銀河の竜を駆る少女   作:Garbage

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留学生

 

 

 

 遊希たちがデュエルアカデミアジャパン・セントラル校に入学してから早くも1か月が過ぎた。世間はゴールデンウィークの真っただ中であり、行楽シーズンに家族連れや普通の学生たちは束の間の休みを謳歌する。

 それでもデュエリストにとってはゴールデンウィークなど関係ない。もちろんアカデミア自体は普通の学校と同じように休みなのだが、家に帰らず寮で友人同士とひたすらデュエルを繰り返している生徒もそう少なくは無い。しかし、そんな休みの期間においてもいつも以上にアンニュイな顔をした人間が一人。

 

「はぁ……」

 

 他ならぬ遊希である。彼女は竜司からの所用を受けてセントラル校の最寄駅の前で一人溜息を付いていた。いつもの癖のかかった黒い長髪を後ろでまとめ、薄青のカーディガンに白いワイシャツ。黒のミニスカートに黒のニーソックスに黒のパンプスという遊希のスタイルをふんだんに生かしたコーディネートは男女問わず街行く人々の目を引く。最もこのコーディネートはファッションに無頓着な遊希を見かねた鈴がコーディネートしてあげたものなのだが。

 

―――溜息をつくと幸せが逃げると言うぞ。

 

 溜息を数秒間隔でつく遊希に光子竜が呆れたように忠告する。

 

(ゴールデンウィークにこんなところで人待ちしてる時点で幸せも何もあったもんじゃないでしょ)

 

 そんな光子竜に遊希は呆れたように返した。何の用もなく、遊希がこのようなところにいるわけもない。

 

―――仕方ないではないか。竜司との約束を果たさなければならないのだから。

(約束ね……まああれに関しては負けた私が悪いんだけど)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は今から三日前に遡る。いつものように授業を終え、寮に戻ろうとした遊希を竜司が校内放送で呼び出したのだ。成績は優秀で授業態度もたまに上の空なことがあるだけでそれほど悪くない遊希が呼び出される理由は何なのか。学生たちの中では様々な噂が飛び交っていた。

 遊希からしてみれば、別に怒られるようなことはしていないわけであり、何も恐れることはない。一応竜司は校長であり、彼女にとっては恩人の一人でもあるので彼の顔を立てた上で学生生活を送っているのだが。

 

「……ったく校長室が最上階ってどういう構造よ。地震とかあった場合逃げ遅れるじゃない」

 

 そんな小言を言いながら遊希は校長室のドアをノックする。どうぞ、という声が聞こえたのでドアを開けて入る。校長室には高そうな椅子に座って書類作業に追われる竜司の姿があった。

 

「ああ、済まないね急に呼び出して」

「申し訳ないと言う気持ちがあるのなら事前に通告しておいてください。それで、私に何か御用ですか、校長先生?」

「実は君に大事な仕事を任せたいと思っていてね」

 

 仕事の内容。それはゴールデンウィーク明けからこの学校に編入する他国からの留学生を最寄駅まで迎えに行ってもらいたい、というものであった。話を聞く限りではそれほど難しい仕事ではない。

 遊希は幼い時から海外で活躍していたこともあって英語なら喋ることはできる。しかし、だからこそ彼女は逆に不信感を覚えた。留学生ということは外国人であり、その国を代表してこの日本にやってくるのである。そんな言わば大事な人間を出迎えるのだから、一介の生徒である自分なく、校長である竜司が出向くべきではないか、と。

 

「……そうはしたいんだが、校長とは何分忙しくてね」

「ゴールデンウィークで学校が休みなのに?」

「ああ。教員だから仕方ないさ。腑に落ちない、といった顔をしているね」

「まあ今の時点では」

 

 聞けばその留学生は日本語はある程度喋れるものの、やや方向音痴なところがあり、一人で学校まで来させるには不安な点がある。また娘である鈴ではどうも勤まらない仕事であると踏んだため、竜司は粘り強く説得を続ける。

 そんな中、あくまで依頼を渋る遊希に竜司が提案したのがデュエルであった。このデュエルに竜司が勝てば遊希にその仕事をしてもらう、遊希が勝てばその仕事は別の誰かにやってもらう、という条件付きで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バトルフェイズ。ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンで校長先生にダイレクトアタック!“壊滅のフォトン・ストリーム”!!」

 

ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン ATK4000

 

竜司 LP4100→100

 

「ぐはっ……!」

「私はカードを1枚セットしてターンエンドです」

 

 遊希のフィールドにはオーバーレイ・ユニットが2つのギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンが1体のみ存在。そして今カードを1枚伏せたため手札は0になっていた。一方の竜司はFA・フォトンの効果でフィールドに存在していたモンスターを破壊されており、更に魔法・罠カードの類はなく、手札は1枚のみでライフは100。遊希の残りライフ2300と比べるとやはり不利な状況にあった。

 

「私のターン、ドロー」

 

 竜司のドロー。これがおそらく彼にとっての最後のドローとなる。ドローしたカードを手札に加えた竜司はいつものような穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン。初めて見た時は驚いたが、今では君はそのカードを完璧に使いこなしているね」

「……あなたの娘さんや親友たちの協力あってこそですよ」

「そうか……では私はそのモンスターを倒した上で勝利を手繰り寄せるよ」

「FA・フォトンを倒す?」

 

 攻撃力4000のFA・フォトンを倒すには相当のモンスターを用意しなければならない。ただ竜司のデッキは攻撃力に優れたモンスターが多く入っているため、それを成し遂げるのは決して難しいことではない。

 

「ああ、この2枚の手札でね。私は手札から魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地のこのモンスターを特殊召喚する! 再び降臨せよ!《青眼の究極竜》!」

 

《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)》

融合モンスター

星12/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3800

「青眼の白龍」+「青眼の白龍」+「青眼の白龍」

 

 竜司が蘇らせたのは攻撃力4500の融合モンスター、青眼の究極竜。しかし、このカードは前のターンにFA・フォトンの除去効果によって破壊されていた。

 

「究極竜……確かにそのモンスターならFA・フォトンの攻撃力を上回りますね」

「しかし、FA・フォトンを撃破したところでここで私に勝ちはない」

「ええ、その通りです。そして私のライフにはまだ余裕があります。巻き返しは容易ですよ?」

 

 ギャラクシー同様青眼は光属性のテーマなので残り1枚の手札が《オネスト》という手もある。しかし、遊希の知る限り竜司はオネストをデッキには入れていない。

 

「ああ。だが、この残り1枚の手札が私を勝利に導いてくれる。私は……今蘇生した究極竜をリリース!」

「……究極竜をリリース!?」

「君にFA・フォトンがいるのならば、私にはこのカードがいる!“青き眼を持つ白龍は究極を超え、更なる進化を遂げる! 光を纏いて飛来せよ!《青眼の光龍》!!」

 

 究極竜の身体にヒビが入り、それがガラスのように砕け落ちた瞬間。究極竜の中から機械のような身体をした青眼の白龍に酷似した龍が飛び立つ。そのドラゴンが放つ輝きは遊希の持つ銀河眼の光子竜に匹敵するほどのパワーを感じさせていた。

 

「これが……進化した青眼!?」

 

《青眼の光龍(ブルーアイズ・シャイニング・ドラゴン)》

効果モンスター

星10/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に存在する「青眼の究極竜」1体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードの攻撃力は、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体につき300ポイントアップする。

また、このカードを対象にする魔法・罠・モンスターの効果を無効にする事ができる。

 

「なるほど、かなりの力を感じる……ですが攻撃力は究極竜の時より下がっていますよ」

「しかし、光龍はそれを自身の効果で補うことができる。光龍の攻撃力は墓地のドラゴン族モンスター1体につき300ポイントアップする。私の墓地に眠るドラゴン族は今リリースした究極竜を含めて計11体。よってその攻撃力は……」

 

青眼の光龍 ATK3000→6300

 

「攻撃力……6300!?」

「光龍とFA・フォトンの攻撃力の差はちょうど2300か。君も確かに強くなったけど、私もまだまだ負けられないからね。では行かせてもらうよ、バトルフェイズ。青眼の光龍でギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴンを攻撃!“シャイニング・バースト”!」

 

青眼の光龍 ATK6300 VS ギャラクシーアイズ・FA・フォトン・ドラゴン ATK4000 ORU:0

 

遊希 LP2300→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 遊希はあの時のデュエルを思い返していた。青眼の光龍という予想外のモンスターを出されたこともあるが、長い間デュエルから離れていた遊希は負けたことによって生じる悔しさ、という感情を忘れていた。しかし、その感情がここ数日は彼女の中から離れる事が無かったのだ。

