銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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入学試験

 

 

 

 デュエルアカデミアはデュエリストを養成することを第一に考えられた国公認の教育機関である。そのため、入学するための実技試験は受験番号順に受験生同士でデュエルを行うという実にシンプルなものだった。

 ただ、この選考結果に勝敗は関係ない。もちろん勝つことに越したことはないのだが、仮に負けたとしても、逆境においてどのように立ち回ることができるかということも試される。

 勝ち目がないからと言って自分からサレンダーすることや、勝ちが確定しているからと言って相手デュエリストを侮辱するようなプレイングをすると、それはマイナス評価が下されてしまう原因となってしまうのだ。

 

「……えーと。控室控室……あ、ここか」

 

 定刻より遅れて到着した遊希は、受付の人間に受験生は待ち時間まで控室で待つように、と指示されていた。受験票と共に送付されてきた試験会場の地図を見ながら遊希は控室までたどり着く。

 控室の中では自分の出番を今か今かと待つ他の受験生たちが指定された席で待っていた。受験生たちの中には緊張で凝り固まっている者もいれば、デッキ調整に心血を注いでいる者、そして早くも近くの席の者と仲良くなったのか、絶えず喋っている者もいた。受験生が待ち時間の間、思い思いの過ごし方をするのも、緊張を和らげるためであり、その内心は本来の自分通りのデュエルができるだろうか、という不安に染まっていた。

 そんな緊張に包まれた空気を破るが如く、遅刻してきた遊希はそれを詫びることなく堂々と控室に入る。遊希が控室に入ると同時に部屋中の視線が自分に集まるのを遊希は感じた。

 プロデュエリストとして多くの観衆の前でデュエルをしていたが、未だに大多数の視線が集まることにはどうにも慣れることはできない。それでも遊希はそんな視線など気にすることなく自分の受験番号である「62」の札が置いてある席へと座った。

 

「あれがあの天宮 遊希……」

「間違いなく本物だわ。プロ辞めてから消息不明って聞いていたけど……」

「凄い美人……ちょっと声かけてみようかな」

「やめとけって。ああいう人間は俺たちと住む世界が違うんだ」

 

 遊希が席に座った瞬間、周囲の受験生たちはひそひそと会話を始める。あの有名人を見ることができた、という好意的な意見も見られたが、大半の意見は遊希にとって聞き心地の良いものではなかった。

 

(……何よ、言いたいことがあるなら堂々と言えばいいじゃない。まあ、言われてることは大体合ってるけど)

 

 ただ、善悪はともかく彼女一人が部屋に入ってきただけで空気が変わるところは天宮 遊希という一人のデュエリストの影響力の強さを思い知らされる。既にプロの舞台から離れて数年は経っている彼女ではあるが、わずか7歳でプロとしてデビューし、10歳で引退するまでの間世界を相手に戦い続けた彼女の姿は未だに同世代の少年少女たちの記憶に色濃く残っていた。

 そんな周囲の雑音など気にも留めない様子の遊希はスマートフォンを開くと、数日前に送られてきたメールを再度確認する。そのメールには1枚の写真が添付されており、その写真には遊希と同年代の一人の少女が写っていた。遊希はきょろきょろと周囲を見回すが、この控室にその少女の姿はない。

 

(聞いた話ではこの子も今日二次試験を受けるはず……)

 

 遊希はその写真に写った少女を探していた。何故なら彼女にとってその少女は決して知らない存在ではなかったからだ。

 

(……ここにいない、ということは今試験中なのかな。ちょっと見に行っちゃおうっと)

 

 人と交わるのは好きではないが、人のデュエルを見るのは好き。そんな彼女は周囲の緊張などどこ吹く風。貴重品・受験票・デッキを上着のポケットにしまい込むと、そのまま控室を出た。鼻歌を歌いながら試験会場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊希が控室を出た頃、試験会場では他の受験生たちによるデュエルが行われていた。イベント会場を借りて入学試験を行っているため、会場では一度に10人のデュエリストが同時にデュエルを行っていた。

