銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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リハビリ

 

 

「さあ、私の実力わかったでしょ! 遊希! 明日こそデュエルよ!」

 

 デュエルが終わった後、シャワーを浴びて汗を流した千春と皐月はパジャマに着替えては隣室の遊希と鈴のところにやってきていた。勝利に勢いづいたのか、パジャマに着替えてからも元気いっぱいの千春。その様はまるで旅行の夜に興奮して眠れない子供のようであるが、遊希や鈴はデッキを調整したり、寝る準備をしていたりと千春の言葉を真面目に聞いていなかった。

 

「残念、あんたはトラブル起こしたからデュエルディスクを取り上げられたでしょうが。しばらくデュエルは禁止よ」

「むーっ……じゃあ誰かディスク貸してよ」

「駄目ですよ。他人のディスクを使ったらそれこそもっと厳しい処分が……」

「あのねぇ、せっかくパパが大目に見てくれたんだからその気遣いを無下にしないの。本当はもっと長い謹慎期間だったかもしれないのに3日で処分解いてくれるんだから。それくらい我慢しなさい」

「でも3日もデュエルできないのはつらいわね……まあ私はやるだけじゃなくて見るのも好きだからあんたたちのデュエルを見るだけでも満足なんだけどね!」

 

 このデュエルバカ、と内心思いながら遊希はデッキをケースにしまう。シャワーで濡れた髪がほぼ乾いた頃、デュエルの疲れが今になって来たのかうつらうつらと舟をこぎ始めた千春を皐月が自分たちの部屋へと連れ帰る。やはりその様子は何処からどう見ても姉と妹にしか見えなかった。

 

「……やっと帰った」

「皐月も苦労しそうよねー、あれがルームメイトだと」

「でもあれくらい騒がしい方が彼女にとっては良いのかもしれないわね」

「どういうこと?」

「皐月は良い子なのは間違いないけど、ちょっと大人しすぎるところがあると思うわ。デュエルに自信がないって言っていたからそういうところを治すのには千春のような存在が必要になるはずよ」

 

 出会ってわずか数時間であるにも関わらず皐月の人となりと千春の良いところを絡めて話す遊希。この洞察力もまた彼女がプロの世界で成績を残した理由なのだろう。

 

(……やっぱり遊希はすごいなぁ。パパもそうだけど、プロデュエリストとして成功するために、あたしももっとがんばらないと!)

「さて、私たちもそろそろ寝ましょう。明日も早いんでしょう?」

 

 そう言って遊希は二段ベッドの梯子を登り始める。

 

「……ストップ」

「何?」

 

 眠そうに目をこする遊希を呼び止める鈴。この時彼女はどうしても見過ごせないことがあった。

 

「いやいやいや、何しれっと上で寝ようとしてるの遊希?」

「……今日の入学式の時のデュエルで勝ったのは私よね? だから上で寝るのは私」

「いやその理屈はおかしい。あの勝敗に二段ベッドの上下は関係ないでしょ?」

「それもそうね。じゃあ別の方法で決めましょう。例えば……胸の大きい方が上で寝るってことで。じゃあおやすみ、つるぺた鈴ちゃん」

「それなら文句ないわ。おやすみ……って待てーい!! 誰がまな板じゃー!!」

 

 鈴のお笑い芸人ばりのノリツッコミが炸裂したところで、「どちらが二段ベッドの上で寝るか」という実に子供っぽい理由で議論が始まる。この不毛な議論によって、二人の就寝時間が減ることが確定するのであった。

 

「ねえ」

「……何、これから寝るんだけど」

 

 どっちが二段ベッドの上で眠るか、という議論は当然まとまらなかったので、折衷案で今日は二人で一緒に上のベッドで眠ることになった。シングルかつ二段ベッドなので個人のスペースは当然狭い。そんな中、反対方向を向いていた鈴が眠ろうとした遊希に声をかけた。

 さすがに一日色々あって疲れていた遊希は不機嫌そうに振り返り、寝ぼけ眼を擦って目を開く。こちらを向き直って覗き込む鈴の顔は妙に真剣そのものであった。

 

