に描かれた勝利への道筋にスカーライトは欠かすことのできない存在だった。

 

「そして私は手札から儀式魔法、高等儀式術を発動! デッキから通常モンスター、青眼の白龍1体を墓地へ送り、レベル8のブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを儀式召喚!!」

 

 そしてデッキに眠る最後の青眼の魂が捧げられ、鈴のエースであるカオス・MAXが降臨する。ここでカオス・MAXの儀式召喚に繋げられたのも鈴の精霊である深淵の青眼龍の力が大きかった。

 

―――天宮 遊希……

(自己紹介が遅れてごめんなさい。深淵の青眼龍……あなたが鈴の精霊なのね)

―――うん……あの、お願い。鈴のためにも、このデュエル……絶対に、勝って。

(……任せて。あなたの力も無駄にしない)

「カオス・MAXにスカーライト……星乃 鈴とエヴァ・ジムリアのエースを並べたところで、超時空龍の前ではただのモンスターに過ぎません!」

 

 鈴の墓地に眠る深淵の青眼龍の効果を発動し、カオス・MAXの攻撃力を1000上げることで超時空龍を倒すことはできる。しかし、その超時空龍の傍らに控える銀河衛竜の効果を使われてしまえば超時空龍の攻撃力がまたしても10700にまで上昇するため、深淵の青眼龍の力があったとしても超時空龍を倒すことはできない。遊望の言うように、超時空龍の前ではカオス・MAXもスカーライトもただのモンスターに過ぎないのだ。

 

「……あんた、強くなったようだけどやっぱりまだまだ視野が狭いのね」

 

 しかし、遊希はそう思っていなかった。

 

「……どういう意味ですか?」

「カオス・MAXとスカーライトにはいくつも共通点がある。種族、属性、そして……レベル」

 

 カオス・MAXとスカーライトは共にレベル8のモンスターである。そして、そんな2体のドラゴンを従える遊希の最も得意とする召喚法は同じレベルのモンスター複数体必要とするX召喚だ。そうなれば次に遊希の取る手は明白だ。

 

「ランク8の……X召喚」

「そういうこと! 私はレベル8のブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンと、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでオーバーレイ!!」

 

 深淵の青眼龍の力で儀式召喚に繋がったカオス・MAXとエヴァから鈴を経て遊希に従ったスカーライト。鈴とエヴァ、二人の精霊使いと共に歩むニ体の精霊が、今遊希の下で一つになった。それは遊希、鈴、エヴァの三人の精霊使いの想いが一つになった瞬間だった。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!! エクシーズ召喚!!“闇に輝く銀河よ。混沌と真紅の魂を受け継ぎ生まれし命の光、戦場に波動となりて降り注げ!!”現れなさい、銀河眼の光波竜!!」

「銀河眼のXモンスター!? 何故星乃 鈴のEXデッキに……」

 

 遊望が遊希をデュエルで倒し、彼女を連れ去った時。遊希だけを連れ去ったため、光子竜や彼女のデッキはそのまま置き去りにされていた。鈴は自分のデッキでも使えるカードは自分のEXデッキに組み込み、そして遊希を助け出した時にすぐに返せるように、彼女のカードを今この場所まで持ってきていたのだ。

 

「……鈴のファインプレーよね。あの子が自分のEXデッキを削ってまで私のカードを入れてくれていなかったら光波竜のX召喚はできなかった。銀河眼の光波竜の効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールドに存在するモンスターのコントロールを私に移す!」

「まさか、私の精霊の力を……」

「遊望、あんたには……その力は似合わない!!“サイファー・プロフレクション”!!」

 

 翼を広げた光波竜から放たれた光の波動が超時空龍を包み込む。如何に強力な精霊であったとしても、デュエルモンスターズというルールの下ではいちモンスターに過ぎない。相手の効果に対する耐性を持たない超時空龍に光波竜の効果は防ぐ術などなかった。

 

「超時空龍はこのターン終了時まで銀河眼の光波竜として扱い、攻撃力は3000に変化。そしてそのコントロールはこのターン終了時まで私に移る!」

 

CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500→銀河眼の光波竜 ATK3000

 

―――時空竜……

 

 遊望の力、いや遊望そのものの化身とも呼べる超銀河眼の時空龍が彼女に牙を剥く。その瞬間であった。光子竜の脳裏にこれまで時空竜が見てきたものが流れ込んできたのは。光子竜は何故自分が当時5歳と幼く、デュエリストにすらなっていなかった遊希の下に精霊として宿ったのか。彼がどのような経緯を辿ったのかを彼自身が忘れてしまっていたことが時空竜を通じて戻ってきたのだ。

 

―――そうだ、思い出したぞ……あれはほんの些細なすれ違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀河眼の光子竜と銀河眼の時空竜。2体のドラゴンは元々はこの世界に生まれ、この世界を影ながら見守っていた精霊だった。自分たちがいつどうやって生まれ、どのようにして出会ったのかもわからない2体のドラゴンはあくまでこの世界の一部として世界を見守っていた。自分たちは世界や人間に干渉することのない、ただの観測者として。

 

「貴様……それは本気か」

「ああ、これは嘘偽りのない私の本音。私はもうこれ以上、この世界を傍観し続けたるだけではありたくない」

 