 

(やってるやってる。さて、あの子は何処にいるのかしら)

 

 入場ゲートの隙間から覗き見るようにして試験の様子を見る遊希。しかし、なにぶん会場が広いため、全員のデュエルの様子をはっきりと確認できるわけではない。基本的に他人に無関心な遊希であり、デュエルからしばらく離れていた彼女であるが、自分と同世代の他のデュエリストがどのようなデュエルを行っているのか、ということに関しては興味があった。

 

(……いた。やっぱり目立つわね、あの子。でも……何がどうなってああなっちゃたのかしら)

 

 覗いていることがバレると後で色々と面倒なことになるかもしれない。入口の陰からそっと覗き見る遊希は、目当ての人物をすぐに見つけることができた。何故ならその少女は受験生の中では非常に目立つ出で立ちをしていたからだ。

 

「これで終わりよ!“混沌のマキシマム・バースト”!!」

 

 4月を迎える前であるため、受験生たちは皆まだ中学生である。中学生かつ日本人であるはずなのに、その少女はまるで欧米人のような金髪をしており、少し着崩された中学校の制服には大小多種多様なアクセサリーが取り付けられていた。素行や容姿が問われる普通の高等学校の受験であればまず間違いなく一次試験で落とされているに違いない。

 そんな所謂「不良」「ギャル」と例えられてもおかしくはない容姿の少女は、後ろに付き従えた巨大な青い龍の一撃によって対戦相手の受験生のライフを見事に0にする。デュエルモンスターズというゲームにデュエリストの外見や出自が問われることはない。実力さえあれば一様に称賛されるのがデュエリストというものなのだ。

 

「これにて試験を終了します。お疲れ様でした」

 

 試験官を務める人間がそう告げると、デュエルを終えた生徒たちはデュエル場を後にする。すると、試験官の一人が金髪の少女を呼び止めた。きっとその容姿を注意するのだろう、と他の受験生は思っていたが、その予想は見事に裏切られる。

 

「お見事でした。やはり血は争えないということですね」

「……どうも」

 

 まるで貴人に拝謁するかのように恭しく試験官は頭を下げたのだ。一方で金髪少女のリアクションは何処か素っ気ない。まるで相手がそのような対応をしてくるのを予期していたかのようだった。その様子を遠巻きに見ていた受験生は皆呆気に取られていたようだった。

 

(……まあ、大人ならあの子に対しては何も言えないわよね)

 

 もちろん、陰から覗き見ていた天宮 遊希を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……やっぱりあの人もそうだった。みんなあたしを見ていない。みんな……を見てる)

 

 染められた金髪を揺らしながらその少女は薄暗い廊下を歩いていた。デュエルの内容は決して悪いものではなかった。使っているデッキ、自分の立場、傍から見れば十分すぎるほどの出来に見えるだろう。しかし、そんな結果を残してもなお少女の心には深い靄のようなものがかかっていた。

 

(セントラル校はデュエルアカデミア・ジャパンの中核って聞いてたけど、やっぱりこんなものなの? つまんないわね……)

 

 溜息交じりに歩く少女。だが、その落ち込んだ気持ちは一気に吹き飛んだ。自分の目の前に立つ一人の少女の存在に気付いたために。

 

「……正直、今のあなたの姿を見て驚いたわ。イメージチェンジにもほどがあるじゃない」

「天宮……遊希……」

 

 金髪の少女は絞り出すように遊希の名前を口に出す。呆然とその場に立ち尽くす少女を気に留めることなく、遊希は言葉を続けた。

 

「ニュースで見たわ。あなたのお父さんでこのセントラル校の新校長……星乃 竜司からあのカードを、あのデッキを受け継いだって。それを聞いて私は嬉しかったわ。あなたがそれほどまでのデュエリストになったって。私や竜司さんの“代わり”に日本を背負って立つデュエリストになってくれるって。でも、買いかぶりすぎていたようね、私」

「ッ……!!」

 