 

―――そんなに悔しいのか、負けたのが。

(いやまあそういうわけじゃないんだけど……竜司さんには負けてる記憶しかないからさ……)

 

 光子竜にはそう言い繕った遊希は確認がてらにスマートフォンの画面を見る。留学生が到着する予定の時間まであと10分となっていた。

 

「そろそろね。まあまだ10分あるから何か飲み物でも買ってこよっと」

 

 そう言って遊希は待ち合わせの場所から離れてしまうのであった。既にその駅前には遊希が出迎える留学生が到着していたとも知らずに。

 

「私が編入するセントラル校から迎えが来ていると聞いていたが……誰もいないではないか、なんと無礼な。まあいい、自分で行ってやる」

 

 遊希が飲み物を買いに駅前を離れた直後、遊希がさっきまでいた場所には遊希に代わって一人の少女が立っていた。背中ほどまであるシルバーの髪に雪のような白い肌。肌と似た白のワンピースを着た少女は慣れないガイドブックを片手に何処か苛ついているようだった。

 

「はて、セントラル校行きのバスは……どこのバス停だ……」

 

 ややつたない日本語をぶつぶつと喋りながらページをめくる美少女の姿に周囲の通行人が思わず足を止める。しかし、そのような世間知らず感丸出しの少女に目をつけるのは決まって彼女に対して良からぬことを考える輩である。そして所謂「輩」という存在はデュエリストにも数多く存在する。真っ当なデュエリストたちはそれを否定できないのが辛いところでもあった。

 

「ねえお嬢ちゃん。何か困ってんの?」

 

 少女に声を掛けたのは浅黒い肌に金髪、両耳にピアスを2つずつ付けた男だった。そして少女に声を掛けた男の連れ二人は少女の左右に回り込み、彼女が逃げられないように取り囲む。彼らの悪意になど気が付かない少女は親切な日本人が困っている自分を助けてくれる、と思い込み困り顔で自分の現状を話してしまった。

 

「うむ、実は人と待ち合わせをしてるのだが、その人間が見つからないのだ」

「マジで? こんなかわいい子をほったらかすなんてよっぽど甲斐性のない男だね! じゃあ俺たちが代わりに案内してあげようか?」

「案内?……もしかして連れて行ってくれるのか!」

 

 少女はサファイアのような青の瞳をキラキラと輝かせる。男たちはあまりに純真すぎる少女の言動に微かに残された良心がチクリと痛む気がした。それでもこんな美少女が郊外のこの街のどこにいようか。獲物に狙いを付けた肉食動物の如く男たちは少女を油断させる。

 

「あ、ああ! どこでも連れて行ってやるよ!」

「……ハラショー。日本人は親切な人種と聞いていたが、噂通りのようだな!」

 

 尊大な物言いにであるにも関わらず、何処までも純粋な少女には声を掛けた男たちも逆に自分たちのペースを崩されるのであった。一方で出迎えに来た留学生がそのような事態に巻き込まれていることなど露知らぬ遊希は慌ててコンビニを飛び出した。

 

「まずいわね、雑誌を立ち読みしていたら予定の時間を20分も過ぎてしまったわ」

―――だから言っただろうが。

(あんただって次のページめくれめくれうるさかったじゃない)

―――世界各国のプロデュエリスト特集だからな。いちデュエリストなら目を通しておかなければいけないだろう。第一立ち読みするくらいなら買えばいいのに。

(雑誌って意外と高いのよ? 学生のお財布事情を知らないのかしら)

―――プロ時代の賞金がたんまり残っているくせに。

(やかましい。次言ったら水の中にカード落としてシワシワにしてやるんだから)

―――残念だったな、今のカードは水没した程度にダメになるほどヤワではないぞ?

 

 光子竜と口喧嘩をしながら待ち合わせ場所に戻った遊希。しかし、そこには当然留学生の姿は無かった。

 

(確か方向音痴な子って聞いていたから……一人であちこち出歩いてるかもしれないわね)

―――その留学生の特徴は?

(えーと……校長先生から聞いた話だと歳は私と同じ女子で身長も私と同じくらい。背中まで伸びた銀髪が特徴のロシア人よ)

―――ロシア人、そういえばさっきの雑誌に載ってたな。

(ええ。彼女の名前は“エヴァ・ジムリア”。私がデュエルの表舞台を去った後にプロデビューしたデュエリスト。その容姿からいつしかこう呼ばれ始めているそうよ。“銀色の戦乙女”と)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おい、いつごろやる?)