「あんたさ、明日以降どうするの? 今日みたいにデュエルの度に倒れたりしたらさすがに厳しいんじゃない?」

「ああ、そこは身体に慣らしていくしかないわね……この学校に来るまでほとんどデュエルしてこなかったから昔に比べて精霊のカードに対する耐性が落ちているの。まあデュエルを繰り返せば自然となんとかなると思うけど」

「もしさ、あたしで良ければいつでも協力するよ」

 

 鈴の中には当然遊希の助けになりたいという気持ちもあった。しかし、何より自分自身一デュエリストとして負けたまま終われないという意地もあった。リハビリをすることに勝ち負けは関係ないよね、という一概の疑念を持ちながら。

 

「……もうとっくに消灯時間を過ぎているわね。消すわよ」

 

 そう言って遊希は布団の中に顔を埋める。だが、布団の中から目から上だけを出すと、心配そうに見つめる鈴に対して一言。「ありがとう」と不器用そうに言った。鈴は「どういたしまして」と言って悪戯っぽく笑うと、反対方向を向いて眠りについた。暗闇の中、鈴の小さな寝息だけが響く静寂の世界。瞼が次第に重くなる中、遊希の頭の中には光子竜の言葉が響く。

 

―――遊希。

(何よ、もう眠いんだけど)

―――……良い仲間に巡り会えたな。

(……そうかもね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日以降、千春のデュエル禁止令が解ける3日間はあっという間に過ぎて行ったように思えた。すぐに授業が始まるわけでもなく、オリエンテーションガイダンスや授業制度などについての説明がずっと続いたからだ。

 ちなみにデュエルアカデミアの授業は単位制になっており、高校というよりかはどちらかというと大学に近い制度となっている。そのため通常の高校に比べて取得単位の管理が大事になるのだ。

 

「さあ、遊希。デュエルをしましょう!」

 

 デュエル禁止令が解けた千春はガイダンス終了後に早速遊希にデュエルを申し込む。学校の仕組みを覚えるためにいっぱいいっぱいだった三人はデュエルどころではなかったため、正直に言えばデュエルに飢えていた、というのはあった。

 

「……唐突ね。まあ今日の分のガイダンスは終わって後は余暇だけど」

「他の学生の皆さんはこの時間はデュエル場でデュエルをしていますからね……空きがあるといいんですけど」

「もし空いて無かったら……あたしいい場所知ってるんだよね!」

 

 そう言って鈴に案内されたのはアカデミア校舎の屋上だった。屋上は許可を取らないと入ることは出来ないが、そこは校長の娘。入学試験の成績も良かったため教員たちにはなんら怪しまれず屋上の使用許可を取ってきたのだ。

 

「風が気持ちいいわね」

「ええ、絶好のデュエル日和ね!」

 

 そう言ってデュエルディスクを構える千春。彼女は既に臨戦態勢のようであった。遊希は結局千春のデュエルの相手は自分なのか、と溜息を付くが千春も綾香同様デュエルを通して自分のリハビリに協力してくれている。そう思うと悪い気はしなかった。

 最も千春自身は遊希のリハビリよりも自分自身が一人でも多くの強いデュエリストとデュエルしたいという気持ちが強かったのだが。

 

「そうかもしれないわね……じゃあそのデュエル日和に恥ずかしくないデュエルをするわ」

 

 デュエルディスク内蔵のコンピューターによって先攻後攻の選択権は遊希に与えられた。ここ最近自分に先攻後攻の決定権が与えられたことがなかったため、久々に自分の手で先攻か後攻か選べるのは少し嬉しかった。

 

―――良かったな、遊希。久しぶりに先攻でデュエルが始められそうだぞ。

「後攻を選ぶわ。先攻は千春でいいわよ」

「あら、いいの?」

―――遊希? お前後攻は嫌だったんじゃないのか?

(……先攻の方が好きに決まってるじゃない。でも相手は【サイバー・ドラゴン】よ?)