 次の瞬間、その場に立ち尽くしていたはずの少女は、憤怒の表情を浮かべながら遊希の胸倉を掴んでいた。遊希は一切動じることなく逆にその手を掴み取る。クールな黒髪の美少女と派手な金髪の美少女。二人の美少女が醸し出す険悪な雰囲気は既に他の何人たりともが立ち入れないものになっていた。

 

「……よくもいけしゃあしゃあとあたしの前に姿を現せたわね!! 虚飾っていうとんでもなくダサい服を着たプロデュエリストさん? あ、元でしたね?」

「ええ、そうよ。もうプロ辞めて5年も経ってるから元っていうの肩書が正解ね。で、いつからあなたは腕力で全てを解決するリアリストになったのかしら?」

「ふん、どこで何をしていたかは知らないけど……人をイラつかせる言葉遣いだけは上手くなってんじゃん。その大層な口ぶりだとデュエルもさぞ強いんでしょうね?」

「ええ、少なくともあなた程度なら軽くいなせるくらいの強さは持っているわ。これからそれを証明してあげるから」

「……あんたがプロ辞めてからデュエルモンスターズは大きく変わったのよ」

 

 金髪の少女が言うことは最なことであった。遊希がプロデュエリストだった頃はペンデュラム召喚が登場したばかりであり、今とはマスタールールも異なっている。そのためルールが改訂されたデュエルモンスターズを遊希は知らないも同然であったのだ。

 

「化石デュエリストさんが今のデュエルモンスターズにどれだけ通用するか……楽しみにしててあげるから」

 

 侮蔑するような笑みを見せた金髪少女はそう言ってその場を足早に立ち去っていった。遊希は彼女の姿が見えなくなったのを確認すると、一人試験会場に向かって歩き始める。その顔には先程までの人を小馬鹿にした様子はない。今の遊希はかつて自分がプロデュエリストだった頃に見せていた勝負の世界に生きる者が見せる顔をしていた。

 

(ええ、楽しみにしていなさい。そしてあなたの鼻を明かしてあげるから、鈴)

 

 金髪の少女―――星乃 鈴(ほしの りん)。自分をここに招いた元プロデュエリスト、星乃 竜司の一人娘であり、遊希とはかつて同じ道を歩もうと誓った戦友だった存在。遊希にとってもはやこの試験は単なる入学試験ではなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、あなたはそのデッキで何回くらいデュエルをしているの?」

 

 試験の時間を迎え、遊希は自分とデュエルをする対戦相手の受験生にそう尋ねた。遊希の相手となる少年デュエリストは間近で見る遊希の美貌に頬を赤らめていたが、その質問が出た途端に不可解そうな様子を見せる。

 

「えっ……15回くらい、かな」

「そう。教えてくれてありがとう。いいデュエルをしましょうね」

 

 遊希は微笑を浮かべ、デュエルスペースへと移動する。対戦相手に背を向けた今、遊希の顔からは今まで見せていた笑顔はとうに消え失せていた。

 

(……)

―――何故あのようなことを聞いた? デュエルには関係ないように思えるが。

 

 遊希の脳裏にはどこからともなく若い男性の声が響く。遊希は声を出さずにその声の主の疑問に答えた。

 

(関係なくなんかないわ。15回って……これから自分の人生を決めるデュエルを始めるのに、それしかデュエルをしていないデッキで臨むってどう思う?)

―――普通に考えれば、少なすぎるな。

(彼はきっとこの試験のために勝てるデッキを組んできたのでしょうね。今のデュエルモンスターズにおいて“勝てる”デッキはそう多くはない。でもその勝てるデッキは果たして15回程度のデュエルで使いこなせるようになるのかしら……)

―――あまり、虐めてやるなよ?

(ええ、虐めは嫌いだもの。だから……一撃で決めるだけよ)

 

 遊希は腰に付けたカードケースから1つのデッキを取り出し、試験用に配られたデュエルディスクにセットする。一度デュエルの世界から離れた遊希の時計の針が動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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