(頃合いを見つけて路地裏に連れ込むか?)

 

 男たちが遊希のいう“銀色の戦乙女”ことエヴァにいつごろその魔の手を伸ばそうか相談していた時、先を歩いていたエヴァが立ち止まる。

 

「おい」

「な、なんだいお嬢ちゃん」

「あそこに入ってみたいのだが構わないだろうか」

 

 エヴァが指差した先にあるのはカードショップだった。駅に一番近いカードショップであり、アカデミアの生徒も学校で手に入らないカードを探しに訪れることもあるそれなりに名の知れた店であった。

 

(おいどうするよ)

(いいんじゃね、それくらい)

 

 多少の出費くらいなんのその。男はエヴァの要望通りそのカードショップに入ることにした。カードショップにはデュエル用の机でデュエルをする少年デュエリストたちやストレージから欲しいカードを探すコレクターまで多数の利用者がいた。

 しかし、突然入ってきたロシア人の少女にその場にいた全ての人間が目を奪われた。どちらかというと男性の利用者の方が多いこの手のショップに、白人の、そして目の覚めるような美少女が入ってきたのだから無理もない。

 

「おお! カードがたくさんあるぞ!」

「なんか欲しいカードはあるかい?」

「欲しいカードか? あるにはあるのだが……」

「どんなカードか教えてほしいなぁー?」

「えっと、あれだ!」

 

 エヴァが指差したカードに男たちは硬直した。エヴァが指差したのはとあるテーマデッキの必須カードであり、レアリティは数十箱に1枚入っているいないかの封入率と言われるほど稀少なカードだった。男たちは気軽に欲しいカードを聞いてはみたものの、まさかあんな高額カードを欲しがるとは予想していなかったようで、互いに財布の中身を確認し合うのであった。

 

「本当に、どこに行ってしまったのかしら?」

 

 エヴァがレアカードに目を輝かせている頃、そのエヴァを探す遊希は未だに駅前を彷徨っていた。エヴァの顔は先程立ち読みした雑誌で覚えているし、何より白人なので嫌でも目立つはず。

 しかし、外国人が立ち寄りそうな店や駅前で野外デュエルをしているデュエリストたちの観覧者を探してはみたものの、エヴァの姿はそこには無かった。

 

「……本当にどこ行ったのかしら?」

―――もしかして一人でアカデミアに向かったのでは?

「かもしれないわね。でも迷子になっていたり悪い男に引っかかっている可能性も無きにしもあらず……そうだ。いいこと思いついた」

 

 そう言って遊希は上着のポケットからスマートフォンを取り出す。先程野外デュエルをしていたデュエリストの使用カードと同じことをすればいいのだ。

 

「魔法カード、増援。発動よ」

 

 遊希はそう言ってとある番号に電話を掛ける。電話の相手は2コールの後に電話に出た。

 

「もしもし、鈴?」

『ゆ、遊希? どうしたの?』

 

 電話の相手は鈴であった。ゴールデンウイーク前まで電話帳に竜司の名前しか無かった遊希であるが、今となっては鈴、千春、皐月の3人をはじめ数多くの名前がデータにはあった。

 もっとも鈴たちとは普段から顔を合わせており、彼女自身それほど電話を掛けないため、鈴からしてみれば遊希が急に電話を掛けてきたことに驚きを隠せないようだった。

 

「あんた今暇? 暇よね?」

『えっ? ま、まあ今学校のデュエル場で他の人のデュエル見てるところだけど……』

「そう。じゃあ今すぐ駅前に来て」

『駅前? ちょっといきな―――』

 

 説明もそこそこに遊希は電話を切る。鈴から遊希にはひっきりなしに電話が掛かって来るが、正直に理由を話せば鈴は来ないはず。そう考えた遊希は非道にもスマートフォンの電源を切ってしまった。

 

―――電話に出なくていいのか?

(理由を話したら来てくれると思う?)

―――遊希……嫌な奴だなお前は。

(褒め言葉として受け取っておくわ)

 

 私服に着替えた鈴が息を切らしながら遊希の待つ駅前に着いたのはそれから30分後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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