 

 サイバー・ドラゴンデッキを使う千春の得意戦術はサイバー・ドラゴン・ズィーガーとキメラテック・ランぺージ・ドラゴンによる後攻ワンショットキルである。先攻で制圧しようとしても、サイバー・ドラゴンデッキにはEXゾーンのモンスターを問答無用で融合素材にできる《キメラテック・メガフリート・ドラゴン》も存在しているため、こちらの布陣次第によってはあっさり崩されかねないのだ。

 もちろん千春もそれを理解しているため、先攻を取った時用の展開術も用意しているだろう。それでも高火力を出しやすいサイバー・ドラゴンに後攻で叩かれるのを遊希は避けたのだ。

 

「「デュエル!!」」

 

 

先攻:千春

後攻:遊希

 

千春 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

 

☆TURN01(千春)

 

「ということで私の先攻よ! 私は手札のサイバー・ドラゴンを捨ててサイバー・ドラゴン・ネクステアの効果を発動するわ! このカードを手札から特殊召喚! そして特殊召喚に成功したネクステアの効果で墓地の攻撃力2100の機械族モンスター、サイバー・ドラゴンを特殊召喚するわ!」

 

 本来は相手フィールドにのみモンスターが存在しなければ特殊召喚することのできないサイバー・ドラゴンを先1ターン目にも関わらず特殊召喚する。先攻で動きにくいというサイバー・ドラゴンの弱点を克服したネクステアの存在は千春にとってはやはり追い風と言えた。

 

(召喚権を使わずにリンク召喚の素材を揃えた……)

―――大言壮語するだけのことはあるようだな。

「そして手札から魔法カード《エマージェンシー・サイバー》を発動よ!」

 

《エマージェンシー・サイバー》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):デッキから「サイバー・ドラゴン」モンスターまたは通常召喚できない機械族・光属性モンスター1体を手札に加える。

(2):相手によってこのカードの発動が無効になり、墓地へ送られた場合、手札を1枚捨てて発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。

 

「デッキからサイバー・ドラゴン・フィーアを手札に加えるわ。そしてサイバー・ドラゴン・ドライを召喚するわ。召喚に成功したサイバー・ドラゴン・ドライの効果を発動、そしてそれにチェーンして手札のサイバー・ドラゴン・フィーアの効果を発動よ!」

 

チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・フィーア

チェーン1(千春):サイバー・ドラゴン・ドライ

 

「チェーン2の効果でフィーアを特殊召喚! フィールドのサイバー・ドラゴンモンスターの攻撃力・守備力を500ポイントアップさせるわ!」

 

サイバー・ドラゴン ATK2100/DEF1600→ATK2600/DEF2100

サイバー・ドラゴン・フィーア ATK1100/DEF1600→ATK1600/DEF2100

サイバー・ドラゴン・ネクステア ATK200/DEF200→ATK700/DEF700

 

「そしてチェーン1のサイバー・ドラゴン・ドライの効果でフィールドのサイバー・ドラゴンモンスターのレベルを5にするわ!」

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 星4→5

サイバー・ドラゴン・フィーア 星4→5

サイバー・ドラゴン・ネクステア 星1→5

 

「フィールドにレベル5のモンスターが4体……」

―――サイバー・ドラゴンでここまでの展開を行うとは。彼女の評価を上方修正する必要があるのではないか?

(あら、言うほど私は千春を見下してないわ?)

「私はサイバー・ドラゴンとネクステアをリンクマーカーにセット! リンク召喚! 今回もお願いね! サイバー・ドラゴン・ズィーガー!」

 

 リンク2のサイバー・ドラゴン・ズィーガーは左と下にリンクマーカーが向いている。そのため、下方向のマーカーの先にEXデッキからモンスターを特殊召喚できるのだ。

 

「そしてレベル5となったドライとフィーアでオーバーレイ! 2体の機械族モンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! サイバー・ドラゴン・ノヴァ! そしてノヴァをエクシーズ・チェンジ! 出番よ、サイバー・ドラゴン・インフィニティ!」

 