 同じ銀河眼(ギャラクシーアイズ)の名を持つドラゴンということもあって妙に馬が合った。しかし、いくら同じ名を持つ銀河眼であっても何もかもが同じというわけではない。姿形もさほど似ておらず、性格も違えば抱く価値観も違う。

 

「我々精霊はあくまでこの世界の観測者に過ぎない。我らが動く時はこの世界に危機が迫った時。それがわからない貴様ではないはずだ」

「……我らは世界を見守り、守るだけの力を持つ。力があるからこそ、力無き無辜の命が失われていくのを見ているだけなのが苦しくてたまらない」

「……そうか、お前は優しいのだな。だが、その優しさを私は見過ごすつもりはない!!」

 

 望まない形で対峙する2体の銀河眼。全く同格である2体の銀河眼の攻撃は相殺し合い、相討ちになった。力尽きた2体のドラゴンはまるで燃え尽きた流星が消えていくかのように落ちて行く。そんな消滅の危機にあった光子竜が意図せず出会ったのが遊希だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そうだ、私はこの戦いで傷つき、記憶を失い……そして遊希のところに……

 

 しかし、全てを理解する前に光子竜は現実へと引き戻される。超時空龍のコントロールを奪ったとはいえ、まだデュエル自体は終わっていない。ほんの少し気を緩めるだけで掴みかけた勝利が零れ落ちることもありえるのがデュエルというものであり、相手が遊望なら尚更である。

 

「っ……!! うあああっ……!」

―――遊希!?

 

 それでも、簡単に遊望は勝利を掴ませてはくれない。一時的なコントロール奪取とはいえ、4体目の精霊が遊希の側についたのだ。先のデュエルでの疲労蓄積も否めない今、その負担はまさに十字架の如く遊希に圧し掛かる。鈴と同じように、ここで遊希が倒れてデュエル続行不能となればそれこそ本当に完全敗北だ。

 

―――遊希、辛いだろう。苦しいだろう、だが……ここを乗り切れば我らの勝ちだ!!

「お姉さま、苦しいのでしょう? もういっそ全て諦めてしまってはどうですか? また作りましょう、私とお姉さま、二人だけの世界を!!」

 

 二つの声が遊希を引っ張り合う。もちろん遊望に与することは遊希にとって望ましいことではないのだが、頭ではわかっていても中々身体が応えてくれないのが現状であった。こんな状況になってもなお、遊希は姉として妹を想う心を完全に捨て去ることができていない。

 

「遊希!!」

「遊希さん!!」

「遊希、負けるな! 鈴の、私たちの想いを受け取ってくれ!!」

 

 そんな心と心のぶつかり合いを制したのは絆だった。鈴の、エヴァの、千春の、皐月の想いが、遊希に力を与えた。

 

「超時空龍、私に降りなさい!! 私は銀河眼の光波竜となった超銀河眼の時空龍でオーバーレイ!!」

「……超時空龍を素材にX召喚!?」

「このモンスターは、私のフィールドのサイファー・ドラゴンモンスター1体を素材にX召喚できる! 鈴、あんたが託してくれた想いを、このカードに込めて遊望を撃ち抜く!! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!! 現れなさい!《銀河眼の極光波竜》!!」

 

《銀河眼の極光波竜》(ギャラクシーアイズ・サイファー・エクス・ドラゴン)

エクシーズ・効果モンスター

ランク10/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3000

レベル10モンスター×2

「銀河眼の極光波竜」は1ターンに1度、自分フィールドの「サイファー・ドラゴン」モンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

(1):このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。自分フィールドの光属性モンスターは相手ターン終了時まで相手の効果の対象にならない。

(2):自分スタンバイフェイズに発動できる。自分の墓地のランク9以下のドラゴン族Xモンスター1体をEXデッキに戻す。その後、そのモンスターを自分フィールドのこのカードの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚できる。

 

 精霊・時空龍の力は確かに強力無比であり、そのまま存在し続ければ確実に遊希の身も心も蝕んでいただろう。それを遊希は銀河眼の極光波竜にエクシーズチェンジさせることで上書きしたのだ。超時空龍の霊圧が薄れ、屈めていた身を立て直した遊希は小さく息を吐き、再度眼前の遊望を見据える。その眼にもはや迷いはなかった。

 

「銀河眼の光波竜の効果を発動したターン、私は銀河眼の光波竜以外のモンスターでは直接攻撃できない。でも、あんたのフィールドには銀河衛竜が残っている」

「っ……」

「バトルよ! 銀河眼の極光波竜で銀河衛竜を攻撃!“エクス・サイファー・ストリーム”!!」

 

銀河眼の極光波竜 ATK4000 VS 銀河衛竜 ATK2000

 

遊望 LP3000→LP1000

 

(そんな、嘘。嘘。嘘……どうして……っ)

「これで終わり。銀河眼の光波竜でダイレクトアタック!“殲滅のサイファー・ストリーム”!!」

 

銀河眼の光波竜 ATK3000

 

 押し寄せる光の奔流に飲み込まれていく遊望。遠くなる意識の中、遊望は必死に愛する姉へと手を伸ばす。しかし、その伸ばした手を遊希が取ることはなかった。

 

遊望 LP1000→0

 

 そしてそれが意味するもの、それは遊望の願いが潰えるということであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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