 サイバー・ドラゴンデッキで先攻を取った場合の基本戦術はパーミッション効果を持つサイバー・ドラゴン・インフィニティをフィールドに出すことだ。無効にできるのは1度だけではあるが、その1度の無効効果が物を言うのがデュエルである。

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3 ATK2100→2700

 

「私はこれでターンエンドよ!」

 

 

千春 LP8000 手札1枚

デッキ:34 メインモンスターゾーン:1(サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3)EXゾーン:1(サイバー・ドラゴン・ズィーガー)魔法・罠:0 墓地:1 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:12(0)

遊希 LP8000 手札5枚

デッキ:35 メインモンスターゾーン:0 EXゾーン:0 魔法・罠:0 墓地:0 Pゾーン:青/赤 除外:0 エクストラデッキ:15(0)

 

千春

 □□□□□

 □∞□□□□

  ズ □

□□□□□□

 □□□□□

遊希

 

 

☆TURN02(遊希)

 

(さて、機械族を強化できるズィーガーにパーミッション効果を持つインフィニティか……)

―――普段遊希もインフィニティを使うが、敵に回すとなれば厄介だな。

(正直あの布陣を突破できるとは思えない。相手が百戦錬磨のデュエリストならね)

「私は手札から魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動するわ」

 

 フォトン・サンクチュアリは攻撃力2000のトークン2体を特殊召喚する魔法カード。リンク召喚の登場以降、トークンを生成できるカードの地位は大幅に向上し、《ダンディライオン》や《トーチ・ゴーレム》といったカードはデッキを選ばず採用されるようになった。それらのカードの例に漏れず、トークンを2体同時に特殊召喚できるフォトン・サンクチュアリのパワーも千春は知っていた。

 

「フォトン・サンクチュアリの発動にチェーンしてサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動!」

 

チェーン2(千春):サイバー・ドラゴン・インフィニティ

チェーン1(遊希):フォトン・サンクチュアリ

 

「X素材を1つ取り除き、フォトン・サンクチュアリの発動を無効にして破壊するわ!」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3→2 ATK2700→2500

 

「ふーん、そこを無効にするのね」

「当然よ! 最初にフォトン・サンクチュアリを発動するってことはそれ以外に展開手段が無いってことなんでしょう?」

 

 遊希のデッキには特殊召喚モンスターであるフォトン・スラッシャーが入っている。特殊召喚の条件は緩いが、フィールドにモンスターが存在するだけで手札で腐ってしまうカードでもあるため、スラッシャーを特殊召喚してからフォトン・サンクチュアリを発動するのが定石の流れである。

 しかし、今遊希は最初にフォトン・サンクチュアリを発動した。それは手札にスラッシャーが存在しないことの証明でもあり、フォトン・サンクチュアリさえ止めてしまえば遊希はこのターン満足に動くことができない、と千春は踏んだのだ。

 

「なるほど……良い見立てね」

「でしょー! さすが最強のデュエリストになる女、日向 千春! あの天宮 遊希から白星を上げる瞬間が―――」

「私のフィールドにモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できるわ。手札からフォトン・スラッシャーを特殊召喚する」

 

 空間を大剣で切り裂いて現れるフォトン・スラッシャー。その姿を見た千春は目を白黒させる。

 

「ええっ、なんで!? なんでフォトン・スラッシャーが出てくるの!? 普通逆じゃないの?」

「まあ普通は逆よね。でも千春は私とデュエルをしたがっていた。だから私のカードや戦術を研究しているはず」

 

 デュエルが好きな千春は、デュエル好きを自称するだけあって誰よりもそれに情熱を注いでいる。遊希はそんな彼女の思いを利用したのだ。

 

「だからインフィニティの効果でフォトン・サンクチュアリを止めたんでしょう? 私が最初にスラッシャーを出さずにフォトン・サンクチュアリを発動した。フォトン・サンクチュアリ以外の展開手段を持っていない、これを止めれば私は動けない……ってあなたに思わせるためにね」

「むむむ……人の純粋な気持ちをよくも……」

「何がむむむよ。それがデュエルというものでしょう? さて、頭を使ったところ悪いけど、このデュエル―――早々に終わらせてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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